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社会民主主義とは何か(2)
三、経済的民主主義を確立する
20 社会民主主義の経済は、民主的な混合経済である。「混合経済の枠組みのなか」(ストックホルム宣言)で経済の民主化を実現するのである。
21 現代資本主義が混合経済の名で呼ばれるようになったのは、一九二九年世界恐慌以降である。二九年恐慌は市場経済の限界を露呈し、国家の経済への介入を招いた。以降、私的セクターと公的セクターの共存、「市場」と「計画」の共存が現代資本主義の常態となった。社会民主主義はこの枠組みを認めたうえで民主的な混合経済づくりに努める。すなわち、市場経済を基本とし、計画的手段によって市場経済に方向性を与え、市場経済の行きすぎ(極端な競争、環境破壊、経済権力の大企業への集中など)をコントロールする。
22 計画的手段を行使する主体は、いうまでもなく国家および地方公共団体である。社会民主主義政党が国家による民主的なコントロールを主張するのは、すでに述べたように現代国家を民主主義国家とみるからである。現代の国家には社会の諸集団の多元的な要求が持ちこまれる。その結果、国家は複雑な機能を発揮するが、参加による民主主義を強めることによって、国家の機能を利潤追求を補完する方向にではなく、国民の利益を増大させる方向に向けさせることが可能である。
23 経済的民主主義を実現するうえで最も重要なことは、国の経済政策をはじめ産業、企業、地域など国民生活のあらゆる領域における経済的決定に市民、消費者、労働者が積極的に参加することである。とくに経済の国際化と全世界的な技術革新が進むなかでは、「すべての国の完全な参加を認めるために世界的な金融、経済システムの諸機関の民主化」「多国籍企業内の国境を越えた労働組合の権利を含む、多国籍企業の活動に対する国際的な統制と監視」(ストックホルム宣言)が必要である。
24 統制と監視は必要であるが、市場経済を基本とする以上、かつてゴーデスベルク綱領がいったように、「自由な消費選択と自由な職業選択とは社会民主主義的経済政策の決定的な基礎であり、自由な競争と自由な企業家活動は、その重要な要素である。・・・可能な限り競争を必要な限り計画を!」でなければならない。市場機構を有効に利用し、競争のメリットを生かすことが大切なのである。その意味で社会民主主義は、生産手段の機会的な国有化や中央集権的な計画化には反対する。所有の間題については、「私有も国有もそれ自身で経済的効率や社会的公正を保証するものではなく」これまでの経験では、むしろ「国有化それ自体が社会の病気を治す最高の治療薬でないこと」(ストックホルム宣言)が示されている。
25 いま、市民、労働者の自主管理による協同組合運動が一部で行われているが、経済的民主主義を実現するためにさらに推進されなければならない。
26 自由民主主義の経済も混合経済である。混合経済という点では、社会民主主義と自由民主主義との間に違いはない。違うのは、前者が「環境上の損傷が生じないように生産と消費の枠組みを変更し」(ストックホルム宣言)ながら民主的な改革を進めるのに対し、後者が大資本の利益を優先した経済運営を行うところにある。とはいえ、自由民主主義も環境やエネルギーなど地球的規模の問題や高齢化の間題などに対して無策であるわけではない。むしろ政権を担当している自由民主主義政党は、その政治責任上、社会民主主義者以上に敏感に対応することがある。社会民主主義政党の政策を先取りすることもある。政策選択の幅が狭くなればなるほど社会民主主義者の先見性が問われる。イニシアティブの発揮がなによりも必要である。
四、社会的民主主義をかちとる
27 自由民主主義の原理が私的利潤の追求であるのに対して、社会民主主義の原理は人間の必要の充足である。そのために社会民主主義政党は次の諸権利を尊重し、社会的民主主義を実現する。
 (1) 適切な条件で働くことのできる権利。
 (2) 老齢、身体障害、失業のために働けない市民が経済保障を受ける権利。
 (3) 労働組合を組織し、交渉し、ストライキを行う権利。
 (4) 母性と児童が福祉を受ける権利。
 (5) 医療および出産に対する給付を受ける権利。
 (6) 教育、訓練を受ける権利。
 (7) 余暇の権利。
 (8) 生活しやすい環境のなかで良好な住宅に住む権利。
28 いまとくに重視されなければならないのは、男女間の不平等の解消である。現在、女性は低賃金と失業の脅威にさらされ、職業と政治構造のなかで従属的地位におかれている。男性の家父長的態度による抑圧も認められる。女性の自由と公正(平等)を実現するためには、男女間の平等を保障する立法措置と積極的な行動プログラム、女性のための職業訓練と職業上の差別廃止を促進するためのプログラム、同一の労働に同一賃金を保障する立法措置、出産など家族計画に対する援助、保育施設の充実、政治的・社会的活動における女性への公正と平等な参加に対する公的支持、などが必要である。
29 社会民主主義の労働政策のなかで重視されなければならなのは、労働者の経営参加と所有参加である。前者についてはよく知られている西ドイツの共同決定をはじめ、スウェーデンにおける労働者重役制などがあり、後者についてはスウェーデンの労働者共同基金制度などがある。わが国では労使協議制が広く行われているが、経営参加の実をあげているとはいい難い。
五、民主主義を世界に広げる
30 いかなる国民も、孤立してその政治的、経済的、社会的問題を解決することはできない。世界各地の異なる地域に住む人びとの運命は、いまいかなる時代よりも相互に緊密に結び合わされている。核の脅威からの解放、軍縮、自然環境の保護、南の飢餓と貧困の解決、発展途上国の累積債務の解消、人種差別の廃止、麻薬の撲滅、さらにソ連、東欧の改革、などの間題はもちろんのこと、政治的・経済的相互依存関係がかつてなく強まっている今日、一つの国だけで解決できる問題はない。従って、社会民主主義者は、基本価値の実現を一国だけにとどめることはできない。全世界において、地球的規模で実現しなければならない。社会民主主義は国境を越えるのである。
31 まず全世界から飢餓と貧困を追放し、雇用と繁栄をもたらすために、生簡学的に均衡のとれた新しい国際経済秩序を樹立しなけばならない。南の国々に対しては、市場開放、開発援助、技術移転などとともに、政治的・社会的民主主義の実現、とりわけ人権の確立と独裁の排除のために協力することが大切である。国際的債務問題については、より貧しい国の債務の軽減、切り捨て、証券化などの具体的万策を講ずるべきである。これらの諸問題の解決のために、国際連合とその諸機関の活動を強化しなければならない。
32 社会民主主義は、平和を、すべての政治体制にとって共通の利益であり、人類の存続にとって必要不可欠な価値であると考える。国際紛争をひき起こす経済的・社会的原因は、地球的規模での公正の実現によって、また全世界の紛争を平和的に解決するための各国の共同の努力によって根絶しなければならない。
 核抑止力や通常兵器の軍拡を通じて永続的な平和を保障できるという神話は、東西対立という構造が崩壊したいま、すみやかに追放されなければならないであろう。
【V】結びにかえて
33 社会民主主義政党は国民政党である。国民政党として国民の生命と財産を守り、国土を保全する。社会民主主義政党は、ひろく国民を代表する政党であるが、国民の複雑な利害を調整してその相対多数を代表する政党になることは容易なことではない。労働者だけをみても、労働生活の違いを反映して意識のうえでの多様化が進んでいる。農民と労働者の利害が対立することもある。社会民主主義政党は、中小商工業者を含めた国民の利害の対立を調整して、ひろく国民の多数の支持を得て政権政党にならなければならない。
34 社会主義インターナショナルは、すでに紹介したようにストックホルム宣言で、(1)地球的規模での環境問題、(2)自然生態に立脚し「生活の質」を重視した新経済秩序、(3)核の廃棄と軍縮、(4)女性の解放、(5)新しい国際文化の創造、等への挑戦を開始した。二一世紀世界の創造に向けての壮大な歩みである。ソ連、東欧の国々も社会民主主義の道を選択して、新しい社会づくりを始めようとしている国がある。
 社会民主主義を選択した日本社会党は、冷戦構造が崩壊した今日の世界情況のなかで、上記の諸課題をみずからのものとしながら、日本における社会民主主義の新しい道を切り開いていかなければならない。
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