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共産党スパイ査問事件について  委員長談話
                         成田知己
                         一九七六年二月二日
 
*春日一幸民社党委員長が国会代表質問で宮本顕治共産党委員長のいわゆる共産党スパイ査問事件を取り上げたことから起きた論争に社会党委員長として触れた委員長談話。当時、共産党機関誌『赤旗』はこの談話を一部省略のうえほぼ全文転載した。出典は『資料日本社会党四十年史』。   
 
   旧憲法感覚を復活させるな
 一、国民が今国会の審議に期待していることは、物価をおさえ不況を克服して、明るい希望のもてる社会経済状況を一日も早く作るため、全野党が全力をあげることだ。
 社会党はこの国民の期待にこたえるため、反インフレ、反不況、国民生活防衛の立場から、五十一年度政府予算案をはじめ、政府案を徹底的にほりさげ、審議して、三木内閣に国民要求の実現を迫り、政策対決を通じて国会解散をかちとり、政治の一新をなしとげるという方針で国会審議にのぞんでいる。
 
 したがって四十年以上前の旧帝国憲法下の治安維持法体制のもとでおきた「共産党のスパイ査問事件」問題を、国会冒頭から民社党がもちだし、共産党との間で非難、中傷をくりひろげていることは、今国会の眼目である経済危機の打開という最大の政治課題から国会論議をそらすものであり、きわめて遺憾なことである。これを喜ぶのは政府・自民党であることは言うまでもない。
 
 一、公党の指導者の政治道義にかかわるという主張にもとづくとはいえ、戦前の治安維持法体制における問題を、その歴史的背景と切り離してとりあげることは正しい態度ではない。問題のこうしたとりあげ方は、戦前の治安維持法や特高警察による人権無視の暗黒政治への反省を忘れ、旧帝国憲法感覚を復活させ、数多くの先輩の犠牲によって国民が得た現在の平和・民主の憲法下で、戦後三十年にわたってはぐくまれ定着してきた民主主義を逆戻りさせるおそれなしとしない。改憲を政綱にかかげる自民党のこの論争への間髪を入れない対応の仕方、最近の三木内閣の反動姿勢の強化からみて、この問題が政治反動に利用されることを強く警戒しなければならない。
 
   国会審議に党略認めぬ
 一、政党の性格や民主団体のあり方についての論争は、民主主義を発展させていくうえできわめて重要ではあるが、これを党略が先行した立場から国会審議の場を利用して行なおうという態度は、つつしむべきであろう。
 
 この点では、共産党の場合もその独善的な国会戦術と関連して、問題なしとしないであろう。たとえば、わが党がくり返し国会審議の課題にすべきでないと指摘したにもかかわらず、部落解放運動における意見のちがいに基づく対立と矛盾を、共産党は暴力事件、リンチ事件として執拗に国会論議に持ち込んできたことがそれである。このことが、今回の「共産党のスパイ査問事件」の国会への持ち込みに道をひらいたといえなくもない。現在、国民が政治に期待している最大の緊急課題は、物価、不況、雇用問題などの解決である。共産党、民社党間の非難、中傷のくり返しにより、いささかでもこの最重要課題の焦点がぼかされ、国民の政治不信を深めるようなことがあってはならない。両党のこんごの国会審議における節度ある態度を望むものである。
 
   全革新共闘の実現追求
 一、この問題と共闘の関係についていえば、もともと共闘は、要求、政策の一致にもとづくものであって、今国会の眼目である経済危機の打開などについて意見の一致を見出して全野党共闘、より正確にいえば全革新共闘の実現をはからなければならないと考える。
 もし、意見の一致をみながらも、この問題を理由に共闘に反対する党があるとすれば、それは国民要求に背を向けるものである。社会党は革新的立場に立った共闘実現を、従来の方針どおりねばり強く追求する。