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日本社会党訪韓代表団と統一民主党との共同記者発表
*日本社会党が初めて社会党として公式に韓国を訪問した際の記録。出典はすべて『月刊社会党』一九九○年二月号 
一、山口鶴男書記長を団長とする日本社会党訪韓代表団は、統一民主党の招待により、一九八九年一二月二一日から一二月二三日の間大韓民国を訪問した。
 代表団は大韓民国滞在中、金泳三総裁をはじめ統一民主党の方方の温かい歓迎をうけた。
一、日本社会党訪韓代表団と統一民主党は、マルタ・サミットによって生まれた東西冷戦構造の終結、ソ連、東欧諸国の改革と民主化という世界の大きな変化が今後アジアに影響してくることは必至であると認識し、こうした新しい世界の動きのなかで両党が朝鮮半島の平和統一、アジア・太平洋地域の平和のために一層協力を推進していくことで意見の一致をみた。
一、双方は、日韓基本条約が二〇年以上にわたって機能し定着している事実を認識し、今後、両党の友好交流をより一層促進すると同時に、ひいては両国間の内実ある友好増進を発展させることを確認した。
一、在日韓国人の法的地位に関する協定については、在日三世の安定した法的地位が保証されるよう双方が努力することを確認するとともに、両党がそのために来年(一九九〇年)四、五月頃を目途に、この件に関しひき続き協議することを確認した。
一、また、双方は指紋押捺および登録証携帯制度の撤廃、就職における差別の禁止、民族教育の保証、永住権の安定など、在日韓国人の人権確立のために今後一層協力を強化することを確認した。
一、双方は在韓被爆者の問題が、日本側の責任であることを認識し、十分な支援協力を行なうことを確認した。また、サハリン残留韓国人の問題解決のために、双方が今後とも一層努力することを確認した。
一、双方は、日本からの韓国への技術移転、貿易不均衡の是正、水平分業等など日韓両国間の経済協力が積極的に推進されるベきであるとの認識で一致した。
一、また、双方は、二一世紀の入口である一九九〇年代に新しい日韓関係とアジア共通の平和と繁栄の未来を築くため、日本社会党と統一民主党が協力し前進することの決意を表明した。
  一九八九年一二月二二日 於・ソウル
●一九八九年一二月二八日・中央執行委員会
韓国訪問に関する報告
 団長  山口鶴男
 山口鶴男書記長を団長とする「日本社会党訪韓代表団」は、一九八九年一二月二一日から一二月二三日の問、大韓民国を訪問した。代表団は、韓国滞在中、金泳三総裁をはじめとする統一民主党の幹部ならびに党員と親しく交流した他、平和民主党の金大中総裁、新民主共和党の金鍾泌総裁など韓国野党の党首と会談するとともに、金在淳・韓国国会議長や金在光国会副議長、また在韓被爆者等とも会談し、相互理解と友好を深めた。また、在日韓国人の法的地位の保証に関する日本社会党と統一民主党の協議を来年(一九九〇年)四、五月を目途に開催することを確認した。以下、代表団の韓国における活動について報告する。
 代表団の訪韓のビザ申請に当たって、統一民主党及び韓国大使館から訪韓の目的を明確心してほしいとの要請があり、「日韓基本条約にもとづく日韓関係増進に関し、日本社会党の対韓政策等について統一民主党と協議し、両党及び日韓国民の友好交流を発展させ、日韓両国の新しい友好親善を強化するため」との覚書を在日韓国大使宛に提出した。この覚書は、日韓基本条約にもとづく在日韓国人の三世を含む法的地位及び待遇に関する協定が一九九一年に行なわれることになっており、この協定は在日朝鮮人にも及ぶものでそのために両党間で協議する。また、在韓被爆者問題、在サハリン残留韓国人問題、指紋押捺など人権問題などについても両党間で協議する旨を明らかにしたものであり、この趣旨は今回の訪韓によって前進させることができた。
 「日本社会党訪韓代表団」の山口鶴男書記長は、一二月二一日、一六時五〇分に大韓航空機が金浦空港に到着後、直ちに、日韓両国の報道関係者に対し記者会見を行なった(会見内容は別掲)。山口団長は記者会見のなかで、党代表団が「日韓両国民の子々孫々にわたる相互理解と親善の強化、恒久平和」に寄与するために韓国を訪問したことを表明するとともに、社会党が日韓両国関係の原点を「戦前の日本帝国主義による植民地支配が朝鮮民族に与えた苦しみに対する反省と謝罪」におき、日本の植民地支配が、韓国の人々に「たとえようもない苦しみと大きな被害を与えたことに心からおわびする」と述べた。
 また、「民族分断の結果として朝鮮半島には大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国の二つが現実に存在しており、大韓民国が国家として存在していること」また、「日韓基本条約が二〇年以上にわたって機能し定着してきた現実」を社会党が認識していることを明らかにした。
 また、マルタ会談で「冷戦の終結」が宜言され、東欧諸国の改革と民主化が急速に進むなかで世界が「対決から対話へ、新たな緊張緩和、平和、軍縮の時代へと大きく動いて」おり、こうした世界の潮流を歓迎し、「この情勢を朝鮮半島をはじめ東北アジアにも定着させ、緊張緩和と南北対話、南北統一の促進につながることを心から願っており、二一世紀を希望あふれる時代とするため、一九九〇年代を出発点としてアジアの未来を築くために、日韓両国の新しい友好親善を確立したいと念願している」と述べた。
 代表団は、一二月二二日九時から一時間半にわたって、金泳三総裁をはじめとする統一民主党の幹部と会談した。山口団長は、会談のなかで、統一民主党が代表団を温かく歓迎して下さったことに対し感謝の意を表明するとともに、「石橋前委員長を団長とする訪韓団の韓国訪問と金泳三総裁を団長とする統一民主党代表団の日本訪問が両党及び両国民の相互理解と友好交流に大きく寄与した」とし、「両党の努力で築きあげられた友好的な関係をさらに発展させる決意である」ことを明らかにした。
 また、日韓両国の歴史のなかで「日本植民地支配によって朝鮮民族が筆舌に尽くせない悲惨な苦しみを受けた事実があり、さらに、今日の『教科書問題』や歴史認識を欠いた閣僚の発言などが韓国民の対日感情を悪化させている原因になっている」ことを指摘した。
 また、社会党がこうした歴史の所産である在韓被爆者問題やサハリン残留者問題、在日韓国人の法的地位問題や指紋押捺や登録証携帯制度の撤廃など在日韓国人の人権の確立のために積極的に取り組んでいることを伝えるとともに、朝鮮半島とアジア・太平洋地域の平和をつくりだすために、ヨーロッパのような「平和のテーブル」の設置、信頼醸成措置の形成と核軍縮の実現、経済協力の促進のために、日本社会党と統一民主党が共に知恵を出しあい、力を合わせて行動し、新しい日韓関係とアジア共通の平和と繁栄の未来を築くため前進しよう」と述べた。
 これに対し、統一民主党の金泳三総裁は「山口害記長を団長とする日本社会党代表団の韓国訪問を心から歓迎する」と述べるとともに「今回の訪韓は韓日両国関係にとって大変意義がある。また、石橋前委員長の訪韓と私の訪日によって進んだ交流をますます深くする契機となる。日本社会党に対するわが国の一般的な認識は、社会党が北一辺倒を続けてきた関係で大変偏見があるが、統一民主党と社会党との交流が国民の認識を変えつつある。また、両党の交流は韓半島の統一に寄与するものである」と述べた。
 山口書記長が、在日韓国人政治犯の釈放について統一民主党の努力を要請したのに対し、金泳三総裁は「野党三党の党首と人権委員会がその件について討議をしており、クリスマスまでに相当のいわゆる政治犯を釈放することになっている」と答えた。
 続いて、統一民主党の鄭在文国際委員会委員長は、「米ソ軍縮交渉の進展、中ソの三〇年間の対決の決着、ゴルバチョフ書記長の外交政策に力をえた東ヨーロッパで改革と自由と民主主義の波が高まっている。日韓両国関係は一層強固なものになっている。とくに、在日韓国人の法的地位問題、一万八〇〇〇人にのぼる韓国人被爆者の問題、サハリン残留韓国人問題など、韓日共通の問題があり、これらについて日本政府の誠意ある措置がとられるべきである。また、日本は産業分野で最大のパートナーであるが、技術面における経済協力が積極的に行なわれておらず、日本から韓国への高度な技術の移転が行なわれるべきである。また、日本社会党が韓日基本条約による両国関係のなかで、より現実的な両国関係を確立されるよう希望する。自由化を拒否し開放と改革を拒否している北朝鮮政府にたいし、自由化するよう社会党の忠告を期待してやまない。韓半島統一の道につながる韓日両国の共同繁栄のための基礎を両党でつくり上げたい。」と述べた。これに対し、山口団長は、「社会党は本年度の運動方針で、『大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国』の二つの国が朝鮮半島にあるという現実を認め、バランスのとれた交流をすることを決定した。アジアでオリンピックを開催したのは日本と韓国だけであり、NIESでの韓国の発展もめざましく、二つの国が手を結べばアジアの繁栄につながる。ヨーロッパの影響は必ずアジアに及ぶと確信する」と述べた。
 日本社会党訪韓代表団と統一民主党は会談終了後、共同記者発表を行なった(会見内容は別掲)。
 代表団は二二日一四時三〇分から、韓国国会内で平和民主党の金大中総裁と会談した。金大中総裁は「二〇世紀の歴史のなかで、イギリスの労働運動やロシア革命など民衆が初めて歴史に登場してきた。民衆は植民地主義と抑圧の二重圧力からの解放を要求してきた。これからの運動のなかで女性の役割が重要である」、「北朝鮮はいつまでああいう風に頑張れるのか疑問である。私が願うのは、米、ヨーロッパ諸国、日本が、北と接触して、北が門戸を開くよう働きかけをしていただきたいことだ。ことに日本政府が北と接触するのに北と関係のある社会党に協力をお願いしたい。こちらは北をおさえこむことはしない。北も南を力で統一することはしないことを願っている」と語った。
 これに対し、山口書記長は、「先の都議選や参院選で社会党は女性議員を多数当選させた」、「去年、朝鮮のホ・ダム書記と会ったとき、日本政府と会談したらどうかと述べ、お互いに交流するようすすめてきた。いま、社会党は朝鮮労働党のハイ・レベルの代表団を日本に招待している」と述べた。
 また、金大中総裁は「私は、一九七三年に、社会党は南北統一をいいながら北一辺倒で南に顔をそむけるのは適当でない、社会党はいかなる方法であれ韓国に関心を持ってほしいと言ったが、それから一〇年たった。まだ社会党は大韓民国の存在を認めていないのではないか」と述べた。
 これに対し、山口書記長は「社会党は韓国を否定したことはないし、運動方針でも大韓民国の存在を認めている。日韓基本条約についても二〇年以上にわたって機能し定着して来た事実を認識し、その上に立って在日韓国人三世の法的地位問題や在韓被爆者問題、在サハリン韓国人問題、指紋押捺など人権問題などについて統一民主党と今後協議することとした」と述べ、金大中総裁は「左日韓国人の経済的、社会的地位を法的に明確に与えてほしい」と述べた。
 代表団は、一二月二二日一七時より、新民主共和党の金鍾泌総裁と会談し、山口団長は「空港の記者会見で大韓民国の存在についての質問を受けたが、私たちがソウルに居ることが大韓民国の存在の事実を認めていることだ」と述べると、金総裁は「確かに韓半島に二つの政権がある。(社会党も)韓国を認め仲良くしていこう。韓国の統一問題は国内問題でありながら国際問題となっており、国際的環境が整うことが大切だ。社会党の方もそういう面で特別な理解、協力をお願いしたい」と答えた。また「韓国にも政党は四党あるが、民主主義は確立できていない。(韓国の)民主主義はこれからだ。政党は色をはっきり出して国民が選択するようにすべきだ」と述べた。金鍾泌総裁がさらに「韓日議連で社会党と一緒にやっていきましょう」と述べると、山口団長は「一緒にやっていくつもりであり、本年一月の党大会で日韓議連の加盟を検討する旨を答弁し、その後党の手続きを経て日韓議連に関心のある議員の加盟を申請したところである」と答えた。また、金総裁が「日本に住んでいる同胞のためにご尽力いただきたい」と要請したのに対し、山口団長は 「この問題に積極的にとりくみたい」と答えた。
 山口団長は、一二月二三日九時三〇分から、韓国国会で金在淳国会議長と会談した。金議長は、「日本社会党と統一民主党との友好関係が深まることを希望する。社会党は北を見る目を人権、自由、民主主義というものさしで見てもらわなければこまる」と述べた。山口団長は、「三六年間にわたる日本帝国主義支配が南北分断をつくりだした。日本軍国主義は北にも被害を及ぼしており、北に対しても反省と謝罪が必要だ」と述べ、南北国会会談が実現し、南北間の緊張緩和と統一が早く達成できるよう要望した。
 井上国際局長は、同日午前、韓国原爆被爆者協会の郭貴勲理事らと会談し、在韓被爆者に対する補償・援護について韓国への実態調査団の派遣などの活動を要請され、社会党はその活動を強化することを約束した。
●一九八九年一二月二一日
金浦空港における団長・山口鶴男書記長の記者会見
「韓国訪問にあたって」
一、私は、統一民主党の金泳三総蔵のご招待で、日本社会党の正式な代表団としてはじめて韓国に参りました。昨年一〇月に石橋前委員長を団長とする代表団が訪問し、今年の一月には金永三総裁を団長とする統一民主党の代表団を正式にお招きしました。私は日本社会党と統一民主党の両党閥の友好・交流の一層の増進を通じ、日韓両国間の新しい友好・親善が強化されることになる、と確信しております。日韓両国は、日本による不当不法な支配の一時期を除き、長い期間にわたって平和で友好的な関係にありました。日本と韓国、日本民族と朝鮮民族の間には、政治、経済、文化などあらゆる面で長い交流があり、その交流を通じ、わが国の学術や文化・工芸技術などがもたらされました。これまでの日韓両国関係をふりかえって、歴史の悪い面は反省し、よい面は学び、両国国民の子々孫々にわたる相互理解と親善の強化、恒久平和を確立するために、私どもの訪韓が寄与することができれば幸いです。その役割を果たすためにご招待いただきました統一民主党の金泳三総裁にまず感謝を申し上げたいと思います。
二、日本社会党は、日韓両国関係の原点を、「戦前の日本帝国主義による植民地支配が朝鮮民族に与えた苦しみに対する反省と謝罪」におき、それをすべての出発点としております。私は、改めて過去の歴史を振り返り、特に日本の植民地支配が韓国の皆さんにたとえようもない苦しみと大きな被害を与えたことに心からおわびするものです。しかも、日本の植民地支配が朝鮮民族の南北分断、強制連行された在日韓国・朝鮮人問題やサハリン残留者、在韓被爆者問題、さらに在日韓国・朝鮮人三世の法的地位問題などを生み出しており、これを解決することが日韓両国民の真の友好関係の確立につながると考え、日本社会党は全力をあげて取り組んでおります。
三、民族分断の結果として朝鮮半島には大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国の二つが現実に存在しております。私たちは大韓民国が国家として存在していることを認識しており、また、日韓基本条約が二〇年以上にわたって機能し、定着してきた現実を認識しています。こうした上にたって、わが党が政権を担った場合には、外交の継続性にたって日韓基本条約を維持するのは当然であります。
四、米ソ首脳によるマルタ会談は「冷戦の終結」を宣言しました。また、「ベルリンの壁」が崩されたことに象徴されるように東欧諸国の改革と民主化の動きは急速に進んでいます。対決から対話へ、新たな緊張緩和、平和と軍縮の時代へと、世界は大きく動いています。私は、こうした世界の新しい潮流を心から歓迎し、この情勢を朝鮮半島をはじめ東北アジアにも定着させ、緊張緩和と南北対話、南北統一の促進につながることを心から願っております。二一世紀を希望あふれる時代とするため、一九九〇年を出発点としてアジアの未来を築くために、日韓両国の新しい友好親善を確立したいと念願しております。
五、私は、今回の韓国訪問にあたり、@この訪問を契機に、今後日本社会党と統一民主党との友好促進、様々なレベルの交流を日常化させ、韓国国民との真の和解と友好・親善を確立すること、Aアジアの将来はどうあるべきなのか、そのために両国はどのような努力をすベきなのか、アジアの緊張緩和のための協力、経済面での協力などについて、率直に意見を交換すること、が目的であると考えております。
六、私は、今回の訪韓で、以上の諸課題について、貴国の各界各層のみなさんの意見を率直にうかがい、また、日本社会党に対するお尋ねには、率直にお答えしたいと存じます。日本社会党は、今回の訪問を歴史的な第一歩とし、新しい日韓関係を築くために、積極的に行動する決意であることを申し上げ、ご挨拶といたします。
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