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当面の活動計画 新しい政党づくりに臨む基本姿勢*1995年5月27日開催の社会党第62回臨時全国大会で決定。出典は『月刊社会党』1995年7月臨時増刊。  
一、はじめに
(l)私たちはいま、時代のスピードを予測できない現実に生きています。さきの自治体選挙で示された無党派層の増大は、市民社会に充満した改革のエネルギーに応えることのできない私たち社会党への不信と苛立ちを表明したものでした。政治地図を塗り替えるほどの力を持つに至った無党派層の政治選択は、緊張感に欠けた政党関係を痛烈に批判するとともに、市民社会が直面した諸課題のすべてを国家と政治だけで解決できるという政党の驕りをも厳しく指摘しています。国家と行政の諸機関に対する信頼を失った市民は、多元的価値社会のなかで自ら参加し、自己決定できるチャンスを要求しています。
(2)他方、市民生活の安全を脅かすできごとも相次いでいます。地下鉄サリン事件は社会不安を高め、阪神・淡路大震災は生活基盤のもろさを浮き彫りにしました。異常な円高は産業の空洞化を招き、就職難は若い世代から未来への展望を奪っています。社会的な不公正は広がり、高齢者や障害者、子どもや定住外国人は競争社会から疎外されています。こうしたなかで、市民はいま、国内治安の確保による安全・安心できる都市生活と社会的公正の実現を求めています。
(3)国際的にはポスト冷戦の新しい平和の確立と地球規模の環境保全が重要な課題となっています。これらの今日的な課題の解決に向けて、政治と国家は自らが「できること、できないこと」を明らかにし、国家の枠を超えて活動する非政府組織や非営利組織、市場経済と産業の担い手である企業や労働組合と連携するなど、新しい枠組みによる取り組みが必要になっています。これらの取り組みを通じて、私たち社会党は市民の社会・政治参画を促し、市民と政治の間に存在する乖離を埋めることに努めなければなりません。
(4)昨年7月の村山政権誕生以来、私たち社会党は首班政党として、政権を支え政治改革、税制改革、年金改正、ガット・ウルグアイラウンド農業合意にともなう国内農業対策の確立、生活重視型予算の編成、被爆者援護法と軍転法の制定など歴代の内閣では解決できない懸案の課題を処理してきました。これは村山内閣でなければなしえない歴史的な成果と言わなければなりません。これらの積年の課題に決着をつけたものの、「政権内部で党の姿が見えない」という世論に直面し、それが全党のジレンマともなっています。この現状を克服するためには、政権内部で主体性を発揮し、市民社会に見える政策論争を展開する必要があります。
(5)村山政権は今日、過去の植民地支配と侵略行為の反省を表した国会決議の採択、水俣病問題の解決、部落解放基本法の制定など平和と生命、人権にかかわる重大な課題に直面しています。私たち社会党は水俣病問題の早期解決と部落解放基本法の制定をめざし、自らの存在をかけて取り組むことにします。村山政権成立時の三党合意である「国会決議」は、歴史観と戦争観にかかわる課題であり、自民党の抵抗で、内容があいまいにされたり、今国会での採択が見送られる事態にでもなれば、連立政権そのものを見直さなければなりません。
(6)重要な局面で開催される本大会の任務は、この「当面の活動計画」で提起している統一自治体選挙の総括、参議院選挙と総選挙方針、新しい政党づくりに臨む基本姿勢について論議して決定するとともに、全党討議に付してきた党の基本文書「95年宣言」の承認を求めるところにあります。「95年宣言」の大会承認によって、綱領的文書「新宣言」は歴史的文書となります。党は活発な論議を通じて、生まれ変わる社会党の姿をはっきりとさせ、7月の参議院選挙と予想される総選挙に勝ちぬく態勢を整えなければなりません。
二、統一自治体選挙の総括
(1)「統一自治体選挙の総括と今後の課題」でも明らかにしたように、さきの第13回統一自治体選挙はわが党にとって厳しい結果となりました。今回の選挙は「55年体制」にかわる新しい政治秩序の形成を求めて、政治も有権者も流動するという激しい変革の過程で実施されました。社会党にとっては政権与党として初の全国的選挙ともなったのであります。しかし、政権与党の実績を活かした選挙を展開できなかったことはきわめて残念です。
(2)全体的に低い投票率が示すように、選挙の盛り上がりに欠けた原因の一つは、選挙を全体的にリードする知事選挙で相乗り候補が増え、象徴的な対決の場面を持つことができなかったことです。それが東京では青島氏、大阪では横山氏の両候補が主要政党の共同推薦した候補者に圧勝する結果を生み出しました。共同推薦で勝利した神奈川県知事選挙でも23万票にも上る異常な無効票が出ています。これは候補者の選考過程で有権者の意思を反映する機会が保障されなかったことや、有権者の選択の幅が狭くなったことに対する批判と不満が噴出したものと見なければなりません。
(3)道府県議会選挙では、公認・推薦あわせて当選者数、当選率ともに過去最低となっています。しかし、後半の市区町村議会選挙では、地域に根を張った個人のネットワークを活かした候補者は善戦しています。今回の選挙では東京の落ちこみが激しいとはいえ、全国的にみれば、公認・推薦とも候補者全員が当選したところもあるなど地域格差が表れています。このことは、既成組織だけに依存しないで、後援会などの個人組織をつくったこと、政策や議会の活動を積み上げたこと−−などが有権者から評価されたことを意味しており、全党の今後の教訓としなければなりません。
(4)今回の選挙では「政党支持なし層」が圧倒的な多数派となり、私たち社会党をはじめ、既成政党に根強い不信感を表明しました。この無党派層は、かつて89年には私たち社会党に、93年には日本新党に投票し、政治の新しい流れをつくりだしています。現在、この無党派層は、政権交代が実現したにもかかわらず、旧態依然とした既成政党の合従連衡や談合政治が続いていると鋭く批判しています。この批判に応えるためには、政策の対抗軸を提示して、政党の個性を競い合い、政治の舞台で存在感を示すことが必要です。とくに平和、人権、生命にかかわる政策課題では、安易な妥協を排して、個性とアイデンティティを鮮明にしなければなりません。
(5)私たち社会党は、無党派層とは決して政治的な無関心贋ではなく、高い政治的関心と鋭敏な判断力を持つ人々であり、今後の政界再編と政党再編の動きにも大きな影響を与えるものと認識しています。したがって、この層との接点を求めて、政策活動や共通の利害を代表する新しい社会運動を、ともに構築することが今後の課題として残されています。
(6)政治は真実を明らかにする任務があります。この立場から、今回の選挙で表れた有権者の不信と不満の要因が、55年体制下で全面対決してきた自民党との政権共有が唐突であったこととそれに理解を求める努力不足、政権内部における存在感が希薄で、自民党と官僚主導の政権に見えること、支持者とのコンセンサスが不十分なまま基本政策を転換したこと、政策転換を支持する有権者の開拓に成功していないこと、政策決定過程や対立点が不透明であること、議員候補の若返りが進展していないこと、労働組合依存の政党イメージが強いこと、与党効果の宣伝不足、「95年宣言」と新党論議が相互不信を助長したことなどにあることを率直に認めなければなりません。いま、現実に存在する批判を恐れずに受け止め、問題点を明確に認識して、市民社会の人々と協同で解決していく謙虚さが求められています。
(7)この謙虚な姿勢を前提に、政権与党のあり方や首班政党としてのリーダーシップの確立、改革的な政策構想や政策差異の提示、新時代を担う人材の発掘や養成、社会的諸グループとの対話能力や新たな支持基盤の開拓など「これからの政権与党」に不可欠な諸問題について、党内外で建設的な論議を深めなければなりません。私たち社会党は、開かれた論議の成果を新しい政党に継承して、市民社会の人々と協同で、21世紀にも脈々と生きる市民政党を誕生させる決意です。
三、新しい政党づくりに臨む基本姿勢
(1)新しい政党をつくる時がきました。1993年の政権交代と55年体制型政治の崩壊は、政界再編の動きを加速化させ、政党と国会議員の離合集散を促しています。現在もその過程にあり、ポスト冷戦とポスト55年体制の新しい政治秩序は、いまだにその全貌を見せていません。私たち社会党は参議院選挙、予想される総選挙を通じて、政治・政党の流動化はさらに激しくなるものと認識しています。この政界再編のスピードに追いつき、追い越すためには、政治の流動化を受け止め、新しい政治勢力結集の基盤を確立しておくことが重要です。
(2)私たち社会党のめざす新しい政党は、民主主義勢力とリベラル勢力を基盤に徹底した民主主義と社会的公正、平和を追求し、さまざまな人々が協同でつくりあげる寛容な市民政党です。この政党は、自民党と新進党の保守二大政党に対抗する新たな「第三の極」として形成される政治勢力であり、政策課題で一致した場合、市民社会の利益を実現するため、どの党とも連立政権を共有します。私たち社会党はいま、自らが社会民主主義政党であることを宣言するとともに、社会民主主義者として新たな政党に参加して積極的な役割を果たすことにします。
(3)新しい政治勢力を結集するにあたって、私たち社会党はまず、広く市民社会や自治体議員、生活協同組合や労働組合、学者や文化人など社会的諸勢力との協同作業を優先して、21世紀の「あるべき政党像」を打ち出し、広く国民の賛同を求めます。これによって、選挙対策を優先した政党の合体や国会議員の数合わせではなく、市民社会と地域の生活者に根ざした政党としてスタートすることになります。さらに、新しい理念・政策目標を掲げて参議院選挙・総選挙を戦い、市民との対話をひろげるとともに、政策の方向性で一致する社会党離党者を含む国会議員の参加を求めます。
(4)私たち社会党は当面、新しい政党づくりの「協同の家」となる新党準備委員会に「95年宣言」を提起して、広範な人々と共感しあえる理念と政策目標の策定に参加するなど協同作業を進め、党名の選択、党首の選出など結党大会に必要な準備に取り組むとともに、新党準備委員会招集の結党大会の時期が確定した段階で、私たち社会党はその結党大会と見合う時期に解党大会を開催し、新たな飛躍に向けて再結集することにします。
(5)私たち社会党が新しい政党をつくる第一の理由は、消費者、生活者、差別されがちな人々のために真剣に取り組み、社会的公正と国際的平和を不断に追求する政党が必要であること、第二は世界の社会民主主義勢力など働く人々と国際連帯のできる政党が必要であること、第三には新旧の保守二大政党に飽き足らない人々が、社会党の良き伝統を継承した新しい政党の登場を期待していること、第四には、党改革の遅れから、古い社会主義概念の政党イメージが定着し、新たな展望を見出せなくなったこと、第五には衆議院に導入された300の小選挙区、11地方ブロック比例代表の新しい選挙制度に対応できる政党が必要であること−−などであります。
(6)したがって、新しい政党は社会党の単なる党名変更や看板の塗り替えではなく、既成の政党や政治家の枠を超え、広く市民社会に門戸を開き、健全な政党政治・議会制民主主義を追求する「変革の政党」として出発させなければなりません。
(7)市民政党をめざす私たち社会党は、新思考に立って、地域事情や支持基盤の関係で無所属で立候補することになる候補者とも、方向性の一致を求めて、新しい政党に包み込む寛容さが求められています。離党者を即敵対関係者としてとらえがちな旧来の政党運営のあり方は、政界再編の過渡期にある現在、慎重に検討する余地を残しています。
(8)新しい政党の基本スタンスは、国際紛争を武力で解決する政治志向を拒否し、地球規模の核廃絶を目標に掲げ、地球環境の保全、市民的・社会的諸権利の確立、公正な市場経済の実現と雇用の確保、社会的公正の追求、女性と子どもの地位向上、都市と農村の再建、文化的基盤の整備におき、これらの課題に全力を集中する社会をつくりあげることが最大の任務となります。
(9)新しい政党と知識人・研究者との協力関係は不可欠であり、アドバイザーチームの編成や政策フォーラムなど未来型の投資が必要です。すでに国際化、高学歴化、情報化、高齢化の進展に対応して、市民は自発的な政策研究所や調査・開発などの専門分野ごとの機関を設置し、活発な活動を続けています。新しい政党は、政党助成金の一部を市民と共有する視点から、これらの機関に調査・研究を委託して、人材の養成、基礎研究、世界規模の情報収集活動を促進するなど政策基盤を確立することを最優先の課題としなければなりません。
(10)19世紀型の産業社会に対応した組織モデルはいま、世界的にも制度疲労をおこし、根本的な変革を迫られています。したがって、新しい政党の組織モデルは中央レベルの縦型組織に偏重せず、分権と参加を基本としたネットワーク型の政党として形成される必要があります。新選挙制度に対応したブロック政党の形成や300選挙区の基本組織のつくりかたも、従来の経験や慣習にとらわれない柔軟な発想で、新党準備委員会で検討することにします。地域の政治勢力をネットする「中央」は、基本的な政治情報や政策のガイドラインを提示して、これから増大が予想される地域政党や、無所属自治体議員と個別課題での政策契約を結ぶなど政治勢力の幅を広げなくてはなりません。
(11)私たち社会党は北は北海道から、南は沖縄まで全国に組織と機関紙の配布網をつくってきました。これは一朝一夕にできるものではなく、50年間の歴史があって可能なことでした。新しい政党はこの財産を活用しつつ、自らの地域基盤を再構築して、さらに新たな分野にウイングを広げなければなりません。
四、参議院選挙と総選挙に関する基本方針
(1)結党50年目の節目に実施される今夏の参議院選挙は、日本社会党の看板で戦うことになります。連立政権に対する民意を初めて問う国政選挙であり、私たち社会党は村山政権の成果と今後の展望を国民に示すとともに、新しい政党イメージを鮮明にして勝ちぬかなければなりません。
(2)新しい政党イメージで参議院選挙に臨むためには、「確かに社会党は変わった」ことが、有権者にわかる候補者を擁立することが最低の条件となります。とくに比例代表選挙の名簿登載順位は政党の質とイメージを決定するのであり、慣例・慣習にとらわれない大胆な発想で、さまざまな工夫をこらし、無党派層にアピールするものとします。
(3)党は、半世紀に及ぶ結党以来の闘いの中で、社会的公正と平和、国際民主主義を求めて輝かしい足跡を残してきました。それが日本の誤りなき平和路線と経済重視の国を形成してきたのであり、私たち社会党はいま、この基本姿勢を継承しつつ、新しい時代をリードできる価値として掲げた公正、共生、平和、創造を、生活者に密着した政策として訴え、新しい党への共感と基盤をつくりださなければなりません。
(4)総選挙準備は決定的に遅れており、全党の特段の取り組みが必要です。予想される総選挙は新しい選挙制度のもとで、政界再編過程における各党の命運をかけた選挙となります。私たち社会党は次期総選挙の基本戦略目標を、自民党、新進党、共産党を除く社会民主主義者、民主主義者、リベラル勢力などで「第三極」を形成するに必要な候補者を擁立し、連立政権を担当できる政治勢力を確保することにおきます。そのためにも候補者擁立を急ぎ、総選挙体制を固め、参議院選挙と一体の戦いを展開し、政局のいかなる急転回にも備えなければなりません。
五、むすび
 国民注視のもとで開催される第62回臨時全国大会は、私たち社会党が自らの歴史を継承しつつ、新しい領域に翼を広げる重要な大会となっています。私たち社会党はいま、未曽有の危機と新しく生まれ変わる絶好のチャンスを手にしています。このチャンスを政権担当によって、日本と世界の永続的な平和と安全に取り組む新政治勢力結集のエネルギーに転化しなければなりません。急激な変化の時代に立ち止まることは後退を意味します。国民は私たち社会党に停滞と後退ではなく、新たな発展、新たな開拓を期待しています。全党は諦めることなく前進し、国民の期待に応える決意です。
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