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第三章後半

 

第三節 連合運動の総括と労働運動強化の視点

 1 連合運動の性格と運動の現状

 労働戦線再編成の過程で日本の労働運動は、連合、全労連、全労協の三つの潮流に再編されたが、いずれにも組織されていない未組織労働者は、その三倍以上存在しており、労働戦線統一が必ずしも成功したといえる状況ではない。

 連合を構成する中心的労組は、民間大企業別労働組合(ビッグビジネスユニオン)である。「連合の進路」に示されている基本路線は、これら民間大企業別労働組合が指向してきた「労働組合主義」を反映したものとなっている。これらのことから連合運動は、総評運動とは違った次のような運動性格と特徴をもって出発した。

 

 一つは、ナショナルセンターとしての連合が責任をもつのは、国レベルの政策制度要求を中心とした運動であり、春闘や「合理化」などは基本的に「産別自決」とされたことである。二つは、加盟単位は一括産別労組とされ、総評時代の地区労組織と運動は否定され、中小労組運動、未組織労働者との連帯は軽視されていることである。三つは、安保、自衛隊、憲法、原発をはじめとする護憲、平和など政治闘争については、はじめから一致しない課題として、運動課題からはずされたことである。

 連合が重視する政策制度闘争は、「政策推進労組会議」、その後の全民労連(民間連合)が追求してきた運動を継承したものである。その実現方法は、政府の政策策定過程に参加して(政府の各種審議会に労働側委員を送り出している)意見をのべることや、政府への予算要求実現に向けた請願、陳情が中心となっている。要求内容も、政府の労働政策や社会政策と似かよったもので、総花的で、重点課題を絞り込むなどメリハリあるものにはなっていない。とりわけ職場の組合員一人ひとりの参加と大衆闘争でたたかいとる姿勢は軽視されている。

 

 「産別自決」も、連合運動への求心力を著しく低下させている。市場競争の激化のなかで、雇用、賃金、労働条件の決定は、ますます企業レベルヘと定着させられ、産別労組への結集力を逆に弱めている。さらに連合と産別労組の乖離を拡大している。「産別自決」は、「単組自決」の傾向をも強めている。

 春季生活闘争は、「春闘改革」をめぐって産別労組閣で意見対立が表面化し、資本の総額人件費抑制攻撃に反撃していく統一闘争を再構築できていない。「産別自決」「単組自決」の壁に阻まれて、リストラ合理化で苦しんでいる労働者との連帯、統一闘争の指導性は発揮できない現状である。さらに、地域労働運動と、中小労組運動を軽視してきた連合運動は、中小・零細企業に働く労働者、パート、派遣労働など非正規労働者との距離を広げ、組織化に立ちおくれている。

 

 連合が「労働組合主義」を基調とし、大企業労働者を中心とする『塀の中』の運動に偏重してきた弊害が、今日大衆的に明らかになりはじめている。民間大企業でのリストラ合理化による常用雇用労働者の削減で、産別労組の組合員数、連合の登録組合員数も大幅に減少し、労働組合の推定組織率は低下しつづけている。このままでは連合運動は大企業労働者からも見離され、ナショナルセンターとしての社会的役割を果たせないばかりか、労働組合の存在そのものが問われるという危機感は、構成組織のほぼ共通認識となりつつある。

 

 2 大競争時代の到来で問われる労働運動の改革

 一九九〇年代に入って、日本経済をとりまく環境は大きく変化した。日本の独占資本は、「大競争時代」に対応し、国際争力[ママ]を維持し、勝ち抜いていくために、規制緩和・撤廃を中心に、いわゆる「高コスト構造」の是正を柱にした構造改革を進めている。

 日経連の「新時代の『日本的経営』」で打ち出された終身雇用(長期雇用)と年功賃金制度の見直し、三つの雇用形態の採用、能力主義賃金をはじめとする人事処遇制度、これを担保する労働基準法をはじめとする労働法制の改正は、その後急速に進められてきた。正規雇用労働者の削減とこれにかわるパート、派遣など非正規雇用労働者の増大が進み、資本にとっては総額人件費抑制とより安上がりな労働力の確保が保証されることになっている。そのもとで官・民を問わず拍車がかけられているリストラ合理化のなかで、失業者の増大、賃下げ、労働強化が強制されるなど、労働者の働く喜び、生きがいを阻害し、福祉、社会保障の低下、負担増で将来の生活不安を増大させている。

 グローバリゼーションの進展と産業構造改革は、一方でこれまで良好な労資関係を築いてきた日本型経営システムにも、一定の影響を与えざるを得なくなっている。世界に注目された労資協調を基本とした企業別労働組合を単位とする労使関係で、労働者の経済条件の改善、向上をめざしてきた日本の労働組合のあり方について、問い直しが求められるようになっているのである。

 

 こうしたなかで連合は、九六年に中小労組のたたかいの強化、未組織労働者の組織化、コミュニティーユニオン、クラフトユニオンなど、地方連合の強化を通じて、個人参加の組織形態を検討することを打ち出し、組織化を始めた。また全国で組織され始めている地域ユニオンとの連携を進めるようになっている。

 そして、連合の方針にも変化がでてきている。九七年の第五回大会以降、規制緩和、産業構造改革に異議をとなえ、「公正、公平、平等、連帯、参加」の社会民主主義的理念を掲げて、市場万能主義に反対し、「労働を中心とした福祉社会」をスローガンに、生活の質的向上をめざした社会的な制度でンステムの改革、公正なワークルールの確立とセーフティネットを求める方針が打ち出されるようになった。

 

 労働基準法改悪反対では、一定の大衆闘争を提起し、この運動過程では、全労連、全労協との実質的な共同闘争を展開した。また、「解雇制限・労働者保護法」をはじめとする労働者保護法制定を求める運動の取り組みを強めている。

 これらの背景には、国際自由労連(ICFTU)をはじめ欧米諸国の労働組合が九六年に打ち出した「グローバリゼーションと新たな国際競争の激化に対応する新たな挑戦」があり、これに強く影響されていることは明らかである。

 そして連合の変化で重要なことは、産別労組、地方連合から、運動の改革を求める意見が、年毎に活発に出されるようになっていることである。それらの意見の下地には、際限ない「合理化」のなかで、正当に働いてきたことが報われない企業への批判と職場労働者の耐えがたい労働と生活実態がある。

 

 吹き荒れる「合理化」、失業者と非正規雇用労働者の増大、賃下げは、「産別自決」よりも、労働者の企業・産別を越えた統一闘争としての春闘再構築と合理化に抵抗する統一闘争を、また、中小・零細企業で働く未組織労働者との連帯、組織化を求める声を高める。さらに政治反動の激化は、労働組合が護憲、平和と民主主義を守るたたかいの中核となることを求めているのである。

 こうした連合の変化は、連合路線が変わったということでも、連合を構成する中心的産別労組幹部が変わったということでもない。客観情勢の深化と労働者の窮乏化の実態、生存の不安定さの増大から生まれており、この変化に労働運動強化の条件があることを認識し、長期的な展望をもってたたかいを進めることが重要である。

 

3 労働運動強化と社会主義協会員の役割

 われわれは、労働戦線統一をめぐる論議の過程で、右翼的労働戦線統一に反対し、総評路線の堅持の上に立つ統一をめざしてきた。

 連合発足を受けて、連合内外(「中に入って連合路線を変えていく」、「行かない、行けない組合との連携」)で、「産別労組強化」を基本に労働運動強化を進めていく方向を確認した。しかし、総評解体からくる挫折感、連合路線への不信などから、労働運動強化に向けた認識を統一していく調査・研究、交流活動に立ち後れてきたことを、自己批判的に総括しなければならない。

 

 総評解体の主要な原因の一つに、総評運動、とりわけ一九七〇年代後半以降の産別労組の「連合化」にあったことを確認するならば、その反省にたって、職場のたたかいを基礎にした産別労組と地域労働運動の階級的強化に全力を傾注しなければならない。その運動を、連合運動に連帯を求めて持ち込み、反映させる努力を粘り強く追求することである。日本の労働運動を強化するためには、ナショナルセンターである連合運動の改革・強化が不可欠であることは自明である。

 労働組合が任務を果たしていく上で、合理化反対闘争は労働組合の基本的活動であることを再確認する必要がある。労働者の実態から生じる不満・要求を基礎に、労働組合の目的と性格を踏まえた日常活動を、目的意識的に展開していくことである。そのためにも、資本の思想攻撃と組織づくり、労務管理に打ち勝つ労働組合の組織づくりがなければならない。組合民主主義、大衆路線を実践していく一定の活動家の配置と指導性が必要であり、日常活動を通じて組合員からの信頼を高めなければならない。こうした組合づくりの基本的な努力の積み重ねなしに、労働運動の強化はありえない。

 

 連合になって、最大の任務とする制度政策要求に見るべき成果を得られないのは、労働組合の基本的活動がおろそかにされ、労働者の切実な要求にもとづく大衆行動を組織しえていないからである。

 また、青年労働者の意識を大事にしながら、青年の要求を基礎に、学習と改良闘争を通じて、次代を担う労働者として成長を促していく指導が求められている。

 労働者の階級意識は、労働者の物の見方、考え方を確立していく学習と反合理化闘争、職場闘争を通じて促され育成されていくのである。活動家は積極的に労組役員を担い、仲間と結びつき改良闘争を通じて労働者としての自覚を不断に促し、産別統一闘争に高めていく主体でなければならない。

 

 その上に立って、労働組合のあり方で問われていることは、企業別労働組合から培養される企業主義を克服し、「塀の中」の運動から社会的運動をも担い得るように脱皮することである。他企業、他産業の労働者はもとより、海外の労働者との連帯と共闘を強化することが必要である。そして特に、産業構造や就業構造の変化が起っているなかでは、労働運動が正規雇用労働者中心の企業内の運動に止まっていることは許されない。

 臨時・パートなどの非正規労働者、さらに広く未組織労働者の組織化と連帯の強化が求められている。そして、賃上げや労働時間短縮などの課題とともに、最低賃金制など労働条件の最低基準と、社会的横断的ワークルールの確立、国際基準への到達などの課題に積極的に取り組む労働運動となっていかなければならない。また、企業を越えた福祉、社会保障の向上、労働者保護を実現していく主要な担い手として、役割を果たすようにならなければならない。市場原理万能主義に反対し、競争社会がつねにもたらす弱肉強食を許さず人間として生きていけるセーフティネットの確立など、政策制度闘争を職場からのたたかいと結びつけて、大衆的な統一闘争を組織し、政治闘争として強化していくことが必要である。同時に、政治反動と改憲の危機が強まるなかで、労働組合が広範な勤労国民を代表してたたかい、連帯を強化していくことが求められている。

 

 これらの課題の実現を図っていくために、労働運動の統一(連合、全労連、全労協をはじめとする大衆的運動を積み上げながら)をめざして、労働者政党との協力を強化しなければならないことは言うまでもない。

 世界の労働者との連帯を強化し、日本の平和と民主主義を守り、政治を革新していく統一戦線形成の主体勢力に労働組合が成長していかなければならない。

 

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