国民連合政府綱領と日本社会党の任務・2
● 二 国民統一の基本綱領と経過と提案の理由
日本社会党社会主義理論委員会
(1)経過と提案の理由
(一) 戦後二十数年、わが国は七〇年代の大きな転換と変革のときをむかえている。
米国をはじめ資本主義世界は悪性インフレと通貨危機と社会不安に苦しんでいるが、わが国でも、大企業優先の経済成長のかげで、物価はたえ問なく上り、貧富の格差・不平等がひろがり、国民の生活と健康が粗末にされている。
生産も消費も大企業によって管理され、物欲の刺激と拝金思想のなかで、無駄と浪費、投機と犯罪がふえ、人間疎外と社会の荒廃がすすみ、政治不信が高まっている。GNPは世界第三位を誇りながら社会保障は二十数位と開発途上国なみであり、多数の国民は老後の不安におびえ、子供の教育に悩み、住宅、生活環境、交通、医療、教育、社会福祉施設などどれ一つとっても満足なものはない。国民は見せかけの繁栄のなかの貧しさにおかされているのである。
また国内農業を軽視したため食糧自給度が低下し、資源使いすての浪費経済は一方では深刻な公害を、他方では資源エネルギー確保の壁にぶつかっている。
この高度成長経済の行詰まりが、自民党政府の手によって解決できないことは、もはや明らかである。それどころか田中内閣は、口に「福祉優先」をとなえながら、一層インフレを刺激し、日本列島改造で土地投機をあおり、土地や株の値上りで莫大な不労所得をした大企業や資産階級と、物価高で苦しむ勤労国民との間に、富と所得の不平等を激化させた。また大企業は一方では日本列島全域に手をひろげて、土地を買いしめ、自然を破壊し、地場産業と農業を圧迫しながら、他方では海外への資本輸出を活発にし、東南アジア・韓国などに帝国主義的進出を行ない、独占資本支配の強化がすすんでいる。しかも、大企業・大商社への国民の批判の高まりに危機感を持った政府自民党は、「自由社会」を守ると称して、小選挙区制の強行を企図し、国民の反対する自衛隊増強の法案などを無理おしに成立させ、次々と公共科金を引上げるなど議会政治をふみにじり、国民生活を無視する独善と反動の方向へ進んでいる。
このような自民党の金と権力の政治を、大衆の道理にかなった革新の政治に転換しない限り、今日の政治経済、社会の行詰まりを打開し、新しい未来をひらくことはできない。
(二)
(1)われわれはすでに、一九六六年「日本における社会主義への道」のなかで、高度に発達した独占資本主義体制の下で、勤労大衆の貧困がすすみ、恐慌と失業の不安がなくならないこと、過剰生産や不況を防止するためインフレ政策がとられ浪費が制度化されていること、戦争の不安が去らずまた独占資本家層は「民主主義」を邪魔ものにし、その骨抜きをはかろうとすること、また金もうけ、利潤追求が最高目的とされる弱肉強食の資本主義社会では、利己主義・出世主義が横行し、犯罪・非行・道徳的退廃がはびこり、人間性が破壊されること、などを指摘している。
この認識の上に立って、われわれは日本における社会主義革命の必然性を確認した。さらに、われわれは勤労諸階層の諸要求を支持しつつ平和と民主主義闘争を闘い、党の主体性を強化し、民主的多数派を結集、一定の客観的条件の成熟によって、過渡的な社会党政権を樹立し、これを安定化し、漸次社会主義を実現する政治路線を決定した。その過程については武装蜂起や内乱による武力革命の方式をとらず、国民の大衆闘争と世論を基盤とし、議会を通じて民主的かつ平和的に進める平和革命の方針を決定したのである。
またこの過度的政権には、(イ)社会党単独政権、(ロ)社会党の比較多数と他の会派の閣外協力による政権、(ハ)社会党と他の革新諸会派との連合政権、の場合があり得ることを想定している。
(2) この政治路線にしたがい、七〇年代における情勢の変化、保守革新の力関係などを検討し一九七○年「新中期路線−一九七〇年代の課題と日本社会党の任務」の方針を決定した。そのなかで「……いま必要なことは、この新たな可能性を拡大し、国民の要求を真に解決するために、大衆運動を反独占・反自民の国民戦線として高め、また全野党の共闘を積極的に推進することである。このような努力を通じて新たな政治勢力の結集を実現し、このうえにわれわれは、反独占・反自民の国民戦線を基盤として、わが党を中心とする連合政府の樹立をめざす。この政府は新たな国民的結集によって支えられた「国民連合政府」とも云うべきものである。この国民連合政府はさきに掲げた反独占・反自民の国民戦線の政治目標を達成する護憲・民主・中立・生活向上の政権である」と規定し、そしてその国民戦線の政治目標として次の三項目を掲げている。
@第一に安保廃棄・平和中立の日本の実現をめざし、日米共同声明路線による軍事大国への道−帝国主義復活と軍国主義化を阻止することであり、防衛力増強と韓国・台湾・ベトナムなどへの経済的軍事的進出に反対し、沖縄の全面返還と日中国交回復、米軍のインドシナさらにはアジアからの撤退を闘いとることである。
A第二に大企業中心、GNP今上主義がもたらした国民の犠牲の解決であり、公害、物価、交通、住宅、減税、社会保障など国民のいのちと暮しの防衛と生活向上をたたかいとることである。
B第三に憲法に保障された民主的諸権利を擁護し、民主主義の再生と社会、教育、文化の改革を通じて人間性をとりもどすことである。
(3)以上の政治路線をさらに具体的なものにするため、われわれは一九七三年二月の第三十六回党大会に「国民統一横領草案」を提案し、国民連合政府の基本政策をかかげ、党内外の討議に付し、各方面の意見やその後の情勢を検討してこれに加筆補正を加え、第二次の「国民統一綱領草案」をきめ、別に作成した「国民統一綱領と日本社会党の任務」とあわせて下部討議に付すとともに、七三年十一月七、八日の二日間、全国代表者との共同討議をおこない、その結果第二次草案に所要の訂正を加え、これを最終の案として第三十七回党大会に提出し、わが党の国民連合政府構想を明らかにすることとした。
この国民連合政府は反独占・反自民の国民戦線に基礎をおき、これに支持された民主的政府であり、革新的諸党派をはじめ国民戦線に結集している民主的諸団体、運動体の代表で構成される。この政府は、国民戦線に基礎をおく以上、「国民統一の基本政策」もしくは将来各構成団体の合意に基づいてつくられる国民戦線綱領によって、日本の勤労諸階層が緊急に必要としている政治的、経済社会的諸矛盾の解決と日本の平和的改革を実施する政府であって、直ちに社会主義の政策を実行するものではないが、憲法の諸条項を完全に実施しつつ、平和的に社会主義への道をひらく諸準備を担当するものである。
(三)
(1)最近の諸情勢は、いくたの曲折を経つつも、七〇年代において国民連合政府をめざすわれわれの政治路線の見通しを明るいものにしている。
一九七一年の参議院選挙における、野党の躍進で、与野党の議席の差がちぢまり、野党の推薦した河野議長が誕生した。このことが一九七二年の第六八国会の審議に影響して、全野党共闘の力によって、四次防予算先取りのストップ、防衛二法、出入国法、国鉄運賃値上げ、健康保険や学校教育法の改悪など反動法案を廃案に追い込むことができた。
さらにわが党の提唱した「流れをかえよう」のスローガンを基調として行なわれた七二年十二月の衆議院選挙の結果は、自民党政治への不信と不満の高まりをはっきりと示した。田中内閣が日中国交回復を宣伝し、「日本列島改造Jの幻想をふりまき、見せかけの福祉政策によって国民をだまそうとしても、国民の強い批判を回避することはできなかったのである。
また各地の地方選挙の結果は、一進一退のうちにも、革新勢力は着実に増大し、六つの主要な知事、一三〇余の市長を獲得し全人口の三分の一が革新自治体の下に生活している。これら革新首長の増加は、やがて中央政権を革新の手に収めるための重要な役割を占めるであろう。また院内外の野党共闘も一定の成果を収め、わが党の主唱する全野党共闘も前進を見せている。小選挙区制反対、日中国交正常化、軍事基地反対、インフレ物価対策、年金や医療保障の闘い、全野党による四十八年度予算組替などでの野党共闘も実績をあげている。また地方選挙における全野党共闘も次第に増加の傾向を示している。
(2)たしかに革新勢力は増大し、情勢は好転の方向に向っている。しかしわれわれは安易に過大な評価をすることはできない。
第一に反自民の世論がいかに高まっても、それが直ちに保守政治打倒、革新政権支持につながるものと速断することはできないことである。マスコミなどによる世論操作のため、国民の間には、政治的無関心の傾向が強く、最近のはげしい選挙戦においても高い棄権率となって表われている。わが国に革新政府が出現することは歴史的大事業であり、国民的な参加の土台がなければ達成できるものではない。われわれは先ず積極的に政治革新の必然性と国民連合政府の性格と政策を明らかにし、革新政治に対する不安を除き、広く国民の理解と協力を求めなければならない。
第二に革新の政治待望のムードが高まっていても、その主体的条件の立ちおくれを克服しなければならないことである。国政諸階層の大衆闘争が反自民・反独占の国民戦線に統一され組織化されること、とくに労働者階級の統一闘争がより拡大強化されること、さらに革新諸政党の共闘が共通の政府構想の一致にまで高められることが必要であり、これには幾多の困難があることを率直に認めなくてはならない。
なかでも野党各派の調整について、保守支配層の妨害を排除して、足並みをそろえるためには、「小異を残して大同につく」姿勢が必要であり、そのためには内外情勢の基本認識と連合政府の達成すべき政治目標と主要政策についての意識統一が必要となることはいうまでもない。
すでに、共産、公明、民社各党の連合政権構想が出されているが、その調整は決して不可能ではないと思われる。
(3)来るべき参議院選挙において、前回と同じく、自民党を敗北させ、わが党を中心とする反自民野党勢力が躍進して、いわゆる「保革逆転」を実現することが、革新の連合政府の成否にとって重要な要素となることは明らかである。革新政治勢力をとりまとめて、国民連合政府をつくる指導的役割を担うものは、主観的にもまた客観的にもわが党のほかにない現状において、党の責任はまことに重大であり、全力をあげて党の主体性を強化し、この任務を果たさなければならない。
このためには、党の基本路線と国民統一綱領との関連と国家独占資木主義の下における現代的な政治的統一戦線の意義を正しく理解し、国民諸階層の大衆運動を反独占・
反自民の国民戦線に発展させ、また同時に革新諸党間の共闘が、共通の政府構想の一致にまで高められるよう、党が主導的役割を果すための努力をつみ重ねなくてはならない。われわれは、このため、国民の統一綱領草案とは別に「国民統一綱領と日本社会党の任務」を提案している。
(四) 一九七三年秋、われわれが国民統一綱領第二次草案を発表したあと、内外情勢ははげしく変動し、物価の異常な高騰によって国民生活は極度に圧迫され、石油危機はわが国の資源エネルギー浪費型の高度成長経済に致命的な打撃を与えた。財界と自民党政府は、内外政策の行詰まりに直面し、大企業優先の経済、対米追従の外交の転換をせまられ、重大な危機に直面している。
この情勢のなかで、わが党は全力をあげて当面するインフレ阻止、国民生活防衛の緊急行動に勢力的に対処するとともに、革新連合政府樹立への主体的条件の整備を一層推進し、あらゆる情勢に対応しうるよう急速に準備を進めるこそ(ママ)が要請されているのである。