四 民族独立運動の前進
強大な社会主義世界体制の確立という第二次大戦後のあたらしい情勢のもとで、民族独立運動は大きく前進した。数世紀にわたって帝国主義の冷酷な抑圧とあくなき搾取と収奪のもとにおかれた被抑圧民族は、社会主義世界体制と資本主義諸国の労働者階級、進歩的諸勢力に支持されて、反植民地と民族独立の旗をたかくかかげ、平和的に、あるいは帝国主義者が武力弾圧にうったえるとさには武力闘争をつうじて、独立をかちとってきた。
だが、民族独立闘争は、ながい過程を要するたたかいであり、政治的独立の獲得は、まさにその第一歩にすぎない。政治的独立を獲得した新風民族国家が、そのたちおくれを克服し、経済的、社会的、文化的自立をかちとることは、けっして容易なことではない。
民族独立闘争の完全な勝利は、帝国主義にとってはまさにその存在にかかわる大間題であり、それゆえに、帝国主義諸国は、徹底した民族独立闘争がおこなわれているところでは武力によってそのたたかいの発展を抑圧し、反動的民族ブルジョアジーを利用することができるところでは、形式的な独立をあたえながら、主として経済的な力によって実質的な支配の継続をはかっている。
民族独立によってうまれてきた新興民族国家のうち、あるものは、労働者・農民の主導権のもとに、非資本主義的な道をとおって社会主義へすすんでいるが、あるものは、民族ブルジョアジーや旧封建勢力の支配のもとに、ふたたび帝国主義の新植民地主義政策の腕のなかに身を投じている。最近アフリカに続発した反動クーデターやインドネシアの政変などは、後者のあらわれであり、そのかぎりで帝国主義のまきかえしは一定の成果をおさめている。
しかし、こうした帝国主義のまきかえしにもかかわらず、あたらしく独立をかちとった民族国家の多くは、非同盟中立の立場をとっており、中ソを中心とする真の独立のための強力な援助もあって、国連の舞台でも、戦争や戦争の危機、さらには新旧植民地主義に反対する有力な勢力となっている。一九六四(昭和三九)年三月、ジュネーブで開催された国連貿易会議にしめされたような新興民族国家の団結が強化されれば、この勢力が反帝国主義、反植民地主義を共通の立場としているだけに帝国主義者の戦争政策の阻止、まだ独立していない被抑圧民族の独立の達成に、大きな貢献をすることができるであろう。
新植民地主義的搾取のもとにおかれている新興民族国家の労働者は、ひきつづいて完全独立と社会進歩、反帝国主義・反植民地闘争の指導勢力としてたたかっており、植民地人民は、圧制と飢餓、強制労働と人種的差別、文盲政策と経済的略奪に反対し、民族解放のきびしいたたかいをつづけている。これらのたたかいは、資本主義国における労働者階級のたたかいの発展とともに、社会主義世界体制を要(カナメ)とする反帝国主義闘争のおもな力の一つとなっている。
戦後一貫して植民地休制の崩壊をくいとめ、新植民地主義的政策を追求しつづけてきた中心勢力は、アメリカ帝国主義であった。アメリカは、イギリス、フランス、ベルギー、オランダなどの旧宗主国の弱体化に乗じて、いたるところで帝国主義と民族解放勢力との前面にたって、ときには国連機構を利用しながら、帝国主義支配体制を防衛し、同時にみずからの利益を追求してきた。アメリカの新植民地主義政策と武力干渉政策は、ヨーロッパ諸国の植民地従属国を横どりする目的をもってアフリカへ、みずからの超過利潤の源泉を確保する目的をもってラテン・アメリカへ、社会主義世界体制の発展に対抗し社会主義諸国を包囲する軍事基地網を維持強化する目的をもってアジアへむけられており、ぜんたいとして帝国主義支配体制を維持・強化する役割をはたしている。
しかし、帝国主義者のこのようなこころみにもかかわらずアジア、アフリカ、ラテン・アメリカの旧植民地・従属国地域で、帝国主義世界体制の弱い環がつぎつぎに突破されてきた。とくにアジアにおいては、巨大な社会主義中国が建設され、朝鮮半島の北部、ベトナムの北部にも社会主義社会が誕生した。
アメリカ帝国主義は、中国国民党を援助して中国革命の進展を阻止しようとした。朝鮮戦争によって朝鮮民主主義人民共和国をおしつぶし、あわよくば社会主義中国の建設を妨害しようとはかった。しかし、その結果はみごとな失敗におわり、そのようなこころみが、帝国主義者のはかないあがきであることを歴史的事実によって証明した。
巨大な中華人民共和国の成立は、すでにアジアの全地域にわたって発展しつつあった民族独立闘争に大きな自信をあたえ、革命中国は、アジア、アフリカ、ラテン・アメリカに広範に広がった民族独立闘争の震源地となった。中国を中心として、朝鮮半島の北部とベトナム北部に社会主義国が建設されることによって、帝国主義国際戦線はアジアにおいて大きく破綻(ハタン)した。しかもアジアにおける民族独立闘争の発展が、社会主義への道につながる可能性をもつだけに、アメリカを中心とする帝国主義勢力の反撃は、アジアに集中された。こうしてアジアは、帝国主義勢力と反帝国主義勢力があいたたかう主戦場となった。
アメリカは、強大な軍事力と経済力を動員して、とくに南朝鮮、台湾、南ベトナムにかいらい政権をつくりあげ、民族独立闘争の発展を抑圧するとともに、社会主義中国を封じこめることに狂奔した。日本を極東における最大の反共基地にしたてあげ、帝国主義的支配体制の破綻をくいとめようとやっきになっている。しかし、現在、アメリカ帝国主義のテコいれにもかかわらず、南朝鮮、南べトナムでは帝国主義者とかいらい政権の武力によって、かろうじて人民の抵抗がおさえられているにすぎない。ラオスにおいては、アメリカ帝国主義は、ラオスの反動勢力とむすんで民族解放闘争を弾圧しているが、成功をみていない。ビルマは中立の立場を堅持し、カンボジアも中立政策を強化している。インドネシアにおける反革命は、一定の成功をおさめたが、国内の政治・経済情勢は絶望的であり、帝国主義の意のままになるところにはいっていない。タイ、フィリピン、台湾などの反共国家も、帝国主義のまきかえし拠点として強力なものとはいいがたい。
このようにアメリカ帝国主義の孤立化がますますつよまっているなかで、日本の独占ブルジョアジーは、韓国、台湾の反動的支配層とともに、中国に敵対し、アメリカ帝国主義を支持している。これは、日本の独占ブルジョアジーがアメリカ帝国主義と軍事同盟をむすび、極東における反共戦略体制の拠点となっていることのあらわれである。しかし日本資本主義の矛盾も激化しており、民主主義勢力による反独占・反帝国主義戦争の闘争が、大きくたかまる気運をしめしている。
社会主義革命と民族独立革命により、帝国主義的支配体制の鎖が切断されようとするときには、アメリカ帝国主義は、武力によってその支配体制を維持しようとする。カリブ海の危機、ベトナム民主共和国への侵略は、まさにこのようにしてひきおこされた。アメリカ帝国主義は南ベトナムにおける革命運動の弾圧、社会主義国ベトナム民主共和国への侵略、中国への挑発的行為によって、いまや、ベトナムをたかまる社会主義革命、民族独立革命にたいするアメリカ帝国主義の主戦場にした。ベトナムは、社会主義勢力を基軸とした世界の平和勢力と、帝国主義勢力とが対決する場になっている。だから、ベトナムへのアメリカ帝国主義の侵略を阻止するたたかいは、全世界の社会主義者の義務であり、われわれにあたえられた歴史的使命である。
平和擁護の力は、発展する社会主義世界体制の力を基軸として、各国における労働運動の発展、民族独立運動の発展、平和を愛する人びとの勢力の増大によって、いまや世界ぜんたいに大きくつよまってきている。しかも、ソ連や中国の核保有によって、アメリカを中心とする英仏帝国主義の核独占はやぶれ、現実に帝国主義者が熱核戦争にうったえることは困難になった。そのためわれわれは、帝国主義ブルジョアジーの戦争挑発政策の腕をおさえ、第三次世界大戦を回避しつつ、社会主義と恒久平和の時代をたたかいとる十分な可能性をもっている。われわれは、全世界の平和擁護勢力の連帯をいっそうつよめることによって、アメリカ帝国主義の無謀な熱核戦争への道を阻止することができる。
五 平和共存政策の展開
帝国主義勢力の戦争政策にたいして、社会主義諸国は、社会制度の異なる諸国家との外交政策の基本原則として、平和共存政策をとっている。平和共存政策をはじめてうちだしたのは、レーニンであった。レーニン・スターリン段階の平和共存政策は、帝国主義諸国間の対立を利用し、その間隙(カンゲキ)をぬいながら、一国社会主義の発展と各国における社会主義勢力の成長をはかるものであった。いまや世界史は、その流れとその方向が、社会主義諸国の世界体制と、その他の諸国における社会主義勢力と、帝国主義に反対してたたかう諸民族とによって決定されることをあきらかにしている。現段階における平和共存政策は、このようにもはや帝国主義が世界史の決定的要因ではなくなった時代に提起されている。
平和共存のもとで社会主義諸国はますますその物質的生産力を発展させ、生活水準を向上させ、人びとは豊かな教養とたかいモラルを身につけることができる。これに反して、資本主義諸国は、ますますその内的矛盾を蓄積し、社会主義の物質的・文化的発展の前に後退していかざるをえない。平和共存のもとで社会主義世界体制はうしなうものはなに一つない。それどころかそれは社会主義の物質的・文化的優位を実現するための重要な条件とすらなっている。世界史の流れを社会主義にむかわせるために、戦争は少しも必要でない。平和共存のもとでこそ社会主義体制の資本主義体制への優位はますます明確になっていく。このことは世界史の発展法則を科学的に理解しているすべてのマルクス・レーニン主義者の確信するところである。そして第二次大戦後の両体制間の現実の動向は、このことを如実に証明している。したがって、平和共存政策は、こんご社会主義世界体制およびこれに支えられる反帝国主義諸勢力とが、いっそう強大となるにつれて、ますます確固たる基盤をもって展開さるべき積極的政策である。
平和共存の具体的内容は、異なる社会体制が並存する状態のもとで、異なる社会体制をもつ国が、相互に領土と主権を尊重し、相互に侵略せず.相互に内政干渉せず、平等互恵の立場にたって交流し、紛争事項は、武力によらず、平和的な話し合いで解決しようということである。それは、もともと帝国主義者の侵略政策を阻止せんとするものである。こんにちの段階ではそれだけにとどまらず、帝国主義者が熱核戦争にうったえることを未然にふせぐために、すすんで核兵器の製造・実験、使用、貯蔵を禁止し、全面的な軍縮をかちとることをも意図している。すなわち、帝国主義者の侵略政策、戦争政策をやめさせることが、平和共存のたたかいの具体的内容である。しかも、このような平和共存をかちとるたたかいが、社会主義世界体制の発展を軸として、資本主義諸国における労働運動と民族独立闘争の発展という帝国主義世界体制の力を後退させる力によって支えられている。平和共存政策の推進は、とりもなおさず国際的な規模での階級闘争の一形態となっている。
資本主義諸国における生活向上、平和、民主主義、完全独立、社会変革の諸闘争が発展し、民族の完全独立のたたかいが進展すればするほど、社会主義世界体制が発展し平和共存のたたかいはいっそう前進し、平和共存のたたかいが前進すればするほど、各国の労働運動と民族独立闘争にとって有利な情勢がつくりあげられる。平和共存のたたかいが前進することは、帝国主義諸国における社会主義革命と被抑圧民族の民族独立革命を、帝国主義の武力による圧殺からまもる条件をつくりあげるからである。平和共存のたたかいが前進するなかで、諸国人民は世界戦争をさけながら、みずからが当面する革命を達成することができる。
ベトナムにみられるように、現在の段階では、全世界的規模での平和擁護のたたかいは、帝国主義者の戦争政策をやめさせるところまではいたっていない。ベトナム人民の民族独立の闘争と諸国人民の平和をまもるたたかいが、決定的な勝利をかちとるまでにはいたっていない。熱核戦争か平和かという帝国主義勢力と反帝勢力との対決の焦点は、いぜんとしてアジアにある。したがって、全世界人民の平和と平和共存のたたかいをここに集中し、アメリカの戦争政策をうち破り、アメリカをしてベトナムから手をひかせ、南北統一問題をふくむすべてのベトナム問題をベトナム人民の手によって解決させるという緊急の課題がいまわれわれ課せられている。
まさにこのようなとき、平和擁護の中心的な力である社会主義陣営内部に、中ソ対立にみられるような団結の不一致という状況が存在することは、世界の反帝国主義勢力にとって重大な問題である。両者の対立は、たんにイデオロギー面においてのみならず、国家間の関係にまでおよんでおり、現在の段階ではこの対立が容易に解決される兆(キザシ)はない。両者の対立点のなかには、たとえば「全人民の国家」論争、「利潤」論争にみられるような主としてソ連における社会主義の発展段階から惹起された問題や、現代帝国主義にたいする評価のしかた、プロレタリアート独裁の問題など、とくに中国における社会主義建設の発展段階と中国がおかれているアジアのきびしい情勢を反映した問題があり、プロレタリア国際主義の立場にたったふかい相互理解のもとでしか解決できない困難な問題がある。とくに、両国の外交政策にくいちがいがみられることが、対立をいっそう複雑深刻なものにしている。
いま緊急に必要なことは、帝国主義ブルジョアジーが、中ソ対立がもたらした国際共産主義運動の団結力の弛緩(シカン)に乗じて.社会主義世界体制の分裂をねらっていることに対処して、世界プロレタリアートの国際連帯、とりわけこの連帯の要(カナメ)である中ソ両国の団結が早急に回復されることであり、さしあたり、ベトナムの戦争にたいする共同行動を強化することがのぞまれる。いまほど、プロレタリア国際連帯が力づよく展開されなければならぬときはない。それぞれの見解の相違をこえて、すべての社会主義国と被抑圧民族と全世界の平和を法もる人びとが、帝国主義者の戦争政策にたいして、力をひとつにしなければならないときはない。ここではイデオロギーの相違ではなく、世界平和のための統一行動が重要である。いっさいの教条主義がすてられなければならない。
中ソ対立は、帝国主義諸国間にみられる対立とはことなり、本来敵対的対立に発展する性格をもたない。帝国主義ブルジョアジーの分裂策動を許す性格の論争ではない。帝国主義ブルジョアジーの反動性がろこつにあらわれているこんにち、帝国主義ブルジョアジーに漁夫の利をえさせないために、世界プロレタリアートのより高度な、より緊密な団結と国際連帯が、さしせまった急務である。
一九世紀のマルクス、エンゲルスの時代以来、世界のプロレタリアートは、いくたびか国際的労働者組織をもち、またその分裂と対立とを経験してきた。
その歴史と教訓のうえにたって、中ソ両国はかならずやふたたびより高次の社会主義的連帯を回復するであろう。われわれも各国プロレタリアートの自主性の尊重を前提とする、より強固なプロレタリアート国際主義の確立をめざして、前進しなければならない。
六
かがやかしい未来へ!
世界史は、その歴史的必然にしたがって、あきらかに社会主義勝利の方向にむかっている。世界体制の発展を要(カナメ)とする反帝国主義勢力の力が、帝国主義勢力の力をおさえる方向にむかっている。帝国主義ブルジョアジーの必死の努力、殺人と凶悪な暴力をもってしても、歴史の歯車を逆転させることはできない。
すでに資本主義は、人類の歴史的前進を保障する能力をうしない、資本主義文化には希望の影すらない。そこには虚無と絶望と刹那(セツナ)的享楽主義と拝金主義だけが横行している。精神異常、殺人と自殺、暴力、非行少年が激増し、無知と頽廃(タイハイ)が人間の心をむしばんでいる。人間の能力は、生産と建設よりもむしろ浪費と破壊にむけられている。いまや資本主義の道徳的失格が、帝国主義諸国に共通する現象としてあまりにもあきらかとなっている。
だが、資本主義の抑圧と病苦に抗して、力づよく歴史をおしすすめる力が育っている。労働者階級である。労働者階級は資本主義社会において生産をになう階級であるばかりでなく、資本主義をくつがえして社会主義社会をつくりだす階級である。
資本主義的蓄積の一般的法則は、労働者階級にたいしては「窮乏化法則」として作用し、そのためにそれは労働者階級の階級意識をきたえ、その組織的結集を促進している。
高度に発展した資本主義国の労働者階級は、その団結の力によって、帝国主義ブルジョアジーと戦争狂人の戦争政策に抗し、民主主義の拡大と大衆生活の向上と社会的進歩をめざしてたたかっている。
このたたかいにおいて、労働者階級は、ただみずからの利益ばかりでなく、農民、小市民、知識階層、その他一般勤労者の利益を代表している。労働者階級の周囲には、すべての反独占の勤労国民が結集しつつある。
社会主義世界体制と、帝国主義諸国における労働者階級の力と、アジア、アフリカ、ラテン・アメリカをおおう民族独立運動の力とが、しっかりと結合されるならば、アメリカを主導力とする帝国主義ブルジョアジーの戦争政策をおさえて世界平和を確立し、一国また一国と帝国主義の鎖をたちきり社会主義革命と真の民族独立革命をなしとげることができる。現在の世界情勢は、このことを目を射るようにあきらかにしている。
われわれは、資本主義の基本的矛盾を戦争によって解決しようとする帝国主義ブルジョアジーに反対し、これを社会主義革命によって、究極的に解決することをめざす。この道によってのみ、人類は恒久平和と自由とかがやかしい文化の時代をきずきあげることができる。