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第五章 外交路線と国際連帯
 
一 第二次大戦後の新たな動向
 
   (1) 帝国主義の後退と平和共存の動向
  現代は、資本主義から社会主義への移行の時代である。
  一九一七年のロシア革命いらい、半世紀も経ないうちに、社会主義の体制は早くも地球の三分の一以上をおおい、社会主義をめざす勢力は日増しに大きくなりつつある。
  帝国主義列強がお互いに覇権を競い合い、後進国諸国や諸民族を圧迫し収奪して領土の分割、再分割に血道をあげた時代は、弔鐘をもって送られつつある。資本主義の最高段階としての帝国主義は、こんにちでは、社会社義陣営の興隆の前に圧倒されているばかりでなく、アジア・アリリカ等後進地域の人民的自覚と民族独立の機運の嵐のような高揚および自らの内部における労働者階級、進歩的勢力の増大によって、その足もとを大きく揺ぶられている。
 
  第二次大戦後の資本主義と社会主義の力関係の、こうしたいちじるしい変化と核兵器の発達を背景として、体制の相異をこえた平和共存を志向する動きが漸次拡大しつつあり、軍縮と平和への世界の世論が次第にたかまっていることも最近の注目すべき特色である。このことはまた、帝国主義の侵略的本性に大きな打撃をあたえている。いまや、帝国主義は後退し、孤立化しつつあり、これに反して、平和を目ざす社会主義の勢力と影響力は、諸国民のあいだに燎原の火のようにひろがっている。社会主義体制の拡大、諸国の労働者階級その他進歩勢力の力量の増大、民族独立運動の発展とその結果としての帝国主義の後退と平和共存の動向は、第二次大戦後の国際関係を規定する新しい特徴である。
 
   (2) 新植民地主義
  だが、アメリカを先頭とする帝国主義諸国の支配階級は、唯々諾々としてその植民地や利権を放棄しているのではない。彼らは武力紛争に訴えても自己の支配権を維持しようと執ように努力し、植民地従属諸国の民族的命運を賭けた闘争や国際世論のたかまりの前に一方で独立の容認等形式上の譲歩をおこないながら、地方、実質七の支配権、利権を少しでも多く残そうとあらゆる手段に訴えている。こうした帝国主義勢力のあがきは、戦争誘発の危険性をもっており、とくにアジアにおいては、アメリカの反共戦略をテコとする諸国への政治的軍事的介入によって局地戦争が誘発され、アジア諸国民の生命と安全を脅やかしている。したがって、こうした戦争の危険をなくし恒久平和を実現するためには、何よりもまず平和五原則(領土主権の尊重、相互不可侵、内政不干渉、平等互恵、平和共存)にもとづいて帝国主義、新旧植民地主義による一切の侵略を排除しなければならない。
 
   (3) 多中心化傾向
  反帝、反植民地主義、平和共存への動きは、大国主義への批判、主権の尊重要求の動向と結びついている。第二次大戦後、卓越した経済力によって資本主義諸国の指導的地位にあったアメリカの立場は、ヨーロッパ諸国や日本等の資本主義発展にともなって相対的に低下し、これら諸国相互の矛盾が激化しつつある。これは、資本主義の不均等発展にもとずく必然のなりゆきであるが、他方、社会主義陣営内部でも従来のソ連中心主義の体制は、各国の主権尊重を前提とする対等の協力体制にとって代わられつつある。米・ソに代表される両陣営の対立の構造は、いまや、多極化と分解の方向をたどり、両陣営内諸国の個別的相互交流傾向を強めている。こうしたなかにあって、アジア、アフリカ新興諸国は、国連を通じてその発言権をたかめつつあり、互恵平等の立場で先進諸国が経済援助を強化拡大することを要求している。大国の利益にもとずく一方的な支配は次第に影をひそめ、諸国家がそれぞれ対等の立場にたつ平和的協議の動きがひろまっている。
  われわれは、このように変化し発展する国際情勢に適確に対処し、日本と世界の恒久平和と繁栄、社会主義の建設、民族独立への支援のため、あらゆる機会を利用し、外交と国際連帯を促進しなければならない。
 
 二 日本支配階級の対外路線
 
  客観的にみて、国際情勢の動向は、われわれに有利に展開している。われわれの闘いは、社会主義諸国およびその他諸国の労働者階級、平和と民主主義の勢力の力強い支持のもとに進められるであろう。
  だが、こうした平和と社会主義を目ざすわれわれの闘いは、支配階級の意図と鋭く対立する。日本の支配階級は、こんにち両体制の力関係の変化、帝国主義諸国家間の矛盾の深まり、後進諸国の国際的発言力の拡大等の情勢のもとで、大きく動揺しつつも、OECD(経済協力開発機構)加盟に見られるように帝国主義陣営の一員としての地歩を一そう固め、とくにアジアにおいては日米安保条約に依拠する帝国主義の重要拠点として、独自の経済勢力圏をつくることに心を燃やしている。
 
  彼らは、この野望のために、帝国主義同盟内部における日本の相対的独自性をたかめ、あらゆる機会をとらえて帝国主義的自立の基盤を培おうとしている。たとえば、憲法を改悪して自衛隊を正規の国防軍に改編し、国内民主主義諸権利の制限と支配体制の強化を意図しているのもこのためであり、アメリカの牽制にもかかわらず日中、日ソ貿易の拡大を図り独占資本の市場確保に躍起となっているのもこのためである。
 
  だが、日本の支配階級のあゆむ道は矛盾撞着にみちみちている。彼らは、一方で日米安保体制を強化し、日韓条約を強行し、南ベトナムに積極援助する等、アジアの反共軍事機構の強化につとめながら、他方、中ソとの経済的文化的交流をはかっているが、アジアにおける日本の孤立化を招き、アジア人民との敵対関係を生みだすとともに、国内における労働者階級の平和の闘いを一そう鋭いものとしている。しかも、社会主義諸国との文化的、思想的交流は、おのずから、わが国の労働者階級および勤労諸階層の生活と権利にたいする自覚をたかめ、そのための闘いを一そう高揚させることになる。彼らは、これらの矛盾を国内政治反動の強化によってきり抜けようとしているが、この反動化は追いつめられた者の弱さを示している。われわれは、日本独占資本との対決のなかでこの動揺を利用し、われわれの目ざす平和と社会主義の方向に一歩でも近づけるよう粘り強く闘わねばならない。すなわち、外交自主性の拡大、社会主義諸国との交流の拡大等いわゆる前むきの政策については積極的に促進するとともに、自衛隊の増強その他アジアの平和実現に逆行する一切の政策については徹底的に反対し、あくまでこれを阻止しなければならない。とくに、われわれが日本の国土に社会主義を建設するためのもっとも重要な対外的条件は、日米安保体制の打破である。この鎖を断ち切って日本が反共戦略機構から離脱し、非同盟中立の旗手として積極的な平和への努力を開始するとき、それは、社会主義建設に向かっての本格的前進の合図となるであろう。
 
 三 積極中立の意義
 
  こんにち、われわれは、東西両陣営の紛争にまきこまれず、その対立を緩和し、平和共存の体制を強めるため、非同盟・非武装の平和中立地帯を設定し、拡大し、もって日本と世界の平和に寄与することを念願している。
  もともと中立とは、戦争の惨禍から自国を守るための消極的な外交政策を意味した。それは帝国主義列国の弱肉強食の谷間にわずかな安全地帯を求めることであった。それすらも列強の利益の前にしばしばじゅうりんされた。
 
  だが、第二次大戦後の新しい諸条件のもとで、諸国家間の関係に大きな変化が生じた。とくに一九五〇年代後半以降、アジア・アフリカ諸国が中国、インドの発意のもとに平和五原則を宣言し、また、ソ連の核装備、ミサイル技術の発達により両陣営の軍事的力量が均衡してきたことを背景として、平和共存の路線が高らかに打ちだされてくるようになるや、中立の外交路線は、きわめて積極的な意義をおびるに至った。
  すなわち、中立は、単なる自己防衛のための保身術から転じて、もっと積極的に、平和を脅かす根源を除去する闘いそのものとなったのである。
 
  わが国の現実のもとでは、積極中立の当面せる課題は、何よりもまず日米安保条約を廃棄して、軍事基地を日本本土や沖縄から撤退させ、自衛隊を国民警察隊および平和国土建設隊に改編するとともに、アジア、太平洋地域の非核武装地帯の設定を目ざすことである。この非核武装地帯の設定は、核兵器の拡散防止の実現を目的とするものであるが、さらに進んで、アジア、太平洋地域から、両陣営の接触するアジア、中近東、ヨーロッパの全地域におしひろげ、いずれの陣営を問わず軍事同盟機構を廃止し軍事基地を撤去する等一切の軍事的脅威を除去することによって、これを非同盟中立の一大ベルトたらしめることが望ましい。
 
  そして部分核停条約をさらに発展させて、核兵器の全面廃止を通じ、完全軍縮の条件を強化し、主権国家の相互不可侵の原則を国際的威信のもとに確立すべきである。
  平和共存の理念の浸透とともに、こうした方向を目ざす勢力は年を追って拡大しつつある。
 
  われわれは、非同盟平和の勢力を広汎に結集して、危険な戦争の原因を除去し、日本と世界の平和の体制をつくるために闘う。
  われわれがこの闘いに勝って日米安保条約を廃棄し、日本が、高度の工業力をもつ国として平和の体制を築くための正しいイニシアチブを発揮するならば、それはアジアと日本だけにとどまらず、世界の諸国民に対する偉大な貢献となるであろう。そしてまた、このことは、第二次大戦の侵略戦争の苦い反省のもとに非武装平和の憲法をもち、世界人類の恒久平和を念願するわれわれの、アジアおよび世界の諸国民にたいする責任でもある。われわれの積極中立の意義は、ここにある。
 
 四 安全保障への道
 
  米ソを軸とする両体制の冷戦構造に対応する軍事同盟機構は、こんにちでは安全保障の機能どころか、むしろ戦争への導火線たる役割をもつに至っている。反共軍事同盟機構の包囲網に相対して、社会主義陣営の方でも各国間の軍事同盟が結ばれ、両者がにらみ合っている現状は、平和共存の理念となお程遠い。
  日本の支配階級は、日米安保条約に依拠しつつ、アジアにおける覇権を確保することに意欲を示し、みずからの帝国主義的発言力を強めるため、憲法第九条をまっ殺して強力な軍隊をつくりあげようとしている。だが、これは、戦争への道であり、日本のとるべき道ではない。
 
  日本の安全保障を実現する道は、何よりもまず反戦平和の憲法第九条にのっとり、日本自身が内外に平和中立を宣言し、日米安保条約を廃棄して軍事基地を撤去させ、自衛隊の改編を実現し、アジア非核武装ベルトの設定、核兵器の全面廃止、完全軍縮等の提唱をおこなって積極的に国際平和の機運をつくりだしてゆくことである。こうした基本方向のもとでなお考えられる外交的手段としては、さしあたり、日米安保条約と中ソ友好同盟相互援助条約の当事者たる日、米、中、ソの四国が個別的または集団的に相互不可侵のとり決めをおこなうか、もしくは従来の同盟機構を廃棄して新たな四国安全保障機構を結成するかのいずれかである。前者の場合でも、日米安保条約を形がい化せしめ廃棄を促進することによってアジアと日本の平和と安全に大きく寄与し得る。それはまた、完全軍縮と国際紛争の平和処理にとって画期的な意義をもつであろう。
 
  将来の展望としては、各国の安全保障を、あげて国連の手にゆだねることがもっとも望ましい。国連が、加盟各国の主権の大きな部分を分け持つ新たな国際的権威として確立したあかつきには、公正な国際紛争処理機関として強力な警察機能(国連警察軍)をもたせるべきであろう。それは、世界の恒久平和を念願して自らは非武装たることを宣言する日本国憲法にとっては、本来、不可分の前提である。
  現実の国連は、まだそのような公正な機能を果すに足るレベルとはかけ離れているが、社会主義陣営諸国の勢力の増大、新興のアジア・アフリカ諸国の発言権の増大によって、国連の機能と運営の性格は次第に変化しつつあり、その変化は中国の正当な地位の回復とその他未加盟国の参加によって一そう大きなものとなるであろう。積極中立の路線を踏まえて、より高い次元の、人類的平和を目ざすわれわれとしては、さしあたり、中国の国連加盟を促進し、国連の機能を帝国主義の陣営に片寄らない公正な平和推進の方向に変えてゆくことを目ざす。
 
 五 国際連帯
 
 (1) われわれは、日本において平和な社会主義の社会を建設することを念願している。
   われわれが果そうとしているこの歴史的任務は、いうまでもなく、日本の歴史的、社会的条件に即して遂行されねばならないものである。そして、われわれが日本国内において独占資本の支配体制打破につとめ、日米安保条約の廃棄と積極中立の実現に全力をあげていることは、諸国の平和と社会主義の勢力を鼓舞しているであろうし、逆に、世界の社会主義陣営の拡大、資本主義諸国の労働者階級の闘いの強化、後進地域の民族解放運動の高揚等の動きはわれわれの闘いの大きな支えとなっている。諸国の人民が、それぞれの国の条件に応じて革命の任務を遂行し、進歩した社会の建設につとめることは、平和と社会主義のための国際連帯の基礎である。
  この観点に立って、われわれは、日本国民の平和と安全の確保ならびに日本の国土における社会主義社会建設の任務遂行を第一義的な課題とし、このために諸国の勢力と提携することを、われわれの国際連帯の基本とする。
 
 (2) われわれは、まず高度に発達した資本主義国における社会主義 諸政党と経験を交流し、相互の連携を強めていく。
  社会主義インターの中には、修正資本主義や改良主義の立場に立っているものがあるが、現実に最大かつ有力である多くの労働者階級の政党が加盟しており、世界の社会主義運動において重要な役割を果していることを重視し、これと連けいしてゆく。同時に社会主義インターにおいて、反独占の闘争、反帝国主義、反新旧植民地主義の闘争を推進し、アジア、アフリカ等の平和と独立の繁栄の要求を反映させる。
 
 (3) われわれは、アジアと世界の平和を大きく前進させるため、日 本の積極中立実現を切願している。このため、インド、ユーゴ、アラブ連合等非同盟による緊張の緩和と平和への寄与を願う一切の勢力と積極的に提携し協力してゆく。このために非同盟諸国会議を支持する。
 
 (4) ソ連、中国、東欧等社会主義諸国は、こんにち世界の平和と社会的進歩の運動の大きな砦となっているだけでなく、社会主義の政治経済体制を建設しているという点で、その革命方式や建設の具体的条件はそれぞれ異なるが、われわれにとってはきわめて貴重な教訓を提供している。われわれは、平和と社会主義の勢力として平和五原則の精神にのっとりつつ十分な連携を保ってゆく。
 
  社会主義諸国との関係においては当面、経済文化交流を拡大してゆくことが重要である。日本においてわれわれが社会主義を達成するためには、積極中立の努力とともに、とくに経済的自主性が強化されねばならない。アメリカ依存に偏した現在の対外経済関係は、単に日本経済を不安定な基礎のうえに置いているだけでなく、われわれの政権が変革の歩を踏みだしたとき比政治的干渉のテコとして有効に使われる危険性がある。対米依存を是正し、ソ連、中国等社会主義諸国との貿易を拡大し、経済的結びつきを強めてゆくことは、第一に、わが国の積極中立、自主外交の基礎を固めることであり、第二に、それによって社会主義諸国の国内建設に協力しその力を強めることを意味する。
  これは、いずれもわれわれの社会主義を有利にすすめるための条件を切り開くものである。
 
 (5) アジア、アフリカ等における民族の解放と独立の運動は、安保体制打破を闘っているわれわれの運動と、帝国主義の侵略性に反対する点で共通である。われわれは、アジア・アフリカ諸民族の独立闘争を全面的に支持するとともに、新興独立諸国の社会主義的発展に協力する。したがってわれわれはA・A会議を支持する。あらゆる植民地政策に反対し、アジア各地に兵員、武器弾薬を補給している日本の軍事基地を撤退させる。アジアの人民に流血を強いる反共戦略機構維持のため、日本を経由しておこなわれる一切の措置に反対し、これを阻止する。
 
  また、これら諸国にたいする先進諸国の個別的なヒモつき援助に反対する。特定国の野心や利益のための援助が被援助国の真の経済安定をもたらさないことは明らかであり、後進諸国の経済的不安定は、単にその国の人民の生活条件の改善に役立たないばかりでなく、世界の平和を撹乱する要因ともなる。
  アジア、アフリカ等後進諸国の発展を心から願うならば、こうした援助方式は好ましくない。援助は、互恵平等、相互尊重の立場に立って、これら諸国の真の独立と人民の生活向上に貢献することを目的としておこなわれるべきである。望ましい方向は、先進諸国がその経済的力量に応じた援助資金を国連の管理機関にプールし、完全軍縮達成への努力と相まって、世界全体の平和的発展の視野に立ち、公正かつ有効に援助計画を実施することである。
  このような方向で真に国際連帯の強化がはかられるならば、それは、人類の平和と社会的進歩の歴史にとって新しい一頁をひらくことになるであろう。

 
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