国民統一の基本綱領第三部(前のページ)へ  次のページヘ  
国民連合政府綱領と日本社会党の任務 8
国民統一の基本綱領と日本社会党の任務
日本社会党社会主義理論委員会
一、党の基本路線と「国民統一綱領」の関連
(1)国民統一の基本綱領(以下「国民統一綱領」と略す)は、党の社会主義革命路線として全党的に決定をみている「日本における社会主義への道」(「道」)を基本的にふまえ、また党の行動綱領ともいうべき『新中期路線]を具体化し、発展させたものである。
 「道」では、日本に社会主義政権が確立される以前の段階において、一定の政治目標を実現するための過渡的政権の必要性を強調している。そして、この過渡的政府の構成については、@社会党の絶対多数の単独政権、A比較多数の社会党と他の会派の閣外協力による政権、B社会党と他の革新的会派との連立政権−という三つの形態を規定した。
 四十五年に決定された「新中期路線−一九七〇年代の課題と日本社会党の任務」では、七〇年代における現実的で、効果的な革新政権樹立の展望として、「道」における第三のケースを選択し、テーゼ化したのである。それが反独占・ 反自民の国民戦線とこれに支持された国民連合政府である。「国民統一綱領」は、この国民戦線と国民政府の構想を具体化し、体系化したものにほかならない。
 この実現は党にとって歴史的な大事業であるばかりでなく、国民的な大事業である。
(2)反独占・反自民の国民戦線に基礎をおく国民連合政府は「道」で規定した過渡的政府の一形態である。それは民主主義的性格を基本としており、社会主義の政府ではない。つまり、この政府の政策目標である経済的、社会的、政治的諸要求の実現は、直接的に、搾取の制度を廃絶するものではないからである。したがって「国民統一綱領」では、国民連合政府の目標、要求、内容について社会主義的目標や原則との区別を厳密に行なっている。
 国民連合政府の目標は、「国民統一綱領」のなかで「国民統一の基本政策」として集約的にまとめられている。それは大綱的には、「護憲・民主・中立・生活向上」である。しかし国民連合政府の民主的改革や政策遂行は、それをとりまく諸条件、すなわち国民的支持の度合や政権の安定度をはじめ主体的・客観的諸条件によって段階的になることも考えられる。そういう場合があっても党は、この国民連合政府が挫折することなく前進と発展をとげるために国民戦線におけるヘゲモニーを確立していくことが必要である。
 「国民統一綱領」は労働者をはじめ全民主勢力、革新的諸党派が統一にむけて一致点を見出すためのタタキ台であり、わが党の提案である。したがって、これは何らの党派的利益をめざしたものではなく、真に勤労国民の立場にたつならばなに人も理解し、支持できるものである。
(3)国民連合政府の樹立は、それを支持する政治的基盤として反独占・反自民の国民戦線の結集を不可欠の前提においている。この国民戦線は労働者階級をはじめすべての勤労国民に共通する経済的、社会的、政治的諸要求−すなわち民主主義的諸要求を基礎に統一したものであり、その政治的統一行動の組織体である。反独占・反自民の国民戦線は「道」における「反独占国民戦線」の性格と目標を政治的・社会的条件の発展に即して具体化したものである。したがって、それは民主的多数派の結集体であって、社会主義的多数派の結集体ではない。
 また、この国民戦線は既成の革新的諸党派の結集にとどまるべきではない。労働団体、民主団体、革新自治体をはじめ、農漁民、中小企業者、市民、学名、文化人など反独占・反自民の立場にたつ広範な勤労諸階層によって構成されることが必要である。
 安定した国民連合政府の樹立は強固な国民戦線の結集いかんにかかっている。とりわけ国民連合政府に対する独占資本の抵抗や妨害、官僚組織のサボタージュ、場合によっては自衛隊などの抵抗も想定されるが、これらの反動的・反民主主義的な事態に対処する手段は、強固な国民戦線の結集のみがその保障となるからで ある。この点で、国民戦線と国民連合政府の中軸に位置する党の任務と使命は測りしれない重要なものがある。
(4)「国民統一綱領」では、国民政府の反独占民主主義の諸政策や政革ママによって、日本に「高次の民主主義」を実現すると規定した。ここでいう民主主義とは、あくまでブルジョワ民主主義の範躊であるが、憲法が規定する基本的人権、社会権、主権在民など平和的・民主的な諸条項を最高度に発展させたものと理解すべきである。
 したがって独占資本の横暴に対する社会的規制、自治権の拡大と地方自治体の民主化、各種の国家政策に対する国民的な参加の形態など、反独占民主主義の立場で諸改革がすすめられ、民主主義が徹底される。こうした民主主義的改革は社会主義への準備であり、それが高度資本主義国における現代的統一戦線の特徴というべきである。
 このため党は、国民戦線と国民連合政府の歴史的な事業を安定的に推進するとともに、その過程で国民戦線に結集した民主的多数派を社会主義的多数派に転化するための努力を目的意識的にはかることが重要な任務である。そうした主体的条件の形成があってはじめて、客観的条件の成熟とともに過度的段階にある国民連合政府を社会主義政権に発展、転化させる展望も生まれてくるといえよう。
二、政権構想と革新諸党派の問題点
(1)政治的統一戦線である反独占・反自民の国民戦線結集の前提として、個別的・具体的課題をはじめ国民的な共同闘争の展開が不可欠であることは指摘するまでもない。しかし共闘と統一戦線とは基本的に相違している。
 改めて強調するまでもなく、共同闘争とは、限定的要求のもとに短期的、一時的に共同行動を展開するものである。
 これに比較して政治的統一戦線は、明確な政権構想をふくむ政治目標にたって社会主義政党と労働者階級を中核とする勤労諸階層、諸党派の統一した政治同盟である。
  したがって、政治的統一戦線の正しい発展と前進のためには、社会主義政党がその中核に位置することが不可欠の条件であり、それは歴史的・国際的経験からも明らかなことである。
(2)六〇年代末期以降、反独占・反自民の勤労諸階層、革新諸党派の間での共同闘争は、多角的・重層的な形態をとりつつも新たな前進と発展を示している。
 @国会闘争の分野では、これまでの多角的共闘の実績にたって、七二年末の総選挙後、反自民の四野党書記長会議を基礎に予算、国鉄、年金、商品投機、小選挙区制などの課題で全野党共闘が実現した。
  また、これを背景に反自民の四野党と労働四団体による八者会議が初めて開かれている。
 A大衆運動の分野でも、国鉄マル生、司法反動化阻止などの実績にたって社共公三党をふくむ労働・民主団体などが安保反対、国民生活擁護、田中内閣打倒の十八団体共闘が実現し、また、小選挙区制反対には二百二十団体が結集して共闘連絡会議が結成された。さらに十八団体共闘は商社追及、横須賀母港化反対、一〇・二一国際反戦闘争など多面的・包括的に発展している。またインフレ、物価急上昇から国民生活を守るための国民的な物価共闘も広範な構成で組織されつつあり、包括的共闘の萌芽があらわれている。
 B地方自治体の首長選挙でも、わが党を中心に多様な選挙闘争が展開されてきたが、七三年の特徴は社共公三党共闘に加えて神戸市長選をはじめ日野、長野など全野党による政策協定方式の選挙共闘が前進している。また政策協定に至らないまでも沼津、草加など多様な形態の全野党共闘の展開も特徴として指摘できる。
 C労働組合を中心とした春闘共闘の発展、「国民の足を守る中央会議」「民主教育をすすめる国民連合』「司法の独立と民主主義を守る国民連絡会議」「国民総背番号制に反対し、プライバシーを守る中央会議」「減税闘争連絡会議」をはじめ・開発反対住民運動など労働者階級を中核とする勤労諸階層間の共同行動と組織化も多面的に展開をみせている。
(3) これらの反独占・反自民の勤労諸階層、革新諸党派の間の共同闘争の現段階は、個別的、限定的共闘の範囲のものである。
  反独占・反自民の国民戦線結集のためには、これらの個別的共闘をさらに積極的に積み上げ、多角的重層的にすすめるなかから、共闘課題ではより包括的に、共闘形態ではより継続的なものに発展させなければならない。「国民統一綱領」で提起している「国民共同行動委員会」(仮称)は、そうした観点にたつ政治的統一行動組織として位置づけられている。
(4)わが党の国民連合政府の構想に対置するものとして、共産党は民主連合政府、公明党は中道革新連合政権、民社党は革新連合国民政権を提起している。このなかで共産党の構想は革新三基準で一致した革新統一戦線に基礎をおく統一戦線政府であるが、公明、民社両党の構想は、その政府を支える基盤については提起を行っていない。
  しかし公明党が院内外における共同闘争に積極的に対応している反面、民社党は院外共闘を全面的に拒否する方針をとりつづけている。
 @公明党の中道革新連合政権の基本性格は、反自民、反動権力、反大資本であり、不明確な点を含みながらも反独占民主主義的な性格を読みとることができる。
 また、この政府の政策目標は、イ、憲法と議会主議の擁護、ロ、平和・自主・中立の外交政策への転換、ハ、国民福祉優先の経済、ニ、社会的弱者の社会的公正の回復−であり、実現可能な漸進主義の立場を前面に押しだしている。この基本性格と政策目標から見る限り、公明党の考え方は多くの点で前進をみせ、わが党の政策に近づいているといえよう。
 A民社党の革新連合国民政権の基本は、イ、保守にかわる革新政権、ロ、野党レベルの政権構想でなく国政レベルの政権の誕生、ハ、現在の自由と民主主義を損なわない政権−と規定されているがその内容は不明確であり、民主革新連合構想では「資本主義、共産主義と対決し、競争する民主社会主義路線を志向するもの」と規定していたが、この観点は革新連合国民政権にも継承されているものと考えられる。
 また政策内容でも自衛隊の認知、安保条約の有用性、狭義の議会主義への傾斜など、わが党をはじめ共産、公明など革新的諸党派との間の政策的相違点が目立ち、脱自民か親自民かの選択の岐路にたたされている。この結果、同盟系労組の一部では民社党に対する不信感が表面化している。
(5)共産党は革新三基準、すなわち、@日米軍事同盟と手を切り日本の中立をはかる、A大資本中心の政治を打破して、国民のいのちとくらしをまもる政治を実行する、B軍国主義の全面復活・強化に反対し、議会の民主的運営と民主主義の確立をめざす−−で一致する革新統一戦線の結集とそれに基盤をおく民主連合政府を提起し、これを民主連合政府綱領として体系化した。
  民主連合政府統領の政策目標は、憲法の擁護をはじめ多くの点で、わが党の政策と共通している。しかし共産党が繰り返してきた基本方針の急激な転換は、その独善的な体質と相まって、民主勢力の内部での不信感を拭い去るに至っていない。たとえば「占領下の平和革命論」から「極左冒険主義的な軍事革命方針」へ、さらには「敵の出方諭のもとでの平和革命論」へという革命戦略の変転をはじめ、「中立否定」から「中立政策」へ、「社会主義国の原水爆実験支持」から「あらゆる国の核実験反対」へ、さらには「中ソ両国追随から対中対決へ」、「四・八声明」による春闘のスト破りや憲法に対する態度の変化に至るまで、基本路線や重要政策の変化は枚挙にいとまがない。それは、戦前から一貫した戦略規定の根本的な欠陥の反映である。この共産党の綱領的欠陥は幾つかの点で民主連合政府綱領にも反映している。
 共産党は、将来の日本革命について、反帝独立の民族民主革命から社会主義革命という二段階あるいは連続した革命を展望している。革新統一戦線に基礎をおく民主連合政府は、民族民主革命の前段の政府であると規定され、したがって革命政府ではないとされている。それは、民主連合政府が日本の独立を達成するものではないという理由によるものである。
 しかし、民主連合政府の重要政策である日米安保条約の廃棄による平和中立の実現は、目本の独立が前提におかれない限り不可欠のものである。実際に、共産党の現状認識からみても、日本の独立や主権を侵害している最大の元兇は日米安保条約であるはずであり、民主連合政府の平和中立政策によって安保条約を廃棄するならば、事実上は独立が達成されたと考えるのが合理的である。しかるに、安保条約を廃棄し、平和中立を達成しても、なおかつ独立という革命的課題が残るという立場から民族民主革命に固執することは、矛盾といわなくてはならない。
  民主連合政府綱領が共産党の綱領的な守場から提起されている以上、この点についての解明が問われているのである。また民主連合政府の政策のうち安保条約廃棄以後の諸政策についてみれば、アメリカ帝国主義を主敵とする立場のために反独占の国民生活向上や民主主義の徹底に、いくつかの弱点がみられることである。
 これは共産党が、高度に発達した資本主義国における現代的な政治的統一戦線に対する基本的な認識が不明確であることのあらわれといえよう。
(6)政治的統一戦線と政権構想をめぐる反自民の革新諸党派間の意見対立は根づよいものがある。民社党の反共・反社会主義の立場、共産党の安保条約をふみ絵とした民社排除の立場は、その典型である。また、全野党共闘を目標とするわが党の立場に対する共産党の理不尽な批判も目に余るものがある。反独占・反自民の諸勢力のためには、始めから扉を閉すべきでないというわが党の主張は、道理にかなったものである。要求、政策の不一致はテーブルについて討議し、一致点をに出す努力をして初めて明らかになることである。また、民社党の影響化におかれている多数の労働者や中小企業名を含めて、広範な勤労諸階層の結集による統一戦線を可能とするためには、なによりも、まず一致点を見いだすことに最大限の努力をはかるべきであり、最初から既成観念で特定政党や特定団体を排除することは、正しい立場ではない。
  将来、一定の時点で特定政党や団体が統一戦線に不参加を表明したりあるいは離脱することがあるかも知れないが、それは前提ではなく結果であるというのが多数派を結集する統一戦線の立場であり、全野党共闘論の正しい観点である。
国民統一の基本綱領第三部(前のページ)へ  次のページヘ  文献・資料目次へ  表紙へ