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わが党の当面する対朝鮮政策について
党見解
党中央本部
一九八四年一二月二〇日
*出典は『資料日本社会党四十年史』
 外交委員会及び朝鮮対策特別委員会は、最近、党内外の関心が集っているわが党の対朝鮮政策について従来からの方針をふまえ当面する問題について、意思の統一を図る必要があると考え、以下の通りの見解をまとめた。
     記
 日本政府は、すでに世界の一〇二ヵ国が外交関係を樹立している朝鮮民主主義人民共和国の存在を今日まで公式には認めず、共和国との関係を閉ざしている。日本政府は、かつての「三矢作戦計画」から、一昨年末、中曽根政権誕生直後の訪韓と全斗煥政権に対する一兆円に及ぶ経済援助に至るまでの政治姿勢に示されている通りアメリカの極東戦略に全面的に追随し続けている。この日本政府の立場は反戦平和を願う日本国民の期待に完全に反するものといわざるを得ない。
 わが党は、この日本政府の対米追従の外交政策の基本的誤りを正面から指摘し、平和憲法の精神にそった圧倒的多数の国民の希求する国際平和を守るための一貫した朝鮮政策を主張し続けてきた。わが党は、過去の日本の朝鮮民族に対する支配の歴史を深く反省するとともに、朝鮮の分断固定化に反対して自主的平和統一を支持してきた。この朝鮮半島の平和を望むわが党の朝鮮政策の基本は、不変である。
 政府の対朝鮮政策の基本的な誤りが、日韓基本条約第三条の定める「大韓民国は、朝鮮にある唯一の合法的な政府であることが確認される」との大前提の下にあることは言うまでもない。韓国政府は、右条項の解釈として、「韓国の管轄権は全朝鮮に及ぶ。従って日本は朝鮮民主主義人民共和国とはこれをもって国交を結び得ない」との立場をとり、日本政府を拘束している。
 かって、一九七四年当時の木村俊夫外務大臣は、わが党議員の国会における質問に対して「韓国に対して、北が南進するという脅威は客観的には存在しない」「韓国政府が朝鮮半島全体を有効に支配する唯一合法の政府という認識は持っていない」と、自民党政府の現実を無視する外交の誤りをはっきりと指摘した。しかし、政府の公式な立場は、いわゆる日韓ゆ着をいよいよ深めこそすれ、少しも改める兆候を見せていない。
 わが党は、この政府の対朝鮮政策の転換をあくまでも求め続ける。日韓基本条約の誤りを主張する。石橋委員長は本年九月共和国を訪問して、「対決状態にある朝米関係、南北関係に一日も早くピリオドを打ち、アメリカとも関係を改善し北と南が思想と体制の相違を超えて連邦政府を樹立し、すべての朝鮮同胞が一つの民族として統一された国土でむつまじく暮らすことを心から願う」と述べ、わが党の立場を明らかにしている。
  一、わが党の朝鮮政策の基本は次の通りである。
 @ 日本政府の南北分断固定化、共和国敵視政策の転換を図り、日朝関係の改善を進める。
 A 南北の緊張緩和と朝鮮半島の自主的平和統一を支持し、そのため三者会談一の提案とその趣旨高実現への国際的環境づくりに寄与する。
 B 韓国における民主主義の回復と人権確立、統一事業のために苦闘する諸勢力と積極的に連帯し、国際的支援の輪を強める。
 二、本年三月三十一日、石橋委員長は、その時期における政治判断として、わが党の朝鮮半島政策について次の談話を発表した。
「もし、三者会談が開かれるようなことになれば、わが党の朝鮮半島政策は、当然再検討が必要になる。日本政府が朝鮮民主主義人民共和国と政治的接触を持つようになった時も同様である。」
 いわゆる、この「石橋談話」もまた、第一項一の朝鮮政策の基本に則したものであると理解されている。
 三、以上の諸原則に基づいて、今後わが党が具体的な朝鮮政策を展開するにあたり、配慮すべき事項は次の通りである。
 @ 最近、南北朝鮮相互間で、またわが国と共和国との間で関係改善、対話促進にとって良好ないくつかの動きが出ている。
  例えば、北から南に対する水害救援物資の供与、南から北への経済相互協力の提起、南北赤十字会談の折衝等である。日朝関係では、共和国側の日朝民間漁業協定についての好意的な処置、日本政府のいわゆる制裁措置解除の決定などがある。
   しかし、日本政府は、制裁措置の解除にあたっても依然として「政府の朝鮮半島に対する基本政策は、今後も変りない」と言っているが、わが党は、さきの新しい情勢に強い関心を持ち、なお一層の関係改善と緊張緩和のために努力を続ける方針である。
 A 朝鮮民主主義人民共和国とは、わが国では、政府はもとより、すべての政党が公式の接点を持たず、わが党が唯一の窓口である。
  かつ、今回の石橋訪朝団により、このことが再確認され、漁業問題など共和国側の好意的な対処が行われた。
  わが党が歴史的に培ってきたこの友好と信頼の関係を、南北分断の固定化や共和国敵視政策に与するような言動でもって揺がすことは断じて行うべきではない。
 B 韓国では、現在反政府政治活動は、きびしい罰則をもって禁止、弾圧され、合法的に存在する野党の政治活動も政府の統制と操作の下におかれ、自立的な民主的、大衆的基盤に立つ野党の存在は否定されている。金大中氏、金泳三氏らへの政治活動禁止、言論、報道の自由の否定、労働者と労働組合の諸権利の厳しい制限、多数の政治犯の存在なども事実である。
 従って、わが党の対韓接触、交流は、この事実に照らし、きわめて慎重でなければならない。少なくとも全斗煥政権と友好関係をもつことはさけるべきであるし、また誤解を生むような言動は慎しまなければならない。さらに不用意な接触、交流によって、全斗煥政権に利用されることになったり、またその対象となった韓国の組織や個人に重大な迷惑が及ぶことも避ける必要がある。
 C 八五年度、伝えられる金大中氏の帰国問題がどのような展開をみるのか、予定されている韓国における選挙がどのような国内状勢の下で実施されるのかに注目すべきである。
  <第一項にかかる具体策は以下の通りである>
  一、朝鮮半島の緊張緩和と東北アジアの平和な国際環境づくりのための努力
(1)在韓米軍の撤退と核兵器の撤去を要求し、日韓ゆ着を糾弾する。
   朝鮮半島内外での軍備増強、大規模かつ攻撃的な軍事演習などの中止、縮減を要求し、その実現のため東北アジア非核・平和地帯創設、東北アジア軍縮会議等をテーマとする国際会議、国際交渉の推進を図る。
(2) 日米韓の軍事的結びつきの強化となるような一切の政策、計画、政治的、経済的、人的交流に反対する。
(3) 朝鮮労働党との友好関係を発展させる。朝鮮労働党代表団もしくはそれにかわる代表団の日本訪問を実現する。
(4)文化、学術、スポーツ等の多面的な交流・協力については、わが党として日本と南北双方を含めたこの種の交流と協力の民間レベルでの発展に寄与する。また、これに対し、日米中ソおよび国連等の国際協力体制を結集するために努力する。
(5) 南北朝鮮の自主的平和統一を支持し、一切の分断固定化策に反対する。
(イ)三者会談の提案とその趣旨を支持し、その実現のため関係諸国および国際世論の結集を促進する。
(ロ)日本政府の共和国敵視政策を根本的に改めさせ、日本と共和国との各分野にわたる交流・協力を発展させる。
(ハ)日韓経済協力のあり方を根本的に見直す。南北平等に、かつ平和と民生向上に役立つ協力に転換し、共和国に対する必要な経済協力のあり方、韓国との問の貿易のアンバランス解決の方策を検討し、その実現をめざす。
(二)韓国政府のみを「唯丁合法」とする日韓基本条約については、その内容、性格等について見直し、必要な改廃をめざす。
 二、韓国における民主化と人権確立等のための運動を支持し、これと連帯する。
(1)全斗煥政権の民主主義弾圧と人権抑圧に反対する。またこのような政権と友好関係をもつかのような接触・言動は行わない。
(2)政権から自立し、民主的綱領・政策をもち、大衆的支持をもつ民主的野党の再生に期待し、そのような性格をもつ運動、団体、政治家等を支持し、連帯する。
  (イ) 当面、金大中氏の安全帰国と政治活動の自由の確保のために、国内的、国際的なキャンペーンに取り組む。
  (ロ) 金大中氏拉致事件の真相究明と原状回復について、日韓両政府にその実現を迫る。
  (ハ) 韓国における政治活動の自由の保障状況に注目し、民主化推進協議会の金大中氏(顧問)金泳三氏(共同議長)、その他民主勢力の指導的人士の招請、連絡、情報及び資料交換を行う。
  (ニ) 韓国における政党、政治家以外の・民主化運動の実情を研究し、意見交換、交流等について具体化を追求する。
(3) 政治犯、とくに在日韓国人政治犯の釈放、人道的処遇の実現に一層の力を注ぐ。このため、日本政府の積極的対応を促し、政治犯の家族や救援団体との連携を進める。
 三、日本国内に残存する旧植民地支配の遺産と差別の撤廃に力を注ぐ。
(1) 就職差別、教育、社会保障上の差別を撤廃させる取組を強化する。
(2) 指紋押捺、外国人登録証常時携帯義務の改廃を早急に実現させる。
(3)教科書問題の正しい解決を図り、植民地支配の歴史の正しい教育と、その被害の実態調査等を進め、日朝両国民の間の和解と友好の基盤づくりを行う。
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