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日本社会党第六次訪中団と中日友好協会代表団との共同声明
日本社会党=中日友好協会
一九七五年五月一二日
*ソ連敵視を意味する覇権反対条項を明記した社会党と中日友好協会の共同声明。出典は『資料日本社会党四十年史』(日本社会党中央本部 1986)。社会党の党内対立を激化させ、成田・石橋体制崩壊の一原因となった。1983年石橋委員長訪中の関係者によれば、当時の胡耀邦中国共産党総書記はこの時の中国側の態度を謝罪したという。  
 日本社会党中央執行委員会成田知己委員長を団長とする日本社会党第六次訪中代表団は、中日友好協会の招きにこたえて、一九七五年五月五日から十二日にかけて中華人民共和国の首都北京を訪問した。
 日本社会党第六次訪中代表団の訪問中、李先念副総理は日本社会党第六次訪中代表団の全員と会見し、友好裏に話しあった。
 訪中団滞在中、成田知己委員長を団長とする日本社会党第六次訪中代表団と廖承志中日友好協会会長を団長とする中日友好協会代表団は会談を行なった。
 日本側からはまた、川崎寛治(代表団秘書長、中央執行委員、国際局長)、北山愛郎{中央執行委員、企画担当)、鈴水力(中央執行委員、財務委員長}、米田東吾(中央執行委員、教宣局長)、伊藤茂(中央執行委員、国民連動局長)、藤田高敏(日中特別委員会事務局長)、大塚俊雄(機関紙局編集部長)、服部健治(国際局員)が会談に参加した。
 中国側からはまた、張香山(中日友好協会副会長)、林麗ウン(理事、注1)、孫平化(秘書長)、李福徳(理事)、林波(理事)、金黎(理事)、劉遅(理事)、玉音、葉啓ヨウ(注2)が会談に参加した。
 会談を通じて双方は、国際情勢および、ともに関心をもつ問題についてそれぞれの見解をのべ、互いに意見の相違点を強調するのではなく、一致点を見出す精神で、いくつかの重要な問題について見解の一致をみた。
 双方はつぎのように指摘する。最近、インドシナの情勢はたいへん人びとをふるいたたせている。カンボジアとベトナム南部の全域が相ついで解放され、カンボジア人民、ベトナム人民が長期にわたる勇敢な戦いを経て深い歴史的意義をもつ偉大な勝利をかちとったことは、あらゆる被抑圧民族・被抑圧人民の解放闘争に、輝かしい手本を示した。インドシナ情勢の発展は、国家が独立を求め、民族が解放を求め、人民が革命を求めるという歴史の潮流が、いかなる勢力も阻むことのできないものであることを再び立証した。
 双方はつぎのように考える。当面、国際情勢は、ますます激動し不安定であり、世界の各種の基本的矛盾はいずれも激化している。情勢の発展は、ますます全世界各国の人民に有利であり、植民地主義、帝国主義、覇権主義に不利である。
 アメリカはいまもなお、朴正煕かいらい集団を支えて、南朝鮮人民にたいする反動的支配を行ない、朝鮮半島南部にいすわりつづけようと夢みている。日本では、アメリカ帝国主義は、軍事基地のいっそうの強化を企み、日本の独立と主権を侵害している。ソ連は、公然と軍隊をくり出してチェコスロバキアに侵入し、日本の千島列島を含む他国の領土を不法占有し、さらにいわゆる「アジア集団安全保障体制」を各地でおしすすめている。アメリカとソ連は核大国として軍備競争を行ない、いたるところで争っているため世界は不安定である。したがって、双方は両超大国の覇権主義に反対することを一致して認めた。
 日本社会党代表団は、平和共存五原則にもとづく中立政策により、強権政治に反対し、あらゆる国との関係を樹立・発展させる念願であることを強調した。
 双方はつぎのように表明する。外国の干渉を排除し、祖国の自主的平和統一の実現をめざす朝鮮人民の正義の闘争を断固支持する。
 帝国主義の干渉とイスラエルの侵略・拡張に反対し、失地回復とパレスチナ人民の民族的権利の回復をめざすアラブ人民の正義の闘争を断固支持する。
 民族の独立をかちとり、白人の人種差別主義支配に反対するアフリカ南部人民の解放闘争を断固支持する。
 民主主義を擁護し、生活権利を守り、大国の支配と干渉に反対するヨーロッパ諸国人民の闘争を断固支持し、全世界人民のあらゆる正義の闘争を断固支持する。
 中国側は、日本社会党が日本人民といっしょにすすめている日米「安保条約」廃棄、軍事基地撤去、北方領土返還の正義の闘争にたいし敬意を表するとともに、日本社会党が日中友好の旗を堅持し、浅沼精神を継承・発揚し、日中国交正常化の促進と日中友好の発展のためにつくした積極的な努力と貢献を称賛する。
 日本社会党代表団は、中国人民が毛沢東主席と中国共産党の指導のもとに社会主義革命と建設のなかでおさめた大きな成果をたたえる。
 双方は、日中国交樹立後、両国人民の共同の努力によって、両国の友好関係と両国人民の友好事業に新たな発腰がみられたことをうれしく思う。当面の重要な課題は日中平和友好条約を早期に締結することである。この条約を締結するにあたっては、必ず日中両国政府の共同声明を基礎にして前進すべ唐であり、後退することは許されないということを、双方は一致して主張する。双方は、両国の善隣友好関係をいちだんと強化・発展させるために、さまざまな妨害を排除して、この条約の早期実現をめざし、ともに努力することを表明する。
 双方は相互の交流と友好協力をさらに強化し、日中友好事業のためにたえず新たな貢献をつくすことを表明する。
 双方は今回の日本社会党代表団の中国訪問が、日中両国人民の戦闘的友誼の増進にとって非常に有益であると認める。
        日本社会党第六次訪中代表団 団長 成田知巳
         中国・日本友好協会代表団 団長 廖承志
  一九七五年五月十二日 北京にて
注1 韋に饂の右側
注2 シに庸
●党第六次訪中代表団報告
第五三回中央委員会提出
党中央執行委員会
一丸七五年五月一五日
 日本社会党第六次訪中代表団は一九七五年五月五日から十二日まで、中華人民共和国を訪問し、中日友好協会との間で共同声明を結び発表した。この社会党代表団の訪中の経過と目的、ならびに共同声明の内容は次の通りである。
一 訪中の時期について
 一九七二年九月に日中国交が回復し、七三年四月に社会党などの提唱で中日友好協会代表団(団長・廖承志会長)を招いたさい、日本社会党代表団が中国に招待された。党の公式代表団は七〇年以降訪中していないので、すぐにも派遣すべきであったが、当時、社会党は保・革逆転をかけた参議院選挙に全力を注いでおり、参議院選挙後に延期を申し出ていた。七四年七月の参議院選挙後、党は公式代表団を中国、ソ連、東欧、朝鮮に派遣することを決めたが、中国への代表団派遣は双方の都合で延期され、七四年中は実現しなかった。このため七四年十二月の第三十八回党大会では、日中友好運動強化のために「第六次代表団の訪中を実現する」ことが決議された。これをうけて七五年三月に代表団派遣を予定したが、三月初旬に中日友好協会から、統一自治体選挙後の四月末からの訪中を歓迎するとの返事があり、五月初旬の訪中となった。
二 訪中の目的について
 代表団の派遣にあたり、中央執行委員会は四月二十八日、次の四点の目的と意義を決定した。@中国において第四期人民代表大会第一回会議が成功裡に開催された歴史的情勢の中でまた、日中間においては一九七二年の日中国交回復の実現以降、日中関係の新しい段階を迎えて、日中共同声明の精神と原則にもとづき日中平和友好条約の早期締結実現のために貢献すること。A日中平和友好条約という日中両国人民の歴史的な合意が新たに形成される中で、日中両国人民の恒久平和と善隣友好関係の確立をめざす今後の日中友好運動の強化について意見交換を行なうこと。B民族解放と自決をめざすインドシナ人民の歴史的勝利と社会主義建設を成功裡に推進し、アジアの平和確保と民族解放をめざす中国および朝鮮両国人民の闘争というアジアの新しい歴史的段階の中で、アジアを中心とする当面の国際情勢について意見交換を行ない、今後の共同闘争を強化すること。Cこのような意見交換を通じて相互理解を深めるとともに、一九五〇年代からのわが党と中日友好協会など関係団体との伝統的な友好協力関係を一層強化し、今後の交流を発展させること。
 この中執決定をうけて代表団は、とくにこれからの日本のアジア外交にとって、日本と中国との関係は重要であり、このために果たす社会党の役割りは極めて重要であること。いままで日中友好をおし進めてきた社会党を軸として、真の日中友好を発展させなければならないこと。また当面、最大の課題である日中両国の共同声明の原則にもとづく、日中平和友好条約の早期締結の実現に寄与することを目標として訪中した。
  三 共同声明の内容について
(一) アジア情勢の新たな展開のなかで、日本のアジア外交の基本である日中両国の友好関係のもつ意義はますます重みを加えている。この時期に、口中友好を進める軸としての日本社会党と中国側との相互理解を深め、いくつかの重要問題で意見が一致し、友好関係を一段と強めることができた。
 当面の日中間の最大の課題である日中平和友好条約の早期実現については、日中両国政府の公的約束である日中共同声明の精神と原則を基礎に、特に、問題の焦点となっている第七項の「覇権条項」を明記し、後退することなく、内外の妨害を排除して早期に締結することで、双方は完全に意見の一致をみた。
(二) 共同声明を作るについて、それぞれの立場の相違もあり、非常に困難な場面もあったが、一致点を見出す精神で合意に達した。
 成田委員長と廖承志会長との会談を二回にわたり行った。
 成田委員長は「われわれの代表団の一つの大きな目的は日中平和友好条約の締結促進であり、そのためにも共同声明をぜひ結びたい。しかし共同声明の作り方いかんが、平和友好条約に反対している勢力に口実を与えることないよう内容的にも充分配慮したい」と強調した。
 最大の問題点は、「二つの超大国の覇権主義に反対する」問題であった。
 会談において廖承志会長は、「二つの超大国の覇権主義に反対することは、中国の新憲法の基本精神であり、中国の国是であるから、共同声明に必ず挿入すべきである」とくり返し述べた。
 日本社会党は「平和五原則にもとづく中立政策により、あらゆる国との平和友好関係を発展させることが基本方針である」ことを主張し、平和五原則(領土主権の尊重、相互不可侵、内政不干渉、平等互恵、平和共存)を力によって犯すものが覇権的行為であるとの立場から、社会党はソ連を敵視するものではなく、また、社会体制の評価の問題としてではなく、具体的、現実的に行われている覇権行為の認識の問題として、両超大国の覇権主義に反対することを明らかにした。
 このような立場から共同声明は、米・ソ両国について覇権行為の若干の事例をあげたうえで、「両超大国の覇権主義に反対する」ことを一致してみとめた。同時に党の基本的立場を明らかにするために、「日本社会党代表団は、平和共存五原則にもとづく中立政策により、強権政治に反対し、あらゆる国との関係を樹立、発展させる念願であることを強調した」ことを明記したのである。
 このように、共同声明は党の基本路線を堅持する立場から起草されたものである。
 また、重要なことは、南ベトナム、カンボジア解放等のアジアの情勢をふまえて「日米安保条約廃棄」アメリカ帝国主義の「軍事基地撤去」の闘いの重要性を明確にするとともに、朝鮮の自主的平和統一の闘いを日中双方が断乎支持することを明らかにしたことである。
 以上のように「平和五原則にもとづく中立政策」「あらゆる国との関係を樹立、発展させる」ことを明記し、激動する最近のアジア情勢に党の基本路線を具体的に適用したのがこの共同声明である。わが党はこれを基礎にしてアジア外交の基本である日中の友好、とくに社会党と中国との友好をますます深め、日本の平和と繁栄をはかるために、アジア平和外交のいっそうの発展をはかりたい。
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