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80年代の内外情勢の展望と社会党の路線・4
三 社会主義への移行と連合政権
  一 現代資本主義の特徴と国民意識の変化
 社会主義運動の条件となる政治、経済、国際情勢については、すでに分析したとおりであるが、要約すればつぎのようにまとめられる。
 (1) 政治的条件について
 八○年代初頭の現局面がそうであるように、戦後世界においても政治反動と軍団主義化への傾向が繰り返しあらわれてきていることを考慮し、反動化の危険性について過小評価してはならない。しかし、現代国家が、その機能として金融資本の巨大企業集団の意思をそのまま体現するという形式をとらずに、経済構造から相対的に自立して経済過程に影響力をふるいうる形態になっていることに着目し、院外の大衆運動と結合して国会で革新的な民主主義派が多数を占め、連合政権を樹立することによって、政治反動と軍国主義化を阻止し、社会主義への準備をすすめうる可能性をもつ条件を備えていることに注目すべきである。
 (2) 経済的条件について
 現代資本主義の固有の矛盾は、失業やインフレーション、財政危機などの形を通じてあらわれているほか、資源の制約や高齢化社会の到来といった新しい問題についても、十分に対処できない限界をもっていることにある。その意味で、現代資本主義は危機を深めつつあるが、たとえば恐慌からファシズム、そして戦争への道を歩んだ一九三〇年代型の危機とは異なる。なぜなら、管理通貨制度の採用以降、国民経済構造が柔構造化したことを背景に、民主主義の形をとる現代国家の政策のもとで操作可能性が増加してきているからである。この操作可能性とは単に量的な総需要管理だけではなく、科学・技術の発展や公的セクターの拡大、資本主義のもとでの一定の計画化など経済構造にかかわる上からの改良的改革をも可能にする条件をつくりだしている。
 この上からの改革は、下からの勤労諸階層の要求を吸い上げつつ体制側に統合するという大衆民主主義の条件のもとですすめられている。この条件は同時にまた党が、現代資本主義のもとで、下からの民主的改革を徹底させるための改革戦略をとり、上からの操作可能性をわれわれの手中におさめうる基本的条件を伴っている。このような上からの改革の可能性と下からの民主的改革の要求は、現実には資本と勤労国民との緊張した関係のなかで進行してきたし、われわれの民主的改革の戦略は、勤労国民の運動と連合の発展を基盤としてすすむものであることはいうまでもない。
 (3)国際的条件について
          
 今日の国際関係は、東西二極対立の「冷戦構造」が温存されつつもその変容をとげ、複雑な多極的国際関係の時代に移行しつつある。したがって政治的にも経済的にも、一国的、封鎖的に発展することはできないし、また社会主義、資本主義、いわゆる第三世界などの陣営の一つだけとの関係で勤労国民の利益を守ることもできない。社会主義への発展は、わが国が、その達成した経済的力量とその世界的地位を活用して、西独社民党党首ブラントの委員会の「南と北―生存のための戦略・レポート」などに学びつつ、経済面では、いわゆる第三世界を含めた新国際経済秩序の実現と、政治的には国際平和秩序の創出のために努力することが前提となる。
 (4)階級・階層の分析
 一方、高度経済成長とそれに続くオイルショック以降の時期に、国民各層のあいだにもいろいろな変化が起きてきた。
 まずわが国の国民の階級・階層構造についてみよう。統計(現代社会主義研究二九号参照)の示すところでは、過去二〇年間におけるもっとも大きな変化は、わが国社会が全面的に雇用者を中心とするようになったという事実である。二〇年前には就業者に占める雇用者の比率は五〇%をわずかに超える程度であったが、今日では七〇%を超えている。農林業従事者の比率は二〇年前の二九%程度から今日の一〇%程度まで低落している。ただ、非農林業の自営業主は絶対数では増加しており、都市における第三次産業を中心に自営業主層が増えていることが示される。これらの傾向は、過去二〇年間のあいだにわが国は農村・都市混合社会から圧倒的に都市型社会に移行したということである。むろん、このことは農業・農民問題の重要性を否定することではない。むしろ、こうした都市型社会の安定を保障するためにも、農業・農民問題の新しい積極的な位置づけが行なわれなければならないことを示している。しかし、それにしてもこの期間の大きな変化として雇用者の増大と都市型の進展がまず重視されなければならない。
 雇用者のなかでの階層的な変化にも著しいものがあった。二〇年前には雇用者のおよそ五五%は「生産的労働者」であった。しかし今日では、この層は過半数を割り込むにいたり、いわゆるサラリーマン層が三〇%、販売・サービス関係にかかわる労働者が二〇%程度に達し、従来、「労働者階級」として一括されてきた中身が、生産的労働者、サラリーマン層、販売サービス職業従事者と三分されるようになった。さらに、このなかで生産的労働者をとってみると、金属機械産業の技能労働者や運輸産業の職種では伝統的な熟練労働者層の姿がみられるが、その一方、装置産業におけるオペレーターにみられるように新しい技術に伴う非筋肉型労働者の大量の登場と技術革新の半面としての多数の不熟練者層を生み出している。このように雇用者は過去二〇年間のあいだに社会の圧倒的な部分を占めるようになったが、その内部は複雑な階層分化をとげつつあり、また、それぞれの階層のなかでも多様な内容が示されるようになっている。
 また、多くの労働者の学歴別構成を調べてみると、大企業、中小企業を問わず、一九七〇年代前半に中卒者と高卒者では従業員のなかに占める比率が逆転し、男女ともに今日では高卒労働者が企業の主流を占めるようになっている。大卒従業員の比重もしだいに高まっており、大企業では大卒者と中卒者の比重がほぼ等しくなってきた。高学歴化が急速に進展しているのである。
 ただ、ここで忘れてならないのは、国税統計にも上がってこない約六〇〇万の勤労者がいることであり、さらに、これにパートタイマーや出稼ぎ者などを含めれば、底辺層には、まだ多くの低い所得の人々がいることである。最賃制の実現、未組織労働者の組織化が重視されなければならないゆえんである。
 このような国民の階級階層上の変化は、当然のことであるが、人々の意識の変化をもたらし、新しい生活の「質」の向上を求める国民意識の展開となってあらわれている。
 すなわち、これまでの生活要求が主として所得の上昇に一元化されてきたのに対して、@土地住宅などのストックヘの傾斜が強まっていること、A社会的な生活手段とそれによる社会的なサービスへの欲求が強まっていること、B生涯的な所得保障や環境の維持改善を含めた、生活の安全度への希求が高まっていること、C格差解消、不公平是正、民主主義的権利を求める運動がすすみ、人権の尊重や分権自治の考え方が定着しつつあること、D文化やスポーツなどへの欲求が強まり、生産に生涯を捧げるのではなく、個性的な生活への欲求が強まっていること、などにその特徴がみられる。
 これらの生活要求は、一面として、高度経済成長のなかで、住宅あるいは生活関連施設のおくれがあったということによるのであり、さらに他の面としては、高度経済成長の成果を前提として、基礎的な生活水準はかなり充実されたことのうえにたっての要求の高度化・多様化なのである。さらに、これらの要求は、計量的に市場原理をとおして把握することができず、行政的手法による把握をもとに解決しなければならないが、これを国民の側からみれば、直接的な参加・介入の必要性を示すものであり、必然的に分権と自治の根拠を提供する。
 二 参加・介入の大衆運動と改革戦略
 (1)参加・介入の大衆運動
 これまでのわが国の生活改善のための闘いは、主として労働組合を中心に、所得の上昇と完全雇用をはかることにおかれてきた。今日でも、一方で賃金の上昇をはかり、他方で物価の安定をはかって、実質的な所得の向上をはかること、および企業の専権的な解雇を阻止し、完全雇用のための闘いをすすめることは、重要な課題であることに変わりはない。また、労働時間の短縮も不十分であり、人間生活を豊かにする余暇の増大という点からも、いっそう大きな力を入れなくてはならない。
 しかし、所得をめぐる闘いにしても、職業・生活という生涯の特定の時期の所得としての賃金の上昇を求めるだけでなく、ライフサイクルの全体を含めた所得の安定的な保障を求めるにいたっている。たとえば、老齢年金がその典型である。また一方、勤労者の生活のなかでは、特定の地域を対象にして建設される社会的生活基盤、それにもとづいて供給される社会的サービスの量と「質」が、その生活の質を決定するもっとも重要な要素になっている。今日では保健、医療、教育、文化、交通、環境、社会福祉など、地域生活圏としての内容の充実が最大の関心事である。また、地域における産業の配置や経済の開発も、単に雇用と所得をもたらす企業が誘致されればよいというのではなく、それぞれの地域の生活の「質」に適合するものが求められている。これらをとおして、社会的な生活改善、生活保障が今日では重視されるべきものとなっている。
 さらに、生活闘争のなかでもう一つ重要な要素を占めるのは「格差」と「不公正」の問題である。高度経済成長のなかでは、労働組合の春闘や農民の米価闘争を通じて、いわゆる所得格差は相対的に縮小してきた。とくに世帯単位でみた家計格差は、階層間、地域間ともに縮小の傾向がみられる。とはいえ、第一次オイルショック以降の物価上昇、減量経営、福祉切り下げの「行革」の過程で、実質家計所得の面でも、再び格差がみられるようになっており、また高齢者世帯などの生活困難はなお改善されていないから、所得面での格差解消は依然として重大な課題である。
 しかし、同時に重視しなければならないのは、現代の経済と社会システムが有する質的な格差、いいかえれば、人間的な差別の解消である。そのなかには、
@性別による男女差別、A学歴別格差に示される社会的・経済的差別、B生活基盤などにみられる地域格差、C伝統社会のなかで形成され、資本主義のもとで拡大再生産されている部落差別の問題、D身体にさまざまなハンディキャップをもつ人々への差別、E不公平税制にみられるような制度的差別、などが含まれる。差別を実質的に解消していくことは、生活闘争のなかでもっとも重要な位置づけが与えられなければならない。
 生活闘争とならんで、もっとも重要な位置づけを与えられるのは、憲法擁護と完全実施の闘いであり、民主主義的権利とその制度の発展をめざす闘いである。社会党は、戦後一貫してそれらの擁護につとめてきたが、その中心は、@国民主権に基礎をおく議会制度の擁護、A自由と平等を内容とする基本的人権の擁護であり、いずれも、日本国憲法の理念にほかならない。議会制度と基本的人権の尊重は、社会主義の段階ではよりいっそう高度に発展するのであり、党は今後も一貫してその原理の擁護につとめる。しかし現状においては、形式上は議会制と市民的自由があっても、実質的には管理社会化の進展のなかで、国民が自らの運命を決定する意思決定過程から疎外されている。これは行政と企業の両面にわたる意思決定権からの疎外である。官民一体の企業社会において、高級官僚集団や企業エリート集団の強力な意思決定権限が、日常的に多数の勤労者の運命と生活を左右し、またそこで発生するこれらの支配集団の処理権限がこれら集団と勤労者とのあいだに見かけよりはるかに大きな生活格差をもたらしている。
 戦後民主主義の風化と呼ばれる現象は、形式としての民主主義の定着と実質としての勤労国民の民主主義からの疎外の進行といってよい。この落差を埋めるものは、意思決定権限を、生活と労働の必要性に根ざす、当事者の集団に取り戻すこと以外にはない。
 いいかえれば、今日、民主主義を発展させるためには新中央集権制のもとで行政と企業の官民一体の管理者集団に集権化された意思決定構造に、当事者の集団が介入・参加し、規制することが必要である。
 これが、経済政策と社会政策、地域、企業(投資のあり方)、職場(労働内容)など、経済社会活動のあらゆるレベルでの「参加」である。支えるのは、資本や権力からの当事者集団の自立と制度面での分権化であろう。こうして、社会主義をめざし、現代資本主義における政治、経済、社会の支配を変革するための改革闘争の主要な課題は、徹底した民主主義闘争の強化・拡大にある。民主主義闘争の焦点は、抵抗に支えられた力を背景とする当事者集団による意思決定への参加ということになる。このような改革的大衆運動の直接の基礎は、いうまでもなく国民各層の生活の必要(ニーズ)である。ニーズというのは、個々の国民が直接的にもつ要求とは必ずしもかぎらない。生活にもとづく不安や不満、さらには社会生活を営む必要からも生まれる。たとえばマイカーをもちたいという要求は、しつかりした交通体系が樹立されていない結果つくられたものであるかもしれず、根源的にはすべての人間の生活権として交通体系が整備されるというのが生活の必要である。さまざまなニーズは、階層や地域や性別や年齢によってもその優先度は異なるが、一定の国民の集団に共通する社会的ニーズは、それぞれの集団が自立的に自らの生活の質を向上させていく行革闘争の基礎となるのである。
 以上のような改革闘争が現実の生活からの要求と、それにもとづく参加に焦点がおかれるということは、それぞれの運動の発展が個別課題的であり、運動に加わる当事者の集団も多様である、ということを前提としている。さらにいえば、このような多様な集団の内部には、参加意識の強弱、参加型の活動家と受益型大衆との格差が存在し、大衆民主主義の発展を妨げていることは否定できない。またこれらの集団は、あらかじめ利害が一致しているわけではない。それゆえ、それぞれの問題の解決をはかるためには、当事者集団内部でのいわゆる代行主義におちいらないよう運動を通じての人間的な信頼関係の樹立と、それを可能にする組織的手段を確立するとともに、諸集団のあいだの自主的な意見のつきあわせと調整が必要となってくる。
 党は個々の集団たとえば労働組合や住民運動のなかに直接に覇権を求めるつもりはない。党員は、それぞれの集団のなかで当事者の一員として活動することになる。しかし、党と集団との相互関係にそくしていえば、個々の集団内に党が組織的影響力を拡大していくのは当然であって、それなくして調整力の発揮も保障されない。党が果たす任務は、諸集団のなかで誠実に行動するとともに調整過程のなかで、もっとも適切な課題の解決などを見出すための討議を通じて方向性を示すことにある。またその過程を通じて、具体的に市場の支配と管理の既存の体系を打ち破り、解決のための制度のあり方を提示するという先導性を発揮することにある。そして、個々の集団が、その保有する問題点を真に解決するためには、個々の集団としての主体性を失うことなく、目標を政策化し、その政策のもとで連合し、その連合を基盤にした勤労諸階層の連合政権を樹立していかなければならない。
 このような「連合」の組織化の考え方は、社会党そのものがそれを支えうる民主主義的な自己革新を必要としている。同時に、連合の時代のリーダー・シップをとりうる強大な党建設が必要となる。すべての国民と血のかよった接点をもち、革新連合政権の土台となる百万党建設の課題も、このような路線にもとづいてすすめられねばならない。ここに党の任務がある。
 (2)改革戦略
 以上のような改革路線は、改革の理念や道筋が提示されるだけにとどまってはならず、日常的な改革の成果として現実化していかなくてはならない。
 いうまでもなく、今日の革新の側の政治路線は「新自由主義」にもとづく総需要抑制、自衛隊増強、生活耐乏(財界主導の行政改革)の保守反動の逆コースに強く抵抗して、@高度成長のなかでの大衆民主主義にもとづく運動によって確保した生活水準を守るとともに、Aより高度な社会的・公共的な生活水準の質的上昇を確保し、B政治反動化を阻止し、平和の創出と、より高度な民主主義社会をめざして、新しい権利闘争や文化の向上を追求する、ものでなければならない。しかも、そうした新しい生活要求の拡大を実現する条件は存在するし、その条件を主体的に高めることは十分に可能であって、とくに繰り返されたオイルショックのなかで、資源問題は従来の経済成長パターンに対しては制約集件を高め、構造不況や減量経営をもたらしているが、同時に新たな省エネ型の技術革新や産業構造の転換、それにもとづく雇用構造、生活株造の変事の条件を生み出している。
 これらの条件は、日本経済がそのカジとりをあやまらなければ成長する可能性を秘めていることを示している。この潜在的成長能力を引き出してわれわれの主張する内需中心のバランスのとれた福祉型成長の軌道にのせるためには、従来、日本資本主義のとり続けてきた企業社会的共同体の組織のなかでは不可能なのであって、現在、必要なのは、これらの条件を主体的に活用しながら体制の組織変革を迫ることである。
 これまでの企業レベルでのオイルショックへの対応は、単に減量経営による合理化によって結果的には有力大企業の競争力を強めているにすぎず、現状の日本経済の体質は、いぜんとしてつぎのような矛盾を内包している、@海外経済の不安定性に大きく影響される弱い体質をもっており、A強力な寡占構造、地価の高騰、海外資源依存度などによるインフレーションの危険性が強く、B企業の収益力の回復に比して雇用率が停滞し、C過度に輸出依存を強めているため諸外国との摩擦がたえない。
 今日の自民党政権は、日本経済のもっている潜在的成長能力を、国民経済の平和的で調和のとれた発展に生かし切れない。むしろ、「行革」の名による福祉の切り捨てや賃金抑制、大衆増税などによって内需を抑制しているため、日本の経済活動が国際摩擦の原因となっているだけでなく、日本自身の適切な国民経済と国民生活をそこなう危険がある。
 これらの点からすれば、今日の企業社会的な体制の矛盾は、単に過去の福祉などの業績が破壊されるということではなく、むしろ現代的な生活要求が今日の経済体制と質的に対抗関係にあるといえる。経済の結果としての生活ではなく、現代的生活を保障する経済構造をつくりあげるという観点にたたなければならないことを示している。革新の政策課題は、さきにあげた日本経済のもつ矛盾を克服しながら、その潜在的成長能力を積極的に活用し、全体としての国民生活の改善につなぐ政策を提示することにある。
 そのさい前提となる産業構造変革の基本的方向を示せば以下のとおりである。@七〇年代までの高度経済成長によって急速に切り捨てられ、そのごの安定成長に入ってからも一層の縮小合理化が強いられてきた第一次産業についても、農漁業の再建が重要な課題となっている。とくに八○年代は世界的に食料不安定の時代といわれ、食料が戦略物資として扱われようとしているとき、食料自給度の向上はいっそう重視されなければならない。このため基幹的な農民を中心に兼業農家も含めた経営共同化の方向と、これを基礎とした地域農業を中心とした複合経営の拡大、それらを保障する制度改革が必要となっている。その改革の芽は農民の自発的な経営技術改革の運動、エサ米運動などのなかにあらわれており、農民の自主的参加と連帯を基本とする農業政策の確立によって可能となる。A臨海型資源多消費型の素材部門(鉄鋼、非鉄金属、石油化学など)が資源や環境問題などによって限界を迎えているのに対し、省資源型の内陸型組立加工部門(自動車、電気、精密などの機械工業)さらに加えて新しいエレクトロニクス技術による機械とマイクロ・コンピュータの結合技術の導入がすすんでいる。そして、機能面とコスト面で者しい技術者新の効果をもたらし、さらにマイコンにより「多品種小量生産および分散型立地」がすすみはじめていること、B素材革命や生命科学をもとにした新しい産業が形成されつつあること、C高度工業化が終わり、すでに脱工業化のサービス経済の拡大がはじまり、情報・機械・通信新結合型(メカトロニクス)の技術革新が、さらにサービス経済化と結びついて産業構造の一層の知識集約化をもたらしていること、などの構造変革の条件をあげることができる。
 現に進行しつつあるこれらの産業面での変化は、前述した日本経済の体質を放置したままでは、国民にかえって大きな犠牲をもたらす可能性がある。たとえば急速に進展する産業用ロボットの導入やオフィス・オートメーション(OA)といった「マイコン革命」は、他方で労働条件の改善が伴わなければ失業増大につながる。またエレクトロニクスの応用である電子医療(ME)機器は福祉の前進に役立つが、これが軍事技術として使用されれば命中密度の高いミサイル誘導の装置となる。
 また、原子力発電は、安全性・廃棄物処理等についていまだ未解決であるので、今後のエネルギーは、自然エネルギーの開発に重点をおかなければならない。
 最近の政府・財界の軍事大国化への指向からみて、今後の日本経済の進路を引き続き平和経済の基調におくか、産軍複合体制へすすめるかは、日本の将来にとって重大な選択である。党は、わが国の経済的蓄積と科学技術が発展途上国の平和な開発に役立ち、民生安定と生活水準向上に資するよう努力する。したがって潜在的成長力の活用には、革新の側からする適切な政策誘導がなんとしても必要となる。このような適切な誘導があれば、産業構造の変革が、たとえばサービス経済化などを中心にして、国民大衆の要求する社会的・公共的サービスへの消費需要の高度化を裏付けることになるのである。
 したがって、産業構造の変革を通じて、さらに生活構造における質の向上をはかり、国民の新たな生活要求の高まりに適応すると同時に、社会的・公共的セクターの拡大による経済の社会化をすすめることが必要である。さらに高齢化社会の到来に対しても、年金の拡大確保とともに、定年延長や高齢者雇用の拡大を産業構造の変革に結合していかねばならない。さらに、ライフサイクルの変化によって進出の著しい女子労働力についても、女性が母性を切り捨てることなく、男性とともに家庭役割を担いながら生産労働に参加できるよう、労働時間を含めて企業の組織や制度、慣行の抜本的な改革をはからなければならない。自民党の「家庭基盤充実政策」は女性に犠牲を強い、女性を家庭にとどめて「日本型福祉」を担わせ、性別役割分業を固定化するものであり、時代に逆行するものである。
 いずれにしても、「新自由主義」にもとづく保守反動の政治路線に対決する新しい革新の政治路線の方向は、日本経済の新しい潜在成長力に主体的な評価を加え、産業構造、生活構造、雇用構造をトータルに変革する選択が必要である。そうしたトータルな構造変革によって、従来の高度成長のなかで形成された官民一体の企業社会の共同体的秩序の狭い枠組みを打破して、より広い参加と介入による大衆民主主義の新しい発展の道程を開いていくべきである。また、こうした企業社会的秩序の変革は、それに結びついた中央直結の新中央集権制による管理社会を転換させることになるのであって、地域分散型の産業構造の創出とともに、地域分権による地方自治の拡大がはかられるべきである。そして、こうした参加・介入と分権・自治による構造変革を通じて、さまざまな差別を打破する真の平等と人権の確立、国際的には平和と連帯による高度な新しい民主主義の質を創造しなければならない。
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