いまから二十年前の昭和六、七年の時期には、戦争の危機と近づき来たる反動の陰影がしだいに濃厚となり、ファシズムの運動はまず組合運動の内部からおこり、やがて無産政党をも分裂させました。来るべき反動期を乗り切るために、労働階級の戦線の統一と社会主義勢力の結集の必要が叫ばれたが、不幸にしてそれは実現されなかったのであります。こうして労働階級は、ほとんどなんらの準備なしに戦争と反動の時期に突入した。その結果がいかにさんたんたるものであったかは、われわれの記憶にいつまでも刻みこまれているところであります。

 このときから二十年をへた今日のわが国は、制度の上では或る程度に民主主義化され、労働階級の組織と政治上社会上の勢力も当時とは比較にならぬほど大きくなったとはいえ、民主主義勢力が国の主導権を握るというところからはまだはるかな手前の段階で、はやくも反動期に入ったのであります。今日わが国の支配者層の構想しているような講和が成立したならば、どのような日本が再現するかはあまりにも明瞭で、われわれは講和を転機として本格的な反動時代が来ることを覚悟しなければなりません。

 この来たるべき反動期に、われわれは準備なくして投げこまれ、労働階級の民主主義=社会主義の運動と民主主義=社会主義の勢力とを、もういちど反動の数におし流されるにまかせてよいでしようか。断じて、そういう事態が再び起ってはならないでしょう。もし今日われわれが、来るべき反動期を見とおしつつも、これに備えることを怠るなら、われわれの時代は、過去における運動の体験から何事をも学ぼうとしなかったという批判をまぬがれないでしょう。

 では、われわれが来たるべき反動期を乗り切るためには、なにをなすべきでしょうか。それは今日も二十年前と同じように、基本的に労働階級の戦線の統一と社会主義勢力の結集ということ以外にはありません。ただ六百万の労働階級が組織され、そしてこれらの組織労働者の多数によって支持される政治運動の組織がすでに存在する今日は、この戦線統一の具体的な方法は、おのずから二十年前と異なるものがなければなりません。すなわち

 (一) 既存の労働組合の整理を伴いつつ組合運動の強力な今国的中心組織の確立を促進す ること。
 (二) あらゆる分野と職域との進んだ要素を、社会主義政党の組織に集結すること。
 (三) 労働階級の組織と運動とを、極左主義の破壊的影響から衛るとともに、反動期の特徴とし てすでにそのきざしの現われている右翼偏向と反階級的な勢力の動きとを克服して、階級意 識を明確にし、民主主義的社会主義の方向を確立することでなければなりません。

 このような労他階級の諸運動にとってのさし迫った必要を満たすことは、組合および政党の内外を通じての民主主義的社会主義者の同志的協力なくしては望まれません。月刊雑誌『社会主義』の創刊は、そのような協力によって推し進められる事業の一つにほかならぬものであります。『社会主義』の主たる任務は、右にのべた基本的な方針の上に立ち、実践運動のあらゆる分野において、このような目標のために闘っている活動分子に、その活動に必要な理論と実際問題の知識についての資料を供給することによって自信をあたえ、確信をもって行動しうるように協力することであります。

 したがって本誌の同人は、組合および政党の内外にわたる民主主義的社会主義者の集団でありますが、もとより政党政派の性質をもつものではありません。また『社会主義』は労働団体および社会主義的な政党にたいしては積極的、建設的、協力的な立場をとるとともに、いずれの団休とのあいだにも特殊な関係をもたないものであります。準備期間が限られていたために、便宜上、五十数名の同人をもって発足しましたが、同人の門戸は広く開かれており、志を同うする諸君の参加と協力を待つものであります。

 本誌に充実した内容をあたえることも、本誌が充分にその使命を果すことも、さらに本誌の存続そのものさえも、同志諸君の熱意と協力にかかっています。諸君の積極的な御援助を御願いします。        =一九五一年五月=
大内兵衛
山川均 



附:社会主義協会同人(創刊号p64より)
 つぎに主要な社会主義協会同人を御紹介します。地方選挙やその他の都合で広く同人を求める余裕がありませんでしたが、積極的な参加を切望します。

社会党 和田博雄、勝間田清一(交渉中)江田三郎、伊藤好道、金子洋文、稲村順三、佐多忠隆、吉田法晴、佐々木更三(交渉中)

労組 武藤武雄、岡三郎、永岡光治、高野実、柳本美雄、肥川治一郎、和田春生、原口幸隆、市川誠、東谷敏雄、清水慎三、大田薫、平林剛、小椿春三、津脇喜代男、大脇博、清水十三男、久保田正英、岩城悌三

知識人 大内兵衛、山川均、有沢広己、向坂逸郎、高橋正雄、稲葉秀三、鈴木武雄(交渉中)芹沢彪衛、板垣武雄、大森真一郎、小松清(交渉中)、松岡三郎(交渉中)岡崎次郎、岡崎三郎、揖西光速、鈴木鴻一郎、相原茂、大内力、鈴木徹三、西尾正栄、関嘉彦(交渉中)
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*『社会主義』創刊号(昭和26[1951]年6月1日)掲載。使用テキストは社会主義協会創立30周年記念出版の復刻版。 画像は『社会主義』創刊号表紙。