前の頁へ 次の頁へ
 
第二章 平和革命の条件と移行の過程
 

一 平和革命の条件
 
  今日、世界の先進資本主義諸国では武力闘争によらずに権力をかちとり、平和的に社会主義に移行することが可能となっている。すなわち武装蜂起や内乱に訴えることなく、議会と大衆闘争による民主主義的方法によって、国民の間に民主的多数派を結集して反動勢力を政治的に孤立させ、抑制し、反革命的な暴力の発動を阻止しつつ、権力の移動を実現し、社会主義の原則に基づいた社会の諸改造を行なうことが可能となっている。この平和革命の道はそれが望ましいばかりでなく、現代の革命においてもっとも有効かつ実現可能な道である。これに反して、過去において支配的であった暴力革命は客観的にその可能性を失いつつあり、今日においてこれをめざすことはかえって革命を遠ざけるものである。このことは資本主義が高度に発達し、民主主義の一定の定着をみているわが国ではとりわけあてはまる。
  わが国において、平和革命にとって有利な条件とみなされるのは、社会主義の平和体制の形成等世界的な力関係の根本的変化のほかにわが国における民主主義制度の発達とその意識の定着、社会主義のための物質的基礎の成熟、日本をめぐる国際環境、労働者階級の力量増大、社会主義指導政党たるわが党の強化、成長の展望等の諸条件があげられる。
 
(1)民主主義制度の発達とその意識の定着
 
 (イ) 戦後の日本においては民主主義的諸制度が戦前にくらべて飛躍的に発達しており、これが平和革命が提起されうる客観的な基礎条件をつくっている。なぜなら、民主主義的諸制度が保障されている限り、革命にむけての国民の意志結集、単に労働者階級の先進的部分の意志だけでなく、広範な国民諸階層の革命への意識形成と諸階層の運動の結集を実現するてだてが基本的に保障されているからである。
  もちろん、わが国における民主主義的諸制度は、戦後つづいた反動勢力の支配のなかでさまざまに形がい化され、空洞化され、今日では憲法の改悪すら企図されるに至っており、将来かれらがファシズムに走る危険すら皆無とはいえないにしても、同時に 国民の民主主義的意識と諸運動によって、その骨格は基本的に維持されており、反動勢力といえども、その権力の行使にあたってはすくなくとも民主主義的なよそおいをとらざるを得なくなっている。
 
 (ロ) 日本の憲法は、諸民主主義制度を法的に保障し、憲法を通ずる革命の平和的移行を可能にしている。憲法は天皇条項を残存させているとはいえ、「国会は国権の最高機関である」という規定を中心に実質的にはかなり徹底した民主主義憲法としての性格をそなえている。現実の国会は、この規定が実質をともなわず空洞化される傾向にあるが、この規定自体は、国会を国の最高の権力機関とする規定であり、行政権を規制する内容をもっている。したがって、国会は単に国民の政治的勢力分野を反映するだけのものではなく、また革命政党にとって単なるバクロの演壇の意味をもつものではなく、強力な大衆運動をともなうならば、ここを通ずる行政への監視と管理および国民にとって有利な立法活動は可能であり、それは法的に保障されている。また、国の最高の行政機関である内閣が典型的な議院内閣制をとっており、国会と国会のみの基礎をもつ政府が国家機構全体を支配する決定的な地位をしめている。こうして平和革命の主要なプロセスの一つである「議会を通ずる革命」は現行憲法の下でその道が開かれている。
 
 (ハ) 憲法によって規定されている地方自治制度は「議会を通ずる」革命が可能だということの重要な支えとなっている。現実には中央政府によって多くの制約を受け自治権が侵害されつつあるが、地方自治体に住民の意志が反映される可能性は十分にある。また地方自治体は、法律の範囲内であるが条例の制定権をもち、各種のリコール制度など直接民主主義の諸制度をとりいれており、ここを地域住民のための民主的改造や社会主義の前進にとって有力な闘いの場所とすることができる。
 
 (ニ) 憲法は、労働者の団結、交渉、罷業の権利を含む基本的人権の主要な諸条項をそなえており、労働組合をはじめさまざまな組織の存在とその活動の自由を保障している。戦後の労働運動は一面、この権利をめぐるはげしい闘争の歴史であったが、今後もその擁護と拡大のためにふだんに闘わなければならない。
  また、憲法が、私有財産制度についての一定の制限規定まで含んでいることは、憲法のワク内で独占資本の統制や公有化を実現する可能性が与えられていることを意味しており、階級闘争の結果如何によっては、現行憲法の下で反独占民主主義政策の実現はもちろん、社会主義移行の端緒を切り開く可能性を示している。
 
 (ホ) とりわけ現行憲法の前文と九条によって規定されている非武装、戦争放棄の規定は、今日までなし崩し的に進められている再軍備によって空文化されているが、しかしながらいまもって自衛隊を「日陰者」の地位におき、本格的な国軍の創設―暴力装置の中心―を許しておらず、独占ブルジョアジーの上部構造の最大の弱点となっている。またこの規定によって、現実に非核武装、中立、軍備撤廃を実現する可能性が保障されており平和革命の貴重な条件を提供している。
  現行憲法に盛り込まれた以上のような平和的民主主義的特徴は、この憲法を通ずる社会主義への平和的移行の可能性とその有利な条件を作り出している。もちろんこうした諸条件を現実のものとするためには、労働者階級を中核とし労農提携を中心とする国民諸階層の強力かつ持続的な大衆運動が欠くことのできないものであるということはいうまでもない。それだけに第四章で示すように、現在たたかわれている改憲阻止と憲法完全実施の闘争とともに、われわれの戦略の重要な基本になるのである。
 
 (ヘ) 民主主義意識の定着 以上に述べた民主的諸制度とともに、戦後二十年の大衆運動によって、国民の間には基本的人権や政治的自由に対する民主主義意識は相当程度に定着しつつあり、それがおかされる場合、国民はそれに抵抗する意志を基本的にもっている。また、教育水準の高いことも、国民の民主主義意識を支えるうえに役立っており、民主的諸制度の廃止は容易に行ない得ない。
  もちろんこの民主主義の定着には、同時に空洞化や大勢順応的な弱点をともなっているが、国民の間に拡がっている民主主義意識を基礎にして空洞化を克服し、民主主義の徹底と拡大をかちとることは十分に可能である。さらに形がい化されているとはいえ、国民の圧倒的多数は議会制民主主義を支持しており、このような国民の意識のなかでは、議会で多数を占めるという形式をふみ、民主的、平和的な方法による革命でない限り、国民大衆の支持は得られない。そればかりでなく、今日のように民主主義の一定の定着と議会制民主主義の長い伝統、教育文化水準の向上等によって政治に参加する大衆がふえ、大衆の発言力が著しく増大している社会では、同千万大衆の同意なくしては支配の維持はできなくなっている。したがって、平和革命の主要なプロセスの一つは、社会主義指導政党と労働者階級がいかにして広い国民層のあいだにその政治的権威を確立してその支持と同意をかちとり、民主的多数派を結集していけるかどうかにかかっており、しかもその道は基本的に開かれているといってよい。
 
  (2) 社会主義のための物的基礎の成熟
  日本の国家独占資本主義は、戦後二十年を経た今日、史上かつてない発展をとげている。国家は総資本の意志のもとに投資、生産、消費という再生産過程のあらゆるところに巨大な財政、公信用、管理通貨制度、国有国営企業等、膨大な国家的経済機能として介入し、それなしには日本の資本主義の存立そのものが考えられなくなっている。このような日本の国家独占資本主義は、国家独占資本主義一般にみられる二重の矛盾を生みだしており、それをますます強めている。その第一は、資本による支配と搾取が国家を媒介にして全社会をおおい、全国民が独占の収奪の対象となることによって強められている矛盾であり、それはひとにぎりの独占体と広汎な国民大衆との鋭い対立としてあらわれ、民主的多数派結集の物質的基礎を与えている。第二は、生産がますます社会化するにかかわらず、それが独占体によって私的に所有されていることから生れる矛盾であり、それは国家の介入によってますます激化しており、そこから生産の社会化に照応した所有の社会化、すなわち経済諸構造の社会主義改造の必要が客観的に切実なものとなっており、また国家機構を手がかりとする諸闘争の可能性を生んでいる。労働者階級と国民は、こうした矛盾をとらえ強力な大衆闘争を展開することにより、巨大な反独占国民戦線を形成しつつ、独占体に対する民主的進出と制限をかちとる可能性と必要性を増している。
  こうした資本主義の基本矛盾が最高度に発展している日本の国家独占資本主義は、それが社会主義革命の前夜であるという規定を文字通り現実のものとしており、このことが、わが国において社会主義革命が提起されねばならないし、また提起されうる根本的な条件をつくり出している。
 
  (3) 勤労大衆の力量の増大
 
 (イ) 日本の労働者階級はすでに国民の過半数を占めており、階級分化の進行にともない不断に量的に拡大している。これは日本における社会主義革命の基本的な力である。
 
 (ロ) しかしながら日本の労働者階級は、未だ組織的統一を実現しておらず、膨大な未組織労働者を残し、企業別組織によって企業意識を生み出し、さらに生活の相対的安定化による改良主義への傾斜や組合組織の拡大にともなう組合機関の官僚化等のさまざまな 弱点をもっている。これらの問題は、社会主義革命において労働者階級の果す役割が決定的に大きいだけに、解決をせまられる重要な課題である。
 
 (ハ) このような弱点を克服していないといえ、日本の労働者階級は資本主義諸国のなかでも高度な組織率を示し、組織化はますます進んでいる。その組織の多くは、同時に全国的な統一組織体に結集されており、さらに産業別組織、地域的な組織を発達させることによって、労働者階級の組織的力量を増大させている。さらにこれらの組織は世界的な労働者組織とつながりをもっており、プロレタリアートの国際連帯を強めている。
 
 (ニ) 日本の労働者階級は、日本独占の高度成長をささえる搾取率の異常な高さとアメリカの干渉による特殊な民族矛盾によって、その運動はきわめて戦闘的、急進的性格をおびざるを得なくなっている。戦後二十年の間、賃上げをはじめとする労働諸条件の向上のための諸闘争がふだんに発生しているばかりでなく、それはすぐれて政治的性格をおびてたたかわれている。また、平和、民主的諸権利、主権回復のための政治闘争における労働者階級の戦闘性は著しく高く、これらのことは、安保、三池闘争に集中的にあらわれている。
 
 (ホ) 農民運動は、農地改革の実施以来、その沈滞は久しいが、今日農民は生産、流通のあらゆる面で独占のあみの目でとらえられ、独占の搾取、収奪と対立せざるを得ない状態におかれている。さらに、今日のいちじるしい農業構造の変動の進行は、新たな農民運動の高揚の可能性を急速に増大させており、また広範な労農提携の条件を生み出している。したがって、わが党の積極的な指導によって農民が労働者と同じ立場にたち、社会主義的諸改造を受け入れ、あるいは積極的にそれを求める可能性を生み出している。
 
 (ヘ) 今日ホワイトカラーと呼ばれる技術者、公務員、事務職員、サービス部門の従業員は、一層増大している。独占資本はこれを新中間層としてとらえ、その増大を宣伝し、これを独占を支える重要な基盤にしようとしているが、いわゆるホワイトカラー層は、その形態がさまざまに異なるにもかかわらず、この本質は精神的労働者であって、これを労働者と対立する意昧での「中間層」としてはとらえられない。またぼつ落しつつある旧中間層は、自己の地位を上昇させる機会をほとんど失っており、むしろ半失業者の状態におかれている者が少くない。
  こうしてわが国における勤労諸階層が現実におかれている諸条件は、さまざまに反独占社会主義的諸改造を受け入れる要因を生み出しており、労働者階級と社会主義的指導政党の、適切かつ強力な働きかけによって、社会主義への広範かつ有力な同盟軍たり得る条件を基本的にそなえている。
 
 (ト) 日本における社会主義勢力の力量は、社会主義政党の強化発展となってあらわれている。
  わが党はさまざまな弱点をもっているとはいえ、世界の社会主義政党の中においてもぬきんでた戦闘性と指導性を発揮しており国会の三分の一の議席と千二百万の支持票を有している。また民社、共産両党はその指導的ィデオロギーのあやまりにもかかわらず勤労階層のあいだに一定の影響力をもっていることを考慮すれば、こうした社会主義勢力の力量は、先進資本主義国の中においても有数のものといってもけっして過言ではない。
 
  (4) 国際的条件
 (イ) 社会主義の世界体制の形成、植民地体制の崩かい、労働者階級・民主勢力の増大等世界的な力関係の変化、平和共存の体制、国連の平和的機能の強化等によって、今日では、武力干渉や経済封鎖等の反革命干渉を阻止する条件は高まっており、そのことがそれだけ革命の平和移行を容易にしている。まして今日では軍縮の展望もようやく開けつつあり、その進展が平和移行にとって有力な役割を果すことは明らかである。
 
 (ロ) わが国において、支配階級がアメリカ帝国主義との間に軍事同盟を結んでいることは、社会主義の実現にとって特殊に困難な条件を生んでいる。この意味で、安保廃棄の闘争は大衆闘争の中で重要な位置を占めるのであるが、今日の国際的な条件が、基本的にみて、アメリカによる公然たる干渉を未然に防止し得る方向へ発展していることは明らかである。また、こうした日米関係はさまざまな民族矛盾を生みだすことによって、日本国民に強い平和・中立の意識と闘争を呼びおこし、さらにこの日本国民の闘争をアジア諸国民が支持するという有利な条件も生み出している。
 
 (ハ) ソ連、中国等強力な社会主義国と隣接していることは、帝国主義の軍事干渉を困難にさせるという意味において、革命にとって有利な条件となっている。また経済問題の解決が移行過程の大きな課題になることを考えれば、これら社会主義国との密接な経済協力関係を結びうるという条件は革命にとって大きなプラスとなる。
 
 (ニ) アジアにおける最近の情勢は、ベトナム、ラオスにおいて挑発が行なわれ、戦争の危険が醸成されているが、しかしながら、アメリカを中心とする冷戦構造の動揺はおおいがたいものがあり、韓国、台湾、南ベトナムなどの冷戦国家の矛盾が深まり、アメリカ極東支配は相次いで打撃を受けている。このような情勢は帝国主義的支配の時代の後退を国民に認識させるとともに、国の中立化の必要と現実性を国民の前に明らかなものとしている。さらに今後、アジアの諸国がさまざまなテンポと形態で社会主義への傾斜を強めるだろうという展望は、社会主義日本の実現にとっていっそう有利な国際環境となることは疑い得ない。
 
 (5) 国民の反独占・社会主義意識の強化の必要性
  以上のような諸条件は、国民諸階層の間にふだんに反独占・社会主義のイデオロギーを生みだし、強めずにはおかない。もちろん客観的条件が直ちに意識に直結するものではないといわれるように、現実には国民諸階層の意識は容易に民主主義的、平和主義的次元をこえるものとはなっていない。しかもその民主主義的イデオロギーの定着でさえ、絶えざる独占イデオロギーの浸透によって空洞化状況を呈している。また経済の高度成長は、国民の消費水準を一定程度引き上げるなかで、大衆のあいだに現状肯定主義をうみ、変革を望まない傾向を生んでいることも否定しがたい。インテリゲンチャは意識の行動への転化をはばまれ、大衆の間にはいわゆる政治的無関心の現象も生まれている。
  これらは支配層の大衆操作を容易にさせ、革命勢力の結集をより困難にしている。このような問題を克服することなしには、先にあげた基本的に革命に有利な内外の諸条件も、社会主義への積極的主体的条件としては結実し得ない。それは、労働者階級を中核とし労農提携を中心とする広範な勤労諸階層の闘争と組識の発展強化とそれを指導するわが党の活動如何にかかっている。
 
前の頁へ 次の頁へ