国民連合政府綱領と日本社会党の任務 9
国民統一の基本綱領と日本社会党の任務 後半
三、「国民統一綱領」と党の主体的条件
(1)「国民統一綱領」と党の任務
「国民統一綱領」における「経過と提案の理由」では「国民連合政府をつくる指導的役割を担うものは、主観的にも客観的にもわが党のほかにない」ことを強調している。このことは、日本の勤労諸階層がおかれた条件や彼我の力関係、要求解決の展望などについて、科学的な立場から解明し、その方向を明示した路線をもっているのは、わが党以外になく、それゆえに反独占・反自民の国民戦線の結集や国民連合政府の樹立にむけた党の歴史的使命の重要件を強調したものにほかならない。
「国民統一綱領」は、科学的社会主義の立場から日本における唯一の正しい革命路線をかかげ、堅持している社会主義政党たるわが党の成果であり、また現実政治における反独占・反自民の野党第一党の政治責任にたって提案したものである。したがって、この政治的統一戦線の結成を促進し、正しく前進させうるか否かは、わが党が勤労諸階層に全体として大きな影響力をもちうるような政治的、組織的力量を確保できるかどうかにかかっている。
現実に、七一年の参院選におけるわが党の前進は国会での野党共闘を促進させ、また七二年末の総選挙における前進の結果は、四野党書記長・書記局長会談による全野党の国会共闘を発展させ、それは院外での社・共・公三党をふくむ共同闘争をも促進させている。
この歴史的な大事業を遂行するために必要とされる第一の問題は、高度に発達した国家独占資本主義国における現代的な政治的統一戦線の意義と課題を全党のものとすることができるかどうかである。
「国民統一綱領」は、この現代的な統一戦線政策を今日の日本において初めて具体化したものである。したがって、われわれは全党の討議を通じて、この統一戦線政策を思想的にも、理論的にも、実践的にも深化させ、さらに勤労国民全体の財産に発展させなくてはならない。
第二には、反独占・反自民の国民戦線において、党のヘゲモニーをどのように確立するかという問題である。これは将来の問題というよりも、現在の反独占民主主義の諸闘争を通じて形成され、深化されるものである。したがって党は、正しい統一戦線政策を基本的にふまえたうえで政治的、政策的、組織的に主導性を確保するための主体的努力をはかることはもちろん、知的、道徳的ヘゲモニーを確立するために、あらゆる分野での活動を強化しなくてはならない。
(2)労働運動の強化と職場の党建設
反独占・反自民の国民戦線の中核が労働者階級であることは異論をはさむ余地がない。今日、日本の労働者は就業人口の六五%を占め、階級構成の中心的な存在である。しかし、労働者階級の組織率は三分の一であり圧倒的な多数が未組織の状態におかれ、また労働者共闘は年々拡大をみせているものの労働戦線の分裂状況は固定化している。したがって党は、こうした状態をふまえて、国民戦線結集の展望のもとに労働運動を強化し、反合理化闘争をはじめとする諸闘争の先頭にたち、労働者に対する党の影響力を拡大しなくてはならない。
@その第一の課題は、労働者共闘の強化にたって労働戦線の階級的、民主的統一を促進することである。労働条件、生活条件をめぐる労働者共闘は七〇年代になって一定の前進をみせ、とりわけ反独占生活闘争というすぐれて政治的、制度的な闘いは、年金統一ストにみられるように企業のワク組みを超えて発展する要素を内在させている。こうした反独占生活闘争として提起されている諸課題は、労働者に共通するだけでなく国民共通の課題でもあり、それだけにわが党を中心に革新諸党派をふくむ国民的共闘に発展する可能性をもっているといえよう。
労働者共闘は総評・中立労連を中心とした春闘共闘の拡大をはじめ、小選挙区制反対の共闘には新産別も参加している。また海員組合、全繊同盟をはじめ同盟系労組では.部幹部の思惑を乗り超えて大きな変化が起り始めている。したがって党は、あらゆる労働者、労働組合について対策を強化し、労働戦線の階級的・民主的統一を促進するための方針と政策を積極的に提起していく必要がある。ヨーロッパの労働運動が経験しているように、労働者の共同闘争の展開を欠落させた組織統一はあり得ない。このため党は反合理化闘争、反独占生活闘争、平和と民主主義を守る政治的、社会的諸闘争において、職場・地域の労働者共闘をはじめ各段階と課題に応じた統一政策を掲げ、共闘の強化を基礎に労働戦線の統一を積極化するとともに、県評・地区労の強化と未組織労働者の組織化に集中的に取組まなくてはならない。また、こうした労働者の地域共闘の強化を軸に地域住民をふくむ共同行動を発展させることが重要である。
A第二の課題は、労働運動の正しい発展のためにも党と労働組合との協力関係を有機的に強化することである。日本の国家独占資本主義が発展するなかで社会主義政党と労組が協力しあう分野はますます拡大をみせている。しかし「政党支持自由」という戦術的スローガンのもとに、公務員労組の一部で共産党系中堅幹部が進出をみせたことによって、党と労組との支持協力関係の再検討の声があがっている。それは「労働戦線統一のために」という大義名分をもってしても誤まりであり、共産党系の術策に乗ぜられることは自明である。逆に従来、共産党が一定の力量を占めていた一部の労組では近年、わが党との支持協力関係が強化されているが、これは労働者要求についての政策、運動論で共産党の誤まりを克服した結果によるものである。
したがって党は、労組との支持協力関係をさらに強め、これをさらに有機的なものに発展させる必要がある。この有機的な関係をすすめるにあたっては、「協力委員会方式」などについても検討を深め、これを定期化し、また各種の共同作業の積み上げをはかり、その成果を大衆的なものとする政治宣伝の強化など、支持協力関係の意義と形態の内実を労働者全体のものとすることが重要である。そうした関係改善を通じて労働者の政治意識を高めていく必要がある。
B第三には、労働運動を質量ともに強化するための強固な職場党組織の建設である。「指令四号」にもとづく強大な職場党づくりと党活動、党員協、党員グループ活動の位置づけの明確化など、党が労働運動を強化し、労働戦線統一を促進するための不可欠の条件である。しかし、従来、党の労働者対策は労働運動を重視する反面で、これを党組織に結実させる努力に不十分さがあったことは否定できない傾向である。したがって労働運動の発展と党強化とは一体のものとして目的意識的に追求されなくてはならない。
(3)国民戦線と革新自治体の意義
反独占・反自民の国民戦線結集にむけて、地方自治体の分野における闘争を重視し、この分野での党のイニシアを確立することは緊急の課題である。すでに東京、大阪、京都、埼玉、沖縄、岡山の六大知事をはじめ百三〇余の革新市長、百余の革新町村長が実現し、革新自治体のもとで生活する勤労国民は約三千五百万人、全人口の三分の一をこえている。また労働者の生活闘争、地域住民運動をはじめ大衆運動と結合した地方議会闘争が大きく発展し、幾多の成果を得ているが、党はこうした自治体革新や地方議会闘争の強化を通じて反独占・反自民の民主的多数派の結渠に努力を集中する必要がある。しかし、国家権力との直接的なかかわりをもつ地方自治体の分野での闘争経験は浅く、したがって全国的に統一した自治体値新の展望を確立することが党に課せられた緊急の課題である。
@その第一は、自治体革新や地方議会闘争の意義を明確化することである。全国で二百数十にのぼる革新自治体は、その革新首長が実現をみた過程や形態、その他の条件のなかで、多くは個人的なキャリア、アイディアによって多様な対応を行なっている。しかし革新自治体の政治的な意義は、あれこれの福祉政策を部分的に実現するだけではなく、住民参加を基礎に「地方をもって保守中央政府を政治的に包囲」するという観点のもとに、自治体民主化を促進するなかで反独占・反自民の国民戦線の主体を強化することである。そして革新自治体が組織的に結集し、中央政府の反国民的な政策や制度を変更させる統一行動を強化することが重要である。革新市長会が提起してきた「国籍書き換え」「自衛隊員募集業務中止」「保育所超過負担解消」などはその一例であるが、この組織的な活動を国民生活のあらゆる分野に拡大する必要がある。「国民統一綱領」で提起した「革新自治体連結会議」(仮称)の結成は、こうした革新自治体の共同闘争を組織的に保障することが基本的な考えである。
A第二には、自治体値新を通じて保守中央政府の反動的・反国民的な政策に対して闘い、抵抗していくことである。今日の地方自治体と中央政府との関係が三割の行政権、一割の財政権という中央集権的な行財政構造のもとにおいて、地方自治体を中央政府の鎖から解放し、真の地方政治を実現するには国政の根本的な転換が不可欠であるが、革新都政における「無認可保育所補助」「老人医療無料化」など、住民要求を基礎に政策的優位性にたって中央政府の制度を孤立化させることは一定程度可能である。これは革新自治体が、あれこれの福祉予算を増やすという量の問題ではなく、民主的な革新行政を通して中央政府の反動作を暴露し、抵抗を通して地域住民の関心を国政転換に意識的に誘導するという質的側面をもつ課題である。
B第三には、地方自治の本質である地域民主主義を革新自治体を通して拡充させ、制度化することである。「対話から住民参加の地方政治」が革新自治体の相言葉になっているが、多くは革新首長の個人的発想の域を出るものではない。したがって「区長準公選」や「教育委員の準公選制」という経験の一例や直接請求による条例制定闘争の成果が示すように、住民意志なり、住民参加を条例制定権を十分に活用して制度化することは、地方自治体における民主主義の徹底を大きく促進することになる。
以上の基本的観点にたって、党は革新首長との連絡会議の恒常化をはかり、また政策的提起や住民運動の組織化のなかで主導制を確立しなくてはならない。とくに強調する必要がある点は、今日の革新自治体といえども三割自治のなかで中央集権的な行財政のワク組みによってとり囲まれていることである。したがって革新自治体の制約条件は余りに多く、公営料金値上げ問題に象徴される諸矛盾は常に顕在化するといえよう。問題はこの矛盾の処理の仕方について「革新首長だから」という短絡的発想によって労働運動や住民運動を抑え込むのでなく、極端にいえば住民投票にかけても保守政府の行財政政策を選ぶか、革新首長を選ぶかという選択を問うべきであろう。それを通して住民意識を国政転換に向けなければならない。
(4)各分野での共闘の積極化
@反独占・反自民の国民戦線の中核が労働者階級であるにしても、これを軸として他の勤労諸階層との共同闘争を積極化することは党にとって不可欠の任務である。労農同盟、労商提携の具体的な形態は、「食管共闘」「葉たばこ共闘」など個々の課題を通じて一定の実績をもっているが、それぞれの階層がもつ独自性を尊重しつつも、あらゆる面で階層間の共同闘争を強化することが重要である。
また、公害、交通、住宅、物価など多極多様な住民運動はそれが個々の利害を基礎に多分に自然発生的な要素を持っている。党や労働者が住民運動の組織化や活動の疑問の先頭に立つことが当然であるが、住民運動は住民要求があくまで基礎であり、これをもとに保守的意識層も含めて共同闘争に住民を結集することが特微である以上、党は住民運動をひきまわすのでなく、運動を通じて正しい方向性をもたせるための要求の集約−政策的提起を重視する必要がある。
A歴史的な経験をもつ平和と民生主義の運動の分野についても、課題と行動の統一を通して共同闘争を発展させることが党の任務である。とくに、日本の外交的進路について、非武装平和中立の日本の実現を追求する努力をねばりづよく積みかさね、国民合意を獲得していかなければならない。そのため全党をあげて、長沼闘争の成果のうえにたって非武装平和主義の考え方とプロセスを説得力をもって明らかにしていくことが重要である。
長沼闘争は、日本国憲法の平和主義の理念を再確認し、これを基調として内外政策を推進し、この理念を世界におし広め、戦争の絶域、軍備の完全廃止をめざし、平和共存と平和五原則に基づく平和外交の展開というわが党が一貫して主張しつづけてきた路線の正しさを明らかにしたのである。また、最近の一連の国際的な政治、外交上のうごきは、日本の平和と安全保障についてのわが党の政策の正しさを証明している。したがってわれわれは自信と誇りをもって、運動を展開していかなければならない。
ベトナム反戦、司法反動化など平和と民主主義の闘争分野で果たしてきた知識階層の役割も重要である。党は知識階層の特徴を生かしながら、この幅広い結集をはかるとともに、労働運動や地域住民闘争をはじめ各階層の運動との結びつきをつよめ、共同闘争を展開していくよう努力していかなければならない。
Bさまざまな分野における大衆の運動をすすめていくうえで、青年がとくに先進的な役割をはたすよう指導していくことは、党の重要な任務である。党は社青同の育成をはかりつつ教育、住宅、文化、スポーツ等にたいする青年の要求を積極的に支持し、労働青年、農村青年をとわず、すべての青年が広く結集していくよう努力していかなければならない。
婦人の労働権の確立、労働条件の男女差別撤廃、母性保護の社会的権利の確立など、婦人解放、地位向上のたたかいへの援助をつよめることはきわめて重要である。
公害、物価、子どもの教育など、くらしを守る地域婦人の要求を正しく組織し、生産点の婦人のたたかいとの結合をはかり、婦人を大きく結集していくことが党の緊急な任務となっている。
C党は、こうした労働者共闘をはじめ勤労諸階層の間の闘争、課題別共闘を党のイニンアで組織化し、この多角的重層的共闘をより包括的、継続的に発展させるなかで、「国民共同行動委員会」(仮称)に結集していかなければならない。
(5)強大な党建設こそ国民戦線のカナメ
反独占・反自民の国民戦線とそれに基礎をおく国民連合政府の樹立にむけた苦難なたたかいは、この歴史的大事業の意義を全党が確認し、使命感と献身性の党風を確立し党の独自活動を強化し、統一戦線政策に習熟した強大な党建設をはかることが不可欠の条件である。
党の一部には「共闘か主体性強化か」という二者択一の論理や「共闘すれば喰われる論」「共闘埋没論」「唯一主体性強化諭」という発想など、統一戦線政策の立場からみて不十分で誤った考え万がある。「国民統一綱領」で示された反独占・反自民の国民戦線の結集とそれに基礎をおく国民連合政府樹立の展望は、それが望ましいというものではなく、「新中期路線」でも明らかに規定しているように、一九七○年代における日本の内外諸条件、国内の客観的、主体的条件の科学的な分折にもとづく戦略的な根拠をもつものである。したがって党の日常的な諸闘争、諸活動も、また多角的重層的に展開をみている各種の共闘も、この民主的多数派をどのように結集するかという観点で収斂されなくてはならない。つまり「共闘か主体性強化か」ではなく、両者を統一した問題として把握することが必要なのである。
このため第一に、中央から末端に至るまで、統一された指導体制を確立し、日本社会党こそが統一戦線のカナメであるという自覚にたって作風を正し、統一戦線理論の学習を盛んにして、全党の思想性を高めることである。せまい経験主義や主観主義から派生する個人的独善をなくすために、各級機関の経験交流や相互討論を活発にして、党の当面の目標と路線である統一戦線政策について思想統一をはかることが、とりわけ重要である。
第二には、統一戦線の観点にたってあらゆる職場、地域に党員が配置され、労働者階級の諸闘争をはじめ、すべての大衆運動の中軸に党が位置し、大衆運動の性格や組織の自主性、創意性を尊重しながら党がこれをひきまわすのではなく実質的に党の指導性が貫徹する体制を確立することが必要である。こうした諸闘争を通じて党の影響力と組織的力量の拡大を全党が目的意識的に追求し、強大な党づくりをはかることである。
第三には、労働者階級をはじめ勤労諸階図の要求を政策的に集約するために、党は最大限の努力をはらわなくてはならない。こうした政策形成を通じて党は、国民的多数派の結集につとめることが重要である。また党の正しい路線から生れ、具体化される政策を全党員が身につけ、政策を通じて勤労国民やその運動に影響力を与え、知的ヘゲモニーを確立することである。下しい方向性を欠いた運動は必らず崩壊し、挫折することは歴史的に証明さねており、党はこの歴史的経験を最大の教訓としなければならない。
第四には、党は、さまざまな運動の媒体となる機関誌紙の強化を通じて政治宣伝を徹底することである。党員の存在するところ必らず社会新報分局があるという、強大な機関紙活動の展開が実現して初めて党の政策も考え方も大衆的なものとなり、力となることを銘記すべきである。
第五は、全党が社会主義者としての倫理と世界観を確立し同志愛と不屈の闘志をやしない、労働者階級をはじめ勤労諸階級の当面の利益を守るために献身的な努力をはらわなくてはならない。そのことを通して党は、はじめて勤労大衆のなかに不動の地歩を築き、信頼をうることができるのである。