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社会党の安全保障政策移行の方式(案)
いわゆる石橋構想−−党外交防衛政策委員会への提案
石橋 政嗣
一九六六年五月
*出典は『資料日本社会党四十年史』(日本社会党中央本部 一九八六.七)。なお、この出典には図表が付されていたが、ここでは省略。
 
【説明】
自衛隊解消の方策
 第一に自衛隊の問題であるが、われわれはまず最初に自衛隊を国民警察隊に切替え、直接侵略に対処するという任務をはずして、純然たる国内治安対策用の部隊にすることから始めたいと思う。これとても決して容易なことではないであろうが、社会党が考えている完全な自治体警察、すなわち公選された都道府県公安委員会の掌握下におかれた都道府県警察を創設し、これを補完するものとして考えられている国民警察隊に切替えようというわけである。そして、この国民警察隊の人員及び装備を、次の四つの条件を勘案しながら漸減していきたいと思う。
 条件の第一は政権の安定度すなわち、彼我の力関係である。院内における勢力はもちろんのこと、院外においてもこの政権を支える勢力がどの程度のものであるかも考えずに、機械的に縮小に手をつけることができないことは当然のことであろう。第二は隊そのものの掌握度である。政権をとったからといって彼らが易々としてわれわれの指示のままに動くと考えることが早計であることは、一般の行政整理の場合を思い浮かべただけで十分であろう。
 われわれは人事配置によって、また、偏向教育を正しい教育に切替えることによって、社会党の方針なり政策なりを隊員に理解させ、協力させることを考える必要があるのである。
 
 第三は、社会党政権の推進する平和中立外交がどの程度まで具体化し、実を結んだかということを考慮することである。われわれは中国との国交回復、ソ連との平和条約の締結、統一朝鮮との国交関係の樹立をめざしている。また、日米安保条約を廃棄し、自らの中立宣言と非武装宣言の上に立って、日本の中立と不可侵を保障する米中ソ朝等関係諸国と個別的ないしは集団的平和保障体制をつくること、アジア・太平洋非武装地帯の設置に努力すること、さらに進んで、両陣営の接触する全地域に、非同盟中立の一大ベルト地帯を設定するという雄大な構想をもっているのであるが、これらの政策の進展度を考慮に置くことも必要であろう。以上三つの条件を整える中から、われわれは第四の条件たる国民世論の圧倒的支持を受けることができるはずである。
 そして従来、自衛隊をそのまま切替えるかのごとき印象を与えてきた平和国土建設隊や平和共栄隊は、あくまでもこの流れからは傍系のものにすべきだと思う。すなわち、高度の技術を駆使して国土改造計画に基づく調査・建設・開発、あるいは救援活動、復旧作業に従事することを目的とした平和国土建設隊や、発展途上国の要請に応じて、平和的な国土開発に技術・技能をもって協力することを主任務とする平和共栄隊は、自衛隊−国民警察隊とは別個のものとして創設し、その隊員は主として一般からの応募者をもってあて、本人の希望によって配転をはかるという形がとられるべきであると思うものである。
 さてこのようにして縮減される国民警察隊は、最終的にはどの程度の人員と装備を持つものになるのか、またそれまでにはどの程度の期間を要するのか、それはいずれも明確ではない。四つの条件を勘案しながら漸減をはかろうという以上、現時点においてそれを明確にすることは必ずしも必要ではないのではなかろうか。大切なことは非武装という目標を失わず、確実に前進を続ける努力を怠らないことが必要だということである。
 なお、将来の展望としては、各国の安全保障を、あげて国連の手にゆだねることがもっとも望ましい。国連が、加盟各国の主権の大きな部分を分け持つ新たな国際的権威として確立したあかつきには、公正な国際紛争処理機関として強力な警察機能(国連警察隊)をもたせるべきであろう。それは、世界の恒久的平和を念願して自らは非武装たることを宣言する日本国憲法にとっては、本来不可分の前提であるはずである。
 
安保条約廃棄の方途
 第二に、安保条約の問題である。社会党政権は、その外交活動の第一歩として直ちにアメリカに対して日米安保条約の解消を通告し、外交交渉を経て条約を廃棄しようというのである。ただここで附言しておかなければならないことは、われわれが安保条約の廃棄という時、それは社会党政権成立の日に唐突に安保廃棄を一方的に宣言して事足りるというものではないということである。社会党政権は、外交的に対米政府間交渉を行ない、国際舞台に働きかけ、他方、国民の安保廃棄の世論と国民運動を盛りあげ、これらの諸活動の結合によって安保条約廃棄と米軍基地の撤去を実現していこうというのである。
 いうまでもなく、われわれは日米間の軍事同盟関係を問題にしているのであって、軍事的な連りさえ断てば、それ以外の政治・経済・文化の各分野にわたる交流を深め、友好関係を保持することに異存がないどころかそれを強く望んですらいるのである。だからこそ、単に条約の終了を通告するだけでなく、外交交渉を経て廃棄しようというのであり、さらにその後においては新たに日米相互友好条約の締結をすら考えているのである。
 そうはいっても、安保条約を廃棄すれば、アメリカは必ずや報復的な措置をとるであろうという説をなすものがいるのであるが、これは日米間において利益を得ているのは、ひとり日本の側だけであるという間違った認識に基づくものといわなければならない。また、そのような報復的な挙に出るようなことがあれば、それこそ日本をして、好むと好まざるとにかかわらず反対陣営に追いやる結果となり、そのような事態がアメリカにとっても決して好ましくないことは、アメリカ自体が最もよく知っているであろうことを忘れたものといわざるを得ない。要は意思の疎通をはかることが必要なのであり、われわれはその用意を十分に持っているのである。
 
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