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新しい社会の創造 ―われわれのめざす社会主義の構想―・後半
   第三章 新しい社会の担い手
 われわれの構想する将来社会の担い手となるためには、今日新たな視点からの努力が求められている。なぜなら、今日の高度に発達した資本主義社会と複雑な国際関係のもとでは、ある日壮大な政治決戦によって一挙に社会主義が生まれる、というものではない。したがって、新しい社会の担い手の形成は今日の政治反動を阻止する闘争から、革新連合政府樹立のための闘い、二一世紀の目標を達成するための活動へと不断に前進し発展するものでなければならない。
 われわれの改革闘争の中心課題は、徹底した民主主義闘争の強化であり、日本国憲法の原理に立脚した民主主義の発展のうえに社会主義を構想する。それは社会の圧倒的多数を占める勤労国民の力が社会を変える、という立場である。同時に、民主主義闘争の今日の焦点は、抵抗・要求の闘いの発展としての参加であり、民主主義を新しい段階に発展させることである。
 一 変化する社会と階級階層の構造
 変革の担い手となるべき主体を構築するためには、勤労諸階層のおかれている状態、さらにその将来に起きようとしている変化を鮮明に認識しなければならない。その現状と予見しうる将来への先見性なしに、確実な発展を期することはできない。
 階級階層の構造は過去二〇年間に大きく変化したが、今後二〇年を展望すると、さらに顕著な変化が表面化しようとしている。
 就業者人口の構成は、第三次産業の雇用者が全就業人口の六割を超え、その大部分がサービス部門で働くようになり、第二次産業では機械、電機部門の比重が高まろうとしている。同時に高齢化、高学歴化、高技術化の方向は急速かつ顕著に高まってくる。このようななかで、先端産業部門などの労働者、肉体労働者、知的労働者、第三次産業における労働者などの階層分化が進行する。さらにわが国では、大企業と中小零細企業との二重構造を反映して、劣悪な条件のもとにおかれている労働者が未組織のまま広範に存在している。第三次産業の拡大などのもとに、膨大な女性労働者が不安定な状態におかれていることも大きな問題である。また、食糧自給の向上が求められているにもかかわらず、農民は急速に減少しつつある。そして今日の社会における、市民的要素の比重は高まっておりわれわれの党との関係はますます重要になってきている。
 社会構造のこのような変化に対応して、資本と支配勢力がめざしているのは、大衆管理社会といわれるようなあらゆる媒介手段を動員した強度の管理である。それは企業管理、労務管理にとどまらず、高度に発達する情報の管理などの手段を動員して生活と人間の管理へと拡大しようとしている。同時に彼らは階層分化を巧みに利用して勤労国民の連帯、連合を阻み分断しようとしている。いわゆる「従順な積極性」「管理された自発性」といわれるものである。それは将来社会を展望した彼らの国民再統合の支配戦略であり、よりよく搾取し支配するための資本のしたたかな本質の表現である。
 われわれはこのような管理、分断という人間否定の支配様式に対抗する自立、連帯の人間論理を形成し発展させる。それは勤労国民の側からの自主的、民主的な革新統合への道であり、参加、介入という発展した民主主義闘争を通じて新たな社会の担い手としてすすむ道である。
 このような自立、連帯の社会への胎動は、現段階では政治勢力として顕在化していないが、社会的勢力として各地に生まれつつある。それは全国、全世界に高まりつつある反核、軍縮を求める運動のなかに、自治体における参加、情報公開の動きや労働者の地域活動、人間性の意識に根ざした文化活動、エコロジー運動などのなかに新しい胎動としてあらわれはじめている。とくに、社会正義と真理を探究する青年のエネルギーは管理支配の枠を破って、これらの運動を発展させる使命を担っている。
 婦人は、自立を求め、「男は仕事、女は家庭」という性別分業の思想と体制を打破し労働者として雇用を、母として豊かで健全な家庭と子弟の育成を、女性として社会参加を求めて立ち上がっている。自立した女性の行動なくして社会の変革はありえない。
 このような方向が積極的に発展することこそ新しい社会変革の道を開く。
 二 新しい社会の担い手への道
 壮大な社会変革を現実のものとするためには、その担い手としての新たな能力、条件が求められる。社会を変える基本的な力は、自立した広範な勤労諸階層の連合であることはいうまでもない。同時に、それが効果的に前進するためには、諸運動の明確な展望をもった努力が必要である。われわれはたえざる努力と自己革新を通じてこの新しい社会の担い手への道をすすむ。
 第一にわれわれのめざす将来社会を構想し、現代の諸問題を解決する改革計画をつくる能力を発展させる.資本の戦略を打ち破って、二一世紀へのわれわれの目標をはじめ、将来社会の展望を現実のものとするためには、社会の各分野で具体的に建設の構想を描く能力が求められている。そのプログラムは新たな人間尊重の価値観を基礎にし、積極的な参加によって、諸勢力の連帯、連合の論理を通じて形成きれることはいうまでもない。政策形成の過程は、資本の支配のための政策形成のそれとは本質的に違うのである。
 その能力を高めることは、今日ますます鮮明な課題となっている。人類的課題としての反核・軍縮の要求の高揚のなかで、軍縮を具体的に達成するためのプログラム、権威ある平和戦略研究の拡充、その国際的ネットワークの形成はまさに緊急の課題となっている。大国中心の枠組みでない、すべての国と人民代表によるアジア平和構想、さらに南北間題についても、平和国家として日本が主導的な役割を果たすものである。
 勤労諸階層にとっても、それは重要さを増している。資本と利潤の法則でない、人間と社会進歩のための産業政策、たとえば急速な科学技術の発展が搾取の新しい形態となるのでなく、社会構造の見直しを迫り、人間と生産の関係を新しく構築する可能性の追求など、新しくて重大な課題に当面しているのである。
 革新の構想力の発展−それは革新こそが時代の先見性の能力をもち、創造性をもつことの証左である。この意味での怠慢は革新性の失格を意味している。
 第二にわれわれは、自立と連帯−連合による国民的統合の能力を発展させる。われわれは最初から多数派ではない。しかしそれが互いに結びつき、連帯してすすむとき広さと厚みをもった多数派に確実に転化する。労働運動の重要な柱としての地域の連帯も、企業の枠組みを越えた連帯、地域市民との共同へと必ず発展しなければならない。勤労諸階層のそれぞれの要求と市民的諸要求と運動の場を通じて特権と官僚主義をきびしく排除していくことが求められている。われわれのめざすのは「唯一の前衛政党」ではなく、多元的な社会のなかでの政治的役割を創造的に果たしうる民主主義の党である。
 第三に国際的な党、平和と連帯、格差と抑圧のない国際社会の創出に積極的に貢献する党として活動する。日本社会党は社会主義インター、社会主義国、第三世界、そしてあらゆる国々の平和と社会改革のための諸運動と広く連帯して活動している。われわれはこの意識と実績のうえに、諸国民と諸国家の新しい関係をつくりあげる党として活動する。
 これらの方向は、党を構成する一人一人のたゆまぬ探究の努力と活動の強化によって切り開かれるものである。
  第四章 われわれのめざす社会主義像
 われわれのめざす社会主義は、人間を抑圧するあらゆる疎外から人間を解放し自由と平等、連帯の社会をつくりあげることを目標としている。
 かつて社会主義は人類の歴史における「未来」であったが、いまは「現実」となっている。社会主義はもはや一般論の時代ではなく実際の問題となった。いまわれわれに求められているのは、日本における社会主義の具体像を描きその実現のために前進することである。
 われわれは、それをこれからの新しい時代の社会主義像として真剣に追求する。それは今日までの国際的経験の単なるコピーではない。また、われわれは国際的な社会主義の経験から教訓を学んでいる。われわれの構想は日本の具体的条件における社会主義の道であり、高度工業化社会、高い国際性などの日本的土壌にたった個性豊かな社会主義である。
 その将来への展望を切り開くにあたって、「八○年代路線」で確認した社会主義の四つの枠組み、すなわち、@多様な要素をもつ勤労者を権力の基生とした政権が成立すること、A民主主義を基磐とする政権、B生産と消費の意志決定の過程と運営への勤労諸階層の参加、C経済と社会の主体的な運営―社会化・計画化と市場メカニズムの有効活用との結合が前提条件であると考える。
 われわれはその延長線上に、社会主義の基本的価値と考えるつぎの目標を掲げ、たえざる発展のため努力する。
 一 人間解放をめざして
 われわれのめざす社会主義は、搾取・収奪と非人間化の体系からすべての人間を解放し、真の人間の自由と平等、連帯の社会を実現することを基本内容としている。それは資本主義の生産関係−利潤と資本の論理からの解放、労働が搾取の対象であることを廃絶することを重要な内容としている。
しかし今日、人間を抑圧し疎外しているものはより広範であり深刻である。今日の支配体制はあらゆる面での管理の深化であり、それは生産関係だけでなく、人間としての生活のすべての分野にわたっている。その結果起きるのは人間性と自由な人格の崩壊であり、それが支配の今日的形態の結果である。現代の社会主義に問われているのは、この問題を根底から克服し打開することである。
 われわれのめざすのは、あらゆる人間への抑圧・疎外からの解放である。それは生産関係だけでない、新しい人間価値観−参加と連帯の論理に根ざした社会構造の全般的改革によって初めて可能となる。このような立場での人間解放がわれわれの社会主義の基本目標である。
 二 自由と民主主義の開花をめざして
 人間解放を基本理念とするわれわれの社会主義は、人類の歴史の成果としてかちえた自由と民主主義の発展を社会の基本価値として重視する。
 資本主義は、本来的に自由と民主主義を保障することはできない。彼らにとって、経済的には貧富の格差、政治的には支配と抑圧が不可避の本質である。われわれは自由と民主主義は制度として、社会の本質的な仕組みとして保障されなければならないと考える。すなわち、社会改革のあらゆる面で官僚主義、特権制を排除し、いかなる場合にも自由と民主主義の堅持される社会としての社会主義が構想されなければならない。そのために民主主義の新たな発展の追求−あらゆる面での勤労階層の参加による社会改革を推進する。この道のみが現代的な意味で自由と民主主義を全面的に開花させる道である。
 三 公平と平等の豊かきをめざして
 われわれの社会主義は、これまでの社会とは質的に異なった価値体系で社会をつくりかえる事業であり、第二次大戦後に到達した福祉国家の限界を乗り越えて、資本と利潤の論理にかわる新しい社会モデル、経済モデルを追求する。
 われわれのめざす社会経済の成長は、物質の量的拡大を中心とするものではない。社会的公正と平等を実現し、福祉社会を発展させ、さらに文化的欲求を満たし、自然との共存をはかるバランスのとれた豊かな社会をつくりあげる「社会的成長」である。またそれは集権から分権へ−豊かな創造力をもち、市民の参加による地方と総合計画の一体的進行によってつくりあげられる。
 不平等の是正・失業のない社会、より高い社会的生活水準、労働条件の向上などの実現のために、資源エネルギーなどの制約条件のもとで適切な成長を実現することは、新しい手法−社会主義への道をとるほかない。われわれはその方向を中央管理型経済モデルとは異なった方向、すなわち経済の主体的な制御−社会化・計画化と市場メカニズムの有効活用、生産や分配への労働者の主体的管理のシステムをもって推進する。
 高度な工業力と技術力をもち世界に開かれた日本の社会主義は、社会的成長の大いなる発展の可能性をもっている。
 四 軍備なき世界・諸国民の新たな連帯をめざして
 われわれのめざす日本の社会主義は、世界と不可分の関係のもとに進行する。世界における日本の役割はますます大きなものとなり、新しい国際的秩序と国際的公正のための協力は、自らの生存と発展の不可欠の条件となっている。
 平和と全面軍縮は、核軍拡の脅威のもとでまさに人類生存にかかわる課題となっている。その大事業を発展させるうえで、日本の社会主義は特別の役割を果たさなければならない。われわれのめざす社会主義は国の大小を問わず、すべての諸国民の連帯によって軍備なき世界をめざす崇高な使命を担うものであり、平和への社会主義の理念を新しく構築し直そうとするものである。
 われわれの社会主義は国際社会におけるあらゆる支配と抑圧をみとめず、格差を解消するために積極的な努力を払う。平和憲法の理念にたつ日本における社会主義の発展は、平和と進歩の世界をつくりだすうえで先導的役割を果たすであろう。われわれのめざすのは、世界に開かれた社会主義であり、世界にむけて平和・連帯の理念を高くかかげた社会主義である。これらの意味で、われわれのめざす社会主義は、人類の文明史に新しいモデルを提示するものとなるであろう。
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