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国民連合政府綱領と日本社会党の任務
*一九七四年一月の第三十七回党大会で決定。出典は『日本社会党綱領文献集』(日本社会党中央本部機関紙局)。資料(第三十六回運動方針小委員会報告、第三十七回大会社会主義理論委員会の提案説明)は省略した。
国民統一綱領の学習にあたって   勝間田清一
国民統一の基本綱領と経過と提案の理由
国民統一の基本綱領
 第一部 国民戦線の条件
 第二部 国民統一の基本政策
  第一章
  第二、三章
  第四、五、六章
 第三部 国民統一の戦線と政府をめざして
国民統一の基本綱領と日本社会党の任務
 
●一 「国民統一綱領」の学習にあたって
日本社会党社会主義理論委員長 勝間田清一
一、「国民連合政権構想」とわが党の任務
 われわれは一九六六年「日本における社会主義への道」を決定したが、その際に、日本の資本主義は一九五七年頃、独占資本主義段階に回復し、国家権力が再生産過程にまで介入している事実も指摘して、日本の資本主義は正に国家独占資本主義であることを明らかにした。そしてさらに、七〇年代の特徴とわが党の任務を明らかにした「新中期路線」においては、高度成長政策の中で独占支配体制が一層強化すること、六〇年代の高度成長政策の諸矛盾が七〇年代に集中的にあらわれるであろうこと、そして独占資本は商品、資本の輸出を背景として海外膨張、軍国主義化というきわめて危険な道を歩もうとしていること、またこうした経済的諸矛盾を下部構造として、政治、教育、司法等の上部構造は急速に反動化の傾向を辿るであろうことを解明したのであった。
 最近の諸情勢はこの分析の正しかったことを証明しただけでなく事態がきわめて明白かつ急速に進展している事実に注目する必要がある。いうならば六〇年代の高度経済成長期においては、諸矛盾も、危険な方面も、それ程大衆の眼には切実なものとして映らなかった。否むしろ大衆にとっては、高度或長の中での見せかけの繁栄が真実の繁栄であるかの如く錯覚された。若干の所得の増加や、不安定ではあるが雇傭の拡大がいかにも大衆の利益につながるかに思われた。いわば資本家のおこぼれの中で、大衆の利益が約束されるかに錯覚されたのである。社会党の不振と停滞はこうした六〇年代の客観的条件の中で、それに対しするわれわれに反省すべき点があったこともすでに指摘されたことである。そして、社会主義運動は、主体的条件とともに、客観的条件の成熟なくして前進するものでないことも証明されたように思われる。
 しかしながら、七O年代はまったく条件が違っている。すでに述べたように客観的諸条件は急速度に成熟しているのである。現代の課題は、むしろ主体的諸条件の整備こそ問われているといっても過言ではない。インフレと合理化の中での労働者の生活と権利を守る闘争の高揚、大企業優先と大企業支配にようやくめざめてきた農民や中小企業の意識の変化、公害反対その他の地域住民闘争の拡大と革新自治体闘争の前進、そして反戦平和のための諸闘争の発展等が七〇年代の大きな特徴となっているが、これらの全勤労大衆の諸闘争を続一し、強大な政治勢力まで結集する責任が今日ほど問われている時はない。
 わが党が野党第一党として、しかも平和革命路線を正しく大衆に提起してきた政党として、ここに反独占、反自民の国民統一戦線の結集を呼びかけ、その統一戦線を基盤とした社会党を中心とする国民連合政権樹立の構想をあえて提唱することは、こうした客観的条件の成熟を背景とする全勤労大衆の切実な要望に答える、わが党の重大な責任というべきである。
二、「共同行動委員会」について
 「国民統一戦線に支持された」政権という提起は、「道]以来、わが党の平和革命路線にとっては忘れることの出来ない重要路線である。
 連合政権の中には「社共中軸論」とか「社公民路線」とか、政党レベルでの連合構想が述べられがちであるが、それはそれなりの重要性をもつものとしても、もっとも重要なことは、大衆路線での統一と団結があくまでも基本でなければならないということである。このことは連合政権が強大な大衆的基盤を持たねば、強力な独占とその政府にうちかつことができないという当然の理由に基くものである。チリーの場合でも、あれほど人民連合に力を入れた政権であったにもかかわらず、アジェンデ政権を支持する労働者は全労働者の三割が組織されたのに過ぎず、組織された農民も僅か十万足らずであったといわれる。しかも議会においても少数派であった。平和革命であるためには、議会の内外において民主的多数派が圧倒的に組織されることを必要とする。それ故にわれわれは、勤労大衆が反独占、反自民で広範かつ強力に組織されることを期待したいのである。
 またわれわれは日本の場合、人民戦線やレジスタンス闘争のごとき統一戦線の経験が西欧の場合に比してきわめて浅いこと、従って、フランスやイタリアの場合に比較して、労働戦線での統一、地域住民、自治体闘争での統一さらに政党間の長い間かかっての共闘等の経験が浅いことに注目する必要がある。またそれ故にこそ、日本の場合、そうした経験が浅ければ浅いほど戦後日本に成長した共同闘争や共同行動の経験、なかんずく、すでに述べた六〇年代から七〇年代にかけて急速度に成長した諸共同闘争の経験と実績を重視し、その一層の発展と拡大の上に国民的統一を図り、さらにその基盤の上に政権を樹立するという大衆路線の上に立った連合政権構想がうちたてられねばならぬと確信するのである。
 従ってわれわれは、政党間の話し合いと並行して、かつて闘い、今また闘っている大衆の諸闘争の拡大と統一に注目せざるを得ない。それには労働者の賃上げ、時短、反合等の闘争から制度要求(スト権、年金、住宅、交通、減税等々)の闘争に至る共闘と、その共闘を通じての労働戦線の統一という問題があるであろう。
 またすでに、自治体闘争の中で革新首長は一三〇を越える数をわれわれは獲得したが、これら革新自治体の結集もまた国民戦線結集の重要な一翼をなすであろう。
 またかつての安保反対闘争、現に闘われて来た小選挙区制反対闘争、沖縄返還闘争、原水禁闘争、軍事基地反対闘争等の経験や実績も高く評価されるであろうし、さらに、わが党が一九七三年第七一国会において、国民が切実に求めている諸要求を基礎にした七つの項目を中心に、全野党の院内共闘に成功した経験も、また重視されねばならぬであろう。
 要するにわれわれは政党間の話し合いだけでなく、こうした大衆の個別闘争の上に大衆が統一され、組織されて、強大な反独占、反自民の国民戦線が結集されることを、国民連合政権樹立の基礎的条件だと考えているのである。だからわれわれは、こうした個別闘争をさらに横に結合することの重要性を指摘したい。この横の結合を仮称ではあるが、共同行動委員会の結成としてこの際提起したのである。
 そして、この共同行動委員会が政策と行動と政権について一致して、共同の綱領を採択した時、国民統一戦線ということができるであろう。そしてこの国民統一戦線を基盤として総選挙に勝利し、政党代表だけでなく、統一戦線からも参加して、連合政権を樹立する。従ってこの政権は反独占、反自民で結集した国民の連合政権ということができる。
三、国民的要求を基本とした「政策」について
 政権が目標とする政策は、元来、大衆の中から提起されて来るべきものであろう。いうならば、現代の独占とその政府、自民党政権の下で日々苦しめられている国民大衆の生活の中から、大衆の切実な要求として求められている課題を解決する政策として、提起されてこられるべきものであろう。
 この意味で、社会党が政策提起を行なう場合でも、あくまでも一つの「たたき台」として提起されるものであって、大衆に押しつける性格のものではない。政党間の政策協定も一つの道であるが、もっと重要なことは、前節でも述べたように、政策の場合でも大衆路線が重視されねばならぬということであろう。だから、われわれは国民大衆の中で諸要求が熱心に述べられ、その要求が共通のテーブルの上で統一されて、「統一要求」にまで発展することを強く期待するものである。社会党が「たたき台」として提案した政策はいくつかの特徴をもっている。
 その一つは、国民的要求を六つの柱に要約したことである。
 @大資本中心の成民第一主義の経済を転換して、働く者のくらしをよくし、すべての国民に健康で文化的な生活を保障して、不安を解消することである。
 A民主教育の充実・整備、科学技術の発展、国民の創造的文化活動や学芸スポーツを盛んにし、健康な社会、新しい国民文化を育てることである。
 B「経済の民主化」によってインフレと公害を克服し、無駄と浪費をなくし民主的な経済計画によって、経済を安定的に発展させ、企業の社会的責任を明らかにし、農林漁業の再建と中小企業を振興し、農漁民や中小零細企業者の生活と経営の安定に努めることである。
 C大企業優先の成長政策によって収奪され、荒廃している土地・水などの国土資源を蘇らせ、民主的な国土計画によって国土保全、自然環境の保護とともに、産業と人口再配置、都市と農村の再開発をすすめ、自然と人間の調和をはかることである。
 D安保廃棄、平和中立の達成、非武装の実現をめざし、軍事基地の撤去、自衛隊の解体をすすめ、すべての国との半和共存、平等互恵の関係を結び、アジアと世界の平和に貢献する日本となることである。
 E憲法の原則にしたがい、民主主義を完全に徹底し実現することである。国民の参加による政治への監視を強めて、金権政治と政治腐敗をなくし、国民と結びついた議会政治、官僚行政の一掃、警察の民主化、自治権の拡大・確立をかちとることである。
 これがその内容で、国民が当面している切実な要求を解決する点にしぼられている。
 その二つは、これらの諸要求を達成する政策は、現憲法の精神と原則を完全に遂行する中で、すなわち民主主義を徹底させていく方法によって実現するということである。従って、政権は現憲法を擁護し、完全実施するという共通のコンセンサスが基礎になっている。国有化という問題についても、イデオロギーの立場から提起しないで、あくまでも国民の当面の切実な要求を解決するために欠くことが出来ない必要最小限度に止めている。
 こうした態度から、経済政策ではエネルギー産業のうち、石炭の国有化以外は民主的規制と誘導政策がその主要な内容になっている。また、@経済計画の民主化、A日本銀行の機能と運営の民主化、B独占企業の規制、C企業の社会的責任、Dエネルギー産業の一部国有化と一元的管理、E中小企業の事業分野の確保、F米・麦・大豆・牛乳・肥料の国家管理等が主要な手段としてあげられているのも、経済の民主化にその狙いが置かれたためである。
 その三つは、安保条約の廃棄と自衛隊の解消を明らかにすると同時に、その過程を具体化したことである。われわれは、安保条約は廃棄されるべきであるし、またその方針は連合政権の重要な課題であると確信しているが、たとえ、条約が「廃棄通告すれば、一年でその効力を発生する」ものであっても単に通告するという事務手続きだけで解決されるかのような印象を与える日本共産党の提案には賛成出来ない。多くの困難が随伴するものと考える。ましてや、廃棄後における日米友好を期待する限り、日米の外交交渉は不可欠であろう。
 自衛隊解消については、わが党はすでにその方針を明らかにしてきた、すなわち、憲法に従って自衛隊は当然に解消されるべきものであるが、そのためには一定の期間と手続きが必要であること、その条件は、@中立・平和外交の進展、A国民の理解、B自衛隊の掌握、C政権の安定の四つであって、これらの条件と見合って自衛隊を解消し、隊員については職と生活を安定させること、希望する若者には別に創設される国土建設隊に吸収することであった。
 ただここで一言しておきたいことは、共産党がわが党が「非武装中立」を提案したことに対して、「非武装」を提案することは、社会党の政治路線を綱領に持ち込むものであるとの誤った批判を下していることである。われわれは憲法を守る限り、非武装を連合政権の政策目標に導入することは当然であると考える。むしろ、最近突如としてではあるが、日共が「憲法擁護」を表明する限り、自衛隊を解消して非武装日本をつくることに反対出来ないはずであると思うのである。
 政策について最後に述べたいことは、政策の合意についての配慮を如何にすべきかという問題である。フランスの社共共同政府綱領においては、NATOやECに対する社共の態度は必ずしも完全に意見が一致した訳ではなかった。また社会主義と重大な関係をもつ、産業の国有化と人民管理については両者は対立もしていた。それにもかかわらず、その他の諸政策について一致したが故に共同綱領は成立している。このことは、共同(連合)政権の持つ重要性について両党の認識が一致していることと、そして、国民の当面している緊急課題を解決するところに政権の目標を置くという点についてもまた、両者が一致していることを証明すると思う。
 現代の日本資本主義の性格を如何に分折するか、そして当面のわれわれの課題は何であるかという点について、共産党は「日本はアメリカに半ば占領された従属国」と規定し、当面の課題は日本の独立であることを強調してきた。それ故に、政府もまた「民族民主統一戦線政府」でなければならぬと訴えてきたのである。この度の共産党の連合政権構想がこの民族民主統一戦線政府とどう違うのか、共産党はその混迷を解明する責任があるが、少なくとも「安保廃棄」を主要課題として提起している共産党の構想について、「安保偏重」の批判が生まれるのも当然といわねばならぬ。
四、全党の討議を希望する
 いずれにせよ、わが党は一九六六年、「道」を決定して以来、中期路線、新中期路線を経て、労働者階級を中核として、広範な民主的多数派を結集し、反独占の国民統一戦線に基盤を置く、社会党を中心とする国民連合政権を樹立して、社会主義政権の地ならしを達成し、なるべく早く社会主義政権に移行させるという、平和革命路線を一貫して主張してきた。この道は、社会党の綱領を七○年代に創造発展させてきたものである。そして今や七〇年代の客観的諸条件は成熟し、大衆の支持と期待は急速度に高まっている。従って、わが党が全党あげてこの道に進むことは当然であり、またさけて通ることの出来ない道でもある。
 この意味において、われわれ理論委員会はこれを機会に、「国民統一綱領」が全党員一人ひとりに、熱意をもって検討されることを切望して止まないものである。
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