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日本社会党の新宣言(後半)     附:新宣言に関する決議
 
かえる 運動と改革の道すじ
        −社会主義の展開
  
  国民自身が担い展開する政治・経済・社会の全面にわたる運動と改革が社会主義の道すじである。
  社会の改革をめざす運動は、まず、現状にたいする人びとの異議申し立てと抵抗にはじまる。それを土台に、さまざまな意思決定機関に参加・介入して、自らの要求を実現する。さらに政権を樹立するとともに、自治を発展させ、自ら新しい社会を創造する。抵抗、参加・介入、政権と人びとの自治による創造は社会主義運動の基本である。
 
  日本社会党は、人権が脅かされたり、民主主義の基本が侵されたり、戦争への道が強制される場合に、まさに絶対的に抵抗する。人間性と暮らしを脅かすものにたいする人びとの抵抗を支持し、連帯する。同時に改革は、日常的・現実的に推進されなければならない。防衛から攻勢へと展開する参加・介入と政権・自治は、今日、もっとも重視する。
 
 1 政治の面では、自由と民主主義を全面的に実現し、経済や社会の分野で国民の意思を統合し、改革を前進させる体制をきずくことが社会主義の発展である。
 
  この道すじにおいて、日本社会党は複数政党制と政権交代をふくむ議会制民主主義を順守する。政治と国民を直結して議会の活性化をはかる。
 
  日本社会党は社会主義の発展の道すじのもっとも重要な一環として、自治体への分権を大胆に進め、自治体で住民の支持をえて、自治体政府を担当する。
 
  今日、政界・財界・官界の癒着の弊害は明らかである。この癒着によって国民の主権は制限されている。この弊害をあらためるためには、中央政府においても自治体政府においても、統治と政策実行の主体は国民にあることが銘記されなければならない。社会党は特定圧力団体の代弁者としてではなく、先見性と調整をつうじて、責任ある政策をもって政権を担当する。
 
 2 経済の面では、社会化・計画化と市場経済の有効性を生かしつつ、経済全体が国民生活に適切に貢献するよう規制と誘導をおこなうことが社会主義の発展である。それが現代的な社会化である。
 
  日本社会党は、国有化だけがただちに社会主義とは考えない。けれども、今日、企業が、みずからの利益だけを重視し、社会全体に弊害をもたらすことは許されない。社会党は、国民の合意にもとづき、企業の社会的責任をあきらかにし、国際協調と国民生活の質を保障するようなシステムをつくりあげる。
 
  自由な市場活動によっておこりうる資源の乱用、公害、失業、人権の侵害、不公正、差別、非人間化および独占による弊害について国民的な規制を加え、さらに全体として経済の適切な運営がはかられるよう各種の手段を複合しつつ、誘導的な経済政策を展開することが社会主義の発展である。
 
  財やサービスからみて、また、国民的利益の観点から必要な部分は公共経済として位置づける。その事業形態は多様であり、当該の事業にもっとも適切な形態を選択する。政府部門の官僚的な運営は国民の監視によって除去する。
 
  日本社会党は、協同組合やボランティアなど、人びと自身が協同しておこなう経済活動を、社会主義の大きな発展として重視し、政権をつうじて、また運動をつうじて、その発展を援助する。
 
  社会主義の道すじのなかで、日本社会党は経済と産業の民主主義を重視する。民間企業と各種の政府部門の経済活動に、従業員と消費者を含む当事者の意思決定および運営への参加を制度化し、発展させる。
 
 3 社会の面では、国民的諸階層・諸集団の多様な社会運動によるみずからの暮らしの場での日常的改革の前進が社会主義運動の発展である。
 
  この観点から、日常の社会生活を管理の場から解放し、国民の自治のもとにおくようにするため、保健、医療、教育、交通など生活圏での社会生活の諸分野で自治的機関を発展させる。たんなる改良ではなく、自治の発展をともなう改革こそが社会主義の発展である。
 
  個別の制度の改革をこえ、保健と環境、交通と教育、医療と福祉といったかたちで諸制度が関連しあって国民生活の質を保障しうるように、日本社会党は地域を重視する。
 
  新しい質の生活と社会を形成するためには、それにふさわしい価値観が必要である。「大きいことはいいことだ」とか「競争の勝利者だけが生き残る」といった産業社会的価値観から脱却し、共助と共生、自治と連帯の価値観が優先されなければならない。日本社会党は、今日の価値観の多様化は当然の発展と受けとめ「あれか、これか」の価値観のおしつけはしない。しかし、教育と国民のあいだの討議のつみかさねのなかで、新しい積極的な価値観が発展するよう努力する。
 
  社会主義の発展の道すじにおいて、もっとも重要な要素は平和と民主主義と生活の質であり、改革の道すじとしては、参加・介入から自治への展開である、と日本社会党は考える。
   
      つくる 主体と連合−だれが社会主義をすすめるか
 
  改革を前進させ、社会主義をめざすためには、力が必要である。社会主義の運動は、人びとの連帯を生みだし、連帯によって力が生みだされ、改革が実現する。改革はまた、新しい連帯と新しい力を発展させる。かつて貧困、差別、非人間化は、労働者に集中的にあらわれた。その時代の社会主義は、時代の問題を解決するためにも、その解決の担い手としても階級的性格をおびたのはとうぜんであった。
 
  現代は、むろん、いぜんとして過去から引きついだ課題をもっているが、より国民的な課題を解決することが社会主義運動の任務となっている。平和の達成や高齢化社会への展開のなかでの医療や福祉への対処は、特定の階級・階層をこえた国民的課題であり、生活圏の充実と生活の質の改革は、地域住民の課題である。
 
  今日の社会主義運動にとっては、国民的・市民的課題の解決こそが要請される。
 
  産業構造の変化と意識の多様化のなかで、階級自体も多様化した。抽象的な概念である階級ではなく、現実に生きて働き、生活する国民、さまざまな生活上のニーズをもつ国民こそが改革の主体である。
 
  今日の日本社会には、いぜんとして貧困にさらされている人びと、抑圧されている勤労者、差別の社会の底辺の人びとがいる。これらの人びとの運動と課題の解決を日本社会党は、もっとも重視する。
 
  同時に多様な国民の日常的な課題の解決をめざす運動との連携こそが、現代を変えていく力となる。
 
  日本において現代の課題を多様な国民との連携のもとで解決し、改革を前進させる中心は、日本社会党である。日本社会党は、今日の課題がもつ性格からも、そのよってたつ基盤からも、勤労国民すべてを代表し、あらゆる人びとに開かれた国民の党である。
 
  社会主義の仲間であり、友ともいうべき運動は多様に発展している。日本社会党は、その運動と、相互に自立性を保ちつつ、また、相互に必要な批判をおこないつつ、共通の目標と未来の建設のために、なおいっそう緊密に協力しあい、共働したい。
 
  労働組合は、その誕生以来、社会主義のもっとも有力な支えであったし、いまもそうである。いま多くの日本の労働組合は、企業の内部での高い労働条件をめざす運動とともに、社会改革と共助の中核に発展しようとしている。日本社会党はこのような発展を支持する。
 
  日本社会党は、労働組合との相互の自立性を保ちつつ、支持協力関係を発展させる。日本社会党は労働組合の主張のたんなる代弁者であってはならない。その正当な主張を積極的に発展させるとともに、必要なときには、社会や経済の適切な発展という角度から、相互の討議を発展させる。
 
  とくに日本には未組織労働者が多い。その要求と運動を受けとめ、組織化を援助する。
 
  現代では各種の市民運動が発展している。その多くは、個個の社会的課題を端的にとらえ、運動化している。その鋭い現代への批判精神と自治的・自立的運動のあり方は、社会主義運動の重要な支柱である。
 
  日本社会党は、これらの市民運動の自主性を尊重しつつ積極的に提携する。
 
  農民・漁民の運動は、これまで日本社会党の重要な支えであった。今日、農漁民の運動は階層としての利益をはかる運動から、生態系の擁護や国民的な食糧政策などの視点をもつ運動へと展開している。日本社会党はこうした展開を支持し、強力な連携を確立する。
 
  これからの社会は男性社会でなく男女が共に担う社会である。天の半分をささえながら、あらゆる分野で各種の差別の対象となってきた女性の解放運動を、日本社会党は積極的に支持し、これと連帯する。
 
  差別の廃止は民主主義のもっとも大きな柱であり、社会主義運動の内容である。現代日本のなかでさまざまな差別のために人間としてのくらしを妨げられている人びとと集団の運動を支持する。これらの運動のなかには、いろいろな主張がある。日本社会党は意見の違いにかかわらず、連合によって解決できる方向を明らかにし、これらの運動から日本社会党にたいする積極的な支持を期待する。
 
  「豊かな社会」に生まれ、育った若者たちは、新しい価値観や活動力をもっている。それは二十一世紀の発展のカギをにぎっている。しかし「豊かな社会」のなかにあって、若者たちは、もっとも管理の対象とされ、さまざまな欲求不満を蓄積している。日本社会党は、若者たちと共同して、その不満を新しい社会建設の積極的なエネルギーへと転換したい。その共同の活動をつうじて、若者たちから日本社会党への支持を強めるよう努力する。
 
  それぞれの階層・集団がかかえる課題を、長期の視野にたち、合理的に解決していくためには、集団間の連合が必要である。諸集団があつまり、討議し、調整して、未来にむけての自主的な解決方法を提起することが必要である。
 
  こうした連携が、地域から社会全体へと大きなひろがりをもつことは、社会主義の発展に欠くことができない。それは国民自体の連合である。日本社会党は、この国民自身の連合のなかで、みずからの理念と未来への構想を示し、調整能力を積極的に発揮し、それによってみずからへの支持を拡大する。
 
  現代の問題を解決するには国民自身の連合だけでは不十分である。それを基盤に、改革が前進しうる政治の支えがなければならない。この支えとなるのが日本社会党の担う連合政権である。連合政権は社会主義を発展させる不可欠の担い手である。
 
  今日では、政治意識と価値観の多様化のなかで、連合政権はふつうのことである。日本社会党は、憲法完全実施をめざすという合意、および改革の政策が一歩でも前進する見通しを前提とし、どの政党との政権関係にも積極的に対応する。
 
  日本社会党は、この連合政権のなかで、多くの国民の支持のもとに、さまざまな政治勢力と誠実かつ真摯な討議をつうじて、主体性と主導性を発揮し、党の理念にもとづく政策の展開をはかる。このような前進をはかるために、いま日本社会党には、つぎのような能力が必要とされる。
 
  具体的な社会問題を日常的に解決するために問題を提起し、運動を推進し、解決方向を明らかにし、さまざまな意見を調整し、そして具体的に改革を実現する主体的能力。
 
  個別の課題を個別に解決するだけでなく、諸問題の連携のなかで、優先順位を示し、また、全体として整合的に調整しつつ解決する能力。
 
  一時的にではなく、未来への展望のなかで問題を解決する能力。
 
  他党とも連携して連合政権を担当し、人びとの運動を政治的に支える能力。
 
  国際化の進展のなかで、アジアと世界の将来にすすんで貢献できる能力。
 
  広範な国民とのあいだに強い接点をもった国民の共有財産としての強大な党組織を建設する能力。
 
  問題解決能力、調整能力、先見性、主体性、国際性、政権担当能力、これを支える党の組織力。これらの能力を日本社会党は身につける。
 
  日本社会党は、精神の自由をもつ党として思想・信仰の自由を保障し、国民に開かれた自由で民主的な党として発展し、国民の負託に応える。
 
  日本社会党 そのイメージは、すんだブルーと深紅のバラ。
  ブルーは、未来と明るさと清潔さ。
  深紅のバラは、愛と知と力。
  この宣言に、人類の未来と日本国民の幸せがこめられている。
 
 
 
 附:新宣言に関する決議
  
  一、日本社会党は、その貴重な歴史と伝統をふまえて、未来を先取りし、広範な勤労者・国民大衆の熱望にこたえ、平和と民主主義、社会主義の発展と新たな時代の創造に向かって決起する。
 
  二、われわれのめざす政権は、自民党にとってかわる社会党の政権であるが、同時にわれわれは、わが党を中心とする連合政権の樹立に全力をつくす。したがって、安易な保革連合はとらない。
 
  三、今後、内外情勢の変動やわが党をめぐる主体的客観的諸情勢の変化が予想されるので、時代に的確に対応しうるように党各機関で調査、研究、検討し、その成果を今後、新宣言に反映させていく。
 
  四、社会主義は理念、運動、政策を含むものであるが、ことに運動を重視することは当然である。
 
  五、新宣言の決定にいたる過程では、さまざまな論議がかわされた。これらはいずれも強い愛党の精神に立脚し、党の限りない飛躍と発展をこい願い、日本の未来を憂える熱情から出たものである。
  新宣言の決定を契機に、全党員は、決意を新たに一丸となって団結し、強く大きく結集して前進するものである。
 
  右、決議する。 
  
 一九八六年一月二二日
    日本社会党第五〇回定期全国大会
 
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