●社会主義の目的と原則
一、社会主義の本来の目的は、生産関係並びに社会制度を変革することにより、人間性の完全な解放と人格の尊厳が守られるような社会を実現することにある。従って、社会主義運動は単に権力の獲得を以て終るものではなく、人間による人間の搾取のない正義と自由の社会を創造することを目指している。
二、社会主義は経済的条件の成熟のみによって、必然的に達成されるものではない。それは社会主義を信奉するすべての人の自発的努力を必要とする。社会主義は全体主義と異なり、民衆のひとりひとりの自覚に基く徹底したかつ活発な参加がなくては達成できない。
三、社会主義は、一定の教義の信奉を強制しない国際的な運動である。社会主義者は、その信念の基礎を、いかなる方法による社会分析におくかを問わず、またいかなる立場から出発するかを問わず、すべて同じ一つの目的、すなわち、人間による人間の搾取のない、正義と自由の社会を創造するために努力する。
(一) 政治的民主主義
四、社会主義は自由の息吹きの中においてのみ栄える。社会主義は民主主義を通じてのみ達成できる。また民主主義は社会主義社会においてのみ完全に実現される。
五、従って、社会主義は民衆の民主主義的権利、即ち不当に逮捕されざる権利、独立した司法制度による公正な裁判をうける権利、言論、集会、団体組織、信仰反び良心の自由並びに代議制度、無記名投票による自由選挙を堅持する。しかもこれらの権利は、反対党を含むすべてのものに与えられなければならない。しかし社会主義勢力は暴力により民主主義を破壊せんとするものに対しては、これを傍観するものではなく、あらゆる手段をつくして、民主主義を擁護する権利と義務がある。また社会主義は門地、性、言語、人種又は宗教の別なく、すべての男女に対して完全な権利の平等を認める。
六、社会主義政権樹立の方法は議会主義を厳守し、暴力革命により政権を獲得したり、権力奪取を目的とする階級闘争に偏向することなく、説得により広く国民の広範囲の支持をえて、国家の最高機関たる国会に絶対多数を占めることによって達成する。且つ社会主義は政権獲得後も反対党の存在を許容し、司法権の独立、教育、思想などの自由を抑圧せず、国民の自由な批判と選挙によって政権の所在を定めるものである。社会主義政権の維持のため、前記の民主主義的諸権利を抑圧することは、社会主義を全体主義に堕落せしめるもので、厳しく排撃しなければならない。
社会主義革命は、国家の最高機関たる国会に多数を占めることによって行う。
七、かかる平和的な革命実現の基礎は、民主的な大衆団体を幾重にもつみかさねることによって、保証される。従って社会主義は不断に民主的な大衆団体の培養につとめなければならない。
(二) 社会主義経済
八、社会主義は、公共の利益が私的利潤の利害に優先する制度を以て、資本主義とおきかえることを求める。社会主義の直接の経済目標は、資本主義では完全に達成できない完全雇用、生産力の発展、生活水準の引上げ、社会保障、並びに所得と財産のより平等な分配である。
九、この目的達成のため、生産は少数のもののためではなく、社会全体の必要を満足させるために行わなければならない。それは経済秩序が適正に計画されて始めて可能となる。しかし、その計画化は職業選択の自由と消費選択の自由を失わしめるものではなく、それを完成させるための計画化である。
一〇、この経済秩序の計画化のためには重要産業の公有化が必要である。しかし、産業の公有化はそれ自体が目的でなく、民衆の経済生活と福祉に重大な影響を及ぼす基礎産業と公共的事業を管理する手段として、また民衆を独占的企業の搾取から守る手段として、承認されるものである。実施すべき公有の範囲と計画の方式については、実際に即し慎重に検討せねばならない。
一一、特に日本の特殊事情である人口過剰で、しかも経済資源に極めて乏しい問題に関連して、社会主義は大企業のほかに農業、公共事業、中小企業を再編成し、根本的な国土対策を行い、日本の資源の総合開発と総合的な生産力を最高度に発揮できるよう産業構造を確立せねばならない。
一二、社会主義経済は、所有権の全面的否定をいみしない。それは農業、小売業、中小工業、手工業などの産業部門における個人的経営の存在と両立し得る。社会主義はこれらの中小経営に対し、資本主義制度下における大資本の圧迫から解放すると共に、中小経営に残存する前近代的諸要素はこれを排除する。
社会主義経済はこの目的を達成するため、必要な限り中小経営の協同組合化を推進し、公有化された重要産業と中小経営との間に適正な関係を確保し 中小経営が社会主義計画経済の一環となるよう努力する。
一三、農民の貧窮は明治以来の近代日本の最大の課題であった。人口の約半数を占める農民を困苦欠乏から解放することなくして、日本の民主化はあり得ない。社会主義は第二次大戦後の農地改革の精神を尊重し、働く農民に土地を与え、協同化と機械の導入により生産力を高め、林野に対する国家管理を強化する。
一四、社会主義の目的達成には、すべての国民ができる限り自発的にそれぞれの組織を通じ、経済の諸過程に積極的に責任を以て参加すること、またそれによって行政上その他の官僚主義の行きすぎた発達を阻止することが必要である。
特に労働者と消費者大衆とが、それぞれ組織を通じ、経済の諸過程の運営に参加することは、経済の民主化のために不可欠の要件である。
(三)社会主義と文化
一五、社会主義は生産力を高め社会正義を基礎とした新社会の建設につとめると共に、新しい文化の創造と新しい倫理の確立につとめる。資本主義を動かしている原理は、私的利潤の追求であるが、社会主義は人間の必要の充足を指導原理とする。
社会主義は基本的な政治上の諸権利をみとめるばかりでなく、経済的社会的な権利をも保障する。……働く権利、休暇をとる権利、病気または妊娠の場合の無料医療の権利、老齢、疾病、身体障害、失業の際に経済的保障をうける権利、家族手当の権利、児童及び青少年が能力に応じて教育をうける権利、適当な住宅にすむ権利等……。
また、社会主義は各人に文化的生活を保障するため計画産児を政策とする。
一六、社会主義は経済的動機と共に、人間の尊厳が守られるような社会をつくるという倫理的目的をもっている。社会主義者は資本主義や封建主義、並びにいかなる形態の全体主義に対しても、それが人間の尊厳を傷つけるが故に反対する。
社会主義は精神生活における個性の発達をはかることを目的としている。社会主義は従って文化の発展の条件を用意するものであるが、精神生活の国家権力による統制には反対する。文化的画一主義は人間の尊厳を傷つける故に排撃せねばならない。
社会主義はまた封建的な家族制度のもたらす桎梏、並びに人種的、階級的偏見の一切をなくすことを目指している。
一七、社会主義は貧困を解決し、人類の完全なる文化的発展に道をひらくことを使命とする。社会主義は科学と芸術と教育が少数者の独占物となっている現状を打破し、科学と芸術の宝庫をひらき、万人に享有せしめるよう社会的に保障する。
一八、社会主義は民族独自の文化を尊重する。今日の国際社会は日に日に民族社会を超越していく傾向にあるが、それは多様性をもつ民族文化の役割を抹殺するものではない。社会主義は個性の尊厳を民族の特性を通じて発現しつつ、新しい世界文化の創造に貢献することを目ざしている。
(四) 社会主義と国際主義
一九、社会主義は最初から国際的な運動であった。それはすべての人間をあらゆる形の経済的、精神的、政治的束縛から解放することを目的とする。偏狭な国家主義や孤立的な民族主義は本来、社会主義とは全く無縁のものである。
社会主義は、如何なる国家も孤立してはすべての経済的社会的問題を解決することができないと認める故、国際連帯主義にたつ。
社会主義者は、国際連合憲章の諸原則を、人類進化の現段階における最も強固な平和の基礎として、擁護する。
二〇、社会主義の国際性は、民族固有の文化とその政治的独立を基礎とするものである。社会主義は正しい意味における民族の立場を代表し、民族の名において偏狭な排外主義に自国の民衆を駆りたてようとしたり、特定国家の利益に奉仕せしめようとする企てを克服しなければならない。
二一、植民地及び所謂後進地域における民族独立運動は、民族の独立と人間的解放を目指す限りこれを支持しこれと協力する。所謂後進地域における政治変革は、その地方の封建的、乃至は原始社会構造をそのままにしておいて、その上になされるものであってはならない。またよそからの全体主義に利用されるものであってもならない。社会主義は民族主義を利用して国際的対立を激化せしめ、その上に自己の政治勢力を拡張するような運動は、これを排撃する。
二二、社会主義は、資本主義たると、共産主義たると、共産主義たると[ママ]を問わず、あらゆる形態の帝国主義を排斥する。
社会主義は、またそればかりではなく資本主義、帝国主義がもたらした世界における著しい経済的不均衡を是正し、これを削減するために闘わねばならない。
後進地域における極度の貧困と文盲は民主主義の正しい発展を阻害し、世界の平和と繁栄の脅威となっている後進地域の生活水準の向上は、これらの地域の政治的独立の経済的基礎である。
二三、国際平和については、日本民族の絶対平和の願望を尊重し、世界軍縮の達成に努めると共に、国際連合憲章に基く集団保障を強化することが必要である。また平和運動を大国間の権力闘争の戦術として利用することには反対である。
二四、世界の社会主義運動は共通の目標をもっている。しかし各国の社会主義運動はそれぞれ異った民族的歴史的背景のもとに、それぞれ異った形態と方式で発達してきた。従って、われわれは各国社会主義運動と平等な立場において緊密な連絡と提携を一層強化し、社会主義の共通の目標達成につとめなければならない。特に日本社会主義運動は、アジアとヨーロッパの社会主義の架橋となるべき歴史的使命を有することを銘記せねばならない。
●党の性格と平和革命の方式
(一) 党の性格
一、日本社会党は、日本における民主的な社会主義の建設を目指す政党であって、民主的な社会主義に目覚めたすべての人々に開放される。
二、日本社会党は、労働階級を中核とし、農漁民、中小企業者、知識層等の広範な国民勤労階層からなる結合体である。見は党の綱領、規約を認め、党の政策遂行のために努力する党員によって構成される。すべての党員は、その階層の如何を問わず、党内において平等の権利と義務とを有する。
三、日本社会党は、社会主義実現をめざす行動の党として、定められた規約並びに党は同志の信義と友愛とに基く強固な団結と、少数意見の尊重を含む党内民主主義の確立とを必要とする。党内における自由な討義と決定に対する服従並びにその責任ある遂行とは、すべての党員が守らなければならない義務である。
四、日本社会党は社会主義実現のための長期間にわたる、種々の闘争において、常に国民の先頭に立ち、その精神的指導力を確立しなければならない。そのため、党員は、大衆の模範となるような高い道徳と品性とを養うように日常心掛けねばならない。
五、社会主義は、単に政党の活動によってこれを実現しうるものではない。他の大衆団体との緊密な協力があって始めて、社会主義の実現を期すことができる。
党は、そのため、何よりもまず労働組合、農民組合、その他勤労者の利益を守る大衆同体と常に密接に結合し、その影響力を強化しなければならない。その際、党は、これらの諸団体の自主性をあくまで尊重して、有機的な協力関係を打ち建てるべく努力し、一方的な指導、命令によって、これを支配せんとするが如きは、厳に慎しまなければならない。また党は、組合その他の諸団体が、その本来の目的を逸脱して政党化することに反対する。
六、大衆の先頭に立って、その利益を守るために闘う党は、議員政党に偏してはならない。常に日常闘争を活発に展開しつつ、他方、社会主義思想を発展、深化させて、勤労大衆に向うべき途を示し、議員と一般党員とが隔離し、党員が勤労大衆から浮きれるような現象は、これを根絶するように努めねばならない。
(二)平和革命の方式
七、平和革命実現の基礎となるのは、社会の各方面における民主的、自発的組織の活発な活動である。党がこれらの諸組織を培養、発展させ、これと提携するために努力することが、すなわち平和革命実現のための実践である。
八、日本社会党は、目的は手段を正当化するという思想を排撃する。従って、党は、資本主義の抵抗を克服し、常に暴力革命と階級独裁とを排し、平和のうちに、議会を通じて社会主義を実現することを信条とする。民主主義の徹底による社会主義の実現、すなわち平和革命はある特定の条件の下における一時的な戦術ではなく、常に党がこれを厳守すべき原則である。従って社会党は、社会主義政権樹立の条件として、戦争や恐慌を予定し、これを利用するような方法に反対する。
九、平和革命は、討論、集会、結社、信仰、良心の自由、完全な秘密、平等、自由選挙等、民主主義的諸権利を余すところなく行使して達成される。これらの諸権利を社会主義政権が革命を口実に制限することは許されない。
一〇、議会において多数を獲得して、政権についた後においても、党は司法権の独立、教育、新聞、出版、放送などの自由を抑圧することをせず、国民の批判の自由並びに反対党の存在とその批判の自由とを認め、政権の所在と移動とは、あくまで自由に表明された国民の意思によって定められる,従って社会主義政権の維持は、党の政策の浸透により、勤労大衆が理解と納得とをもって、党に圧倒的支持を与えることによってのみ可能である。
一一、平和革命を実現するためには、地方政治の民主化が不可欠の要件である。従って党は、地方自治体の議会において、社会主義勢力を伸長させ、地方政治の民主化 地固めをするために努力しなければならない。地方における党の勢力の伸長は、中央における社会主義政権の樹立を容易にし、かつその長期にわたる政策の実施を可能ならしめる。