分権自治の時代をめざして3
へ、経営主義的地方行財政の転換
@国民福祉に役立つ行財政の運営
自治体の行財政運営は、高度成長の下で事務・事業の下請化、民営化が進められる。
こうした合理化によって自治体が本来もっとも手をさしのべるべき階層への負担が強化され、逆に費用負担を強化すべき階層には緩和されることになることは明らかである。このため住民福祉に役立つように行政を運営するためには、(イ)能力に応じて税の負担を強化する。(ロ)自治体のサービスによって利益を受ける企業の社会的負担を強化する。(ハ)自治体が公有地、公有水面、埋立地等の資産を売却する場合の価格については、原価によるのではなく市場価格に準拠した価格とする。
また予算及び財務会計については、(イ)民主的に決定される基本計画に基づき、その会計年度は、二年制とし、その内容は計画的予算とし、また、(ロ)事業の進捗率がわかるような決算内容とする。
A地方公営企業の改革
交通・病院・水道などの地方公営企業は、住民の日常生活に不可欠であり、これが経営主義に陥れば、住民の負担は増大するばかりか、サービスもまた低下することとなる。したがって、これら地方公営企業を福祉向上に寄与させるためには、(イ)住民生活に直結する交通・水道・病院については現行独立採算制を廃止し、交通事業におけるバス車輛整備、地下鉄建設、水道における水資源開発及び導水施設の整備、病院事業における建物及び器具の整備等のような資本費部分については、国庫及び自治体の一般会計の負担とすることとし、料金収入には依存しないこととする。(ロ)経営経費については料金収入で賄うこととし、国民に対する平均的サービスとそれを超えるサービスのための費用とに区分し、この超過サービスに対する費用にかかわる料金は、応能原則を徹底し、割増料金とする。(ハ)工業用水道、電気事業等のようにそのサービスの対象が企業利益の追求につながるような公営企業については、経営原則に基づき独立採算制を維持する。
四、分権と民主的統合
わが党は、地方自治の意義について、一つには、民主主義の拠点であり、国民の政治参加の窓口であり、二つには、住民の相互連帯形成の場である、三つには、民主的統合の土台である、として認識するとともにこれを保障する自治行政を確立するため、行財政権限の自治体委譲を中心とする分権化を提起してきた。しかし民主的統合の土台と位置づけていることからも明らかなように国と自治体とが相互に緊張関係をはらみつつも国民福祉の向上をはかるためには、両者の関係について民主的に調整する場が不可欠である。
現在の国の行政組織として設けられている自治省は、憲法及び地方自治法に基づいて、こうした民主的調整機能を果す機関ではなく、逆に地方自治に対する自民党政府の後見的管理、監督を強化する機関となっている。
もちろん戦前の内務省とは異なり、自治省は一元的支配を行なっているわけではなく、各省庁の多元的かつセクショナリズムによる支配の中で相対的に強力な支配を有しているにとどまっているが、地方自治にとってこうした権力的管理・監督は百害あって一利もないことは言うまでもない。
したがって@自治省を中心とする自民党政府の権力的管理・監督を排除して、A各省庁の多元的かつセクト的支配を通じて行なわれる国の政策を民主的に調整するため「地方自治委員会」の創設をはかり、B国による法律のうち自治体に関係する法律の制定について、住民投票を活用することが必要である。
イ、地方自治委員会の創設
@ 自治大臣を委員長とする地方自治委員会を国家行政組織の一機構として創設する。
A 地方自治委員会は、中央政府代表三分の一、自治体代表三分の二で構成し、自治省は、この事務にあたる。
B 地方自治委員会の機能は(イ)自治体の基本計画と国の経済計画及び国土開発計画との調整、(ロ)地方財政計画の策定、(ハ)地方交付税の総額決定と配分、(ニ)国庫支出金の支出基準及び配分、(ホ)地方債の枠配分、(ヘ)自治体の基本にかかわる法令の制定及び運用上の基本問題、(ト)分権自治を推進するための基本改革の具体化。
ロ、住民投票の活用
憲法九五条の住民投票については、特定自治体の組織及び運営のみならず広く住民の権利・義務にかかわる法律についても適用する。
五、自治体はかく行動する
−国民生活に果す自治体の今後の役割り−
わが国の地方自治は、白民党政府のもとでその発展が制約され、中央集権化の道をたどってきたが、今後は分権自治を基本に民主主義の発展と基本的人権の擁護の徹底をはかり、住民の政治的・経済的・文化的諸生活に寄与していかなければならない。このような観点から長期不況の下で、国民は地方自治に対し、次のような重要かつ緊急な課題の達成を求めている。
イ、地方自治の四つの課題
@ 雇用・失業問題をはじめとする住民生活の緊急な諸課題を解決するために自治体が積極的に行動すること。
A 今後のわが国経済は、住宅・保育所・教育施設等福祉中心の経済に転換することが不可欠であり、そうした経済のもとでは自治体と自治体に対する住民の要求とその下での役割りは増大するので、自治体は地域社会の具体的展望を民主的に提示し、行動することが必要である。
B 低成長経済への移行のもとで自治体が従来の行政運営にメスを入れ、民主主義の発展と住民生活の向上を柱とする民主的、能率的な行財政運営をはかることが大切である。
C 行政サービスの責任と限界を示し、住民の自治活動・ボランティア活動との接点を明らかにする必要がある。
以上の四つの課題を具体的に達成していくためには、@地域開発の理念と目標、それを達成する手法を明らかにすること、A適切な自治体の運営、職員配置、B住民の自主的自治活動の推進、C近隣住区の形成、がはかられなければならない。このような今日的課題に積極的に自治体が取り組むことこそ、地方自治の復権の具体的内容と言わなければならない。
ロ、新たな地域開発の展開
@地域開発の理念の転換
これまでの自民党政府の下での地域開発は、道路・港湾等の通信・輸送網、工業用水、工業用地などの産業基盤を中央政府や自治体の手によって集中的に整備することによって、地域の資源・労働力を資本のために効率的に利用し、資本蓄積をはかることであった。こうした地域開発のもとでは、企業立地そのものが目的化し、地域の特性に基づいて産業・福祉など地域社会における住民の広範な経済・社会・文化の不均衡を是正するという本来の目的が無視されてしまうことは当然といわなければならない。今後の地域開発は、こうした本来の理念に立脚し、低成長経済への移行、福祉中心の経済への転換を各地域において具体的に進めるものでなければならない。
A地域開発の三つの具体的課題
こうした理念のもとで掲げるべき地域開発の具体的課題は次の三つである。
(イ) 住民の所得・分配・雇用の確保、向上のための産業政策の確立
地域社会における雇用の維持・拡大と所得・分配の確保、向上のための農林水産業の振興、中小企業等地場産業の育成等の産業政策を確立すること。
(ロ) 安全、健康、快適な地域社会の建設
住民の安全、健康、快適な生活を保障するための住宅、交通、福祉施設、文化施設等の社会的生活手段を整備し、公害、自然災害から住民の健康と生活を保持するための必要な行財政の運営を確立すること。
(ハ) 企業立地と地域資源の民主的利用
企業立地の誘導及び規制手段を確立し、水資源、土地、森林等の地域資源を民主的管理に利用する方策を確立すること。
B 地域開発推進の手段
自民党政府の地域開発推進の手段は、一つは、「新産業都市建設及び工業整備特別地域整備のための国の財政上の特別措置法」にみられるように地方債充当率の引き上げと利子補給、国庫補助金と地方債を産業基盤整備事業へ重点的に支出し、国庫補助金と地方交付税の一体的運用をはかるという財政誘導策であり、二つは、自治体の企業に対する固定資産税の減免措置にみられるような行財政上の各種の誘導及び奨励手段を活用することであった。
こうした誘導手段は、誤った地域開発の理念の下で資本の利益の拡大のみに向けられたため、自治体行財政と住民生活に多くの困難をもたらしたが、わが党の地域開発政策の下では、こうした手段も含め、様々な開発推進のための手段は、住民生活の向上を目的として進められる。すなわち、わが党の地域開発推進の手段は次の三つの原則によって進め、無原則な私企業主導の第三セクター方式はとらない。
(イ) 住民の参加及び近隣住区の同意による地域開発計画と事業計画において私企業の営利活動では住民福祉の向上とはならない分野、例えば、廃棄物の再処理による資源化事業等に対しては、自治体が直接研究開発を行なう。
(ロ) 地域農漁業の振興に果す自治体の役割りを高めるため、農機具の共同利用センター、冷凍貯蔵施設の設置等については公社を設置し、農漁業の振興をはかる。
(ハ) 住民福祉に役立つ産業開発で企業が自治体のコントロールの下に立地する場合、行財政等の誘導策を講ずる。逆に国民福祉に役立たない企業については、行財政上の規制策を講ずる。
ハ、民主主義、住民福祉を向上させるための自治行政の確立
自民党政府は、これまでの自治行政に効率化・能率化を求め、そのための様々な合理化攻撃を加えてきた。すなわち@自治体職員の退職強要、賃金抑制であり。A行政事務及び事業について特別会計への移行、外部委託であり、B自治体行政の広域化等である。こうした合理化は、(イ)誰でも利用できる機会を奪い、地域格差を拡大している。(ロ)所得の高低によって施設の利用が制限されている。(ハ)住民の生活向上をはかるどころか、逆に生活内容を低下させている、(ニ)広域化によって住民自治が空洞化している等の結果を招いている。したがってこうした効果・能率化は住民生活とはおよそ無縁なものであることは言うまでもない。
わが党は、こうした住民生活とは無縁な能率化・効率化ではなく民主主義の発展と基本的人権を擁護し、前述のような自治体の今日的課題を達成して、民主的かつ能率的自治体行政を確立するため次のような対策を講ずる。
第一に、自治体行政の担い手である職員が働きがいのある職場をつくり、国民生活に不可欠な部局には十分な職員を配置することにより職員の自発性が促進される体制を確立すること。
第二に、国民生活について不要不急な国の施設に反対し、抵抗すること。
第三に、住民要求に応えるため、事業ごとに行政の優先席を定め、計画的かつ体系的に執行すること。
第四に、事業ごとの裏付けとなる財源を明示し、事業ごとの達成目標とその進捗度を明らかにする予算・決算制度とする。
第五に、サービスに対する住民の負担はシビル・ミニマムの水準を超える部分については応能原則によることとする。
ニ、住民の自治活動と社会参加の推進
自治体の任務が住民の福祉向上をめざしている以上、この行政サービスをすべて経済合理性で処理することはできない。
なぜなら、第一に、自治体は中央政府と異なり、サービスの諸制度の整備のみならず、諸制度を運営し、そのサービスを具体的に運営・供給しなければならず、第二に、福祉を具体化するものは人間であり、機械に置きかえることはできないのであり、第三に、このサービスのすべてを自治体の職員で完全に供給しようとすれば、二四時間あらゆる事態に備えて職員を確保し、配置しなければならず、実態的に不可能なことである。
したがって、自治体は、行政サービスの諸制度の体系を整備し、その運営を中心となって支える職員を確保・配置し、それ以外においては住民の自治活動と社会参加(ボランティア)に委ねるべきである。福祉行政が最終的には人間の連帯によってのみ支えられることを考えればこのことは当然と言える。そのためにも、@自治体は、住民の自主的な自治活動を推進する諸制度の整備、すなわち市民会館、公民館、図書館、公園、運動場、レクリエーション施設をはじめとする社会的手段について住民との共同管理・共同運営をはかり、A自治体行政を住民の社会参加のための自発的活動(ボランティア)に基礎を置く広場とするべきである。Bまたこうしたボランティア活動を促進するためにボランティア・センターを設置するほか、その養成訓練などを進め、ボランティアが心配なく活動しうるよう保障する。
ホ、住民の近隣住区の推進と自治体の役割り
@近隣住区推進の背景とその諸問題
最近、近隣住区の形成が多方面から論議され、自治省においては、昭和四八年からモデル・コミュニティ施設を全国八三地区に指定し、推進するなどかなり活発化している。また高度成長の破綻とともに住民は、従来の価値観から転換する過程において、人間的触れ合いと質重視を希求し、その具体的な場をコミュニティの推進に求めている。
このようにコミュニティが希求される背景にはいくつかの要因がある。大別すれば次のように指摘することができる。
第一は、高度成長下で著しく進展した都市化によって、伝統的な地域社会が崩壊ないし変質した結果、住民の従来からの人間的連帯が薄れたことである。
第二は、都市化の進展にともなって、住民の居住地、職場そして休息のための余暇が遠隔化し、それぞれが有機性を持ち得ず、また合理化の進行によって人間的疎外が克服されるどころか拡大していることである。
第三は、こうした傾向の中で地域社会における諸問題の発生が極めて複雑化し、住民生活が著しく影響を受けることとなり、その結果地域社会との関係の在り方が強く認識されてきていることである。
こうした背景を持つコミュニティの推進について、どのようにアプローチするか基本的に二つの道がある。
一つは、言うまでもなく自治省が地区指定を行なって推進しているように行政が積極的にその形成を推進する道であり、二つには、住民の自発性に基礎を置き、住民の人間的連帯意識の形成によってコミュニティ形成の精神的土台をまず作り上げていく道である。
言うまでもなくわが党は、この第二の道に基づき、自治体行政は、そのための物的基礎を整備することに専心すべきであると考える。なぜなら自民党政府が進めている行政主導のコミュニティには、行政施設の整備が、コミュニティの条件であるかのように考え、住民生活をこの考えによって再編成しようとしているからである。このようなコミュニティがその名前とは似ても似つかぬものであることは言うまでもないし、地域民主主義の確立とは程遠いものであることは言うまでもない。
A近隣住区の推進主体
コミュニティを推進するものが、住民であることは言うまでもないが、それは単なる個人によって推進されるものではない。従来のボス的支配、行政の下請的機能を残存させている町内会、部落会に参加する住民によって推進されるのではなく、民主的に再結集された住民によってはじめて地域民主主義の核としてのコミュニティが推進されるものである。したがってわが党は、既存の町内会等の組織の民主化に努力するが、他方、住民生活に噴出する様々な問題を解決しつつ住民を民主的に再結集するため地域勤労者協議会の組織化を進め、コミュニティの推進主体とする。
B自治体の役割り
こうした考えからすれば、自治体のコミュニティ推進に果す役割りは、住民の自発性を促す外的条件の整備にとどまるべきであることは言うまでもない。
すなわち第一は、自治体内部の分権化を推進し、自治行政権限がより一層住民の身近な所におかれ、その運営が住民の手によってなされるようにすることである。
第二は、自治体の公的施設の整備において、その企画から実施に至るまで住民の参加がはかられることである。
分権自治の時代をめざして3
へ、経営主義的地方行財政の転換
@国民福祉に役立つ行財政の運営
自治体の行財政運営は、高度成長の下で事務・事業の下請化、民営化が進められる。
こうした合理化によって自治体が本来もっとも手をさしのべるべき階層への負担が強化され、逆に費用負担を強化すべき階層には緩和されることになることは明らかである。このため住民福祉に役立つように行政を運営するためには、(イ)能力に応じて税の負担を強化する。(ロ)自治体のサービスによって利益を受ける企業の社会的負担を強化する。(ハ)自治体が公有地、公有水面、埋立地等の資産を売却する場合の価格については、原価によるのではなく市場価格に準拠した価格とする。
また予算及び財務会計については、(イ)民主的に決定される基本計画に基づき、その会計年度は、二年制とし、その内容は計画的予算とし、また、(ロ)事業の進捗率がわかるような決算内容とする。
A地方公営企業の改革
交通・病院・水道などの地方公営企業は、住民の日常生活に不可欠であり、これが経営主義に陥れば、住民の負担は増大するばかりか、サービスもまた低下することとなる。したがって、これら地方公営企業を福祉向上に寄与させるためには、(イ)住民生活に直結する交通・水道・病院については現行独立採算制を廃止し、交通事業におけるバス車輛整備、地下鉄建設、水道における水資源開発及び導水施設の整備、病院事業における建物及び器具の整備等のような資本費部分については、国庫及び自治体の一般会計の負担とすることとし、料金収入には依存しないこととする。(ロ)経営経費については料金収入で賄うこととし、国民に対する平均的サービスとそれを超えるサービスのための費用とに区分し、この超過サービスに対する費用にかかわる料金は、応能原則を徹底し、割増料金とする。(ハ)工業用水道、電気事業等のようにそのサービスの対象が企業利益の追求につながるような公営企業については、経営原則に基づき独立採算制を維持する。
四、分権と民主的統合
わが党は、地方自治の意義について、一つには、民主主義の拠点であり、国民の政治参加の窓口であり、二つには、住民の相互連帯形成の場である、三つには、民主的統合の土台である、として認識するとともにこれを保障する自治行政を確立するため、行財政権限の自治体委譲を中心とする分権化を提起してきた。しかし民主的統合の土台と位置づけていることからも明らかなように国と自治体とが相互に緊張関係をはらみつつも国民福祉の向上をはかるためには、両者の関係について民主的に調整する場が不可欠である。
現在の国の行政組織として設けられている自治省は、憲法及び地方自治法に基づいて、こうした民主的調整機能を果す機関ではなく、逆に地方自治に対する自民党政府の後見的管理、監督を強化する機関となっている。
もちろん戦前の内務省とは異なり、自治省は一元的支配を行なっているわけではなく、各省庁の多元的かつセクショナリズムによる支配の中で相対的に強力な支配を有しているにとどまっているが、地方自治にとってこうした権力的管理・監督は百害あって一利もないことは言うまでもない。
したがって@自治省を中心とする自民党政府の権力的管理・監督を排除して、A各省庁の多元的かつセクト的支配を通じて行なわれる国の政策を民主的に調整するため「地方自治委員会」の創設をはかり、B国による法律のうち自治体に関係する法律の制定について、住民投票を活用することが必要である。
イ、地方自治委員会の創設
@ 自治大臣を委員長とする地方自治委員会を国家行政組織の一機構として創設する。
A 地方自治委員会は、中央政府代表三分の一、自治体代表三分の二で構成し、自治省は、この事務にあたる。
B 地方自治委員会の機能は(イ)自治体の基本計画と国の経済計画及び国土開発計画との調整、(ロ)地方財政計画の策定、(ハ)地方交付税の総額決定と配分、(ニ)国庫支出金の支出基準及び配分、(ホ)地方債の枠配分、(ヘ)自治体の基本にかかわる法令の制定及び運用上の基本問題、(ト)分権自治を推進するための基本改革の具体化。
ロ、住民投票の活用
憲法九五条の住民投票については、特定自治体の組織及び運営のみならず広く住民の権利・義務にかかわる法律についても適用する。
五、自治体はかく行動する
−国民生活に果す自治体の今後の役割り−
わが国の地方自治は、白民党政府のもとでその発展が制約され、中央集権化の道をたどってきたが、今後は分権自治を基本に民主主義の発展と基本的人権の擁護の徹底をはかり、住民の政治的・経済的・文化的諸生活に寄与していかなければならない。このような観点から長期不況の下で、国民は地方自治に対し、次のような重要かつ緊急な課題の達成を求めている。
イ、地方自治の四つの課題
@ 雇用・失業問題をはじめとする住民生活の緊急な諸課題を解決するために自治体が積極的に行動すること。
A 今後のわが国経済は、住宅・保育所・教育施設等福祉中心の経済に転換することが不可欠であり、そうした経済のもとでは自治体と自治体に対する住民の要求とその下での役割りは増大するので、自治体は地域社会の具体的展望を民主的に提示し、行動することが必要である。
B 低成長経済への移行のもとで自治体が従来の行政運営にメスを入れ、民主主義の発展と住民生活の向上を柱とする民主的、能率的な行財政運営をはかることが大切である。
C 行政サービスの責任と限界を示し、住民の自治活動・ボランティア活動との接点を明らかにする必要がある。
以上の四つの課題を具体的に達成していくためには、@地域開発の理念と目標、それを達成する手法を明らかにすること、A適切な自治体の運営、職員配置、B住民の自主的自治活動の推進、C近隣住区の形成、がはかられなければならない。このような今日的課題に積極的に自治体が取り組むことこそ、地方自治の復権の具体的内容と言わなければならない。
ロ、新たな地域開発の展開
@地域開発の理念の転換
これまでの自民党政府の下での地域開発は、道路・港湾等の通信・輸送網、工業用水、工業用地などの産業基盤を中央政府や自治体の手によって集中的に整備することによって、地域の資源・労働力を資本のために効率的に利用し、資本蓄積をはかることであった。こうした地域開発のもとでは、企業立地そのものが目的化し、地域の特性に基づいて産業・福祉など地域社会における住民の広範な経済・社会・文化の不均衡を是正するという本来の目的が無視されてしまうことは当然といわなければならない。今後の地域開発は、こうした本来の理念に立脚し、低成長経済への移行、福祉中心の経済への転換を各地域において具体的に進めるものでなければならない。
A地域開発の三つの具体的課題
こうした理念のもとで掲げるべき地域開発の具体的課題は次の三つである。
(イ) 住民の所得・分配・雇用の確保、向上のための産業政策の確立
地域社会における雇用の維持・拡大と所得・分配の確保、向上のための農林水産業の振興、中小企業等地場産業の育成等の産業政策を確立すること。
(ロ) 安全、健康、快適な地域社会の建設
住民の安全、健康、快適な生活を保障するための住宅、交通、福祉施設、文化施設等の社会的生活手段を整備し、公害、自然災害から住民の健康と生活を保持するための必要な行財政の運営を確立すること。
(ハ) 企業立地と地域資源の民主的利用
企業立地の誘導及び規制手段を確立し、水資源、土地、森林等の地域資源を民主的管理に利用する方策を確立すること。
B 地域開発推進の手段
自民党政府の地域開発推進の手段は、一つは、「新産業都市建設及び工業整備特別地域整備のための国の財政上の特別措置法」にみられるように地方債充当率の引き上げと利子補給、国庫補助金と地方債を産業基盤整備事業へ重点的に支出し、国庫補助金と地方交付税の一体的運用をはかるという財政誘導策であり、二つは、自治体の企業に対する固定資産税の減免措置にみられるような行財政上の各種の誘導及び奨励手段を活用することであった。
こうした誘導手段は、誤った地域開発の理念の下で資本の利益の拡大のみに向けられたため、自治体行財政と住民生活に多くの困難をもたらしたが、わが党の地域開発政策の下では、こうした手段も含め、様々な開発推進のための手段は、住民生活の向上を目的として進められる。すなわち、わが党の地域開発推進の手段は次の三つの原則によって進め、無原則な私企業主導の第三セクター方式はとらない。
(イ) 住民の参加及び近隣住区の同意による地域開発計画と事業計画において私企業の営利活動では住民福祉の向上とはならない分野、例えば、廃棄物の再処理による資源化事業等に対しては、自治体が直接研究開発を行なう。
(ロ) 地域農漁業の振興に果す自治体の役割りを高めるため、農機具の共同利用センター、冷凍貯蔵施設の設置等については公社を設置し、農漁業の振興をはかる。
(ハ) 住民福祉に役立つ産業開発で企業が自治体のコントロールの下に立地する場合、行財政等の誘導策を講ずる。逆に国民福祉に役立たない企業については、行財政上の規制策を講ずる。
ハ、民主主義、住民福祉を向上させるための自治行政の確立
自民党政府は、これまでの自治行政に効率化・能率化を求め、そのための様々な合理化攻撃を加えてきた。すなわち@自治体職員の退職強要、賃金抑制であり。A行政事務及び事業について特別会計への移行、外部委託であり、B自治体行政の広域化等である。こうした合理化は、(イ)誰でも利用できる機会を奪い、地域格差を拡大している。(ロ)所得の高低によって施設の利用が制限されている。(ハ)住民の生活向上をはかるどころか、逆に生活内容を低下させている、(ニ)広域化によって住民自治が空洞化している等の結果を招いている。したがってこうした効果・能率化は住民生活とはおよそ無縁なものであることは言うまでもない。
わが党は、こうした住民生活とは無縁な能率化・効率化ではなく民主主義の発展と基本的人権を擁護し、前述のような自治体の今日的課題を達成して、民主的かつ能率的自治体行政を確立するため次のような対策を講ずる。
第一に、自治体行政の担い手である職員が働きがいのある職場をつくり、国民生活に不可欠な部局には十分な職員を配置することにより職員の自発性が促進される体制を確立すること。
第二に、国民生活について不要不急な国の施設に反対し、抵抗すること。
第三に、住民要求に応えるため、事業ごとに行政の優先席を定め、計画的かつ体系的に執行すること。
第四に、事業ごとの裏付けとなる財源を明示し、事業ごとの達成目標とその進捗度を明らかにする予算・決算制度とする。
第五に、サービスに対する住民の負担はシビル・ミニマムの水準を超える部分については応能原則によることとする。
ニ、住民の自治活動と社会参加の推進
自治体の任務が住民の福祉向上をめざしている以上、この行政サービスをすべて経済合理性で処理することはできない。
なぜなら、第一に、自治体は中央政府と異なり、サービスの諸制度の整備のみならず、諸制度を運営し、そのサービスを具体的に運営・供給しなければならず、第二に、福祉を具体化するものは人間であり、機械に置きかえることはできないのであり、第三に、このサービスのすべてを自治体の職員で完全に供給しようとすれば、二四時間あらゆる事態に備えて職員を確保し、配置しなければならず、実態的に不可能なことである。
したがって、自治体は、行政サービスの諸制度の体系を整備し、その運営を中心となって支える職員を確保・配置し、それ以外においては住民の自治活動と社会参加(ボランティア)に委ねるべきである。福祉行政が最終的には人間の連帯によってのみ支えられることを考えればこのことは当然と言える。そのためにも、@自治体は、住民の自主的な自治活動を推進する諸制度の整備、すなわち市民会館、公民館、図書館、公園、運動場、レクリエーション施設をはじめとする社会的手段について住民との共同管理・共同運営をはかり、A自治体行政を住民の社会参加のための自発的活動(ボランティア)に基礎を置く広場とするべきである。Bまたこうしたボランティア活動を促進するためにボランティア・センターを設置するほか、その養成訓練などを進め、ボランティアが心配なく活動しうるよう保障する。
ホ、住民の近隣住区の推進と自治体の役割り
@近隣住区推進の背景とその諸問題
最近、近隣住区の形成が多方面から論議され、自治省においては、昭和四八年からモデル・コミュニティ施設を全国八三地区に指定し、推進するなどかなり活発化している。また高度成長の破綻とともに住民は、従来の価値観から転換する過程において、人間的触れ合いと質重視を希求し、その具体的な場をコミュニティの推進に求めている。
このようにコミュニティが希求される背景にはいくつかの要因がある。大別すれば次のように指摘することができる。
第一は、高度成長下で著しく進展した都市化によって、伝統的な地域社会が崩壊ないし変質した結果、住民の従来からの人間的連帯が薄れたことである。
第二は、都市化の進展にともなって、住民の居住地、職場そして休息のための余暇が遠隔化し、それぞれが有機性を持ち得ず、また合理化の進行によって人間的疎外が克服されるどころか拡大していることである。
第三は、こうした傾向の中で地域社会における諸問題の発生が極めて複雑化し、住民生活が著しく影響を受けることとなり、その結果地域社会との関係の在り方が強く認識されてきていることである。
こうした背景を持つコミュニティの推進について、どのようにアプローチするか基本的に二つの道がある。
一つは、言うまでもなく自治省が地区指定を行なって推進しているように行政が積極的にその形成を推進する道であり、二つには、住民の自発性に基礎を置き、住民の人間的連帯意識の形成によってコミュニティ形成の精神的土台をまず作り上げていく道である。
言うまでもなくわが党は、この第二の道に基づき、自治体行政は、そのための物的基礎を整備することに専心すべきであると考える。なぜなら自民党政府が進めている行政主導のコミュニティには、行政施設の整備が、コミュニティの条件であるかのように考え、住民生活をこの考えによって再編成しようとしているからである。このようなコミュニティがその名前とは似ても似つかぬものであることは言うまでもないし、地域民主主義の確立とは程遠いものであることは言うまでもない。
A近隣住区の推進主体
コミュニティを推進するものが、住民であることは言うまでもないが、それは単なる個人によって推進されるものではない。従来のボス的支配、行政の下請的機能を残存させている町内会、部落会に参加する住民によって推進されるのではなく、民主的に再結集された住民によってはじめて地域民主主義の核としてのコミュニティが推進されるものである。したがってわが党は、既存の町内会等の組織の民主化に努力するが、他方、住民生活に噴出する様々な問題を解決しつつ住民を民主的に再結集するため地域勤労者協議会の組織化を進め、コミュニティの推進主体とする。
B自治体の役割り
こうした考えからすれば、自治体のコミュニティ推進に果す役割りは、住民の自発性を促す外的条件の整備にとどまるべきであることは言うまでもない。
すなわち第一は、自治体内部の分権化を推進し、自治行政権限がより一層住民の身近な所におかれ、その運営が住民の手によってなされるようにすることである。
第二は、自治体の公的施設の整備において、その企画から実施に至るまで住民の参加がはかられることである。