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社会主義協会提言の補強第二章後半

 

第三節 日本資本主義の構造

1 独占資本

 日本資本主義を支配しているのは独占資本である。法人企業数ではわずか〇・二%にすぎない資本金一〇億円以上の巨大企業が、生産(売上)の三七%、資本の六七%を占有し、生産、流通、交通、通信および金融機関において独占体を形成している。独占資本はその市場支配力を利用して独占価格の維持・引き上げをはかり、消費者である国民諸階層からの搾取をおこなっている。

 独占資本による流通支配に対する国民の批判と独占禁止政策強化を要求する国際的圧力によって、わが国の政府は九〇年代になってようやく独占禁止政策の強化に乗り出した。しかし、ヤミカルテルや談合の摘発・取り締まりはまだ氷山の一角に過ぎず、今後独占禁止政策の一層の強化が求められている。

 

 独占企業は金融機関の系列融資や株式の相互持合、役員派遣、互恵取引などをつうじて互いに結合し、巨大な企業集団を形成している。独占的産業資本は系列や下請の中小企業に対する支配と搾取の網の目を張りめぐらせている。

 独占資本による投機活動は一九八〇年代後半のバブル経済(株価や地価の狂乱的高騰)を生み出したが、同時に実体経済においても過剰投資をもたらすことになった。しかし、バブル経済が崩壊すると過剰資本が顕在化し、設備、債務、雇用という「三つの過剰」を対象に大規模なリストラ合理化が断行された。

 

 過剰資本は海外投資やM&A(合併・買収)によっても処理されている。独占的な産業資本ならびに機関投資家は、巨額の余剰資金を海外市場に分散投資してリスクを回避し、運用益の確保に努めている。また、独占資本は国内の生産拠点を放棄して海外に移転し、「多国籍化」の動きを一層強めることによって、地域住民の雇用の場を奪い、地域経済の崩壊を引き起こしている。

 地球規模での競争に生き残るため、独占資本間の合従連衡の動きも強まり、国内でも企業集団の枠を越えた大規模な金融機関の合併や資本提携による再編成が進行している。そこでは、三井系のさくら銀行と住友銀行の合併に象徴されるように、旧財閥の枠さえも取り払われようとしている。その一方で山一証券や、北海道拓殖銀行など経営破綻に陥る大手金融機関も続出し、一部の超巨大資本に支配が集中する傾向が強まっている。

 

 独占資本の再編成は国内だけにとどまらず、ルノーによる日産自動車の支配に見られるように、国境を越えた結合の動きも急進展している。長期信用銀行など破綻した金融機関の買収による外国資本のわが国への参入もおこなわれ、グローバルな独占資本間の競争が国内を舞台として繰り広げられるようになっている。

 政府は一方で金融機関へのなりふり構わぬ公的資金注入によって独占資本の延命をはかると同時に、純粋持株会社の解禁によって独占資本の資本結合を促進し、また他方では規制緩和によって業種の垣根を越えた独占資本の競争と再編成を促している。

 

 しかしこのような国民の負担と犠牲の上で独占資本体制を強化する政策は、逆に独占資本と国民との間の矛盾を拡大し、その支配を掘り崩すものにならざるを得ない。規制緩和も独占資本による投機的活動を促進することによって経済の攬乱要因を増加させ、国民生活の安定を脅かしている。独占資本の投機活動や市場支配による国民の搾取を規制する施策が一層強化されなくてはならない。

 

   2 中小零細企業

 日本の民営事業所のうち九九・八%、会社企業のうち九九・三%が中小零細企業であり、中小企業で働く労働者は全体の七八%(事業所ベース)〜六〇%(企業ベース)に達している。また、中小零細企業は地域経済の担い手としても重要な存在である。地域の商店街は人々の生活のために欠くことのできないものであったし、一九七〇年代に入ってからの工場の地方分散は、地域の雇用の受け皿として大きな役割を果たしてきた。

 しかし、中小零細企業のおかれた状況は近年ますます厳しさを増している。製造業の場合、円高にともなう親会社の海外移転や部品の海外調達によって受注減に陥る下請中小企業が続出したし、大企業のリストラや大型合併による下請けの選別・再編成も進行している。また、規制緩和にともなう過当競争によって経営難に陥ったり、金融機関の貸し渋りによって倒産したりする中小企業も相次いでいる。そして不況の長期化の影響も加わり、九〇年代に入ってから製造業における中小零細企業は企業数、従業者数ともに減少をつづけている。

 

 小売業においては、モータリゼーションの進行と大店法による規制緩和にともなって郊外への大型店の立地が急増し、各地で中心商店街の空洞化が引き起こされている。中心商店街の空洞化はバランスのとれた街づくりを阻害し、高齢者など交通弱者の生活を脅かしている。

 サービス業においては、いわゆるサービス経済化の進展により事業所数、雇用とも拡大をつづけている。そのなかには、情報サービス業のように情報化の進展にともない急成長している分野もあるが、ビルサービスや警備業など大企業の外注化(アウトソーシング)による人件費削減と結びついて拡大した分野も多く、低賃金労働力のたまり場となっている。

 

 多くの中小企業が大手金融機関の貸し渋りによって経営難に陥っており、独占資本は競争力強化と世界企業化推進の観点から、下請中小零細企業の選別・再編成を進めている。政府の中小企業政策も、弱肉強食の市場原理を前提に「活力ある中小企業」だけを選別・支援するものでしかなく、九九年制定の新中小企業基本法では従来の「大企業との格差是正」という政策課題は姿を消すことになった。したがって、場当たり的に実施される貸し渋り対策、空洞化対策など中小企業に対する施策も十分な効果を発揮するには至っていない。新保守主義的な規制緩和路線を転換し、地域経済の振興と地域住民の生活確保の視点から中小企業政策を推し進める必要があろう。

 

 3 農民と農業

 わが国の農業を取り巻く経営環境は独占資本主義の展開にともない、高度成長期以降も悪化をつづけてきた。農業では十分な生計を維持できないことから、一九六〇年には三三%だった農林水産業就業者の割合は、九五年は六%にまで低下し、農家戸数も六〇年の六〇六万戸から九六年には三二四万戸に減少している。しかも、農業の担い手の高齢化も著しく、九六年には農業就業人口に占める六五歳以上の層が五一%にも達している。

 農業経営の悪化は農産物輸入の増加によって促進された。特に問題なのは、七〇年代以降わが国の独占資本による輸出急増によって対外経済摩擦が激化し、その摩擦回避のためのスケープゴートとして農産物の輸入自由化かおこなわれたことである。七〇年には五八品目だった非自由化農産物は七四年には二二品目に急減し、そして八○年代以降も国際的圧力のもとで残存輸入制限品目の自由化を迫られ、九三年一一月にはガット・ウルグアイラウンド農業合意の受け入れによって、米の部分輸入も余儀なくされた。

 

 独占資本にとって安い農産物の輸入拡大は、賃金の抑制と利潤率の上昇を可能にするものである。そのためにわが国の食糧自給率は年々低下し、六五年度から九八年度にかけて、供給熱量換算の自給率は七三%から四〇%へ、穀物自給率は六二%から二七%へといずれも大きく低下することになった。

 食糧供給の海外への依存は、輸出国の事情により食糧の安定供給が脅かされることを意味している。食糧自給率の低下にたいし、国内農業の強化による食糧の安定確保を求める国民の不安や不満が一層強まっている。九九年に農業基本法に代わって制定された食料・農業・農村基本法に、食糧自給率向上をめざす基本計画策定の必要性が盛り込まれたのも、そのような国民の要求への対応を余儀なくされたからであった。

 

 しかし、一方で農産物輸入の拡大を求める国際的圧力や独占資本の要求を背景に、農業を弱肉強食の市場競争にゆだねる政策も推進されており、中小農家の経営は一層困難の度合いを増している。農業者の高齢化に後継者難も加わって全国で耕作放棄地が増大している。

 多くの中小農家は、農業だけでは生活が成り立たず、製造業や建設業などからの兼業収入に支えられてようやく経営を維持している。しかし、円高にともなう地域の製造業の空洞化、財政難による公共事業の削減によって、そのような中小農家存続の条件は奪われ、農村部の一層の過疎化が進もうとしている。

 政府は環境保護の観点から中山間地農業への直接支払い制度を導入したが、そのような部分的な施策では焼け石に水と言わざるを得ない。独占資本の要求する市場万能、効率一辺倒の農業政策から決別し、食糧自給の確保に向けて、わが国の農業を崩壊の危機から救う施策の実施が求められている。

 

 4 労働者階級

 日本には、一九九〇年代半ば時点で五〇〇〇万人強の労働者がおり、国民のなかで最大の勢力となっている。しかも、そのうち従業者一〇〇〇人以上の大企業に勤める労働者は約二割弱に過ぎず、圧倒的多数の労働者は賃金など労働条件の劣悪な中小零細企業で働いている。中小企業労働者の賃金は、中企業で大企業の八割弱、小企業で六割半ば程度にすぎず(九五年)、企業規模別賃金格差の是正は依然としてわが国の労働者にとって大きな課題となっている。

 大企業と中小企業との労働条件の格差に加えて、わが国では男女間の労働条件の格差も著しい。雇用者に占める女性の比率は四割(九九年)に達しているにもかかわらず、その平均賃金は男性労働者の約半分(五一%)に過ぎない。

 

 企業で働く女性の数が増大しているにもかかわらず、わが国では家事・育児・介護など家庭での労働の大半は女性の負担となっており、多くの女性はパートタイマーや派遣労働など短時間雇用の非正規労働者として働くことを余儀なくされている。また、企業も労務コスト削減のため積極的に正規労働者をパートタイマーや派遣労働者に切り替えている。男女雇用機会均等法(八六年施行)とその改正・強化(九八年施行)によって、募集・採用、配置・昇進における男女差別は禁止されたものの、多くの企業ではコース別の女性差別的労務管理が依然として存在し、職場における男女平等実現の障害になっている。

 また、九九年から労働基準法の女性保護規定が廃止され、女性も深夜業など男性並みに過重な労働を強いられるようになった。多くの女性にとって「家庭責任」の大半を背負いながら男性並みの過度労働を引き受けることは極めて困難である。雇用の場で真の男女平等が実現するためには、職場だけでなく家庭での性別役割分業を廃止するともに、労働時間短縮などを進め、育児・介護と両立可能な労働条件を確立しなければならない。

 

 七〇年代以降、サービス経済化が一層進展し、サービス業、流通業(卸売・小売業、飲食店)を中心とする第三次産業の比重が増大し、雇用にも大きな影響を及ぼしている。サービス業や流通業の職場はパートタイムや派遣労働など不安定雇用の占める割合が高く、しかも労働組合の組織率もきわめて低いため、賃金など労働条件が劣悪となっている。さらに規制緩和による競争の激化が、流通業やサービス業などにおける労働条件の悪化を一層促進している。

 大企業に特徴的な「日本的雇用慣行」の再編も独占資本の主導により進められている。すでにほとんどの企業において単純な年功制は職能資格給に姿を変え、さらに昇級・昇格やボーナス等への査定の導入によって、労働者どうしを長期にわたって競争させる日本的能力主義管理へと改編されている。このような主観的で不透明な査定基準にもとづく能力主義管理は、労働者を健康破壊的な過度労働へ駆り立てる役割を果たしているが、さらに「能力主義」を強化する方向で改編が進められようとしている。

 

 また、「終身雇用」制見直し上雇用流動化論の思想宣伝のもとで、大企業における正規労働者の削減も中高年層を中心に推進されている。しかしここでの雇用流動化は、特に中高年層の場合、解雇だけで中途採用の道が閉ざされた一方通行の流動化でしかなくなっている。また、退職金前払い制度や確定拠出型年金(日本版401K)など、中途解雇を容易にするための制度改革も進められようとしている。

 さらに、バブル崩壊後の長期不況のもとで、労働者のおかれた状況は一層悪化した。失業率は史上最悪の記録を更新し、パートタイマー、派遣労働者など、身分の不安定な非正規労働者の構成比が高まっている。高密度労働が常態化しているにもかかわらず、政府公約の労働時間の短縮は遅々として進んでいない。賃上げの抑制だけでなく、賃下げに直面する労働者が増えており、さらに公共料金や社会保険料の負担増加が加わることによって、労働者階級の生活水準は低下を余儀なくされている。

 しかし、このような雇用環境の悪化や労働条件の劣悪化は労働者階級の不満と怒りを引き起こさざるを得ない。そのような労働者の不満や怒りを闘争へと組織化する労働組合の役割は一層高まっていると言わなければならない。

 

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