社会主義協会提言の補強・むすび
われわれが「提言」を学びつつたたかった、二〇世紀最後の三〇余年間に、情勢と労働者運動は著しく変化した。しかし、第一章、第二章で分析したように、変化が大きく多様であったにもかかわらず、資本主義社会における階級関係の基本は変っていない、というより、資本主義の不安定性が不断に増大している。そのなかで、働く者の生活と社会的地位がつねに脅かされ、社会的福祉の不十分さや、環境破壊の深刻さなどに関する国民の不満は高まっている。
独占資本とその政治勢力は、新自由主義の思想に依拠して競争を煽り、自らの社会的責任を回避しつつ巧妙に他の階級、階層を分断し、資本主義の延命をほかっている。現在、労働者運動は後退している。しかし、さまざまな矛盾の底には独占資本と他の諸階層の利害の対立があり、世界史的な観点で見れば、資本主義の発展とともに階級対立も発展しているのは事実である。われわれがその事実を解明し、たゆまず国民の前に明らかにするかぎり、支配階級がいかに策をろうしても、それを覆い隠すことはできない。労働者階級が、社会の主人公として歴史的使命を自覚するのは、必然である。したがってわれわれは、日本における労働者運動の戦略、すなわち平和革命路線については、変更の必要はないと考えている。その点については、現「提言」の「第一章第三節 国家権力の平和的移行」を改めて読んでいただきたい。われわれはこれからも、社会主義をめざしてたたかう。
ただし、かつて存在したソ連・東欧社会主義諸国家が、一九九〇年前後に、相次いで崩壊してしまった。高い理想をかかげて出発した社会主義国家の建設が、なぜ挫折したのかの総括は、第五章にのべているとおりである。(まだすべてが解明されたわけではないから、これからも研究はつづけなければならないが)
何をめざして社会主義社会を建設するかという点については、これまでの見解に違いはない。人間がみな平等に働き、豊かに生活する社会をめざすのである。言うまでもなく、平等とは、資本主義社会のように形式上の平等で事足れりとするのでなく、実質上の平等がなければならない。実質上の平等の基礎は、経済における平等である。搾取する者とされる者とに分かれている社会では、実質上の平等は実現しない。
生産手段の私有制のままでは、搾取と階級対立をなくすことができないという真理は、マルクス、エンゲルスに始まる科学的社会主義の理論が明確にしている。しかしまた、生産手段を国有化して計画どうりに動かせば、諸々の矛盾がおのずから解決するというほど社会主義建設が簡単でないことは、これまでの社会主義諸国における経験が教えている。生産力の発達とともにますます社会化されている生産手段を、社会的に所有し活用しなければならないのは当然だが、社会化の内容と方法を具体的にどのようにするのが最適かという問いへの回答は、これからの研究課題である。それが本格的に解明されるのは、社会主義社会の建設が実践の段階に入ってからである。その前に「青写真を描く」のは、われわれの課題ではない。
社会主義的民主主義の実現についても、二〇世紀の社会主義は貴重な経験をした。制度上は搾取階級を無くしても、それだけでは高度な民主主義は実現しなかった。経済、政治、行政などの情報が平等に与えられ、各人の自由な言論が認められ、決定への平等な参加が保障されてはじめて、人間としての権利が尊重されたと言いうるし、働く者が社会の主人公にふさわしく、活動できるのである。資本主義社会の残滓を払拭して、社会主義的民主主義を実現するためには、それを真剣に追求する社会主義政権と広範な国民の政治参加のもとでも、長い期間を必要とすると考えられる。
日本の労働者運動のなかで、社会主義の思想的影響力が大幅に後退しているのは事実である。にもかかわらずわれわれは、現「提言」が明らかにしているように、資本主義の社会主義への移行は不可避であると確信している。そのためには、労働者政党の再建、労働組合運動の強化・発展を基礎に、反独占の諸勢力を結集した統一戦線運動の拡大がなされなければならないのは、言うまでもない。
第三章、第四章にのべているように、労働者運動の後退には客観的な要因とともに、主体的な原因もあるのであって、その原因を取り除きつつ不断の活動を積み重ねて、運動の立て直しをかちとっていかなければならない。なかでも、統一された労働者政党の再建は急務である。旧社会党のような、労働者に広く支持された党の復活は必要だが、それにとどまらず、さらに質的にも量的にも前進して、労働組合運動のなかにも、その他の大衆運動、市民運動のなかにも党員が育ち、実りある活動をして、国民のなかに広く存在している政党不信を払拭することが課題である。そうして保守政治勢力に対抗できる勢力が形成されてはじめて、本格的な労働者政権の樹立が可能になる。
運動の形や戦術が、そのときどきの情勢、力関係によって変るのは当然である。とくに現「提言」は「反独占、民主主義擁護、反帝国主義戦争の統一戦線」を提起しているが、それは、そういう考え方、基本的方向性をのべているのであって、「統一戦線」には特定の名称や形態があるわけではない。しかし、思想、信条、政治的立場を異にするさまざまな人々が、共通の目標をめざして協力関係を強めることはつねに変らぬ重要性をもっているし、緊迫した情勢になればますます不可欠の意義をもつ。そして現在の日本においては、憲法の平和的・民主的条項を生かしながら改革・改良に取り組みつつ、第九条の改悪をつうじて戦争・戦闘行動を公認する国家に変質するのを、絶対に阻止しなければならない。その点で一致できるすべての人たちと手を組み、敵を孤立化させるのは、一貫したわれわれの任務である。
これからの運動の具体的展開については、現「提言」、およびこの「社会主義協会提言の補強」を生かして研究、討議を重ねるとともに、協会員が所属するそれぞれの組織のなかで十分に検討されねばならない。その過程がまた、社会主義協会の発展の条件を豊かにする。
現在の情勢下では、社会主義への理解を広めるのは、容易ではない。理論の充実と実践における誠実さによって、働く者の信頼をかちとりながらでなければ、組織的前進はありえないからである。しかし同時に、資本主義の矛盾の増大をみれば、われわれの前進が求められているのも、明らかである。二〇世紀における社会主義運動の総括のうえに、さまざまな困難を乗り越えて、二一世紀の運動を担うたくさんの仲間が育つという確信を、われわれは共有している。