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青年よ再び銃をとるな   委員長就任挨拶
 
 
 
*日本社会党第七回大会最終日におこなわれた鈴木茂三郎の就任あいさつ。文中の「青年よ銃を取るな」の訴えは広く国民の共感を呼び、戦後社会党躍進の原動力の一つになった。出典は日本社会党結党四十周年記念出版『資料日本社会党四十年史』(日本社会党中央本部 一九八六.七)。 写真は左社大会で演説する鈴木茂三郎。 
 
 
 
鈴木茂三郎
 

 一九五一年一月二一日
  私は皆さんの御推薦によりまして中央執行委員長の重職を汚すことになりましたについては、私一個としては感激にたえないものがございます。
 
  私は自分の分をよくわきまえておるつもりでございますが、せっかく皆さんの御期待に副い得るやいなやに関してはひそかにこれを憂えるものでございます。しかしながら私があえて火中の栗を拾う決意をもってこの重職をになう決意をもちましたことは、御承知のように、内外の情勢に対しまして社会党といたしましては、この危局を乗り切って日本を救い日本の民族を救うものは社会党よりないという固い決意をもっておるものでございます(拍手)。この際社会党はこの情勢に対する確固不動の方針を確立いたしますと同時に一歩も動かない不退転の態勢を確立したいと思いまして、この際委員長を空席とすることを許さざる客観的情勢にあるから、私はあえて皆さんの御推薦によって、皆さんの御期待に沿い得ないことをおそれながらもお受けいたした次第でございます。
 
  内外の情勢に関しましては大会において皆さんが十分審議、討議されたように、第一に国際的な情勢に関してはいわゆる軍備拡張が行われ、第三次大戦はアジアにおいては朝鮮に起るとみるものがあり、ヨーロッパにおいては七月ごろユーゴの国境においてみるであろうと言われておりますが、しかしこうした世界大戦の危機がだんだんと深まってまいるに対しても、ただいまは平和機構としての国連の内部における二大勢力の対立でございまして、この国連の内部または外部においては、一たん戦争が起れば人類を破滅に陥れる戦争を絶対に防止しなければならないという強い運動がまき起っておるのであります(拍手)。こういう情勢に対して、私は大会後、新しい執行部と協議いたしまして、幸いにして機関の御決定を得ることができれば、この際世界における私共と同じ民主的な勤労大衆と固く結合するために、コミスコを通じて提携を深めるために、その背景となっておる勤労大衆の支持を受けるために、社会党は正式に各国に対して代表を派遣いたしたい、と存じておるものでございます(拍手)。
 
  国内の情勢に関しては、占領後六ヵ年欧米と同じような資本主義的な再建の方式がとられておりまするが、欧米と経済的に根本的に事情を異にいたしておりまして、敗戦後御承知のように領土は狭隘となり、産業は中小企業を主体とする弱い産業態勢でございまして、その中にたくさんな国民の生活を保障いたしますには、こうした条件の根本的に違う欧米と同じ資本主義的な態勢によって、国民の生活を安定させ、行動させるということは不可能だということは、今日の事態が証明いたしております。資本主義的な再建方式をとってきた政府並びに資本家階級は、この不可能なことを可能ならしむるために、朝鮮の事変を利用して、朝鮮の事変によって利得を上げて資本主義的な態勢をささえようとしたり、これがむずかしいとみると世界戦争への危機に便乗いたしまして、戦時利得を上げて軍事産業によって資本主義を再建しようとして、資本家階級は再軍備を主張しておるではありませんか(拍手)。これは明らかに資本主義の本質を暴露したものであるではありませんか(拍手)。
 
  この中へ、幸いにして講和の目的のために近くダレス氏が来朝されると聞いております。ダレス氏は一部に伝えられるように、そんなに講和がさしせまったという用件ではなくて、アメリカのヨーロッパとアジアにおける政策の調整などに関連して来朝され、その際日本の国民のあらゆる方面の率直な意見を、率直な要望を検討し調査することが目的であるように存じておりますが、この際、ダレス氏の来朝を前にいたしておりますが、わが社会党の第七回大会は皆さんによって新たに講和に対する原則、平和に対する方針、具体的な方針を確立されましたが、私は皆さんによって確立された講和、平和に対する原則その具体的の方針をあくまで追求することと、これこそわが日本の民族をして、日本の独立を確保するただ一つの道であるということを確信をいたします(拍手)。
 
  私はこの皆さんの決定を遂行いたしますために、私はとって五十七歳、日本の民族を救い、日本の独立を確保いたしますために、私一個の命はきわめて軽いものでございまして、私は死を決して日本の独立と平和を確保するためにこの大会の決定を確保せんとするものであります(拍手)。
 
  私はこの際特に党の青年の諸君、婦人の諸君に一言訴えてその奮起を促したいと思いますが、青年の諸君に対しましては、ただいま再武装論がございます。再武装を主張する当年六十余歳の芦田均氏が鉄砲を特ったり背嚢を背負うのではないのでございます。再武装をするとすればいわゆる青年の諸君が再武装しなければならないことは当然でございます。私は青年諸君はこの大会の決定を生かすために断じて銃を特ってはならない。断じて背嚢をしよってはならない(拍手)。青年諸君は確固とした方針をもって、ただ党内の問題、組合の中の問題にとどまらないで、党の問題は私ども新しい執行部におまかせを願いまして、青年諸君は広く青年大衆の中に入って党の方針を諸君が中心に確保願いたいのであります(拍手)。
 
  婦人に対しましては、労働階級の犠牲によって資本主義的再建のとられておる今日、勤労大衆の家庭生活を通じて、働く人たちの生活がいかに蹂躙されておるかということを現実を凝視してもらいたい。あるいは不幸にして戦争になったような場合に、五千四百万人―女、子供合わせて五千四百万人以上のこの婦女子を戦争の惨害からこの爆撃の下からどうしてこれを守ろうとするのであるか(拍手)。私は幸いにして一党の代表者がダレス氏と会見する機会を得たならば、世界の第三次戦争に対して、国際的な紛争に対して何ら関知しないところの日本が、こういう国際的な紛争のために日本が、不幸にして戦争に巻き込まれた際、ダレス氏は日本の五千四百万の婦女子を何によってこの戦禍から防衛してもらえるかということを聞きたい(拍手)。
 
  私はこの困難な段階に重要なる任務をにないましたが、しかし幸いにして新しく顧問になられた先輩の諸君、あるいは中央執行委員会の諸君、こういう方々の御協力によって任務をあやまちなく遂行いたしたいと存じますが、とりわけわが意を強くいたしてこの重任を負いましたのは、前の五回、六回の大会における講和の三原則を、朝鮮問題から起ってきたあらしの中から、皆さんの大会の決定を、委員長のないもとにおいて確守されてきた大書記長・浅沼稲次郎君が、同じように書記長として御協力をいたしていただくことができるということと同時に、なおそれより私がこれをお引受けいたすことのできましたのは、皆さんの御承知のように、片山前委員長は同志的な友愛と信義の道を私どもに説かれ実践をされ、かつ、いわゆる派閥解消に関して今日この大会にみられるような効果をあげてこられた。きわめて公正な立場をとり堅実な識見をもっておられまする前委員長・片山さんが、私の最高顧問として重要な問題についてはお力ぞえを受け、私の足りないところを補っていただくことができるということ、今日ここに病中ながらそれがために御列席を得ました片山前委員長が、私に全力の御協力をしていただくということと、そのために私はあえてこの重任をお引受けいたした次第でございます(拍手)。
 
  新しい役員を代表いたしまして一言ごあいさつ申上げ、皆さんのご協力をお願い申してやまない次第であります(拍手)。