文献・資料目次へ      表紙へ
 
米帝国主義は日中両国人民の敵であるー政治協商会議講堂における講演
   
                          浅沼稲次郎                                    
                                         一九五九年三月一二日
 
*浅沼社会党委員長が中国でおこなった講演。出典は『資料日本社会党四十年史』(日本社会党中央本部 1985)。当時の社会党のアメリカに対する姿勢を端的に示すものとして、標題の「米帝国主義は日中両国人民の敵」は大きな反響を呼んだ。 写真は1959年訪中時のもの
 
 中国の友人の皆さん、私はただいまご紹介にあずかりました日本社会党訪中使節団の団長浅沼稲次郎であります。私どもはー昨年四月まいりまして今回が二回目であります。一昨年まいりましたときも人民外交学会の要請で講演をやりましたが、今回はまた講演の機会をあたえられましたので要請されるままにこの演壇に立ちました。つきましては私はみなさんに、日本社会党が祖国日本の完全独立と平和、さらにはアジアの平和についていかに考えているかを率直に申しあげたいと存じます。(拍手)
 
    一
 
 今日世界の情勢をみますならば、二年前私ども使節団が中国を訪問した一九五七年四月以後の世界の情勢は変化をいたしました。毛沢東先生はこれを、東風が西風を圧倒しているという適切な言葉で表現されていますが、いまではこの言葉は中国のみでなく世界的な言葉になっています。いま世界では、平和と民主主義をもとめる勢力の増大、なかんずくアジア、アフリカにおける反植民地、反帝国主義の高揚は決定的な力となった大勢を示しています。(拍手)もはや帝国主義国家の植民地体制は崩れさりつつあります。がしかし極東においてもまだ油断できない国際緊張の要因もあります。それは金門、馬祖島の問題であきらかになったように、中国の一部である台湾にはアメリカの軍事基地があり、そしてわが日本の本土と沖縄においてもアメリカの軍事基地があります。しかも、これがしだいに大小の核兵器でかためられようとしているのであります。日中両国民はこの点において、アジアにおける核非武装をかちとり外国の軍事基地の撤廃をたたかいとるという共通の重大な課題をもっているわけであります。台湾は中国の一部であり、沖縄は日本の一部であります。それにもかかわらずそれぞれの本土から分離されているのはアメリカ帝国主義のためであります。アメリカ帝国主義についておたがいは共同の敵とみなしてたたかわなければならないと思います。(拍手)
 
 この帝国主義に従属しているばかりでなく、この力をかりて、反省のない、ふたたび致命的にまちがった外交政策をもってアジアにのぞんでいるのが岸内閣の外交政策であります。それは昨年末とくに日米軍事同盟の性格を有する日米安保条約の改定と強化をし、更に将来はNEATOの体制の強化へと向わんとする危険な動きであります。この動きは中国との友好と国交正常化を阻害しようとする動きでもあります。これらの動きはあるいは警職法反対の日本国民のたたかいや平和を要求する国民の勢力によって動揺しつつあるが、しかし、これが今日、日中関係の不幸な原因を作っている根本になっています。以上の日米安保条約の改定と日中関係の不幸な状態とは、いずれも関係しあって岸内閣の基本的外交方針であり、アメリカ追随の岸内閣の車の両輪であります。それは昨年末のNBCブラウン記者にたいする岸信介の放言において彼みずからがこれをはっきりと裏書きしております。これらの政策を根本的に転換させてアジアに平和体制を作る方向に向かわないかぎり、日本国民に明るい前途はなく、ここにもまた日中両国民にとって緊急かつ共通の課題がございます。
 
 このような問題をいかに解決するかという点に関し日中関係について申上げまするならば、昨年五月いらい岸内閣の政策によって日中関係はきわめて困難な事態におちいりました。それまでは、国交回復はおこなわれていないにかかわらず、中国と日本においてはさきに私と張奚若先生との共同声明をはじめとしまして数十にあまる友好と交流の協定を結び、日本国民もまた国交回復をめざしながら懸命に交流、友好の努力をつみかさねてまいりました。しかしついに中絶状態におちいったのであります。このことにつきましては日本国民は非常な悲しみを感じ、かつ岸内閣に鋭い怒りを感じているものであります。(拍手)ここでわが党の参議院議員佐多忠隆君が貴国を訪問して三原則、三措置、すなわち、(1)ただちに中国を敵視する言動と行動を中止しふたたびくりかえさないこと(2)二つの中国をつくる陰謀をやめること(3)日中両国の正常な関係の回復をはばまないこと−−これを受けとり、これを正確に国民大衆につたえたのであります。
 
 これにもとづきましてわが社会党は一九五八年九月に新しい日中関係打開の基本方針の決定をいたしました。すなわちその項目はつぎのとおりであります。岸内閣の政策転換の要求、(1)二つの中国の存在を認めるが如き一切の行動をやめ中華人民共和国との国交の回復を実現する(2)台湾問題は中国の内政問題であり、これをめぐる国際緊張は関係諸国のあいだで平和的に解決する(3)中国を対象とするNEATOのごとき軍事体制には参加しない (4)日本国内に核兵器を持ちこまない (5)国連その他の機構をつうじ中華人民共和国の国連代表権を支持する (6)長崎における国旗引きおろし事件にたいしては陳謝の意を表し今後中華人民共和国の国旗の尊厳を保障するため万全の措置を講ずる (7)友好と平和とを基礎にする人的、文化的、技術的、経済的交流を拡大し国交正常化を妨害することなくこれに積極的支持と協力をあたえる。とくに第四次貿易協定の完全実施を実現する。さらに台湾海峡をめぐる問題にかんしていえば、蒋介石グループにたいする軍事的支援、とくに台湾に米軍を駐屯することがアジアの緊張を激化するものであるとして、日本政府にたいしては慎重なる態度をとることを要請したのであります。(拍手)
 
 さらにまた社会党は以上の基本方針にもとづきまして日中国交回復、正常化のために国民運動を展開し、もりあげることにいたしました。その要項は、第一、岸政府の政策の全面的転換を実現するためにすべての国民の力を広範に結集し、強力な運動を展開する。第二、現在の岸政府をもってしては現状の打開はきわめて困難であることの認識に立ち、長期かつねばり強い運動を展開できる態勢を整える。第三、この運動をするにあたっては原水爆反対、沖縄返還、軍事基地反対、憲法擁護などの運動と密接に提携してすすめる。第四、わが党は労働組合、農民組合、青年婦人団体、各経済・文化・民主団体などを結集して財界、保守党の良心分子にいたるまで運動に参加せしめる、とくにわが党が協力している日中国交回復国民会議を強化し、これを通じ積極的に運動を展開する。
 
 わが党は以上のごとき国民運動および日本の岸政府にたいする政策転換のたたかいをもとめまして、中国側にたいしても浅沼・張奚若先生との共同コミュニケの精神にのっとり日中関係の改善にたいし積極的な協力をもとめる、こういうふうにしたわけであります。さらに去年四月の日本社会党中央委員会ではいままでの軍事基地反対運動、平和憲法擁護運動、原水爆禁止運動、沖縄返還および日中国交回復国民運動と日米安保条約体制打破の国民運動を、とくに本年におきましては日中国交回復国民運動と日米安保条約体制打破の国民運動に力を結集してたたかうことを決定したのであります。さらにこの運動の一環として時期をみて日本社会党の訪中使節団を送ることを決定しました。それは、いかに不幸な事態においても日中両国民のあいだの友好と交流はたえず努力していかねばならないこと、またそれによって岸内閣の政策に反対する日中両国民の国交回復運動が大きく前進することを期待しているためにほかならないのであります。(拍手)
 
                                      二
 
 この決定にもとづいて私たち使節団はふたたび中国を訪問したわけでありますが、同時に訪中の目的のためには、中国の姿をありのままに沢山みて、その姿を正しく日本の勤労大衆、国民につたえるためであります。私どもが日本を発つにあたって日本において民主団体、平和団体は日中国交回復の国民大会をひらいて次のごとき決議を決定いたしました。そしてわれわれ使節団を激励してくれたのであります。いま参考までに決議文を朗読してみます。
 
 決議。政府は現在安保条約を改定する方針を明らかにしている。この改定は現行の安保体制を固定化するだけでなく、日本自からの意志でアメリカの軍事ブロックに参加することを再確認し、さらにアメリカとの共同防衛体制に公然と加入することになり、日本の軍事力の増強とアメリカヘの軍事的義務の遂行を強制されることによって海外派兵はさけられなくなり、憲法第九条はまったく空文化することになる。とくにこの改定によってアメリカの核兵器持ちこみを許し日本が自ら核武装への道を歩むことは明らかであり、その結果日中関係は決定的事態におちいり、現在の日中関係の打開はおろか、国交回復は最も望みえないものになることもまた明らかである。日本の平和と繁栄を望みいかなる国とも平等に友好関係を保持することを望むわれわれは、かかる危険な安保体制とその遂行のために企図されている秘密保護法、防諜法制定の動きや、警職法改悪にあらわれた国民の基本的人権と自由の圧迫、軍事力強化にともなう国民生活の破壊などにたいして断固としてたたかわなければならない。われわれは昨年警職法改悪の意図を粉砕した経験と成果をもっている。このエネルギーはいまなお国民一人一人の中に強く燃えつづけ、たたかえば勝てるという碓信はいよいよたかまりつつある。この集会に結集したわれわれは決意をあらたにしてあらゆる階層とその要求、行動を統一して安保条約改定を断固阻止し、すすんで安保条約を解消し、アメリカのクサリを断固切り、平和政策を樹立し、日中国交回復を実現しよう。右決議する。
 
 これが内容です。(拍手)この決議にもられているものは、平和と民主主義を愛し、一日も早く日中の国交回復をやりたいという日本国民の熱烈な願望でございます。(拍手)
 私ども中国にまいりましてから約一週間になりました。私たちは人民外交学会をはじめとして中国の皆さんの確固たる原則的態度と同時に大きな友情を感じております。とくに過日農業博覧会において農作物の爆発的な増産をする姿をみ、また工場建設の飛躍的な発展をみまして、とくに人民公社に深い感銘をおぼえたのであります。今後多くの日本国民とりわけ農民諸君が中国にきて、論より証拠のこの実情を目のあたりにみられるようにしたいと考えております。(拍手)
 
                                      三
 
 今後日中両国民のあいだにおける重要な問題は、なによりも私たちが、日本における日中国交回復の国民運動を三原則の正しい方針のもとに力強くもりあげて、岸政府の反動政策を打破しさることが第一であると確信しております。しかしそれだけでは日本国民のアジアにたいする責任は解決されません。アジア全体の脅威はどうなっているかと申しあげまするならば、外国の軍事基地を日本と沖縄からなくさなければアジアにおける平和はこないことを私どもは感じます。それは私どもの責任と思っているわけであります。そのため社会党は安保条約体制の打破を中心課題としてたたかっているのであります。この安保条約を廃棄させて日本の平和の保障が確立するならば、すなわち日本が完全独立国家になることができまするならば、中ソ友好同盟条約中にあるところの予想される日本軍国主義とその背後にある勢力にたいする軍事条項もおのずから必要はなくなると私どもは期待をするのであります。そうしてさらに中ソ日米によるアジア全体の全般的な平和安全保障体制を確立して日本とアジアに永久平和がくることを日本の社会党はつねに念願としてたたかっているのであります。(拍手)昨年末この日本社会党の一貫した自主独立、積極的中立政策について中ソ両国が再確認をしたことにたいしましては、私ども平和外交の前進のために心から喜ぶものであります。
 
 このようなアジアと日本の平和のためにはまず中国と日本との国交の回復がなされなければなりません。中国は一つ、台湾は中国の一部であります。中国においては、六億八千万の各位が中華人民共和国を作りあげておるのであります。日本はこの中華人民共和国とのあいだに国交を回復しなければなりません。また中華人民共和国が国際連合に加盟することも当然と信じます。また同時に日本と台湾政府のあいだにある日台条約は解消されるのが必然であると私どもは考えております。(拍手)日本は戦争で迷惑をかけた国々とのあいだに平和を回復し大公使を交換しています。しかるに満州事変いらい第二次世界戦争が終るまでいちばん迷惑をかけた中国とのあいだには国交が回復しておりません。それは保守党政策のあやまりであります。はなはだ遺憾と存ずるしだいであります。
 
 私ども社会党は、一日も早く中国との国交回復をのぞんでやみません。元来、日本外交の過失はどこにあるかと考えてみまするならば、つねに遠くと結んで近くのものに背を向けたところにあったと思います。明治年間には遠くイギリスと日英同盟を結んでアジアにおける番兵のごとき役割をはたし、第二次世界戦争のさいはこれまた遠くドイツ、イタリアと軍事同盟を結び中国ならびに東南アジア諸国に背を向け、軍事的侵入を試み帝国主義的発展をなしたところに大失敗があったといわなければならないと思うのであります。いままたアメリカと結び、アメリカの東南アジアヘの帝国主義的発展の媒介的な役割を果そうとしております。これは私どもが厳に政府にたいして警告し、これの転換をせまっているのであります。わが社会党はかかる外交方針に反対をいたします。すなわち、遠くと結び近くを攻めるという遠交近攻の政策より善隣友好の政策へと転換すべきであると思います。すなわち、いずれの国とも友好関係を結ぶことはもちろんでありますが、いずれの陣営にも属さず自主独立・善隣友好の外交、すなわち中国との国交正常化、アジア・アフリカ諸国との提携の強化、世界平和のために外交政策を推進しなければならないと考えているものであります。(拍手)
 
 つぎに経済的には日本と中国は一衣帯水でかたく結ばなければならないと思います。現在日本経済はアメリカとの片貿易の上に立ちアメリカの特需の上に立っているのであります。またMSA協定にもとづく余剰農産物の輸入は、これまたアメリカと結び、アメリカの戦争経済に依存している姿であると私どもは考えさせられます。これにたいして一種の不安を感じています。経済の自立のないところに民族の自立はありません。日本が完全なる自主独立の国家として生きるためには、対米依存から脱却しなければなりません。日本が本来一つであるべきアジアと完全に一致せずアメリカの特需や輸入調達にもとづいているところに、今日の不幸な状態が生れ、またこれが背景となって岸内閣の反動的政策の経済的基礎となっていることも事実であろうと信ずるのであります。したがって、私どもは岸内閣に対し社会党への政権の引渡しをせまり、根本的な政策転換と日中国交回復をおこなった上、躍進しつつある中国の第二次五ヵ年計画と結びついた安全性のある日中貿易の交流、アジア諸国との経済協定の飛躍的な前進を期待しているものであります。(拍手)かくて日本は独立・中立政策の経済の基礎を確立して、その重工業の技術、設備、飛行機工場にいたるまで平和なアジアの建設のために奉仕するようにしたいと考えるものであります。
 
 私たちはこのように平和と友好の願いをもって中国へまいりました。みなさんとアジアは一つであるというかたい友情の交歓をいたしまして帰国いたしますと、私たちは国会において岸内閣不信任案の提出、さらにつづいて私たちの中国訪問の報告を全国に遊説し、さらにまた四月からおこなわれまするところの地方選挙、参議院選挙が待っているのでありまして、この二つの選挙闘争も、国会の解散と岸内閣を倒す、これに集中してたたかいをすすめてまいりたいと考えているものであります。(拍手)このたたかいは、われわれが前進をするか、彼らが立ちなおるかの大きなわかれ目に立っているのであります。しかし最近、日本においては平和と革新の力が強まれば強まるほど、岸内閣は資本家階級と一体となってこれに対抗して必死の努力をかまえてきております。私たちはこのたたかいを必ずかちぬきたいと考えるわけであります。今後の政局と政策の根本的な転換をかちとるためにどうしてもかちぬかなければならないと思うのであります。中国ならびに全アジアのみなさんとともにアジアの平和とさらに世界の平和のためにもたたかいぬいてまいりたいと考えております。(拍手)
 
                                      四
 
 最後に申し上げたいと思いますことは、一昨年中国にまいりましたさいに毛沢東先生におあいいたしまして、そのときに先生はこういうことをいわれたのであります。中国はいまや国内の矛盾を解決する、すなわち資本主義の矛盾、階級闘争も解決し、帝国主義の矛盾、戦争も解決し、封建制度の矛盾、人間と人間の争い、これを解決して社会主義に一路邁進している。すなわちいまや中国においては六億八千万の国民が一致団結をして大自然との闘争をやっているんだということをいわれたのであります。私はこれに感激をおぼえて帰りました。今回中国へまいりまして、この自然との争いの中で勝利をもとめつつある中国人民の姿をみまして本当に敬服しているしだいであります。(拍手)植林に治水に農業に工業に中国人民の自然とのだたかいの勝利の姿をみるのであります。揚子江にかけられた大鉄橋、黄河の三門峡、永定河に作られんとする官庁ダム、さらに長城につらなっているところの緑の長城、砂漠の中の工場の出現、鉄道の建設と、飛躍しております姿をあげますならば枚挙にいとまありません。つねに自然とたたかいつつある人民勝利の姿があらゆる面にあらわれているのであります。(拍手)
 
 人間本然の姿は人間と人間が争う姿ではないと思います。階級と階級が争う姿ではないと思います。また民族と民族が争って血を流すことでもないと思います。人間はこれらの問題を一日も早く解決をして、一切の力を動員して大自然と闘争するところに人間本然の姿があると思うのであります。このたたかいは社会主義の実行なくしてはおこないえません。中国はいまや一切の矛盾を解決して大自然に争いを集中しております。ここに社会主義国家前進の姿を思うことができるのであります。このたたかいに勝利を念願してやみません。(拍手)われわれ社会党もまた日本国内において資本主義とたたかい帝国主義とたたかって資本主義の矛盾、帝国主義の矛盾を克服して国内矛盾を解決し次には一切の矛盾を解決し、つぎに一切の力を自然との争いに動員して人類幸福のためにたたかいぬく決意をかためるものであります。(拍手)
 
 以上で講演を終ります。ご謹聴を感謝申上げます。(拍手)
 
 躍進中国の社会主義万歳(拍手)
 日中国交回復万歳(拍手)
 アジアと世界の平和万歳(拍手)
 
文献・資料目次へ