社会主義インターナショナル新宣言に対する党の態度
オスロ理事会での発言要旨
党中央執行委員会
一九六二年五月一五日
*出典は『資料日本社会党四十年史』(日本社会党中央本部 一九八六.七)
(六月三日よりオスロ(ノルウェー)においてひらかれる社会主義インターナショナル理事会において議題となる宣言「今日の世界―社会主義の立場から−」にたいして日本社会党は棄権することとし、左の主旨の発言をする。)
日本社会党はこの宣言を完成するに至るまでの起草者の努力に感謝し、また今日の諸情勢のなかで、われわれの信奉する原則についての宣言をだすことの重要性を認めながら、本宣言案にのべられた主要の点についての見解には同意することができず棄権いたします。
われわれの社会主義インターナショナルがきわめて民主主義的な組織であって、加盟党は社会主義という大理想を共通にしながらも、当面の諸問題については多様な見解がみられます。それがインターナショナルの強みであるという見方もあるゆえんです。この種の宣言をだすときにすべての加盟党が1〇〇%満足できるような案をうることの困難であることも事実でありましよう。
しかしその多様性をそのまゝに表現するだけにとどまったのでは受動的なものであります。われわれのインターナショナルが真に世界的な、社会主義者の連帯組織となろうとし、出さるべき宣言がそれに貢献するものであろうとするならば、受動的なものにとどまってはなりません。宣言案は「未来は資本主義のものでなければ共産主義のものでもない」と正当に指摘していますが、しかしわれわれインターナショナルの組織の及んでいない地域が広いことを結成以後一〇年余を経た今日、十分に反省しなければなりません。とくにそれは第二次大戦以後の新しい独立国での地域であります。この地域の人々がどういう考えをもっているか、またとくにこの地域でわれわれと競争しているのがいかなるイデオロギーであるかをまずありのまゝに認識しなければなりません。その上にたってこそ適切な政策がたてられるものと信じます。そういう使命を果すことをわれわれはこの新しい宣言に期待しているのであります。それが、この段階で原則的な宣言をたすことの積極的な意義であります。インター加盟党のほとんどがヨーロッパにあることからヨーロッパの立場だけから情勢をみ、且政策をのべてはなりません。
日本社会党はこういう見地にたって宣言の討議に加わってきましたが、今日最終案の討議にあたって賛成投票のできない主な理由は左の諸点であります。
一、第一の理由は、宣言が「防衛力と攻撃をうけたときの報復力」を無条件に支持している点であります。この規定は日本憲法第九条の日本の再軍備を禁止した規定とは相いれません。加盟各党はいずれもその国の憲法をもっとも尊重されていることを承知していますが、日本においては特に、保守、反動勢力が憲法を民主主義に逆行した方向で改悪しようと企んでいるときだけに、社会主義者は憲法の規定と矛盾する宣言に賛成できないのは当然であります。
二、武力を一義的に支持する態度は、外交政策においては力の政策にたいする支持と相通ずるものであります。宣言が一方では「北大西洋同盟は平和の強力な塁である」というヨーロッパの加盟党の決意に言及しながら、中立政策、今日の世界において三十数カ国の外交政策の基本となっている中立、非同盟の原則については、たんに「その地域の安全保障と安定に最善の働きをしていると考えている」ときわめて消極的に言及しているにすぎません。中立諸国の平和にたいする貢献を正しく評価すべきであります。日本についていうならば、北大西洋同盟と同じ考え方にたった安全保障条約が米国との間に結ばれておりますが、これが保守党の内、外政策の中核となっています。この条約は外交において力の政策の上にたっている上に、この米国との軍事的結びつきが、日本を反動化―軍国主義化の道を歩ませる危険を含んでいます。故に、われわれは軍事同盟の方式による安全保障に反対し、日本は中立であるべしと訴えています。
軍事同盟か中立かは日本では保守党対社会党の対決点であります。この重要な点について、立脚点を異にする宣言に同意はできないことは、北大西洋同盟を、積極的に支持する字句を要求されたヨーロッパ友党も理解できるものと希望します。
三、われわれの不満とする右の基本的な考え方は、共産主義にたいする攻撃に比して建設的な提案が乏しいことと表裏しております。たとえば中国の共産主義政権についてこれを「アジアの国にたいする脅威」と評価するのみで、しからば中国との関係をどうすべきかについては、国連加盟以外になんの提案も見当らないのであります。中国と境を接し、同じアジアにある国には、社会体制を異にするとはいえ、この中国といかにして平和共存していくかにもっとも関心をもっています。宣言案にいっているアジアの緊張は「米国の政策のある側面によって激化されている。」というきわめて控え目な表現は、中国にたいする米国の政策が、アジアにおける緊張の第一の要因であることを指摘したものとわれわれは理解いたします。
アジアの社会主義者として日本社会党は宣言案が、インターナショナルの加盟党がヨーロッパが大部分である現状を反映してではありましょうが、ヨーロッパを中心に考えているとの印象をうけざるをえません。ヨーロッパの同志が中心になってつくられた社会福祉国家の成果には賛辞を惜しみませんが、しかしこれが社会主義への唯一つの道であるとは考えません。また植民地独立についても、「社会党政権の着手した事業」に言及するならば、同時にわれわれにはスエズ、アルジェリヤ、コンゴなどの諸事件の反省も率直にすべきではないでしょうか。それがあってはじめてわれわれのインターナショナルには新しい国々に進出する可能性が開けるものと考えます。
以上数点を指摘しましたが、これが日本社会党の基本的政策と一致しませんので、他の点において賛成できる点が少くないにもかゝわらず、棄権いたします。