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95年宣言−−新しい基本価値と政策目標
 
*社会党第62回臨時全国大会(1995.5.27)決定。出典は『月刊社会党』No.481(1995年7月号)

1、はじめに
 20世紀末の世界は歴史的な転換をとげ、国際社会は新しい時代を開拓しようと、さまざまな試みをはじめています。世界の人びともまた、ポスト冷戦の新たな歴史に参加しようとしています。私たち日本社会党の「95年宣言−−新しい基本価値と政策目標」は、この世界の人びとと、相互依存の時代を分かち合い、ともに21世紀に向かおうとする決意を示したものです。
 「95年宣言」はポスト冷戦と55年体制の崩壊、市民の政治意識の変化に対応して、さまざまな政治勢力でつくられる「民主主義・リベラル新党」に提示され、そこに参加する人びとの討論によって、さらに深められ、発展することになります。
 新党は、狭いナショナリズムの党ではなく、ヒューマニズムや国際性を大切にし、新時代を担う寛容な市民政党として、働く人びとと多様な価値観をもつ生活者や若い世代に支えられて出発します。
 私たちは、生きがいや心の充実、より快適な生活を求める市民の要求を調整して、未来志向の政策にまとめ、政権を担当することによって、それを実現することが、新党の役割であると考えています。
 
2、基本価値
 社会民主主義は社会のさまざまな分野で、自由と民主主義を実現するための終わりのない改革の運動であり、思想であるということができます。その基本価値は公正、共生、平和、創造であり、これは私たちが政策や社会秩序のあり方を考えたり、国際社会と向き合う場合の基礎となります。 公正は権利や機会が平等であることを意味し、人間の尊厳を最も大きな価値として尊び、共生は性、国籍、言語、宗教、民族の違いをこえて、人びとが連帯し、自然環境とともに生きることであると理解します。 平和は、戦争の原因となる恐怖や貧しさ、憎しみを地球上から永遠になくし、安全と生存を保つことであり、創造はヒューマニズムを基本にして、より住みやすい社会へ変革していく知性ゆたかな営みのことであると理解します。
 
3、新しい社会目標
 私たちは、ゆとりとバランスのとれた「成熟社会」を新しい社会目標にかかげることにします。この成熟社会は人びとの個性、生活の質、心の充実、社会的な公正、参加の拡大、自己決定をかぎりなく追求し、自然と人類の文明が両立できる社会であり、資源を再生して活用し、自然と人間が共生しあう循環型の社会です。
 この社会では、人びとの多様な芸術・文化・スポーツは奨励され、教育、職業、老後などそれぞれのライフ・ステージで、ゆたかな選択肢をもつことができ、女と男、障害者と非障害者、国籍・言語・宗教のことなる民族が、ともに支え合って生きていきます。
 私たちは、日本国憲法をさまざまなかたちで具体化し、広く地球上の人びとと、「ともに生きる文化」を求めていくことにします。これは、私たちが理想として描く、世界の模範となるような「新しい平和モデルの国」を建設することによって実現されます。
 
4、政策目標
 私たちは、以上の基本価値と社会目標のもとに国際協調、軍縮、教育、福祉、医療、人権、環境、分権の中期政策目標をかかげます。この政策目標は政治・社会・経済の進展、人びとの生活意識、人生観の変化に対応して、そのつど見直され、政策として立案され、具体化されます。
 
(1)外交と防衛
 私たちは、過去に戦争を起こしたことを反省して、その責任を明らかにし、「アジアと世界に信頼される国」をめざすことにします。そのために「軍備なき世界」を人類の理想とし、核武装もせず、軍事大国にもならないことを世界に表明し、これを日本外交の基本とします。
 冷戦が終わったいま、防衛政策の基本は軍縮です。「自衛隊は合憲」として認める立場から、自衛権の行使は領土・領海・領空に限定して、自衛隊の計画的な縮小と改編を進めることにします。私たちは敵をもたず、敵もつくらずに、国連加盟国が共同の力で、世界の危機に立ち向かう、いわゆる普遍的安全保障体制の確立につとめ、宇宙船・地球号の視野から、軍縮と核兵器の全面廃絶にとりくむことにします。
 
 私たちは、外交の基軸を日米関係におき、日米安保条約を堅持しつつ、その運用にあたっては、できるかぎり軍事面を小さくして、政治・経済面を広げ、冷戦後の国際関係を視野に入れた新しい日米関係をつくることにします。それは日米両国が安保条約を基盤にして環境、人口、人権、貧困、エイズ、麻薬、テロなど地球規模の課題にとりくみ、国際社会の期待に応えていくことを意味しています。
 私たちは、アジア諸国との関係を重視します。日本はこの地域の人びとと連帯して、持続した繁栄と安定につとめるとともに、アジア・太平洋の地域安全保障体制を確立し、「平和の配当」を分かち合わなければなりません。そうした条件を整えつつ、日米安保条約は将来、アジアのさまざまな国が参加した地域安全保障体制の中にとけ込ませていくことにします。
 
 日本はアジアのなかのひとつの国として、アジア・太平洋地域の経済協力を進めることが求められています。この地域ではいまも、武器市場と軍事力が拡大されており、日本はこれらの動きに歯止めをかける国際的な協調行動を広げ、アジアの平和と安全を確保するためのリーダーシップを発揮しなければなりません。これらの努力を積み上げながら、多様な文化の共存と民主主義を推進するソーシャル・アジアを展望します。
 
(2) 国際協力と国連改革
 世界の安全保障は、国連など国際機関を中心に考えることにします。そのためには政治の面でも財政の面でも、国連を改革し強化することが必要であり、日本は憲法を規範に、人材や資金を国際機関に提供し、諸国民とともに世界の平和と安全を確保することが求められています。
 PKO活動をはじめ人権や開発、環境や経済、人道や社会発展などの分野で、国際協力を進展させ、武力行使を前提とした任務でないかぎり、国際平和協力法に基づいて、すべての国連平和維持活動に参加することにします。 PKFについては、武力行使を前提とする平和執行部隊や多国籍軍には参加しないことを基本に対応します。
 
 私たちは国連が開発、環境、少数民族、人権、軍縮、平和など冷戦後の新しい課題に対して、積極的なとりくみができるように、安全保障理事会の改組、経済社会理事会の強化をはじめとする国連改革をめざすことにします。 またNGO(非政府組織)に法人格を与えるとともに、財政支援の実現に向けてとりくみます。
 
(3) 共生型の市場経済
 
 私たちは、環境と共に生きる市場経済や公正な自由貿易を基本とします。 この基本にたって、グローバル・エコノミーの時代にふさわしく経済の国際化を進めるとともに、「効率と量の経済」から「生活と質の経済」へと転換につとめ、社会的共通資本の拡充による内需中心の生活者経済や環境と共生する産業の実現にとりくみます。
 市場経済の主権者は消費者です。その消費者の参画のもとに環境保全、消費者保護、医薬品・食品の安全管理、公正取引の確保など必要な規制を強めます。他方、社会的公正の立場から、市場経済の活性化をさまたげるような経済規制はなくし、ベンチャー(研究開発)型の中小企業にも、新しいビジネス・チャンスを保障することにつとめます。同時に、経済活性化の源である中小企業を育成する産業政策を進めます。
 
 環境保全や省エネルギー型の技術、新エネルギー開発や新素材、ニューメディア(新情報通信)なども、これからの新しい産業として奨励します。また、食糧の確保と、国土・環境保全型の農林水産業の振興をはかります。
 私たちは、経営のすべての面で、労働者が参画できる労使共同決定システムを導入して、労働者の発言権や意見を表明する権利を保障し、労働基準法の順守、労働時間の短縮、労働内容の充実、完全雇用の実現にとりくむことにします。
 
 NGO(非政府組織)やNPO(非営利組織)活動、環境保護運動、参加型の消費者・生活協同組合運動、政策提案型の市民運動などと連帯し、その発展につとめます。
 
(4)政治の改革
 私たちは、政治家の倫理と識見を高め、政策決定の主導権を官僚から政治家の手に取りもどすことによって、政治のリーダーシップを確立することにつとめます。国家予算の適正な配分は、国民の信託を受けた政治家の任務であり、予算編成は内閣官房を中心とした政治がリードできるように改革することが必要です。
 政治改革の基本は、政治の腐敗体質を改め、政治不信をなくすところにあります。このため、族議員の存続をゆるさず、企業献金を禁止して、政官業の癒着を断ちきるなど政治腐敗防止策の確立にとりくみます。政策決定の透明性を高め、生活者に身近な参加型の政治を実現するため、行政情報の公開を進めます。
 
(5)分権と自治
 自治は民主主義の原点です。分権と自治は中央政府の権限や財源を自治体に移して、地域主権を確立し、大きな自治体に変えることによって実現されます。そのためには機関委任事務や許認可事務なども整理・統合して自治体へ移し、中央省庁の簡素化と統廃合を進めることが必要です。私たちは地方分権を推進して、行財政上も自治体を自立させ、国際化時代にふさわしい地域外交を進める地方政府の実現に向けたとりくみを強めることにします。
 
(6)新しい家族と男女の社会的平等
 私たちは、個人とさまざまな新しい家族のかたちを大切にします。どんな家族や生活共同体も差別されず、夫婦別姓は選択の自由とし、家族の一人ひとりの権利は平等にあつかわれなければなりません。
 子どもの人格は尊重され、その権利を守ること、女性と男性の社会的な平等を実現することは政治の優先課題です。性的役割分業は否定します。
 
 私たちは、女性の健康に関する自己決定権を確立するとともに、国・自治体をはじめ政党、組織、団体役員などへの割当て(クォータ)制をとり入れ、社会参画をうながすなど女性差別の克服につとめることにします。
 未来は若い世代のものです。女性と男性には教育、雇用、職業訓練の機会が同じように保障され、学ぶこと、働くことのよろこびが約束されなければなりません。文化や芸術、スポーツやボランティア、政治や社会活動への若い世代の積極的な参加をうながすためには、文化活動への公的助成、公共の余暇・文化施設の充実、18歳選挙権の実現などが必要です。
 
(7) 教育の改革・文化と信教の自由
 高度情報化社会と知識社会が登場した現在、社会改革のなかで最も重要なのは、教育の改革です。このため、私たちは中央集権による画一的な知識と技術にかたよった教育から、個性をのばし、歴史の真実を学び、日常生活から体得する知恵が生涯の糧として身につくような教育へ改めることにつとめます。
 子どもたちは自由と自律、相互尊重と社会的責任、民主主義と国際協調の理想のもとに教育されることが望まれます。いま、障害者と非障害者の共学、伝統的な文化価値の継承など生活福祉型教育の実現が求められています。したがって、私たちは初等中等教育を自治体に移転し、教育行政を完全に分権化することによって、その実現につとめます。
 すべての市民の創造的な芸術と文化の表現は自由とし、どのような規制も、どのような検閲も許されないし、信教の自由と宗教団体の活動も十全に保障されなければなりません。
 
(8) 福祉と医療の改革
 社会福祉は、措置制度による選別ではなく、介護や保育までも含めて、すべての国民に対する普遍的なサービスであるという原則でつらぬかれます。 高齢者の生活と介護は、公的年金の充実と公助・共助・自助を組みあわせた新しい社会制度で支えることが重要です。私たちは介護労働力を計画的に養成して、介護サービスは施設でも在宅でも、自由に選ぶことができ、人間としての尊厳は最後の日まで維持されるようにつとめます。
 医療制度の改革はきわめて重要です。医療は保健と予防を優先して、医師選択の自由やインフォームド・コンセント(説明と同意)など患者の権利を保障しなければなりません。また医薬分業の完全実施によって、医薬品使用の安全性を確保し、医療費に占める薬代の割合をおさえることが必要です。 診療報酬体系は人件費と技術料を重視して、保健と医療が結びついた制度へと改革することにつとめます。総合的福祉ビジョンと、それに必要な税制抜本改革を含め、受益と負担の関係を明確にすることが必要です。
 
(9) 人権と環境
 人権は国境をこえた人類普遍の課題です。社会のさまざまな分野で、人権の尊重をつらぬくことによって、民族や国策に関係なく、病気や障害を持つ人、高齢者、子ども、定住外国人がともに生き、育ちあう学校や地域社会の実現につとめます。私たちは定住外国人に自治体への参政権を保障するとともに、差別をなくす基本法を制定し、部落差別をなくし、アイヌ民族の権利の回復につとめることにします。
 美しい日本の自然と地球環境を守ることは、未来への大きな投資です。人類と生物の生態系の保全につとめるとともに、冷戦後の「平和の配当」を環境保全に配分するように、国際社会の協力を求めていくことにします。
 
(10)人間中心の安全都市
 私たちは、安全な市民生活が保障される都市づくりにつとめることにします。そのためには、大規模集中型や画一的な都市計画を見直し、個性豊かな安全都市づくりをめざして、自治体の権限をつよめ、土地利用や建築など開発規制を強化して緑地保全をはかりま す。  防災体制の面では、自治体の行政区域をこえて、相互に支援し合える体制を整えることが大切です。危機管理に対する現行システムは総合的に洗い直し、大規模自然災害などに有機的に対応できるように改めなければなりません。
 私たちは、首相官邸が正確な情報を迅速に収集し、それを管理できる能力をもち、強力なリーダーシップのもとに、関係行政機関に指揮・命令できる危機管理体制の確立につとめることにします。ボランティア活動や外国からの支援などを、スムーズに受け入れることのできる態勢を整えます。
 
5、まとめ
 日本社会党は結党以来、社会的公正と平和、国際民主主義を求めてきました。この主張と行動は、政府の政策に影響を与え、国民の共感も集めました。しかしその半面、体制を変えようとするこれまでの社会主義的な政策手法は、世の中の急激な変化や、国民の生活感覚に対応できないという限界も生みだしました。私たちはその反省と教訓から、一九八六年に決定した「新宣言」で、現在の体制を認め、体制内で緩やかな改革を積み上げる社会民主主義の政策手法をとり入れています。
 
 その「新宣言」も時代の新しい潮流にもまれ、冷戦後の新時代を担うことが困難になっています。私たちは、党改革を進めるうえで、歴史的な役割を果たした「新宣言」を新たな基本文書「95年宣言」に発展させることにします。これによって「新宣言」は、大きな役割と任務を終え、歴史上の文書となります。
 私たちは、ここにかかげる「基本価値」と「政策目標」を広く人びとに示して、新しい政治勢力と個人をつなぎ、政治・経済・社会のたえまない改革に挑戦していくことを宣言します。