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審議経過とこれからの課題
 
                               社会主義理論委員会事務局長 勝間田 清一
 

一、社会主義理論委員会の任務と課題
 
  社会主義理論委員会(以下「理論委員会」と略称)は、第二十一回党大会(昭和三十七年一月)の決定にもとづき、中央執行委員会直属の機関として設置された。
  理論委員会の任務については、委員会設置を提案した大会代議員の飛鳥田一雄氏の提案理由説明に明らかであるように、第一は、党綱領制定当時とは著しく異なった現段階の情勢のもとで「わが国における社会主義革命の平和的実現を保障するすべての重要事項を理論的に明らかにし、もって現在の党綱領を発展させる」こと、第二は、これらの重要事項について全党的な大衆討議を組織し、意見を集約し、もって「全党員の理論水準を引き上げ、思想統一の促進を行なう」ことである。
 
  右の二つの任務を達成するため、理論委員会は左記のような構成で出発した。
 
  (社会主義理論委員会の構成)
 
  委員長  鈴木茂三郎
 
  事務局長 勝間田 清一
 
  委員  飛鳥田 一雄・石橋 政嗣・岡田 宗司
       大矢 正・北山 愛郎・木村 ネ喜八郎(ネ喜は一字−サイト管理者)
       久保田 豊・河野 密・佐多 忠隆 
       多賀谷 真稔・田中 稔男・高田 富之
       坪野 米男・戸叶 武・成田 知巳
       武藤 山治・村山 喜一・中嶋 英夫
       堀 昌雄・横山 利秋
 
 事務局 木原 実・貴島 正道・藤牧 新平
      高沢 寅男・横山 泰治
 
  理論委員会は、まず科学的な現状認識から出発することとし、(1)日本資本主義の現段階 (2)階層分化 (3)彼我の勢力関係 (4)世界の動向等を柱として、党内外の学者研究者、専門家の協力を得ながら、熱心な意見の交換、討議を重ねた。三十八年の統一地方選挙や衆議院選挙のため、作業期間にかなりの空白があったが、一年余の作業の蓄積のうえにとりあえず現状分析に関する中間報告をとりまとめ、第二十三回党大会(三九年二月)に提出して承認を得た。これが理論委員会報告第一部にあたる。
 
  次いで党の運動論、実践論に関する報告を「日本における社会主義への道」として集約し、第二十四回党大会(三九年一二月)に提出した。これについては、党大会で多くの論議がなされ、なお修正補強すべきことを条件として承認された。理論委員会としては、党大会における質疑討論およびその後のブロック党学校、各級学習会その他さまざまの機会における意見をひろく参考として若干の修正補強をおこない、第二十七回党大会(四十一年一月)に提出して承認された。これが理論委員会報告第二部にあたる。
 
  しかしながら、最近にいたって党の内外から、一九七〇年問題等を含む今後数年間のわが国の諸情勢の展望とそれにもとづく社会党政権樹立の戦略戦術を明らかにすべきであるとの要望がつよく聞かれるようになったので、理論委員会としてはこれを受けることとし、昭和四十一年の新しい作業としてこうした情勢の動向展望と主体的条件の再検討を通じて社会党政権を積極的に闘いとる当面の政治路線を解明することに着手したのである。
  またこうした作業とともに、報告第一部の中間報告についても、その後の情勢の変化発展に応じて修正および追加の作業をおこなう予定である。
 
  なお、四十一年の作業開始にあたり、委員および事務局員を左のように追加した。
   (委員追加)
   川崎寛治、藤田高敏、八木昇、吉村吉雄、貴島正道
   (事務局員追加)
   堀米正道
 
 二、討議経過の概要−第二十四回党大会まで
 
@報告第一部について
 いうまでもなく、理論委員会が設置されたのは、いわゆる構造改革論をめぐる論争を契機として、平和革命理論再検討の機運が党内にたかまってきた情勢のもとにおいてであった。したがって、理論委員会の一般的任務は前述のとおりであるが、その中での一つの課題が、構造改革論争に一定の解明を与えることにあったことも否定できない。
  この観点からみて、第一部に関する討議の核心は、第一に、国家独占資本主義を新しい段階、新しい生産関係とみるか否かということであり、第二は、公共的機能を本来の階級抑圧機能と同時並行的な国家機能とみなすか否かということであった。討議の結果、国家独占資本主義の認識については、これを資本主義の新しい生産関係とはみなさず、国家が資本の再生産過程に介入する特殊にして高度な独占資本主義形態と規定することに意見は一致した。また国家については、階級対立を内包した社会を基礎として、その社会のうえにそそり立つ公権力であり、こうした公権力として、強権的機能と社会的機能を通じ、被支配階級をも含めた社会の全構成員を階級支配の秩序に服せしめる役割を果すものとした。
 
 全体としてみた場合、基本的な見解の対立が鋭く表面化することはなかった。これは、具体的討議を通じて思想の統一点を確認してゆくという理論委員会の作業方法にもよるが、根本的には、構造改革論をめぐる論争が、現状を階級支配の状況として認識するかどうかという世界観の相異ではなく、階級支配のありかたやこれにもとづく変革の方法に関する認識の相異にあったからである。
 
A報告第二部について
 第二部「日本における社会主義への道」は、第一部現状分析を基礎として作成された。ここでの討議の核心は、社会主義への平和的移行の条件に関するものであり、とくに現憲法と革命の全過程との関係、日常的改良から権力奪取の革命への質的転化の問題等が論議され、これらの意見を集約して第二十四回党大会に提出する報告がまとめられた。
 
 三、第二十四回党大会の論議
 理論委員会報告第二部は、第二十四回党大会政策小委員会において審議された。この内容は、政策小委員長の吉村吉雄氏の小委員会報告に明らかである。これを要約すれば次のとおりである。
 
  (小委員会報告の要旨)
@ 資本主義の基本法則、基本矛盾について本質的な変化はない。しかし、その具体的あらわれ方の変化については注目する必要がある、という点につき意見の一致と確認をみた。
 
A 国家独占資本主義のもとで、資本主義は超階級的な生産関係に変質したというような見解は誤りであることについて、意見の一致をみた。
 
B 資本主義の矛盾にたいする闘いのなかで革命の主体的条件が成熟し、資本主義の矛盾の発展のなかで不可避的に資本主義の特殊な体制的危機が醸成され、この二つの条件が結合されたなかで革命の情勢が生れる、という点で意見が一致した。
 
C 日本で労働者階級が国家権力を掌握した場合、プロレタリアによる階級支配が行なわれるのは当然であるが、より民主的な方法が保障されることも明らかである。しかし、報告原案にある社会主義的民主主義とプロレタリア独裁の関係は誤解を招く点があるので、表現を改めることで意見が一致した。
 
D 日本における社会主義革前と現行憲法との関係について、代議員から、現憲法を過大に評価したりあるいは現憲法万能論におちいっているのではないかと意見があり、これにたいしては執行部より現憲法は資本主義憲法であるが、多くの民主的条項を含んでいるので平和革命の立場からこれを高く評価しているとの見解が表明された。
 
E 社会主義革命の移行過程、移行形態について、代議員より民主主義闘争の徹底遂行自体が社会主義闘争へ発展するという考え、また過渡的政権から社会主義政権に移行する過程は、相当長時間に漸次的に行なわれると述べられているのは、なし崩し革命論ではないか、との批判があり、過渡的政権は反動の攻撃に対抗してできるだけ短時間に国家の全権力をふるって走り抜けるものと理解すべきである、との意見が主張された。これにたいし執行部より、これらの主張に大筋として賛成する、誤解を招く部分は検討して修正するとの意見が表明された。
 
F 反独占国民戦線の規定が一般的、抽象的なので、今後、内容や形態等について具体的な検討を深めるということで意見の一致をみた。
 
G 多中心化傾向について、代議員より資本主義陣営の分裂傾向と社会主義陣営の内部論争とは質的に異なる点をさらに明確にし、社会主義陣営内の論争や政治、経済上の諸問題の解明や新らしいプロレタリア国際主義の団結のための方向を明らかにして貰いたいとの要望があり、執行部から今後検討をすすめるとの意向表明がなされた。
 
H 国連による安全保障と国連の警察機能について、代議員より現在の国連警察軍へ自衛隊を供出しようとしている自民党等反動勢力に悪用されぬようにすべきだとの要望があり、執行部からその点を考慮する旨の意向表明がされた。
 
I その他、基幹産業公有化の構想、中小企業の将来のありかた、革新首長の位置づけ、労組党員協議会の任務等、具体的な多くの問題について、貴重な意見や要望がだされた。これらにたいし執行部より、理論委員会はじめ党の各級機関でそれぞれ検討し処理するとの意見が表明されたな。
 
J 最後に構造改革論の総括質問で、国家独占資本主義は新しい生産関係であるとの議論、過渡的政権が漸次的に社会主義政権へつながるこの考えかたが否定され、また反独占構造改革の名のもとにアメリカ帝国主義との闘いの任務を放棄することが誤りとして否定されたのであるから、構造改革論は理論的にも実践的にも破たんしたことを明らかにすべきとの主張がなされた。これにたいし執行部はわが党の中で構造改革を支持する議論には、そうした立場をとる者は一人もなかった。理論委員会では全委員が一致して討議し、日本の現実を理論的・客観的に分析し、日本における平和革命による社会主義への道を明らかにすることに全力をつくしたので、各種の意見はこの報告のなかに発展的に解消している。したがって理論委員会報告は、党綱領の平和革命の規定を受けてこれを具体化したものであり、今後のわが党のあらゆる実践はこれを基準とすべきである、これこそわが党の統一と団結の道であるとの見解が表明された。なお構造改革を主張する一部学者の中で、国家独占資本主義を新しい生産関系の段階とみて国家の性格が公共的な性格に変質したとする見解をもっている者があるが、理論委員会としては、これに賛成できないとの見解が明らかにされた。こうして、第二十四回党大会は、右の政策小委員長報告を承認し、今後の修正補強を条件として理論委員会報告を承認した。
 
 四、ブロック党学校討議の集約
 
  第二十四回党大会後、理論委員会は教宣局主催のもとに、学者の協力を得て、四十年三月から四月にかけ、北海道、東北、北陸、関東、東海、近畿、中国、四国、北九州の九ブロックの党学校で、理論委員会報告の趣旨を党活動家に普及浸透すると同時に、この報告にたいする党活動家の疑問、意見を吸いあげる活動をおこなった。この活動のなかで出た意見は、ほぼ党大会で出された意見と共通しているが、そのうち前述の政策小委員長報告の要旨に漏れているものを上げると次のとおりである。
 
  (ブロック党学校討議の集約)
@ 社会主義の未来図はあるが、現在の時点とこの未来図をつなぐものがない。また、社会主義政権下の未来図と過渡的政権下の政策構想が混在している。
 
A 基幹産業の社会主義的公有化をすべて有償とするのはおかしい。有償か無償かは時の情勢によるのではないか。
 
B 国際情勢の有利さは平和革命の可能性の条件であるが、たとえばベトナムや朝鮮からアメリカが追い出されるというような国際情勢の有利な発展が、日本やアメリカの反動化を促進することを警戒すべきである。
 
C 社会党政権が安保廃棄などの政策をすすめるとき、アメリカが日本に対して経済断交するなどによって日本経済に混乱が起らぬかどうか、そうした点を明確にしてもらいたい。
 
D 議会制民主主義を守り拡充するのは平和革命の基本である。しかし、社会主義革命の過程で具体的に議会はどういう機能をはたすのか。また社会主義政権のもとで議会が社会主義権力の最高機関としての機能をはたす場合、議会は果して今のままの形態をとるものかどうか。
 
E 原潜などの問題が起った場合の闘争はともかく、問題のない時の日常活動のあり方を示すべきだ。また党の任務、党員の任務をもっと強い比重でうち出してほしい。
 
F 党綱領にある「労働者階級を中核に」という考え方は現実の党活動ではどうあらわれるのか。党が労働運動を本当に指導する体制はどうしたらできるのか。労働者の階級意識を高めるための働きかけは、物とり経済闘争よりももっと重要だということを強調してもらいたい。また、労組幹部の官僚主義を党としてきびしく批判すべきだ。反合理化長期抵抗路線を平和革命方針のなかに戦略的に位置づけるべきだ。
 
G 農民運動の情勢分析と方針をもっと掘り下げてもらいたい。
 
H 中小企業の経営者と労働者の矛盾を党はどういうふうに指導解決するか。また中小企業者を党のまわりに組織化することには、世話役活動が重要であるが、党は弁護士や計理士などをそろえる体制をとれ。
 
I 地方自治体の首長をとることの意義を明確にせよ。
 
J 婦人が憲法擁護ではたす役割りの大きさを評価せよ。また婦人党員、婦人活動家をどう発掘し、ふやすかを示せ。
 
K 青年運動の中核をどこにおくか。青年の心をつかむ指導を出してもらいたい。また各種サークル活動の指導を強化せよ。
 
  このブロック党学校の討議ならびに各級学習会の意見を参考にしつつ、理論委員会は今後の作業方向として、第一に、理論委報告は平和革命路線の一般的土台をすえたものであるから、この土台の上にたって、今後五年なり十年なりの内外情勢の激しい推移の展望と、それに対処する党の具体的な長期プログラムを早急につくり、そのなかで反独占国民戦線の形成や社会党政権樹なの方針をさらにより明確にする。そして毎年の運動方針でこの長期運動プログラムのどれだけが実践できたか、どれだけができなかったかを継続性と一貫性をもって点検できる体制を作りたい。第二に、政策審議会の長期政治経済計画で、社会党政権から社会社義政権にいたる段階的政策の位置づけと展望をさらに明らかにできるようにしたい。第三に、党組織および党員の任務、党基本組織の関係等については、組織綱領委員会の作成する組織綱領のなかで明らかにしていきたい、等の構想を明らかにした。
 
 五、第二十七回党大会における補強修正
 
  理論委員会は、第二十四回党大会およびそれ以後の各種討議の意見をもとにして、第二部修正案を作成し、第二十七回党大会に提出して承認を得た。
  修正補強の主たる点は次のとおりである。
 
@ プロレタリア独裁と社会主義的民主主義の関係について
 第一章の二、社会主義の原則と基本目標Aの(イ)
  日本における社会主義建設のための階級支配は、武力革命をおこなったソ連や中国と異なるが、それはプロレタリア独裁の本質における相異ではなく機能のあらわれ、形態の相異であることを明確にした。
 
A 憲法と社会主義革命の関連について
 第一章の二、Aの(ロ)
  第二章の一、(1)の(ロ)(ニ)(ホ)
  現憲法は私有財産権の制限その他多くの民主的諸規定を含んでおり、われわれは、それを社会主義への平和的移行の大きな条件として評価することができる。しかし、社会主義への変革の一定段階で社会経済体制が現憲法のワクを破って発展してゆくことは必然である。したがって、現憲法は権力を掌握して変革を完遂する全過程において社会の規範たることはできない。そこで革命の「合憲的」移行というようなまぎらわしい語は削除し、現憲法と社会主義革命の関係を明らかにした。
 
B 過渡的政権の考えかたについて
 第二章の三、(5)(6)
  過渡的政権としての社会党政権が社会主義政権に移行する仕方について、はじめから長期間を要する漸次的移行を考えるのは好ましくない。事実過程としてかりにそうなるとしても、われわれの側の革命理論としては、反動との対決のなかで不退転の決意をもってできるだけすみやかに社会主義政権を樹包するため全力をつくすことが必要である。
  こうした観点から、過渡的政権を社会主義政権に転化せしめる主体的姿勢を明らかにした。
 
C 中小企業の反独占闘争と労使関係について
 第四章の二、(3)
  反独占の闘いに広汎な国民諸階層を結集するにあたって、われわれは、中小企業のおかれる二重的性格すなわち独占による中小企業の収奪と中小企業による労働者の搾取という二重の側面を把握し、この把握のうえにわれわれの運動をすすめる必要があるとの観点から、考えかたを整理した。
 
D 社会主義インターとの関係
  第五章の五、(2) 
  社会主義インターについては、一方においてその修正資本主義や改良主義の傾向を批判しつつ、同時に世界の社会主義運動における現実の役割を重視し、これと連けいしてゆくことを明らかにした。
  われわれの立場は、今日の世界情勢のもとで強弱の差はあれ、社会民主主義諸党、共産主義諸党とできるだけ広い範囲の社会主義的連帯をかちとってゆくことである。

 
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