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国民諸君に訴う 
 
組閣を了えて〈NHK放送〉
内閣総理大臣・片山哲
一九四七年六月二日
附:片山内閣の施政方針演説
 
*最初の社会党出身総理である片山哲の組閣を終えてのラジオ放送談話原稿と国会での施政方針演説。「国民諸君に訴う」の出典は『資料日本社会党四十年史』、施政方針演説は衆議院議事録データーベース。 画像は組閣後の記念撮影。
 
私は五月二十三日、国会において首班に指名せられていらい、四党の連立による挙国救国内閣の組織に凡ゆる努力をつくしてきた。それは、四党連立こそ過般の総選挙の結果に現われた国民の総意であり、危機を打開する最善の道であると信じたからである。またさきに四党間に成立した政策協定の精神、並びにほとんど満場一致、私を首班に指名せられた国会の総意から考えても、四党連立内閣を成立せしめることは私の義務であると信じたからである。この信念にもとづき、私はまず私の属する社会党の立場において最大限の譲歩を行い、各党間の立場や意見の相違を調和して、連立を成立せしむるために、凡ゆる手段、方法をつくした。
 
 しかしこのような努力にも拘らず、ついに自民党の参加をみることができなかったことは甚だ遺憾とするところであるが、組閣に貴重な日子を費したことについては国民諸君においても諒とせられるであろう。新内閣は、さきに成立した政策協定および三党の間に交された申合せの線にそい、極右および極左に偏せず、中庸の道をとり、とくに共産主義に対しては明確に一線を画し、挙国的救国内閣の実質と精神を以て進まんとするものである。自由党においても、閣外において新内閣に協力されることを切に期待する次第である。
 民主主義の政治は、国民大衆諸君の理解ある精神的支持によらなければならない。私はここに諸君の心からなる御支援を仰ぐものである。
 
 政治は正しいことを行うこと、国民大衆の幸福な生活を確立するために努力すること、文化的な平和国家を建設するために努力することである。これがためには、今までの政治観を一てきして、政治は一つの大きな精神運動であり、道義昂揚の運動であることをハッキリと認識する必要がある。私は少くともこれを信じ、身を以てこれを捧じ、これを実践したいと考えている。
 
 同時に私は、国民諸君に対し、民主主義平和国家、文化国家の国民としての精神革命を要望するものである。新憲法は、主権在民において、戦争ほう棄において、基本的人権の尊重において、議会政治の確立において、司法権の独立において、地方自治の徹底において、その他凡ゆる点において、われわれ国民にとり真に革命的ともいうべき内容をもち、わが国こんごの進むべき方向を指示した貴重な道標であるが、これを生かすのも殺すのも実に国民諸君自身である。この歴史的な新憲法の条章を本当に生かすために、われわれ国民が過去の封建的、軍国主義的な考え方から完全に脱皮して、真に民主主義、平和主義に徹するよう、自らの人生観の中に一つの革命を遂行することが必要であると考える。歴史の示すルネサンスや宗教改革に相当するような一つの精神革命の段階を経過することによって、われわれ日本国民は、真に民主主義的な、文化的な国民として成長することができるのである。私は及ばずながら政治の部面においてこれを促進し、従来ともすれば虚偽と術策によって動かされて来た感のある政治の進め方をやめ、公明な政治を実現すべく努力せんとするものである。
 
 新内閣の重大な使命の一つは、目前にせまっている経済危機、食糧危機を克服して、国民生活を一日も早く安定することである。このためには、さきの政策協定の趣旨に従い、必要な施策を果敢に実行してゆく決心であるが、国民諸君も政府に協力して、生産復興、祖国再建にまい進されんことを切望する次第である。
 
 つぎに私がここで特に国民諸君におねがいしたいことは、危機突破のために、それぞれの分に応じて犠牲を甘受して頂きたいということである。即ちインフレ克服、生産復興のために、この上とも耐乏の生活をつづけて頂きたいということである。勿論この犠牲はあくまで公平であるよう、余裕ある者とくに戦時戦後の大口利得者が大なる犠牲を負担するよう、政府は奢侈的消費の抑制を眼目として万全の施策を進めてゆく方針であるが、勤労大衆諸君もまた当面の危機を突破するまでの間、その要求をある程度犠牲に供する覚悟を以て政府に協力されたい。過去三十年、勤労大衆の生活よう護のために努力してきた私が、組閣の第一声においてかくいわねばならぬのはまことに断腸の思いである。私は、諸君の多くがこれ以上切りつめることのできない最低限度の生活をしていることをよく知っているにも拘らず、なお犠牲と耐乏をねがう所以のものは、敗戦のどん底から立ち上ろうとするわれわれ日本国民にとって、生易しい苦労と努力では、とうてい当面の危機突破も、祖国再建もありえないからである。しかも、この危機を突破し、生産を復興することなくしては、国民生活の安定はありえないからである。しかしながら、真にまじめに働き、正直に生活する者は、その経済においても、文化生活においても、必ずむくわれる体制を樹てんとするものである。直接にせよ、間接にせよ、筋肉労働を以てするにせよ、頭脳労働を以てするにせよ、危機突破と祖国再建のために最も重要な勤労にてい身するものは、物心両面において最も優遇されるような体制を実現せんとするものである。財ある者は財を、力あるものは力を、智えある者は智えを出して、全国民が協力することにより始めて危機は克服せられ、祖国を再建することができると信ずる。
 
 われわれの前途はなお苦難の道であるが、しかし光明を約束されている道である。われわれが真剣に祖国復興に努力するならば、連合国側の好意ある援助により、来るべき講和会議において、われわれに民主主義世界の一員としての新生の第一歩が与えられるのである。新内閣は必ずやこの難局を突破して、内外ともに諸君に光明をもたらすことをここに誓うものである。
 

●附:片山内閣の施政方針演説(1947年7月1日)
 
○國務大臣(片山哲君) 新憲法実施の最初の國会におきまして、政府を代表いたしまして、施政方針の演説をいたしまする機会を得ましたることは、私の最も光栄とするところであります。殊に私は、さきに本國会におきまして、諸君の大多数によつて政府の首班に指名せられましたることは、私の生涯にとりまして、忘るることのできない感激の至りであります。(拍手)
 
 爾来ただちに組閣に從事いたしまして挙國体制によりまする四党連立の政府を樹立したいと考えて、それに努力してまいつたのでありまするが、目的通り十分の成功を收めることができなかつたのでありまするけれども、ここに成立いたしましたる三党連立現内閣に対しましては、自由党の諸君も、閣外にありまして協力せらるることと存じ、潔く期待し、挙國危機突破に向いたいものと考えておる次第であります。(拍手)
 
 政府は、この歴史的な第一回國会の開会に際しまして、政府の現下時局に対しまする所信と決意を披瀝いたしまして、諸君の御協力を仰ぎたいと存ずる次第であります。
 
 第一に申し上げたい点は、憲法に対する政府の信念であります。政府は新憲法を嚴に守りまして、その精神を生かすことに最も忠実であることをここに誓うものであります。(拍手)特に新憲法のもつておりまする民主主義の大精神、平和主義の大理想、これを政府は一切の政治行動の大目標として掲げたいと考えておるのであります。これを大膽明快に現実化いたしたいと考えておるのであります。すなわち國民代表でありまするところの國会によつて指名せられたる政府であることを自覚いたしまして、國会を尊重するはもちろんのこと、憲法の各條章に基きまして國会及び政府の関係につきましても、何ら紛淆を來さざるよう、細心の注意を拂うつもりであります。特に司法権の独立につきましては留意を拂いまして、最高裁判所の構成はつきましても、憲法の精神に基く民主主義的方法によりまする等、新憲法のもつ高遠なる大理想を、一日も早く、できるだけ多く実現いたしたいと考え努力いたしておるのであります。なおこれに基く必要なる一切の諸法規を國会に提出すべく、その準備を急ぎつつある次第であります。
 
 第二に、政府の施政方針に関する根本観念をまず明らかにいたしたいと考えるのであります。政府は、現下諸般の情勢を考慮いたしまして、この際われらの理想でありまする民主主義を拡充発展せしめたる高度民主主義体制を確立いたしまして、新時代に副うべき政治理念をあらゆる方面に浸透せしめ、その徹底をはかることが必要を考えておるのであります。すなわち現内閣の至高指導精神は、高度民主主義を各方面に徹底せしめることであります。
 
 政治上における民主主義徹底の急を要することは、言うまでもないことでありますが、問題は民主主義を政治上のみにとどめることなく、これを産業経済の部面にも廣く透徹させたいと考えておるのであります。産業経済の発展は、実にその機構の民主化に負うところ多大であるのであります。さらに社会生活の部面におきましても、健康にして文化的ならしあるために、これを革新する要がありますから、民主主義を日常実際生活に織りこみ、生活態様を民主化するの急務なることを感じておるのであります。政治上における民主主義は、封建的官僚機構を一擲することとなり、産業経済に浸透いたしまする民主主義は、産業の充実発展を來すこととなるのであります。社会方面に浸透いたしまする民主主義は、文化の向上を來すこととなり、國際方面に及びまする民主主義は、平和主義の浸透をなす結果を來すこととなるのであります。
 
 思うに、人間生活を規律いたしまする政治原理としての民主主義は、十八世紀時代より進展いたしまして、歴史的幾多の変轉を経て、第一次、第二次世界戦争の後において、ここに初めて世界共通の新生活原理として発見せらるるに至つたと考えるのであります。西洋文明は、ギリシヤ文明、キリスト教文明、近代科学の集積であると考えるのであります。
 
 今私の考えておりまする高度民主主義は、その集積に基くものでありまするとともに、平和主義の根柢となるものであります。この民主主義の裏づけなくしては、決して平和主義の実現を全うすることができない。世界平和の実現は不可能なるものであると考えるのであります。また人類生活を向上発展せしめ、産業を隆盛ならしめる原則も、これまた高度民主主義を基本とするものと考えておるのであります。
 
 すなわち高度民主主義は、この意味におきまして人道主義であります。また合理主義であります。また社会民主主義であります。よつて暴力によりまする政治行動、その他一切の直接行動に反対するとともに、民主主義政治体制でありまするところの議会政治を嚴にとるものでありまして、政府はこの信念に基き施政方針を樹立するものであることを明らかにせんとするものであります。以上、政府の信ずる政治理念の大要を明らかにいたしました次第であります。(拍手)
 
 第三に、現下の國際情勢に鑑みまして、わが國の性格をきわめて率直かつ明白に世界各國に表示いたしまして、その理解と援助を求めるとともに、國際的信用を回復することが、最も必要なることと信ずるのであります。新憲法には、主権在國民と、戰争放棄と、人権の尊重とを、明文として表わしているのでありますがゆえに、わが國の性格はここに一変いたしまして、新しき日本として再出発しておりますることは、言うまでもありません。わが國の性格が、もはや武力國、好戰國ではないこと、封建的官僚機構は、制度上すでに拂拭されつつあること、民主主義的議会政治が確立せられんとしておることを明かにいたしたいのであります。事実をもつてこれを立証し、世界に向つて、日本國民の努力と眞実さを示さなければならぬと考えておる次第であります。
 
 政府の考えておりまする、われらの建設せんといたしまする平和國家は、次の要素をもつものであると考えるのであります。第一は、國民に、憲法に基く各種の自由を保障するところの國家であります。第二は、國民に、健康にしてかつ文化的なる生活を保障するの國家でなければならないのであります。第三に、國民が、暴力と不合理、不正義を排し、道義と人類愛に基く平和に徹するとともに、正義をどこまでも護る国家であることを明らかにするものでなければならぬと思うのであります。第四には、勤労と科学と藝術と宗教を尊重するの國家であり、第五には、適正なる教育制度の確立によりまして、次代國民の民生的、平和的育成に努める國家でなければならないと考えるのであります。われら日本國民は、この意味におきまして、かかる要素をもつ平和國家としての日本を建設しつつあることを、世界に向つて明白にすることが、最も必要であるということを、私は考える次第であります。(拍手)
 
 次に、第四といたしまして、わが國の経済がまことに恐るべき危機に当面している点を申し述べたいと思うのであります。敗戰によりまする憂慮すべき結果が、まさに現実の問題として、日本国民に襲い來つたのであります。すなわち食糧の欠乏であります。インフレの進行であります。産業の不振であり、失業の増大であり、やみの横行であります。政府は組閣後ただちにこの問題を取上げまして、万難を排して、この危機突破をしなければならないといふ決意のもとに、経済緊急対策八項目を掲げまして、その実行については、國民諸君の御協力をすでに仰ぎつつある次第であります。今私はこれを繰返して説明するの煩を避けたいと思いますが、問題の重要性に鑑みまして、ここに危機の要因を御説明いたしたいと存ずるのであります。
 
 戰争と敗戰とによりまして、根本から破壊されてしまいましたわが國の経済を、どうして再建するかということは、きわめてむずかしい事柄でありますが、今まで、敗戰後の日本の経済の実相というものが、全國民に十分理解せられておらず、政府の從來の施策もまた徹底を欠いておつたために、不幸にして今日まで立直るの端緒をつかむことができず、経済の情勢は次第に悪化してまいりまして、そのために、國民の精神や文化にも深刻な影響を與えたのであります。われわれは、今日経済の実体から判断いたしまして、今日こそ、わが國が経済の再建をなし遂げ得る最後の機会であると考えているのであります。このことを十分に国民に理解していただきたいために、政府は近くこの國会に、わが國経済の現状を明らかにいたしましたる実相報告書を提出いたしまして、先般の経済緊急対策の基礎となつた政府の見解を、國会を通じて国民に報告いたしたいと考えている次第であります。
 
 現在の経済がどんなにむずかしくなつているかという具体的な事実につきましては、この実相報告書によつて御承知願いたいのでありますが、わが國の経済が悪化しつつあるという根本的な原因はどこにあるかという点につきましては、これを次のように要約することができると私は考えるのであります。
 
 第一に、わが國は、敗戦の結果経済資源の相当の部分を失い、また生産や輸送などの設備が、戰争を通じて破損し、老朽化し、生産資材のストツクもだんだんとなくなり、労働の生産性も、戰前に比べて甚だしく低下しているのであります。そのために、現在生産されている物の量は、戰前の三割程度に止まり、かりにこれを全部國民の消費に充てましても、その一人当りの消費量は、ぎりぎりの生活を続けていくにも足りないほどでありまして、いわゆる過小生産と呼ばれる状態にあるのであります。そのために、生産された物の大部分が消費されてしまい、産業の生産力を維持していくために必要な設備の修理や取替えさえ、ほとんど満足に行うことができず、このわずかな生産の規模そのものが、むしろもつともつと小さくなりつつある状態であります。
 
 第二は、生産のこのような低下とはまさに反対に、人口は、敗戰の結果かえつて増加しておりまするし、消費に対する要求は、戰争の間抑えられていた欲望が解き放されたことも絡み合つて、非常に強くなつておりますので、國民のすべてが、何んとかしてその消費生活を高めようとして、争つてわずかな生産物に殺到し、それで足りない部分は、残されている過去の蓄積に食いこんでいつておりますので、総体といたしましては、わが國の経済が生み出す生産量よりも、はるかに多くの消費がなされておるのであります。この根本的な事実は、そのまま経済の各部門に現われておるのでありまして、たとえば國民の家計も、企業の経理も、國の財政も、みな赤字でありますし、また外國との貿易を見ましても、大きな輸入超過で、直接消費する食糧すら、外國から借りておるという形になつておるのであります。
 
 第三には、戰争のために生産物の裏づけのない莫大な購買力が放出されたことを原因としで起つたインフレーシヨンが、以上のような経済各分野の赤字の現象と結びつきまして、賃金と物價との悪循環という形をとりながら、次第にその速度を早めておることであります。そしてこのインフレーシヨンが、ますますまじめな企業の経営を困難にし、勤労者の生活を脅かし、生産を妨げ、投機とやみ取引を盛んにして、さらに次のインフレーシヨンの進行を刺激いたしておるという状態であります。
 
 以上三つの事柄は、決してそれぞれ独立のものではなく、みんな互いに複雑に絡み合つて因となり果となり、経済を破局の方向に率いておるのであります。しかもその進み方を見まするならば、もはやすでに、きわめて危険なところまできておると判断される状態であります。これが現在の経済の実相なのであります。
 
 われわれはこのような経済の状態を見まして、あらゆる力を揮つてこれを建直す決意を固めておるのであります。われわれは事態を楽観するものではありませんが、しかし決していたずらに悲観しておるのではないのであります。方法さえ誤らず、また國民が一致してこれに当るならば、必ずこの悪化しつつある経済を引きもどして、再建の軌道に乗せることができるものであることを確信しておる次第であります。(拍手)
 
 最も緊急を要します食糧問題につきまして、政府は食糧緊急対策を決定いたしまして、本日これを発表し、國民諸君の御協力のもとに、その実行に邁進いたしておる次第であります。
 
 私はここで、この七月から十月の端境に至る四箇月の食糧需給の見透しが、きわめて憂慮すべき状態にあることを率直に申し上げたいのであります。すなわち國内的には、昨年度米並びに甘藷の供出は、前内閣以來あらゆる手段と方法を講じ、農民諸君もまた絶大なる努力を拂われ、これが確保に、当つたのでありまするが、遺憾ながら所期の一一〇%供出は未だ完了するに至りませず、六月三十日、昨日までの成績は、一〇四%弱でありまして約百五十万石の供出未了となつておるのであります。しかもまた期待されました麦類及び馬鈴薯の生産も、天候不良その他の事情のため、必ずしも芳ばしくない模様でありまして、國内供給力の点で、当初の予定とは少なからぬ狂いが生じておるのであります。他方輸入食糧は、連合軍最高司令部の絶大なる援助にもかかわらず、諸般の事情のため、わが國不足量の全部を賄うことは、とうてい不可能と考えられておるのであります。
 
 かくて今後十月に至るまでの四箇月間の食糧の見透しは、まつたく文字通りの危機でありますが、政府は、食糧の確保があらゆる施策の根本であることを率直に認め、今回決定いたしました緊急対策を断行するほか、國内供給力の増加と輸入の懇請に全力を盡しまして、最低基準量の確保に努力する方針であります。國民諸君も、何とぞ政府の施策に協力せられて救國の熱意をもつて、食糧危機突破に邁進されたいのであります。本月から実施いたしまする全國料理飲食店の休業も、眞にやむを得ない措置に出でたものであることを御諒解願いたいのであります。
 
 食糧に次いで重要なる問題は、いわゆるインフレーシヨンの防止であります。政府は、現在インフレ進行の主要原因が、政府支出の増大にあることをこれまた率直に認めまして、でき得る限り歳出を節約いたしまして、健全財政の確立に努力する方針であります。同時に、いわゆる新円所得者の浮動購買力に対しても、租税あるいは貯蓄を通じてこれを吸收する方針でありまして、特に租税政策におきましては、負担の公平を期する建前のもとに、大口の新円所得者に高率の課税を行わんとするものであります。(拍手)
 
 他方、金融統制は、経済緊急対策に基いて一層強化する必要があるのでありまして金融機関は、生産再開にあくまで協力する建前のもとに、今後とも貯蓄の増強、赤字金融の抑制に努力してもらいたいのであります。政府といたしましては、金融機関はあくまで産業の奉仕者であると考えておるのでありまして、金融機関は、いやしくも産業に優越するかのごとき観念に陷らざるよう自粛自戒して、生産再開に協力されるよう切望いたすものであります。(拍手)
 
 次に、重要なる石炭問題につきましては、諸般の情勢に鑑み、その三千万トン生産計画を遂行するため、國家管理案を立てつつあるのであります。近くその内容を発表し、諸君の御協力を仰ぐ予定であります。
 
 さらに、労働省設置に伴い、労働基準法の実施を急ぎ、その内容実現に努めるとともに、健全なる労働組合運動の発達に重点をおくほか、失業問題につきましては、失業手当法、失業保険法等、失業救済施設の拡充強化に関しまする具体策を、本國会に提出する予定であります。
 
 また貸金と物價の問題につきましては、物價の安定に主力を注ぎまして、生活必需品配給の確保等によりまして、実質賃金を維持するに努力する考えであります。
 
 日本経済再建の長期計画につきまして、一言触れたいと思います。この問題につきまして、政府は、緊急対策と並行いたしまして、これを立案しつつあるのでありまして、追つて発表し得る段取りとなると思うのであります。この計画の中において、政府は、特に水力電気の開発を重現し、事情の許す限り、速やかに大規模水力電源の開発、ダムの建設に著手いたしたいと、今日より考えておる次第であります。
 
 さらに、貿易産業の振興も長期的な経済再建計画の基調となるべきものでありまして、國内において最大限に消費を節約しましても、輸出の振興をはからねばならないと思うのであります。なお、この貿易の振興に関連いたしまして、私は中小商工業者諸君の奮起と御協力を要望いたすものであります。わが國今後の貿易は、特産物ないし製品の輸出にまつところ多いのでありまして、この点において、中小商工業者諸君の果すべき役割は、けだし大なるものがあると考えておるのであります。
 
 かくして産業の復興に全力を傾倒し、何としても、最も重要なる食糧欠乏を中心といたしますこの危機突破対策は、遂行しなければならぬ決意を高めつつある次第であります。この目的を達し得るや否やは、一に、われら日本町民が、自力をもつてよくこの難関を切り抜け得るや否や、耐乏生活を続け得るや否や、全國民一致協力をなし得るや否やにかかつておるのであります。一人の餓死者なきを期するためには、豪奢な生活をなくして、分配の公正化と、不当利得者を排除しなければならないのであります。(拍手)
 
 これをなし途げるために、政府は非常な決意をもつて起ち上つておるのであります。諸君の御協力を、一段と希う次第であります。
 
 第五に、緊急経済対策のみならず、一般政策をも必ず実践に移しまして、一つ一つを、生ける実行策としなければならぬことと考えておるのであります。しかして、その第一段の実行の局に当る者は、政府であり、役人であります。第二段においては、國民大衆諸君も強く起ち上つて、その実行に当られんことを希望するものであります。
 
 まず、政府が実行の衝に当るために、行政機構の改革と官吏制度の刷新に著手いたしたいと考えておるのであります。(拍手)
 
 これら改革の心構えは、官僚的観念の打破でありまして、官吏はどこまでも國民のために仕事をする任務を負うものであり、自己の担当する任務につき、強い責任感をもち、かつ正義公平を生命とするものなることを徹底せしめるとともに、また内務省をこの際廃止し、地方自治制度に根本的改革を加え、警察制度、官吏任用制度、服務紀律等にも新らしき考慮を拂つて、官紀粛正を断行いたしたい考えであります。(拍手)これらのうち、成案を得ましたるものは本國会に、準備の遅れるものは次の國会に提案いたしたいと思つておるのであります。これ一に行政機構の民主化を実現いたしたい精神より出ておるにほかならないのであります。國民諸君も、その実行の衝に当つてもらうために、自主的な新日本建設國民運動の展開さるることを要望してやまないのであります。
 
 この國民運動は、いうまでもなく單なる精神運動では決してありません。もちろん作文に終らしめたくないのであります。精神運動よりも食糧出題の解決が先だという声は、よく聞くところでありますが、政府は食糧危機突破とこの國民運動を平行し、両者不可分の関係において実行せしめたい所存であります。政府の國民に求める耐乏生活は、普遍的でありまして、公平であるを要するとともに、これは光明を約束し、かつ希望に満ちておるものなることをお考え願いたいのであります。
 
 なお、この國民運動とも密接な関係をもち、かつ憲法の精神を生かすべき文教問題については、政府は、さきに第九十二議会におきまして協賛を得ました新教育制度、特に六・三制の完全実施に関しまして、種々の困難はありますが、その実現めために、許す限りの努力を盡す考えをもつておるのであります。(拍手)
 
 第六に、さらに進んで講和会議のことについて申し上げたいと思います。講和会議の開催こそは、日本國民に希望と光明を與える大きな事項であります。その開催の一日も早からんことを、政府は全國民とともに熱望いたしておるものであります。顧みますならば、終戰以來二箇年、ポツダム宣言に規定されたわが國の非軍事化並びに民主化の事業は、國民一致の努力によりまして、著々と進捗を見てまいりました。政府は、今後とも一層の努力と誠意とをもつて、ポツダム宣言受諾に伴う義務を忠実に履行し、眞に民主的平和國家の実をあげ、もつて國際社会への復帰の條件を満たさなければなちないと考えておるものであります。(拍手)
 
 さいわいにも、連合軍司令部の御好意により、来る八月十五日より民間貿易が再開せられることになりましたことを、心より喜ぶとともに、その順調なる進行を期待しておる次第であります。これにつきましても、われわれ日本國民は、すべて率直なら心持を端的に披瀝いたしまして、立て直りつつある眞のわが國の姿を世界に示すことが必要と考えるのであります。すなわちわれわれの希望するものは、國民生活の安定と、産業の再建、世界恒久平和への熱望にあることを表明し、連合國各國の精神的、経済的援助を求めたいと考えておるのであります。
 
 なお、海外同胞引揚促進につきましては、政府は細心の注意を拂つて対策を講じておるのでありますが、今後とも、これがためあらゆる手段と方法をもつて努力いたすつもりであります。
 
 第七、以上、政府の施政方針の大要を述べましたが、その他重要なる政策につきましては、すでに発表いたしました緊急諸対策、並びに本國会に提出すべき予算案及び法律案について御了承願いたいのであります。
 
 最後に一言いたします。まことに呼局は重大であります。危機は深刻であります。この危機を突破し、來るべき講和会議を迎えて、祖國を再建いたすためには、全國民のなみなみならぬ努力と忍耐を必要とするのであります。政府は、新憲法のもとに國民の自由なる意思によつて選ばれたる最初の民主主義政府として、國民の政府として、否、國民の公僕といたしまして、眞に決死難局にあたる覚悟をもつて、祖國再建に邁進するの決意を固めておるものであることを、明らかにいたしたいと思うのであります。(拍手)諸君は、何とぞこの政府の決意を諒とせられ、挙國一体、危機突破に協力されんことを切望してやまないのであります。
 
 われわれの道は、耐乏と苦難の道でありまするが、しかしながら、われわれの前途には光明と希望が輝いておるのであります。この危機を突破いたしまするならば、連合國の好意ある援助によりまして、再び國際社会の一頁に列することができるのでありまして、民主的な平和國家、文化國家の建設に進み、生活安定と民族文化の向上を実現し得るのであることを信ずるものであります。救國のために、明日の光明をもたらすために、全國民諸君の心からなる御協力を望んでやまない次第であります。私はこれをもつて終ります。(拍手)
 
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