「委員長は十字架である」
−右社委員長就任挨拶
河上丈太郎
一九五二年八月二五日
*河上丈太郎が右社第十回臨時大会でおこなった委員長就任演説。「委員長は十字架である」の言葉は河上丈太郎の人柄を表すものとして、広く知られた。出典は日本社会党結党四十周年記念出版『資料日本社会党四十年史』(日本社会党中央本部 一九八六.七)
。写真は就任挨拶演説をおこなう河上丈太郎。
諸君、本日この大会の席上におきまして、日本社会党中央執行委員長の御推薦を受けましたことは誠に感激にたえません。私は微力であり、その任にあらずとして今までお断りしてきました。また総選挙の洗礼を受けてからでなければと、御辞退をして来たのでありますが、中央執行委員会の切なる御要求に私は深く感激いたしまして数日間の猶予を頂戴して最後に私は決意をいたしたのであります。
いま日本社会党の置かれている任務を思うとき私一身の利害は超越してお受けすることにいたしたのであります。
諸君、民主主義の革命は一つの犠牲の道であると考えます。左右両翼にわたる全体主義の脅威を受けながら毅然としてその道を守るべきところの民主社会主義の理想というものは苦難の道であることを各国の歴史が示しております。生命の危険すら冒すことを覚悟しなければならないのであります。しかしながら先人はわれわれに教えて曰く「屍を越えて突撃せよ」と。この苦難の道を避くることを私の良心が許しません。委員長は私にとって十字架であります。しかしながら十字架を負うて死に至るまでの闘うべきことを私は決意したのであります。私はここに欣然として諸君の推戴を受諾いたしたいと思うのであります。今日日本の現状をかえり見まするに向米一辺倒の吉田内閣あり向ソ一辺倒の共産党の脅威があります。けれどもこれでは日本は救われません。日本を救うものは民主社会主義の理想であります。先般亡くなられたシユーマッハー氏は浅沼書記長に送った書簡で、民主社会主義の道のみが人民の道であると道破しているのであります。このシユーマッハー氏の言葉は日本社会党に対する偉大なるところの遺言であると私は考えています。民主社会主義の旗のみが民衆を救うところの唯一つの道であるとの確信の上に立って私は今後の闘争を続けたいと思っているのであります。
諸君、英国労働党の歴史はそう古くはありません。僅々半世紀にもなりません。けれども半世紀の間にあの単独政権をかち得て六年間政権を握り、社会主義的新しい態勢を英国の政治にしきました。しかしながらこの偉大なる文明国の労働党の発展の陰には全国にわたる何百万という党員のあることを忘れてはなりません。英国労働党の有力なる知識者コール氏がその英国労働党史の最後のページにあたって、これら党員の無欲・恬淡・犠牲・献身の中に英国に新しき福祉国家を実現せんとする理想に燃えている全党員に向って感謝の言葉を述べているのであります。
日本社会党が真に日本の骨となり血となるには日本において英国の如くに何百万という党員が必要であると私は考えているのであります。私はこの党員の養成に、党員の成長に今後の努力を払いたいと考えています。日本社会党が真に日本の骨となり肉となることを私は心から期待します。
諸君、今や総選挙も近づこうとしています。シユーマッハー氏もこの選挙に対する日本社会党の運命を顧慮しつつ永久の眠りにつきました。この異境の偉大なる民主社会主義者の最後の憂いをわれわれはこの総選挙にあたって現実に克服しなければならないと考えます。自由党の三年有半にわたる政治は何をなしたかと言うなれば、資本主義的経済の最も露骨なる表現でありました。これでは日本は救われません。日本を救うものは、日本社会党の主張する社会主義計画経済態勢のみであるという確信をもって自由党政権を打倒して行くことこそ目下のわが党の任務なりと考えています。
諸君、私は微力でありますけれども諸君の力によって私をして社会党の党首としての任務を全うさせていただきたい。
諸君、社会党の党首は保守党の党首と違って党の組織を重んじ、その決議を尊重し、その決議に対し忠誠に勇敢にこれを実行することが任務なりと考えています。
私は諸君の決定された理想をその実践にあたって忠実に勇敢にこれを実行することを諸君にお誓いいたします。
諸君、河上のもとに諸君がつくのではなく、諸君の後に私がついて行く態勢こそ、真の正しい態勢であることを深く信じるものであります。
諸君、微力です、どうか私を助けて日本を救うために、日本社会党の勝利の最後まで、諸君の御同情と御鞭撻あらんことをお願いして私の就任挨拶にかえる次第です。