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 二 社会主義の原則と基本目標
 
  われわれは、内外の客観的諸条件の成熟とその歴史的必然にしたがって、社会主義革命を遂行する。よって資本主義を変革すると同時にそのよき遺産をあまねく継承し、日本の歴史と土壌の上に日本の社会主義への道を追求するものである
 
 幸いにして、日本はかつてのロシアや中国とは違って高度に発達した生産力を持ち、したがって社会主義の物的基礎が確立しており、また民主主義も空洞化、反勧化の攻撃の中でも、勤労大衆の闘いにより相当程度に定着し、国民の教育程度は極めて高い。こうしたわが国においては、社会主義変革の条件がソ連や中国に比しはるかに有利であるのみならず、労働者を中心とする勤労大衆のエネルギーを正しく集中し、主体的条件が確立されるならば、民主的、平和的に、議会を通じて社会主義革命を遂行することが可能であり、また正当であると確信する。社会主義諸国の経験もまたわれわれの偉大な事業を助けその内容を豊かにするであろう。したがってこうした有利な諸条件の上に建設される社会主義では、ソ連や中国に比較して社会主義の理想はより順調に貫徹し、国民生活もまたはるかに民主的でしかも豊富なものとなるに違いない。かくしてわれわれは、社会主義の基本原則と目標を次の如く設定する。
 
(1)基本原則
 
 (イ) 社会主義は人間が人間を搾取する制度を廃絶し、人間の生産と創造を開花させ、真に自由で平等の個人の結合による共同社会をつくりあげる。
 
 (ロ) 主要な生産手段の公有化と計画経済によって、自然の資源エネルギーを徹底的に開発し、科学技術の無限の可能樫を発展させ、大規模に物質生産力を増大し、社会的生産性を高め、すべての国民に豊かな生活を保障する。
 
 (ハ) 国民の基本的人権、働きかつ健康にして文化的な生活を営む権利、ならびにすべての国民がその能力に応じて教育を受ける権利を保障する。
 
 (ニ) 民族が民族を搾取することに反対し、社会主義の建設に努力し、完全な軍縮の達成、戦争の絶滅、平等互恵の上に平和共存の国際関係を樹立して、人類の平和と繁栄に貢献する。
 
 (ホ) 人間疎外を最終的に解消し、生産的労働と共同社会の中から新しい道徳と文化を創造、発展させる。
 
   (2) われわれの目標
  以上の社会主義の基本原則に基いて、われわれは政治、経済及び外交の諸分野において、次の目標達成に向って前進する。
 
 (イ) 社会主義的民主主義
   社会主義的民主主義とは人類が常に追求して来た人間解放としての民主主義的原則を資本主義社会の制約から解放して、われわれの社会生活や政治制度の中に完全に開花結実させた体制である。
  こうした社会主義的民主主義は、人間の基本的権利を完全に実現することをその内容とするものであって、人間が人間を搾取する資本主義社会においては決して実現され得ないものである。
  しかしながら、ブルジョアジーに代って権力を掌握したプロレタリアが、まだ階級が完全に消滅していない社会段階の下で、反革命勢力を抑えるために、また新しい社会主義秩序を作り出すために、ある種の階級支配を行なわねばならぬことは当然であろう。しかしその階級支配も武力革命をおこなったソ連や中国のようないわゆる「プロレタリア独裁」の形体は、日本のような歴史的、社会的条件のもとにおいては、必要はなく、むしろ人類の理想である社会主義的民主主義により近い形体が保障されるであろう。
 
 社会主義の勝利と社会主義的民主主義の下においては、搾取階級は一掃され、階級の対立が解消し、国家は階級抑圧の道具から、全国民のための機関となる。地方自治の尊重は民主主義の原則である。
  国家及び地方自治体の経済的、文化的、社会的機能は拡大され、計画経済の指導推進、社会的生産の組織化、教育文化の向上、社会福祉の機能が増大する。
  個人の自由と平等、国民の政治的な諸権利が保障される。
 
  国会は真の国民代表議会として、また国権の最高機関としてその地位を確立し、政府諸機関の上にあってこれを統かつする。選挙の制度は、国民の意志を完全に反映するような制度に改める。
  主要な公務員の弾劾制、リコール制、請願、公聴会などによって、政治の民主的運営を確保し、各級機関における官僚主義の危険を排除する。
 
 (ロ) 基幹産業の公有化と中小企業及び農業の協同化ならびに計画生産
   @ 重要基幹産業、たとえば金融、保険、エネルギー、鉄、肥料、造船、運輸、交通、貿易等は、社会的改造の進展とともに公有化し、すべての産業は業種別に体系的に組織する。
   A 生産手段の公有化は有償を原則とする。
   B 農業は自主的に協同化し、開拓、土地基盤の造成、水利の整備、機械化、優秀な種苗の普及、技術の進歩等を推進し、農畜産物の価格を保障する。農地の所有は耕作農民が所有することを原則とする。
   C 中小企業は業種別の体系的組織の下に、協同化し、国家の生産計画によって、その事業分野を保障する。設備の近代化を急速に達成する。
   D 商業は日本の高い消費水準を考慮して無用な流通規制は行なわず、改造の目標を主として店舗の地域的配分と協同化と合理的な体系化に置く。
     経済計画は、中央と地方に分け、漸次地方計画を重視する。労働者、農民、その他の代表をこの計画に参加せしめる。
 
 (ハ) 国土改造と生活環境の整備
  @ 土地資源を計画的に高度に利用することは社会主義建設の重要な一環である。われわれは、国土の全面積の実体を調査し、土地と水資源の利用計画と、宅地、農用地、山林などの利用区分を定め、大規模な造林、農用地の拡大、地下、海底の資源調査を行ない、その開発を組織的に行なう。
  A 全国をつなぐ交通道路、通信網の完成、過大都市の分散、新たな拠点産業都市の建設、地方の中小都市と農山漁村の再開発を行ない、農村と都市の格差を解消する。
  B 住宅、上下水道、衛生施設、社会文化施設、教育施設等の建設を中心に、都市及び農村の生活環境を飛躍的に整備する。
 
 (ニ) 教育文化と科学の発展
  @ 社会主義社会の教育の目標は、教育無償の原則の下に、新しい世代を基礎的な科学の知識、正しい人間観、世界観と健康な道徳、生産的労働の能力をそなえた優れた人間の形成を行なうことにある。
  A初等、中等、高等など学校教育のほか、工場、事業所、農場に働く者に、働きつつ職業、技術、一般教養などの教育を受けられるよう十分の時間を与えることにより、高い知識と技術と教養を身につけることができるようにする。
  B 自然科学、人文科学のあらゆる分野にわたって、学校や地域や職場の研究機関を拡充し、科学者、技術者を優遇し、発明と発見が大衆の中から生れるように奨励する。
  C 文学、音楽、絵画、演劇、映画、テレビ、ラジオはその内容を豊富にし、あらゆるスポーツの施設とともに、図書館、文化ホール、劇場、クラブ、博物館、発明センターなどの多彩な文化施設を公共のものとして設置する。
  D 専門的な文化活動家やスポーツマンの生活を保障し、各部門毎にアマチュアの文化集団やスポーツの集団を組織し、その施設を完備する。
 
 (ホ) 連帯と協働の社会
   階級対立を解消し社会的平等の実現された社会主義社会は、真の連帯と協働の社会であり、失業と貧乏のない社会、すべての人が災害、事故、疾病、老齢、不幸の不安から解放される社会である。
  医療は無料で行ない、老人や心身障害者には完全な生活の保障を、災害における個人被害に対しても、十分な救済の手段を保障する。働く能力をもっているすべての国民に職場を保障し、労働時間を短縮し、男女の差別を撤廃し、すべての労働条件を改善する。男女の実質的平等も社会主義によって完成し、子を持つ母の地位は特別に保護する。しかし、社会的平等は、機械的、画一的平等ではない。個人的能力やその果すべき機能による個人差は存在するが、その差別はその社会的出身や地位できまるものではなくその資質能力、知識、勤勉によるものであり、個人的名声、威信は、金や地位によるものではなく、誠実な勤労と社会的奉仕に与えられるものである。
  そこでは、学問、思想、信教、職業選択の自由を含む広範な個人的自由が保障されており、ただ人を搾取する自由、資産に依存する不労生活の自由が許されないのである。
  かくて、産業の社会的所有、公共施設の充実、労働の尊重、社会保障の完備した社会主義社会では、平和と友好の精神、人間尊重のモラルが高められ、人間性を破壊し社会不安を生み出す一切の社会悪が一掃される。
 
 (ヘ) 人類の平和と繁栄に貢献する外交
  @ 日本国憲法と国連蚕早の本来の精神にしたがい、国際的紛争を武力によらず、すべて話し合いによって解決するという絶対平和と平和的共存の外交政策を貫く。
  A 安保条約を破棄して、主権を回復し、沖縄、小笠原および千島列島の返還を実現し、非武装中立の国際的地位を確立すると同時に全面かつ完全な軍縮の達成に協力する。
  B 平和五原則(領土主権の尊重、相互不可侵、内政不干渉、平等互恵、平和共存)ならびにバンドン精神を支持し、政治、思想、信条のいかんを問わず、いずれの国とも友好と平和共存の関係を樹立する。
  C 帝国主義、新植民地主義に反対し、民族の独立とその経済的建設に協力する。
  D 社会主義の建設とその発展のために協力する。
    社会主義国家ならびに社会社義インター参加政党と経験を交流し、友好を深めさらにAA会議、非同盟諸国会議を支持する。
  E 日本国憲法を基礎として、国際紛争処理機関としての国連を支持し、その機能と権威を高めるために積極的に協力する。
 
    三 社会党の任務
     −日本における社会主義への道−−
 
  われわれは、日本をめぐる内外の客観情勢を分析するなかで、資本主義体制はその歴史的任務を終り、社会主義体制が次の歴史を担う世界体制として発展、成長しつつある世界的傾向を知ることができる。また社会主義体制はその国の発展段階や歴史的諸条件によって、革命の方式も社会主義建設途上に発生する諸課題も異なり、たとえ社会主義の原則は変らないとしても、社会主義革命の道は多様であって、世界もまた、一枚岩的体制から多中心の体制に移りつつあることが明らかとなった。
  世界の資本主義がその矛盾を拡大し、平和的競争の中で、漸次その地位を社会主義に譲らざるを得ない傾向と同様に、わが国の資本主義も、国家の強力な介入によってその体制を維持する、いわゆる国家独占資本主義という特殊な独占資本主義体制をとり、対外的にはアメリカと手を結んで、軍事同盟を締結したり、OECD、IMF等の彼らのための国際連帯を強めたり、国内的には、収奪の強化と反動化の促進を企図したりして、ひたすらその体制の維持強化に努力している。だが、大衆の貧困、インフレ、社会不安等の矛盾は一そう拡大し、民主主義と平和とさらには社会主義を要求する反独占の勢力の飛躍的拡大に悩まされている。まさに日本の独占資本主義は資本主義の最後の段階であり、社会主義の前夜に立っていることを示している。
  しかしながら、われわれの社会主義は、国際情勢と日本資本主義の発展段階や歴史的諸条件の上に、資本主義のよき遺産をあまねく継承して、打ち樹てねばならない。この見地に立つとき、われわれは次のことを明確にしておく必要がある。
 
すなわち一つは、日本の資本主義は高度に発達した生産力を持ち、社会主義の物的基礎が成熟していること、二つには、空洞化や反勧化が独占によって促進されているなかで、なおかつ民主主義が、各分野にわたって相当程度に定着し、民主主義や平和や社会主義のための闘争を有利にしていること、また教育程度が極めて高いこと、三つには、労働者階級がすでに就業人口の過半数を占め、労働者を中核とし労農提携を中心とする中小企業者、知識層を含む全勤労者階層の反独占国民戦線結集の条件が存在しまた成長しつつある。そしてすでに述べたように世界情勢はわれわれに有利であり、また社会主義諸国は勿論、資本主義陣営内部における社会主義政党の経験を広く学ぶことができる。またアメリカ軍隊が沖縄や小笠原を占領し、あるいは日本及びその周辺に駐屯していることは、日本の主権をいちじるしく制約している点において、われわれはこれを重視するものであるが、しかしこのことによって日本がアメリカに本質的に従属関係にあるものと見ることはできない。したがって、社会主義革命の過程を通じて主権の完全回復を闘い取ることが可能であるということも、この際強調しておく必要がある。
 
  こうした条件は、農業国でしかも民主主義の成長も未熟であったロシアや半植民地の中国において、戦争の破壊と帝国主義諸国の包囲の中で社会主義革命を遂行した場合と、著しく異っていることを示している。したがってわれわれの革命の道は、ソ連や中国の方式とは当然に異ったものとならざるを得ない。いわば日本における社会主義への道が選択され、遂行されねばならないのである。日本共産党は戦後いくたびか戦略戦術において重大な誤ちをおかしたが、その原因は、自主性のないことと、こうした日本の独自の条件を無視したところにあると言わなければならない。
  日本における社会主義の道は、同時に平和革命の道であることをわれわれは確認する。そして平和革命の道は後に詳述するように「望ましい」という理由だけで選択したものではない。客観的にその条件が存在するが故に、それを積極的に遂行するのである。もとより、われわれは「民主社会主義者」のように、改良や進歩を積み覗ねていけば、やがて資本主義が自動的に社会主義に変わるであろうなどと空想しているのではない。就業人口の過半数を占め、反資本主義の性格を歴史的に持っている労働者階級を中核とし、労農提携を中心とする広範な勤労諸階層の反独占闘争を通じて結集される国民戦線を基盤として、議会の内外において民主的多数派を獲得し、議会を通じてすべての権力をわれわれの手に握らなければならないであろう。その過程で社会党政権の段階から安定した社会主義政権に移行する。
 
したがって、また、われわれの社会主義革命は議会制民主主義を重視するものである。ブルジョアジーはかつては民主主義の担い手として封建制度を打倒したが、今はその民主主義を空洞化しつつあるのみならず、憲法改悪の意図に明らかなように反動化しようとしているが、このことは民主主義が既に彼等にとっては姪格となったことを意味している。民主主義を名実共に実現するものは社会主義政権であることを確認し、社会主義的民主主義を実現するために、まず政治的民主主義の中核である議会制民主主義をわれわれは最も重視するものである。このことはソ連や中国におけるように独裁を必要とした歴史的条件と著しく相違する点でもある。国際情勢の急激な変化の中に、しかも有利に発展している国際情勢の中に、われわれの外交と国際連帯を推進強化することもわれわれの革命にとって不可欠な条件である。それ故に平和と民族独立、社会主義建設への協力と平等互恵の平和共存の国際関係を結ぶ方針もわれわれは採用する。
  かくしてわれわれは、社会主義革命の指導的政党として日本の社会主義への道を大衆とともに前進する。それだけに党の任務は重大であり、党に対する大衆の要求もきびしくかつ強い。
 
  日本社会党は、勤労諸階層の利益を代表するものとして戦後、革新勢力の主導的地位を占め、憲法改悪や、国民の基本権侵害等のさまざまな逆コースや反動攻勢とたたかってきた。この光栄あるたたかいの実績のもとに日本社会党は、衆参両院において議席の三分の一を占めその得要数も一千万を突破している。この意味で革新陣営の中で圧倒的な地位を占めていると言うことができる。また社会党がこうした大衆の支持を受けていることは日本の客観的条件をそれなりに反映しているとも言えるが、しかしながら、三分の一の壁を破って、圧倒的多数を獲得する点は苦難に満ちていること、特に社会党とこれを支持する勤労大衆が結集されればされるほど、独占資本とその政府はあらゆる抵抗を試みるであろうことを考えるならば、むしろ問題は今後の社会党の主体的条件の確立如何にかかわっているものと見なければならない。それ故にわれわれは、日常の大衆闘争を献身的に闘い抜く中で、大衆の信頼と支持を獲得しなければならない。民主的な党運営と責任体制を確立することによって党の統一と団結を強化しなければならない。理論的水準を高め、政策と方針を的確に指し示すことができるように学習を盛んにし、政策活動を活発にしなければならない。そして党員おのおのが、偉大な歴史的任務を自覚し、一人の活動家たらんとする第一歩から出発しなければならないのである。
 
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