新しい社会の創造 ―われわれのめざす社会主義の構想― 第四七回全国党大会 一九八二年一二月一七日
*出典は『資料日本社会党四十年史』(日本社会党中央本部 一九八六.七)。長文のため2ページに分けて掲載。
第一章 歴史の転換にあたって
いまわれわれは、世界史的な転換期にたっている。
現代の資本主義は、第二次大戦後、新たな手法を導入し一定の活力を示してきたが、今日、その本質的な欠陥に加えて、一九七〇年代以降の石油危機の衝撃と果てしなき軍拡予算の圧力のもとに、出口なき失業、不況、インフレのいわゆるスタグフレーションにおちいり、一九三〇年以来の危機を迎えている。
一方、既存の社会主義は、社会改革に幾多の歴史的役割を果たしたが中央集権的計画経済と党と国家の一体化がいまや成長の鈍化をまねき、社会主義における民主主義の問題など幾多の矛盾に直面しており、その復権が求められている。
第三世界の台頭は民族自決、大国と小国の平等、人間開放に新しい局面を開いたが、しかし第三世界はいまだ新国際経済秩序の確立にいたらず、政治体制の選択、平和・非同盟の推進にも混迷がみられる。
現代の社会主義は、こうした現代の資本主義の行き詰まりを打開するとともに、いま社会主義に問われている諸問題を直視し、これらの課題に真正面から取り組まねばならない。
さらにわれわれは、二〇世紀末の今日、社会体制の矛盾とともに、体制の違いを越えて人類存亡の危機が追っていることを認識しなければならない。
その危機をこのまま放置し保守の側に任せるならば、人類は二一世紀初頭に破局に直面するであろう。人類が当面する諸問題は、まず第一に果てしない軍拡競争と核戦争による人類全滅の危機で、それは一刻の猶予も許されない。第二に食料、人口、資源の問題は、全地球的な環境破壊とあいまって、じわじわと迫る人類死滅の危機を警告している。第三に技術革新、コンピュータ化、ロボット化などの進展による人間社会の破壊の危険、いわゆる成熟社会における人間疎外、労働の喜びの喪失、それらに伴う管理社会の強化などまさに全面的な人格の破壊が超こりつつある。しかも南北問題に示される国際的格差の拡大がこの人類危機の解決をますます困難にしている。これらの危機は利潤追及を優先する資本主義によっては絶対に解決が不可能である。
これら人類の存立を脅かす諸問題に付し、われわれの側が豊かな解決能力を示さないかぎり、社会主義は人類によって魅力あるものとなりえないであろう。
われわれはすでに「八〇年代路線」で連合政権を想定し、その任務を明らかにしたが、その発展の上に、予見しうる一定時点の改革目標と近い将来における展望を具体的に描き、現代における社会主義の構想を示そうとするものである。われわれがここにめざす改革目標は、革命によって一挙に完成される理想社会ではなく、長期にわたる連続した社会変革の一過程としてとらえられるものであり、また単に政治、経済のみならず、広く社会的側面に及ぶ人間の全体像にわたるものとして構想されるであろう。それは日本の土壌のうえに将来社会を創造的に築くものとなる。そして、日本の社会主義はアジアと世界の発展に大きく貢献するものとなる。
われわれは、このような現代の社会主義の新しい課題を解決するために前進する。
第二章 二一世紀への挑戦 ―長期の改革プログラム―
われわれは、社会主義への道を絶えざる発展、絶えざる社会改革の進展として考える。この立場から、われわれは将来社会の構想の過程において、まず当面予見しうる段階の社会目標を設定し、二一世紀に挑戦する。その改革は、今日の社会システムの根本的な変更を含み、したがって単なる改良の積み上げではなく、また単なる未来論でもない。われわれがめざすのは勤労国民の英知を集めた二一世紀への社会変革である。
われわれは八〇年代闘争を通じて革新連合政権を樹立し、さらに二一世紀初頭にむけて社会党が有力な役割を果たしつつ連合政権を発展させるなかでこの社会改革を実行する。今日から二一世紀初頭にむけた連続した闘いの期間は歴史的な転換の時期となる。
一 日本の社会はどう変わるか
いま日本の社会はかつて経験しなかった大きな変動に直面している。
今後に見通される日本社会の変動のうち、構造的に進展する条件は、@高齢化、A高学歴化、B労働雇用問題の重大化、C女性の社会への進出、D科学技術の発展、E情報化の進展、F国際化の進展、G地方の重要性の増大化、H食糧・資源エネルギー問題、R環境破壊の進行、J社会的病理現象の拡大、となってあらわれる。
まず、日本は今後二〜三〇年の間に西欧諸国の二〜三倍のスピードで高齢化社会に達する。全人口の二〇%近くが高齢者である社会では医療や年金など社会福祉などの費用が飛躍的に増大し、このままの制度では重大な財政問題を生み出す。さらに雇用労働者の高齢化は年功制、終身雇用制など高度成長を支えた日本的経営基盤の崩壊をもたらす。同時に進行する高学歴化は就業構造を大きく変えることになり、高性能の生産ロボットとコンピューターの導入などは深刻な雇用問題を生じさせる。また、情報化の進展は社会生活と旧来の人間の社会関係を変質させつつある。女性の社会参加への道はいぜんとして狭く、妻としての地位も低いなかで、産業構造の変化によって不安定な条件のまま大量の女性労働が組み込まれることになる。
今後、国際化の進展と地方の重要性の増大は二一世紀にむかう日本の主要な課題となっている。もし、今日のように平和と進歩の世界に逆行する方向と国内における中央集権の体制を続けるならば、重大な破局に直面することになるであろう。
今日の時代における主要な制約条件である食糧・資源エネルギー問題は、国際関係と国内の経済・社会構造の転換を求めている。日本において、さらに世界的に進行する環境破壊とともに、新たな対応がなければ人類的危機の要因として拡大していくのである。
これらの変動要素に対応しきれない現代資本主義社会では、社会的荒廃と人間破壊をもたらし社会的病理現象を拡大させている。産業革命から今日まで、とりわけ二〇世紀は産業の発展を進歩のしるしとした時代である。しかしきたるべき二一世紀は、人間復権を発展の動力としなければ人間社会が崩壊しかねない時代である。
二 社会変革のために
二一世紀初頭にむけた以上のような構造的要因と同時に、われわれが選択的に変えうる重大な条件がある。その第一は国際関係であり、軍拡か軍縮か新国際経済秩序の形成か格差拡大と経済危機かの選択である。六〇〇〇億ドルにのぼる軍事費は全世界で国民生活を圧迫し、南北格差はますます拡大して数億人もの飢餓にひんする人々が存在しているなかで、日本は西側同盟の立場を明らかにし軍事大国への道をつきすすもうとし、平和と連帯、進歩の世界の方向と完全に対立し逆行している。世界にむけた日本の座標軸を大きく転換させることは日本の存立にかかわる急務なのである。
いま全世界で湧き起こっている核兵器反対の運動は、イデオロギーや社会階層の違いを越えて拡大し、それ自体は民衆が自己の存在の危機として自覚し行動していることを示している。われわれの「非核地帯設置」の構想も、このような運動の発展を通じて具体化される。しかし、一つの軍事ブロックにしばられ、自主外交を確立できなければ、平和を求める世界の民衆との連帯は果たせず、危機を排除する国際的な仕組みを発展させることもできない。世界最初の被爆国である立場からも、またアジアの民衆を侵略した過去の深刻な反省のうえからも、相互の信頼と尊敬、連帯を基本においた平和外交を積極的に展開するのが国際社会に果たすべき日本の役割である。
また、激化する南北問題は単に発展途上国の人々の貧困と飢餓だけが問題なのではない。発展途上国が要求しているように、共栄を目標にした総合交渉から出発しなければならない。
二一世紀初頭にむけて、われわれが基本的に変革しようとする第二の柱は経済社会構造の改革である。経済政策については、すでに政府と資本による「縮小均衡モデル」の政策に対置するわれわれの「福祉型成長モデル」として争われているが、安定した経済成長を「社会的成長」として構想し、具体化する。
さきにあげたような資本主義が生み出す変動を保守勢力は解決できないことはいうまでもない。しかし、彼らが手をこまねいていると考えてはならない。出口のないスタグフレーションにおちいった西欧諸国では、ケインズ的政策が失敗に終わった末に「小さな政府」論が登場した。日本でも「行革改革」という名のデフレ政策が強行されようとしている。これらの政策の特徴は、福祉水準の切り下げ、国民負担の増加であり、資本の論理による切り捨て政策である。もちろんこの政策がさまざまな社会変動、国民要求に応えられないことを彼らも知っている。このギャップを他方で国民への管理を強めることで支配しようとする。
このような彼らの二一世紀戦略を許すならば、総合安保体制、軍国化、中央集権の強化などあらゆる手段を動員した管理支配の強化をもたらすのは明白である。このように彼らの二一世紀戦略はきわめて危険である。
われわれはこれに対置して、われわれの二一世紀社会改革を推進する。高技術化による新しい失業や高学歴化に対応する生きがいのある職場、環境を取り戻す事業、都市開発や地域生活整備、女性の社会参加などの解決は新しい社会システムを創造する以外にない。
われわれが社会変革のために第三の柱として重視するのは、「管理」社会から「参加」社会への転換、「集権」から「分権」への発展である。それは民主主義の発展による社会システムの転換でもある。
内外の新しく、かつ深刻な課題を解決するためには、参加と分権を基盤に、社会、経済、政治を相互に連関させて有機的に機能させる体制をつくりあげることが重要になる。
われわれは、自立した人々と組織が、政策形成からその執行にいたる全過程に参加し、連帯を背景に決定していく社会へ改革していく。当事者が重要な連帯の行動を行なうのは地域社会である。この意味で地域社会、自治体の役割はきわめて重要である。国民の政策目標の形成と執行への参加があって初めて改革がすすむのであり、上からの指令や少数者の決定の押しつけからは解決は生まれえない。同時に、このような自立・連帯・参加は、集権型社会から分権型社会への転換を生み出す。分権型社会構造の確立は、保守政権の基盤を崩壊させるものであって、彼らがとりうる政策でないことは明らかである。同時にこれは、現在の社会主義の課題でもある。この意味での民主主義の発展−国民自身が政治を主導することによって社会が進歩しうる時代である。
われわれは二一世紀にむけたこのような社会改革の基礎に、日本国憲法をおく。憲法に明らかにされている恒久平和主義、主権在民、基本的人権の原理は、われわれの改革の基本原理となるものである。憲法の絶対平和・非武装の思想は、軍拡競争を阻止し全面軍縮をめざす世界的人類的理念となるものであり、民主主義の原理は社会の民主的改革の展望を示している。さらに、福祉・教育をはじめとする国民の基本権の規定は、今日求められている社会改革の目標と一致している。このような立場からわれわれは、憲法擁護・完全実施を基調として闘いをすすめる。これは勤労諸階層の連帯一連合の基礎であると同時に、憲法路線を一貫して基本的使命として推進してきた日本社会党こそが大きな責任を担っている。
三 二一世紀への目標
二一世紀初頭にわれわれのめざす目標は、つぎのような平和・福祉・分権の原理にたつ社会である。
(1) 世界平和の象徴となる日本
日本はアジアに位置し、米中ソ三大国の接点にたち、世界の経済に大きく依存し、世界最初の原爆被爆の体験をもつ国である。したがって日本が自ら憲法に立脚する平和国家であるだけでなく、世界平和に積極的に行動する国家となることによって世界の流れを変えることができる。米ソを中心とする核の「均衡論」によるあくなき軍拡を絶ち切るため、平和中立・非核の外交政策を基本とし、ブロックの解体を促進し、自らはいずれの軍事ブロックにも属さないとの国是を堅持する。さらに国連軍縮特別総会で示された各種の非政府機関の役割を増大させ、国連の安全保障機能の強化などを通じ、大国中心の国連を改革し、また大国の枠組みではない新しいアジアの平和機構をつくりあげる。宇宙・海洋の平和利用、平和共存の国際経済を推進する。また、日本の自衛隊は非武装化をめざし縮小する。日本経済の発展を、発展途上国とくにその民衆の犠牲のうえにはかるのではなく、発展途上国との連帯によって南北問題を解決し、新国際経済株序を形成する。多国籍企業の活動をきびしく制限する。あらゆるレベルの民衆外交を積極的に推進する。
(2) 社会的成長のための経済
経済は社会的な必要に応えられるよう計画的に運営される。その計画は中央集権型ではなく、あくまで分権型の計画で、その決定過程に当事者の参加保障する。われわれのめざすのは、GNPを基準とした単なる物質的な経済拡大ではなく、社会的要求の充足にもとづいた成長であり、人間と自然環境との共存、個性ある文化の創造、人格の尊重される生きがいのある社会である。このような社会的成長をとげるために個人およびグループのエネルギーを生かし、その成果の配分は公平に行なう。自営を含む民間企業、公共経済、個人の自発的活動を結合し積極的に発展させる。その目標を社会的成長におき、投資・利潤、生産方法、土地利用、技術発展に利害当事者の参加を保障し公共的に制御する。所有権の機能は社会的目標にそって制限され、独占・寡占の弊害を排除する。労働については、労働時間は短縮され、自由時間は拡大し、自発的労働と文化的活動が保障される。スポーツ、レジャーが人間性の創造のために大きな意味をもつ。高齢者の知恵と経験が社会的に大きな役割を果たす。この社会では身障者が社会の一員として平等に参加する。省資源、ソフト・エネルギー化を実現し、リサイクルの工夫をこらす。食糧自給向上をめざす農業改革をすすめる。
(3) 民主主義を徹底する政治
中央、地方における議会制民主主義を活性化させる。そのため直接的な国民の政治参加の道を最大限に保証し、議会制民主主義と直接民主主義の結合をはかる。そのため市民委員会の活用をはかる。政府は国際社会での平和と共存の追求、全国レベルの経済的計画と誘導、情報の公開、技術的専門家の育成を果たし、各分野の自主性を尊重し、介入を自制する。分権型の社会では自治体の役割が大きい。地球社会や当事者の自律的管理の範囲が拡大される。司法は憲法と人権の守護者となる。警察は人権擁護の機能に集中し、市民のための警察となる。
(4) 豊かな人間性の社会
所得の向上と格差の解消、社会的な保障により国民の生活を安定させるだけでなく、個人の人格の尊重を通じて家庭や地域での新しい人間の連帯を創造し、生態系の維持を含む環境の保全を確保し、交通や生活圏の整備など社会的生活権を拡大する。性と年齢、社会的要因によるあらゆる差別を解消し、市民的自由は完全に保障され、女性の地位は向上し、青年の創造性が生かされる。在日外国人については、国際人権規約の完全な実施により差別を解消する。学校教育の充実だけでなく生涯にわたる教養向上を保障する。人間の復権に根ざした文化の形成のために商業主義から文化・芸術を守り、世界の民衆との相互信頼のうえに新たな文化を創造する。表現と創造の自由は固く守られる。信教の自由を完全に保障し、権力による宗教の管理を排除する。
いうまでもなく、この社会変革は絶えざる努力で達成されるものである。とくに自立した市民による連帯が社会の基本的な原理となるためには、自立を拘束するわが国社会の古い慣習や行動様式の克服が必要である。この目標は、国民にかわってわれわれが実現するという性格のものではない。形成から実現にいたる全過程に国民の英知を結集し、参加のもとに推進しようとする呼びかけである。