第二部
一 序
社会主義の政党である日本社会党は、その究極の目標を達成するために、資
本主義の枠内においても、国民大衆の日常の経済的、政治的、社会的、文化的
な諸要求のためにたたかう。このたたかいを誠実に勇敢に遂行するわれわれの
みが究極の目標のために道を開くことができる。
われわれは、いま、日本資本主義の諸情勢が直接的な革命的条件の下にある
とは考えていない。われわれの当面する最大の任務は、つざにかかげる日常闘
争を通じて、労働者、農民、小経営者、進歩的知識層、学生、婦人などの広範
な諸階層はもちろん、中小資本家にいたるまで、それぞれの地位と利害関係に
おいてわれわれの党の影響下におき、あるいはそのなかに組織的指導力を確立
し、あるいは好意的協力を確保することである。
資本主義の枠内におけるいっさいのたたかいは、つねに社会主義の実現のた
めの勢力の組織、結集という観点から遂行される。
こうして日本社会党の当面するたたかいは、およそ三つの目標に要約するこ
とができる。
一 平和と独立の確保
二 自由と民主主義の擁護
三 勤労大衆の生活防衛
二
平和と独立の確保
自己の利害のほかに、国民の永遠の幸福と文化の発展を考えることのできな
い支配階級は、日本をアメリカ帝国主義の従属国として「二つの世界」の対立
のなかにおき、あまんじてアメリカの軍事的従僕たらんとする政策を追いもと
めている。
講和条約も安全保障条約も、じつに日本がアメリカの対ソ戦略の一翼である
ことを確認したにすぎなかった。両条約によって日本は、ありうべきアメリカ
の対ソ、対中共戦、その他の戦争に参加を強制されるばかりか、軍事基地や再
軍備の問題をめぐってアメリカへの隷属を強制され.その上に終戦とともに獲
得した民主主義的精神と諸制度までも圧殺することを余儀なくされている。そ
れゆえにこんにちの日本にとっては、民主主義は平和を条件とし、平和は独立
を不可欠の条件としている。そうであればこそ、講和条約と安全保障条約とが
締結されるとき、日本社会党は、平和四原則(全面講和、再軍備反対、中立堅
持、軍事基地反対)を高く掲げてこれに反対し、党の分裂をすら避けえなかっ
たのである。この精神はこんにちといえども貫かれなければならない。なぜな
らば、その後における軍事基地問題の進展は、日本国民の屈辱感を醸成し、民
族独立への要求を熾烈にし、広範な大衆がこれに動員される可能性を生んでい
るからである。
このような民族の独立と自由の運動は、もし日本社会党がこの国民感情を代
表することに成功しなかったならば、反動的な排外運動となり、むしろ独占金
融資本の利益を確保し、勤労者から民主主義と自由を略奪するファシズムの民
族運動となり、金融独占資本の独裁を安泰にする運動に転化されるであろう。
とくに支配階級が「二つの世界」の対立を強調して、対立のあいだに中立はな
いという、それ自身無内容な抽象的な言辞をもって自主中立の政策を排除せん
としているとき、われわれは平和と独立と自由を強調し、その運動が社会主義
の実現につらなることを明らかにして、このたたかいをリードしなければなら
ない。
日本社会党は「平和と独立の確保」のために、つぎのような闘争を党本来の
階級的組織を中心にして敢行する。
1
再軍備の阻止、保安隊・警備隊の解体、平和憲法の擁護
2 政治経済全般にわたるMSA受け入れ態勢の粉砕、戦争経済とドル依存からの
脱却、平和経済の確立
3
日米相互防衛協定、太平洋軍事同盟反対
4 日米安保条約、行政協定の廃棄、サンフランシスコ講和条約の根本的改訂、
軍事基地の撤去、全駐留軍の撤退
5
中国、ソ連、ビルマ、インドネシア、フィリピンなどとの国交回復、全面講
和の達成
6 日本の平和、中立を保証する、中ソをふくむ関係国条約または協定の締結
7
あらゆる国との対等な通商条約、漁業協定の締結、日米通商条約をふくむ既
存の不平等条約の改廃
8 日本、中国等、未加入国の国連への一括加入実現、一つの国連への努力
9
社会主義インター、アジア社会党会議、国際的労働者組織との連携強化
10 中立勢力の強化による国際対立の緩和、解消
三 自由と民主主義の擁護
社会主義革命が平和的な道程の上に実現されることを認識する日本社会党
は、資本主義のなかに、勤労大衆の政治活動の自由と民主主義を確保しなけれ
ばならぬ。
しかるに支配階級は、日本をアメリカに従属させ、再軍備をおしすすめるに
したがって、あたえられた「自由と民主主義」をふたたび勤労大衆の手から奪
取しようとしている。
おくれて世界経済のなかに登場した日本資本主義は、勤労大衆に低い生活水
準をおしつけるという冷酷な手段によって発展した。そのために大衆の経済
的、政治的、文化的な自由と民主主義の要求はつねに制限され、弾圧された。
明治以来、勤労大衆は幾多の犠牲を払いつつ、これにたいするたたかいをつ
づけてきた。日本の支配階級は、アメリカの世界政策に引きずられて「戦争経
済」のなかに再生の道を求めている。低賃金の夢を追う彼らは、公務員の政治
的権利を制限し、勤労大衆の反抗に備えて破防法を制定し、労働三法を改正
し、ストライキ規制法をつくり、国民教育とジャーナリズムをふたたび古い原
理に返そうとしている。またかつての暴力的警察制度と反動的暴力団の復活に
思いをはせて、新しいファシズムのきざしさえ示している。
今や日本の勤労大衆は、アメリカ帝国主義と日本独占金融資本という二重の
圧力にたいして、奪われた自由と民主主義を奪還し、さらにこれを拡充するた
たかいに迫られている。このためにこそわれわれは、広範な勤労大衆を、都
市、農村、漁村において抵抗組織に結集しなければならない。自由と民主主義
の拡充は、そのまま社会主義への前進である。このたたかいの先頭にかかげら
れるわれわれの旗には、およそつぎのような要求がしるされる。
1
言論、出版、表現、思想、集会、結社の自由
2 基本的人権の擁護
3 公務員の政治活動の自由
4 身分による差別待遇の禁止
5 天皇を利用するいっさいの反動政策の排除
6
破防法、公安調査庁法、公安条例など、反動法令と弾圧機構の廃止
7 政治警察国家の再現阻止、自治体を中心とした民主的な警察機構の確立
8 各種首長の公選制の堅持、国および地方自治体行政機構の徹底的民主化
9
議会による民主政治の擁護
四 勤労大衆の生活防衛
「平和と独立の確保」「自由と民主主義の擁護」の闘争も、これがふかく勤
労大衆のなかに根をおろすためには、生活を維持向上させる闘争によって裏づ
けされていなければならない。この裏づけなくしては、「平和と独立」確保の
闘争はたんなる抽象的なスローガンとして、その階級性を喪失する。また「自
由と民主主義」擁護の闘争もたんなる形式的な政治的要求として、無力な言葉
に化してしまう。
日本の支配階級は、「平和経済」のなかに国民の平和と自由と民主主義を確
立し、その生活を安定させ、向上させるかわりに、「戦争経済」を無理じいに
おしすすめている。彼らは膨大な利潤を、長時間労働と労働強化などの劣悪で
不安定な雇用条件、その他いっさいの低賃金政策をもってする搾取の増大で獲
得する。彼らの独占利潤は、財政、金融、価格政策を通じて、たんに賃金労働
者のみでなく、中小資本と農民、その他一般勤労大衆の搾取によってもたらさ
れる。また「戦争経済」強行のために企てられた「合理化」政策は、多数の失
業者を増加させている。軍事工業拡大によるインフレーションは、ふたたび国
民大衆の生活を脅かしはじめている。こうしていまや、労働者、農民、その他
一般勤労大衆を待つものは、その生活水準への圧迫である。日本独占資本の利
潤とアメリカへの貢物は、勤労大衆の血と汗の支配に求められている。
勤労大衆は、支配階級のアメリカ依存と「戦争経済」によってふたたび戦争
に近づけられ、その生命を「ヒロシマ」の運命にゆだねるともに、直接その生
活水準の低下により、自由と平和と文化の生活を奪われつつある。
日本社会党が確固として歩もうとするところは、左にかかげるように、社会
的生産力の増進、国民の自由で平和な生活と文化向上の道である。
そしてこの道は、日本社会党に結集する労働者、農民および一般勤労大衆が
つねに積極的に、組織的に、建設的に活動することによって開かれる。
1
社会主義経済へつうずる平和自立経済の建設のために
イ 日中、日ソ貿易およびアジア経済交流の全面的な拡大による対米一辺倒、
特需依存の従属的状態からの脱却
ロ
軍事予算の削除による減税、社会保障などの生活安定費、文教費の増大、
平和産業の振興
ハ 治山治水と結合した大規模な多目的ダム、電源開発、植林計画、農漁村工
業を中心とした国土資源の総合開発、食糧需給体制の確立
ニ
経済の計画化と民主化
1 金融、電力、石炭、鉄鋼の国有化
2 肥料、造船、主要陸海輸送の国家管理
3 国鉄、専売、電信電話などの公企業の民主化
4
為替管理を中軸とする貿易の計画化
5 経営の民主化
6 アジア諸国の工業化に対応した重化学工業の建設
2 労働者の権利と生活を守るために
イ
完全雇用の実現、失業保険による失業者の生活保障
ロ 同一労働同一賃金、拘束八時間労働制の実現
ハ 国家保障による最低賃金制の実施
ニ 労働者の基本的人権の擁護、悪法の撤廃
ホ
労働基準法の完全実施、臨時工制度の廃止
へ 資本家的合理化反対、平和産業防衛
3 食糧増産と濃漁業経営の安定のために
イ 農地改革の徹底
ロ 国家投資による土地水利などの基本的生産条件の整備改善
ハ 食糧供出制度の合理化と適正価格の設定
ニ 農業経営の改善、協同化の促進
ホ 肥料および重要資材価格の適正化
へ 自由な遠洋漁業の開拓、内海漁業の資源培養にたいする国家的措置
ト 漁業経営の民主化
チ 農林漁業金融機構の拡充、長期低利の融資
4 中小企業の安定のために
イ 各種業態に応じた近代化の促進、とくに経営と施設の協同化の助成
ロ 下請経営の合理的配列
ハ 中小企業にたいする徹底的な減税
ニ 中小企業にたいする特殊金融機関の整備拡充
5
総合的な社会保障制度の確立のために
イ 疾病保健制度
ロ 国民年金制度
ハ 生活扶助制度
ニ 学校給食制度の完備
ホ 大規模な勤労者公営住宅建設の即時実施
6
教育と文化の振興のために
イ 学問の自由、学園自治の保証
口 義務教育費の全額国庫支弁
ハ 国費による育英制度の徹底的な拡充、教育の完全な機会均等
ニ 科学技術の画期的な振興
ホ 健全な国民文化、郷土文化にたいする各種の助成政策
へ 農漁村における公民館、勤労者文化施設の普及徹底
ト 革新文化のマスコミュニケーション育成
7
行財政の確立のために
イ 経済建設、国民生活の保障、文化の振興のための総合的財政計画の樹立
ロ インフレーションの防止
へ 中央・地方を通ずる行財政制度の改革
ニ 高額所得者および大法人にたいする高度累進課税
ホ 事業税、住民税の大幅な軽減