*社会党の部落解放運動の基本方針を定めた文書。『資料日本社会党四十年史』(1986)収録。長文のため二ページに分けて掲載。目次は管理者がつけた。画像は狭山差別裁判抗議集会。
一、部落解放運動をめぐる情勢と特徴
二、党の部落問題に対する基本的見解
三、党の部落問題に対する取組み
四、部落の完全解放を実現するために
五、当面の政策
【資料】「国民統一の基本綱領・第二部国民統一の基本政策」第六章より−
一、部落解放運動をめぐる情勢と特徴
(一)六千部落、三百万部落大衆の生涯をかけた部落解放運動は、部落解放同盟を先頭にして闘いとった「同対審」答申とそれにもとづく「同和対策事業特別措置法」の制定(六九年七月)以降、部落問題が全国民の問題として、急速な広がりをみせ、量、質ともにその飛躍的な発展ぶりはめざましく、水平社創立以来、五十余年の闘いの伝統と成果は大きく開花しようとしている。
それは部落解放同盟が「同対審」答申の完全実施、「特別措置法」即時具体化の闘いと狭山差別裁判糾弾闘争を中心に据えての大衆闘争を全国的に展開していることによって、部落解放運動はかつてない全国的な広まりと、その要求闘争の生活への浸透を示しているのであるが、その原因は「特別措置法」を部落大衆の市民的な権利を完全に保障させるという生活のなかの一切の要求を実現する「武器」として日常的な行政闘争を発展させていることである。さらにその盛り上がりを支えるのは、狭山差別裁判を石川青年一人の問題としてではなく、六千部落、三百万人の問題として、その糾弾闘争に立上がり、全力を集中した取組みを展開していることである。
(二)またこの運動を通じ、部落問題の解決が国民的課題であり、政府や自治体の責務であることを明らかにするとともに、部落大衆の要求に応えようとする自治体およびその要求を支持する労働者、人民を多くつくり出していることは大きな成果である。
とくに、最近注目すべき特徴は、わが党と部落解放同盟との連携強化を軸に、自治労、日教組、全逓'、全電通など主要単産との共闘関係が強まりつつあり、「部落の解放なくして労働者の解放はあり得ない」との論証をつかみ、解放運動に立上がる労働者、人民が日ごとに増え、飛躍的な発展を示す解放運動の原動力の役割を果たしつつあることである。
昨年の11・27狭山闘争勝利一万人集会の大成功や狭山差別裁判取消しを要求する二百万目標の署名運動がすでに百七十万に達していることなどは、部落解放同盟に連帯、支持するこうした労働者、人民の力が結集された成果である。
(三)しかるにそれとは逆に、最近各地で差別事件が激発している。とくに、このような差別事件が教育、就職、結婚の分野において続発しているのが特徴である。これらのことは、「軍事大国」への道を突き進む自民党政権が安保体制の強化とアジア再侵略の拡大強化を具体的に推進するために、内外両面にわたる反動的な権力政治の強化と労働者・人民に対する苛酷な搾取と収奪、差別分断と抑圧の攻撃を加えてきている事実によるものだ。自民党政権は、部落差別を単なる封建時代の遺制として残存させているだけでなく、むしろ自民党政権の低賃金政策維持や中教審路線あるいはマル生運動の貫徹など人民支配の道具として、意図的に部落差別の温存助長政策をおこなっている。政府が「同対審」答申の完全実施と「特別措置法」即時具体化を意識的にサボリ、政治的行政的対策を怠り、毎年僅かの予算しか計上しないこと、強権的差別と偏見にもとづいてデッチあげた狭山差別裁判に象徴される部落大衆への集中的な弾圧、自民党の別動隊である「同和会」の育成強化を図っていることなどはそのもっともよき例である。
そのことが前記したような差別事件を激発させているばかりか、部落産業の崩壊、低所得者や生活困窮者の増加、さらには新融和主義が台頭し、部落大衆の生活と権利をますます抑圧する結果となっている。
(四)さらにこんにちの差別事件のもう一つの特徴は、日本共産党が京都厚生会館事件や矢田教育差別事件以来、反部落、差別キャンペーンを展開していることである。日本共産党は「部落解放同盟正常化全国連絡会議」なる分裂組織をデッチあげて狂奔する一方、「解放同吸=朝田一派―暴力集団」という図式を描き、社会的、普遍的に存在する一般大衆の誤った差別意識を利用して、解放運動史上、類例のない悪質かつ徹底した差別キャンペーンを展開し、部落大衆と一般大衆を対立させ、あたかも自民党政権に迎合するような差別の助長、拡大再生産をおこなっている。
しかも日本共産党は、各種選挙が近づくと必ずといっていいほど部落解放運動に対する中傷誹膀にみちた差別キャンペーンをおこない、部落に対する差別憎悪の観念を煽動し、自らはその先頭に立って闘う“英雄”として選挙民からの得票を獲得せんとする集票効果を狙っているのが特徴的やり方である。
(五)こうした自民、共産の態度に対して、わが党は差別撤廃、完全解放の闘いのなかで、部落解放同盟との強い連帯のなかで。真に部落を解放するために、不十分ながらも積極的な取組みを展開し、多くの貢献をなしとげてきた。故松本治一郎氏らの先駆者を先頭に人間解放、差別支配の粉砕、基本的人権の要求をかかげて闘い、戦後、内閣に同和対策審議会を設置させ、「同対審」答申をかちとり、六九年七月に「同和対策特別措置法」を制定させたのをはじめ、社会主義運動と部落解放運動との結合、労働連動と部落解放運動との結合、さらには差別行政から解放行政に転換させる闘いなど諸活動に取組んできた。
(六)しかし、こんにち部落解放運動をめぐる情勢はすでに明らかにしたように闘う側にますます有利に展開されつつも楽観を許さない状況にある。わが党は、こんにちまで闘ってきた成果の上に立って、より一層の闘いを全党的かつ積極的に展開することが急務となっている。したがって、こうした情勢をふまえて、つぎのような基本政策を明らかにし、差別撤廃、完全解放を図るものである。
二、党の部落問題に対する基本的見解
部落解放運動の発展は、差別をどのように把握、認識し、実践するかにかかっている。
党の部落問題に対する考え方を要約するとつぎの通りである。
(一)部落問題は、徳川幕府の大衆管理および農民収奪政策を強行するため、農民を支配階級である武士の次の身分に置き名誉を与えて実質的にしぼりとる方針を収り、そのため、身分制度を確立し、分裂支配をおこなったことに起因する。
(二)今日、部落大衆が身分的差別と階級的搾取の状態におかれ、いまなお、貧困と差別に苦しんでいるのは、部落問題が単に徳川時代からの封建遺制として残存し、未解決状態にあるからではない。日本独占資本の指向する低賃金体制にとって、また安保体制維持のため、労働者・人民を差別・分断支配するもっとも都合よき道具として、意図的に部落差別を温存させ、部落問題解決の対策を放置していることによる。
(三)つまり、部落問題は戦前、戦後を通じて資本主義体制の矛盾と犠牲の集中点となっているばかりか、日本帝国主義がアジアにおけるアメリカ帝国主義の肩代りと侵略を推進、拡大していかなければ、もはや自己の存在を全うすることのできなくなっているために、差別と分断支配が不可欠の要因であり、どうしてもその政策を労働者・人民に強要しなければならなくなっていることである。
(四)そうしたことから、部落大衆に市民的権利−就職および教育の機会均等、住居の自由などの権利−が行政的に不完全にしか保障されておらず、そのため部落大衆の極貧状況は解消されず、その結果として社会的、普遍的な差別観念を生み出し、拡大再生産の根本原因となっている。
また、部落大衆に対する差別の現象形態は多種多様であるが、その現象の生み出している差別の本質はただ一つである。その本質とは、部落大衆が市民的権利を行政的に不完全にしか保障されていないこと、主要な生産関係から部落大衆が除外されていることである。まさに差別の根源的性格は階級的性格の上に立って、分裂と支配の政策としてあらわれ、その思想として表現されている。政府の日本帝国主義政策に従属した差別政策によって、部落大衆が市民的権利の不完全保障と生産関係から疎外されていることはかれらの生存権の否定である。
三、党の部落問題に対する取組み
全国水平社は、わが党の偉大な指導者であった故松本治一郎氏の指導、推進した運動である。その提唱者故西光万吉氏なども、わが党の先輩であり、当時の運動にわが党の諸先輩が多くの面で推進協力してきた。しかし、一九四五年の日本社会党の結成以来七、八年間、わが党は具体的に解放運動を推進したことはあまりなかった。だが、五七年に党は部落解放政策要綱を発表したことや、翌年解放同盟の推進により党をはじめ、労組、民主団体も参加して「部落解放国策樹立要請国民会議」を発足させたことなどによって、かつてない運動の高楊期を迎えた。その成果として、「特別措置法」の制定をかちとったわけである。この間、党は部落問題の完全解決をねがう全国民的規模の盛り上がりを背景にして、内閣に「審議会」を設置させ、その審議活動を監視、督励し、やがて六五年八月に「同対審答申」を出させたことはよく知られているところである。
またこのことは党次元では、同対審答申完全実施推進本部(中執直属)の部落解放特別委員会(政審所管)が、これら解放運動を積極的に推進してきた成果でもある。
「特別措置法」制定によって、党の任務と責任は一段と強まり、解放運動も法制化闘争から具体的実施要求闘争への段階に移行したことから、前記「推進本部」を発展的に解消し、六九年十一月部落解放運動推進委員会(中執直属)を設置、大衆闘争と自治陣闘争を重点とした闘いに取組むこととなった。
以後五年間、推進委員会は解放同盟と相協力しながら、運動を展開してきた。
その結果、一定の成果を収めているのであるが、残念ながら、党の取り組み方は旧態依然としたところがあり、従来から指摘されてきた多くの欠陥と問題点はまだ克服されていない。
すなわち、議会活動、とくに国会活動中心主義となっているとか一部かぎられた党員の献身性に依拠しているとか、選挙のときだけの利用主義的偏向などであるが、これらは実践活動のなかで早急に改善、克服しなければならない。そのためには、なんといっても、党中央・地方を問わず、各級組織と全党員が部落の歴史と現実を正しく認識し、部落解放運動を党活動の最重点課題に据えて、取り組む体制を確立する、そのことがもっとも重要なことであろう。
部落解放政策
部落解放運動を正しく前進させるために
党中央本部
一九七四年四月