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総評「賃金綱領草案」  賃金対策委員会決定(一九五二・二・二二)
*出典は『総評三十年資料集』上(労働教育センター 1986)。『総評十年史』(労働旬報社 1964)によれば、1952年総評調査部を中心に賃金対策委員会が設置され、「委員会は鉄鋼労連、合化労連、炭労、私鉄総連、全繊同盟、日教組、国鉄、全専売、総評本部の代表者で小委員会を作り、賃金綱領とその解説の起草をこの小委員会に託した。小委員会で起草された草案は二月二四日〔ママ〕の賃金対策委員会で、少しばかり修正された上、決定され、二月二七日の常任幹事会で承認された。この賃金綱領草案は、この年六月二二--二四日に開かれる総評第三回大会でそのまま承認され、正式に総評の賃金綱領となるが、草案としてまとめられた時からもう、いわば総評の行動綱領の一つと見なされていた。」と言う。 なお『総評三十年資料集』上には「賃金綱領改正草案」が付されているのでこれも転載するが、その詳細は不明。  全文(zip)
            一
 現在の賃金は、わが国八十余年の賃金の歴史において、いまだかつて経験したことのない極度の低賃金である。文字通りの飢餓賃金である。
 わが国の低賃金は、根本的には農民の極端に貧困な生活水準と、ぼう大な潜在的失業の存在とによって、もたらされたものであり、直接的には、中小工場や家内工業の見るに忍びない低賃金によって支えられてきたものである。そして、それゆえに、わが国の低賃金は、植民地的な低賃金として全世界の非難をあびてきた。
 戦後、わが国の独占資本とその政府は、より一層この低賃金を切り下げることによって、自己の蓄積の強化と復活とをはかってきた。
 そして今日、この飢餓賃金体制は、再軍備と軍需産業の拡大のために、さらに強化されようとしている。
 すなわち農村はより一層崩壊を促され、中小企業は、より一層追いつめられ、そこに作り出される大失業と飢餓賃金との圧迫によって、軍需独占企業の賃金は、著しい生産性向上にもかかわらず、ますます抑圧され、彼等の手に莫大な利潤を蓄積させている。
 しかも、政府はこの体制を固定化するために、一切の労働者の闘争を圧殺する反動支配をもってしようとしている。
        二
 われわれはかかる低賃金に満足することは絶対にできない。また、かかる低質金を押しつける不当な政策を許すことはできない。かかる賃金に満足するならば、われわれは人間としての尊厳と独立とを失い、家畜同様の運命に陥いらざるをえないであろう。
 われわれは、いかなる努力を払ってでもこのような政策を打破し、この状態から脱却し、人間の尊厳と自由と、独立とを保てるだけの賃金に到達しなければならない。そのためにはわれわれはまず、即刻、戦前の賃金水準の回復を実現しなければならない。そして、それはあらゆる経営において今直ちに可能なことである。
 なぜなら、生産は戦前の水準をはるかに超えており、生産性もまた戦前に回復しているからである。
 戦前の賃金水準は、今日われわれの分析によれば少なくとも、手取二万五千円にあたるであろう。しかし、手取二万五千円の戦前賃金水準を回復したとしても、それはただ、かっての世界的に有名な植民地的な低賃金の復活にすぎない。戦後の労働組合結成の最大使命は、戦前の悪名高い植民地的な低賃金を克服して、人間の尊厳にふさわしい賃金を実現することにある。そして、そのような賃金こそは憲法が国民に約束し、政府に義務づけている「健康にして文化的な生活」を保障する賃金にほかならない。われわれは、断乎として、かかる賃金の実現に努力しなければならない。
 われわれの計算によれば、それは少なくとも手取七万円の水準に相当するであろう。もちろんこの賃金は、今直ちに実現することはできないかもしれない。しかし労働者が、かような賃金へ、一歩一歩近ずくに従って、それと同時に低賃金を土台とし、且つそれを強要している現在の産業構造と経済機構とは、一歩一歩変更され、健康にして文化的な生活を営ませることができるものへと移行せざるをえないであろうし、又移行させなければならない。
         三
 だが、しかし、「健康にして文化的な生活」を営むことができる賃金はもちろんのこと、戦前の賃金の回復さえも単なる賃金交渉によっては、絶対に貫徹することはできない。それは、ただ賃金闘争によってのみ獲得することのできるものである。それも単なる賃金闘争−−それぞれの経営、それぞれの産業における従来の賃上げ闘争のみによっては、これを獲得することはできない。
 それぞれの経営と産業とにおいて、従来の賃上げ闘争を最大限に闘かうとともに、現在の低賃金体制の根底を打ち破り、その体制を固定化しようとする一切の政治的抑圧を打ち破るための、具体的な闘争目標を広凡な統一行動で闘かいとることなしには不可能である。
 低賃金体制の根底を打破する闘争目標とは何か。いうまでもなく、それは貧農的生活水準をもつ、ぼう大な潜在的失業の圧迫から労働者を解放し、その圧迫にもとづく中小企業、家内工業の極度の低賃金を引上げるための最低賃金制と社会保障制の確立とにほかならない。
 低賃金体制を固定化しようとする政治的抑圧打破の闘争目標とは何か。いうまでもなく、それは、当面の労働法規改悪、弾圧三法制定を頂点とする一切の反動立法の粉砕にほかならない。
 だが、それだけでは十分ではない。労働者の生活と生命とを根底からおびやかす戦争と再軍備とを阻止することなしには、いかなる賃金の引上げも、生活の向上もありえない。従ってわれわれは、戦争と再軍備との阻止をも、統一行動をもって闘かいとらねばならぬ。
         四
 以上の観点に立つならば、賃金についての全労働者の基本目標、並びに当面の獲得目標は次の通りである。
 一、「健康にして文化的な生活」を営むことができる賃金水準=最低手取七万円の実現。
 二、戦前賃金水準、手取二万五千円平均の即時回復。
 三、全物量方式による実質賃金要求の達成。
 四、最低生活保障を基礎とする合理的賃率‐−−職階給制打破。
 五、拘束八時間労働の完全実施。
 しかして、これらの諸目標達成のための不可欠の前提条件として、即刻、全労働者の統一行動をもって、かちとらねばならないものは、次の四つの要求である。
 一、賃金闘争をはばむ、あらゆる法律を撤回せよ。(労働法規改悪弾圧諸法規絶対反対)
 二、いかなる労働者にも、最低八千円を保障せよ。(最低賃金法の確立)
 三、失業・傷病・老廃後の労働者生活を保障せよ。(社会保障制度の根本的拡充)
 四、再軍備反対・平和憲法を守れ。
         五
 以上の諸目標の達成、そのための統一要求、統一行動はいかにして可能か。
 それは、何よりもまず、すべての産業別組合及び大企業組合が、それぞれの賃金要求の根本的解決は、右の四つの統一要求の達成なしには不可能であること、そのゆえにそれは中小企業、家内工業労働者のみならず、すべての近代的組織労働者の統一要求であることを、十分に認識することからはじめられなければならない。
 そして、それらの力ある組合のイニシアチーブの下に、すべての労働組合が、その独自の諸要求とともに、必らずこの統一要求をかかげて、全国的、全地域的な統一戦線を組織し、この統一戦線の中に一切の中小企業、家内工業、未組織労傷者のエネルギーを結集しなければならない。
 さらに、わが労働者の低賃金水準が、農村における飢餓的生活と滞在失業に基礎をおくものである以上、最も重要な事は、積極的に農民と統一した要求を以て統一行動を起し、労農の統一戦線の機運を築きあげることである。それも軍事予算反対、高率課税反対、潜在失業者の救済、貧困な農村生活水準の向上、農業経営の近代化など具体的に、要求を統一して行かねばならない。
 そして労農提携ができない限り、国民生活水準の向上、完全な民主々義のようごは困難であることを銘記しなければならない。
 このようにして、はじめて統一要求をかちとる具体的な統一闘争は実現するであろう。
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