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ゼロからの出発−社会民主党第二回臨時全国大会党首あいさつ
*社会民主党第二回臨時全国大会(1996.12.22)での党首あいさつ。タイトルはサイト管理者がつけた。出典は『月刊社会民主』1997年二月号。  全文(zip)土井たか子
 全国からお集まりの代議員のみなさん、社会民主党は結党以来最小の党とはなりましたが、伝統あるこの党の大会にはせ参じてくださったみなさんに、そして私たちの党に温かいまなざしを引き続き注いでくださっている国民のみなさんに、まずなによりも感謝の思いをささげたいと存じます。(拍手)
 私は、ただいま正規の手続きを経て社会民主党の党首として信任していただきました。旧日本社会党の委員長として幾たびか党大会であいさつをしてまいりましたが、きょう私は、これまでにないかたい決意でごあいさつをさせていただきます。みなさんと一緒に心を一つにして、新たな社会民主党をつくるための決意です。そのために私の思いをみなさんに伝えたい。みなさんの思いを伺いたい。そして力を合わせて前に進みたいのです。私たちは、この党大会を新しい再生の道への起点と定めなければなりません。
 この出発に当たって私は、かつてない厳しい状況のなかで苦労を重ねられたみなさん、それでも社会民主党の旗をしっかり掲げて苦しい選挙を戦い抜かれたみなさんに、心からの「ありがとう」を申し上げます。
 そして、少なくともまじめに懸命に生きる人々にこたえていく政治をつくる責任が私たちにあります、この重い責任を果たすために、新たな結集をしようという決意で、きょう私たちはここに集まっているのですが、私は大要三つの基本的な理念についてお話したいと思います。
 第一にその基本となるのは、やはり日本国憲法です。「憲法の理念とともに生きる」、これが社会民主党の前身である日本社会党の創立以来一貫して掲げてきた精神です。私が社会党に参加し政治家の道に転じたのも、憲法に盛られている平和と人権、主権在民を本当に実現したい、実施したい、というこの思いからでありました。
 戦後五〇年の政治の基本的な理念である自由と民主主義も、この時代の大部分政権を握ってきた保守勢力が、ともすれば戦前回帰の志を持っていたために、社会党がその保障をしなければなりませんでした。つまり自由は、恵まれた人の自由や企業の経済活動の自由にとどまらないことを主張し続け、民主とは、多数者がただ数の力のみによって少数者をないがしろにすることのないよう、私たちの党は行動し続けたのです。その軌跡をあらためて見つめ、よき伝統を次の世代に届ける責任が私たちにはあるのです。
 しかし他面、これまでの社会党の欠陥についても反省することをちゅうちょしてはなりません。例えば私たちの先輩は、左翼の教条に陥ることからの誤りもしるしました。村山内閣が政権を担当するに当たって、教条主義へのこだわりを捨てたことは妥当であったと言わなければなりませんが、それが旧社会党をそれまで支持してくださった多くの人々に納得していただける手続きを踏んだかどうかという点には疑問があります。こうした点についての反省、総括と対処も私たちの課題の一つです。
 そしていま、憲法の未来とは憲法のめざすところそのものです。高齢化社会を迎えての多くの問題解決のための基本的人権や、幸福追求の権利、グローバルな問題解決のための平和主義など、憲法の描く未来社会の姿は、二一世紀の世界像を半世紀も早く先取りしたものだと言っても過言ではありません。
 私たちが守るべき価値は、既に日本国憲法に明らかであります。それは今日では社会民主主義の潮流、とりわけ地球環境の将来を展望する視点を持ち得た「新しい社会民主主義」の思想に裏打ちされた普通の人々のための政治をめざさなければならないということ、そのことであります。
 いま二一世紀をのぞみながら、地球社会は大きな転換期のなかに置かれています。経済、社会、文化、生活−−あらゆる面で大きな変化があり、新しい時代に入ろうとしております。希望を求めながらも、しかし現実は不安も混乱もあります。こうお話ししている間も、ペルー日本大使公邸人質事件について心配しながら、一刻も早い解決を願わずにはおられません。あくまで人命尊重の社会に展望を開くことが大切です、同時に、スピーディーな対応が求められることをあらためて自覚しなければなりません。
 次に、申し上げなければならないのは、私たちは弱者や少数者の断固たる味方であるということです。もちろんこれは憲法の理念を実現することのなかに含まれているものでありますが、いまとくにこれを取り出して強調するのは、日本社会が強者の論理で覆われていく傾向を座視できないと思うからであります。「自由」はただ市場のなかでの自由だけではなく、地位や権力、金力、学歴などを求める競争社会の自由だけを意味するものではありません。しかし、日本社会はいま、経済合理性に対する信仰のようなものが、より高い効率を求めてその種の自由を謳歌し、勤労者や中小企業のなかの弱者や少数者をけ散らしていくことをなんとも思わないようになりつつあるのではないでしょうか。私たちはそのような新保守主義と対決することに臆病であってはならないと思います。
 自由主義の経済を基本的人権の立場や環境や南北問題といったより大きな枠組みのなかで、より公正かつ公平に動かそうというのが社会民主主義の考え方なのです。日本型の社会民主主義とは、古くは徳川時代に既にあった「弱きを助け、強きをくじく」という視点からコントロールしていくシステムなのですが、それを水戸黄門の印籠をかざすことで実現するのではなく、憲法をもとに、柴又の寅さんのような温かみも忘れず、市民とともに民主政治を実行するシステムなのです。この点から、現在進行中の問題に触れておきたいと思います。
 来年度予算の編成に当たって、私たちが健康保険の赤字の原因をしっかり理解することなく、その補てんを弱者である高齢者や病弱者に求めることには、市民・国民は納得されるはずはないと思います。与党のなかにあることと、自民党に埋没することは違います。まず、患者の負担増を一年凍結にして、赤字の内容を究明して、市民の声をしっかり聞いて、医療保険制度の改革が先決であるというわが党の主張を鮮明にして、その努力をすることが大切であることは申すまでもありません。
 三番目に申し上げたいのは、総選挙を控え、私が党の責任ある立場をお引き受けするに当たってとくにお訴えした「市民との絆」でございます。強者の論理によって虐げられる人々の単に味方であるだけではなく、それらの人々との絆をしっかりと結び合い、教えられ、私たちの党自身を鍛え直そうという覚悟でございます。
 八方に困難の満ち満ちている政治の現状ではありますが、それでも村山内閣以来の多くの人々の努力によって、国レベルの情報公開や分権への歩みは後戻りできないところまで来ております。それらの新しい手だてを身につけながら、あらゆるところで強者に圧しひしがれず市民のために闘っているすべての人々と連帯していきたいと思います。私たちは、市民運動、住民運動、労働運動などのいずれの分野でも、私たちのできることがあれば、どんなにささいなことであっても力を惜しまず献身することをお誓いしようではありませんか。(拍手)
 そのためには、社会民主党にはいま徹底した自己改革が求められていると思います。市民との絆を結び直すのと同時に、党内の絆もしっかり結び直したいのです。そのなかでこそ、市民の信頼を回復し、党員の誇りと活力を取り戻すことができると思います。
 同時に、いま政治家の言葉が紙のように軽いと言われることに対して、責任ある言葉を回復しなければならないと考えます。政治家の行財政改革大合唱のなかで、最近発覚した厚生官僚の行政汚職は、不信が怒りとなって増幅しています。私たちの党は、女性、高齢者、子ども、障害者、働く人たち、少数者の人だちと絆をかたく結び直すことによってのみ、明るい展望を開き得ると私は信ずるのです。
 大切なことは、市民とのふれあいです。よそよそしい気取った存在ではなく、党外の注文や批判を同じ生活感覚で受けとめられる党、「市民と日常的にふれあい、うなずき合える、頼もしい党」であることだと思います。
 そのためには、中央と地方、地域と職場の党が、互いに経験と情報の交流を深め、開かれた場で活発に政策討論を展開することはどうしても必要です。すべての党組織の自立機能が鍛えられなければなりません。「この分野なら党に参加・協力できる」と考えている人たちが多いと思いますが、その人々に党の門戸を開放して、それぞれの参加による幅広い豊かな党をつくりたい。党の機構や運営の改革と効率化を思い切って進めたいと思います。
 「市民との絆」と言うと、「労働組合との関係はどうなるのか」とよく問題にされるのですが、労働組合との関係も社会民主主義にとって大切な絆の一つです。社会民主党は、労働組合とはそれぞれの自立性・自主性を相互に尊重し合う関係、対等の立場で政策協議に誠実にこたえて、協力関係をしっかり培っていきたいと考えています。そのための努力は惜しみません。
 党員の意思統一はもちろんのこと、とりわけ地方議員の意思統一は非常に重要であり、早く行なうことが必要です。そのためにも、地方議員団や各県連合の代表者による会議や学習会の先頭に立つようにとのご要請が、地域の声としてございました。そのための努力は惜しみません。私にできることはなんでもしようと思っております。
 さて、いま社会民主党はかつてない危機の状況にあると言われています。しかし、私はいたずらに危機感に陥って、みずから内外の情勢の流れを客観的に見ることをやめ、動揺し、未来が求めているものへの確信を捨てることがあってはならないと思います。今日、日本の政治は、混迷のうちにも激しく流れて、社会民主党の課題はきわめて多いことは申すまでもございません。しかし、このときに社会民主党の存在の基盤が失われつつあると見るべきなのでしょうか。保守政治の実際が、市民の圧倒的かつ積極的な支持を得ているものとなすべきなのでしょうか。私たちが最も深刻に反省し、懸命にみずからを改めるべきなのは、市民のみなさんの期待と要請を受けながら、それに十分にこたえられないその弱さにあるのであって、社会民主党の存在価値に動揺を来す必要はまったくないと私は考えます。(拍手)
 みなさんの死に物狂いの奮闘にもかかわらず、総選挙で社会民主党は旧社会党結党以来空前の小党となったことを申しわけないと思います。しかし、小選挙区でわが党の候補者のいない地域が圧倒的に多いなかで、各ブロックの比例代表に「社会民主党」と書いてくださった票が三五五万余あります。この期待にこたえることは実に大切な党の出発の立場です。党と組織の立て直しを第一としなければなりません。
 全国のたくさんの方々から、心配したファックスや電話の激励もいただいております。政治に信頼が失われているとき、国政を預かる党の姿勢として、自治体の政治を預かる党の姿勢として、約束した政策・見解については、その実現に向け党が全力を傾けることがまず信頼への第一歩と考えます。
 三与党間で合意できた点の実現は言うまでもなく、合意できなかった点について、政策協議の機関で論議することを進め、さらに国会の審議においても党はみずからの政策、意見をはっきり示して、めり張りのある努力をしていくことが必要だと考えます。
 去る一八日に終了した臨時国会で、私たちは市民のみなさんへの公約を誠実に守るために、少人数ながら懸命な努力をいたしました。臨時国会が短時日であったために、消費税対策のように継続して努力していかねばならない課題も残っております。伊藤幹事長から後の報告でお聞きいただくことになります。
 とくに党として申し上げておきたいことは、情報公開法案、男女雇用平等法案、森林病害虫等防除法改正案等々「国会改革・議員立法活性化プロジェクトチーム」の設置を決めまして、いま及川政審会長を中心にその構成を進めていることです。私はこのプロジェクトが、自治体議員に条例の議員提案についてアドバイスができたり、多様な政策要求を持った市民団体や労働団体とわが党の間で、議員立法の政策活動を主な内容とする政策・行動協定を結んだりするようになればすばらしいなどと考えているところです。ぜひやりたいと思います。
 党の議員数も書記局のスタッフも数は少なくなりましたが、間違いなく全党の真剣な姿勢が広く世間から問われているのではないでしょうか。時間は私たちに前に進むことしか許してくれません。そして時間は待ってくれません。来年一月は、北九州市の選挙に始まりまして、夏には都議会の選挙があります。再来年にはもう参議院の選挙であります。私たちはこうした一つひとつの選挙を節目に、より多くの社会民主党候補を擁立して、一人でも多くの当選者を確保することを具体的な目標の一つに掲げなくてはなりません。
 これまで申し上げたことは、私たちの党の前身である日本社会党の初心でもあったことをいま私は思い起こしております。その初心は、人間の解放をめざして、弱い人々のために身を捨てようとするものでありました。いま私たちにはその初心を発展させ、さらに現在に生かす英知が求められております。あくまで謙虚に、しかし、そろそろしゅんじゅんと疑いを捨てて、求められるところに向かって進もうではありませんか。
  良心を全身に充満したる
  ますらおの起こり来らんことを
 私の座右の銘を再びみなさんにささげたいと思います。
 非力な私ですが、私は力の限りを尽くしたいと思います。みなさんの奮起とご協力を願ってやみません。
 いよいよ新しい出発です。ゼロからの出発です。私たちの手で、力を合わせて必ず党を再建して、前に進もうではありませんか。
 ありがとうございました。(拍手)